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瑞華国白家奇譚〜理系令嬢は恋より発明がしたいのに、王弟殿下に執着されています〜  作者: ぶるどっく
第一章 運命の歯車と鳥籠の毒

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第二十話



 いつも通りに。


 夕刻の鍛錬を終え、身支度を整える。


 凛と共に明葵のいる円塔へと向かい、最上階の部屋の扉を開ける。


「白 明葵、何処にいる?」


 既に、夕闇が迫る薄暗い部屋の中。


「明葵嬢……?」


 明葵の自室のはずの部屋に……その姿がない。


「……っ……まさかっ……?!」

 

 凛が慌てて部屋の中を動き回る。


 寝台の影。


 日差し避けの布の影。


 探し回るが見当たらない。


「……凛、下から探すぞ」


「御意」


 彰玄の目が据わる。


「…………」


 逃げたか?

 

 いや、円塔の周りを警護している兵の様子に変わりはなかった。


 ……まだ、この円塔の中に……


「っ……!」


 足音がした。


 勢いよく振り返れば、驚いた表情の明葵がそこにいた。


「わわっ……王弟殿下、夏侯様……もう、そんな時刻ですか……?!」


 慌てる明葵。


「すみません、夢中になっていたもので……!」


 王城に父親と共に登城した日に着ていた服を着て。


 何故か霊山にいた時のように、髪を簡素に纏めている。


「……何を、している?」


 ……何かが、違う。


 今朝までとは……違う。


 目を細め、違和感の正体を探る。


「下の階の部屋に面白そうな物が沢山ありましたので、頑張って運んできました!」


「…………は?」


 予想外過ぎる返しに、素で目を丸くする。


「見てください!

 青銅製では有りますが、立派な歯車です!

 付属品でしょうか?

 青銅製の細い棒も一緒に見付けました!

 ……欲を言えば、鉄製の歯車などを一度見てみたかったのですが、青銅製でも十分に迫力が有りますね!

 霊山では、木製で手作りして見ていたんですけど、なかなか難しくて!

 やっぱり、国が依頼するような職人さんの腕前は凄いですねぇ……」


「………………そうか……」


 無邪気な子供のように。


 風呂敷代わりの布の中から取り出した歯車を、宝物のように明葵は笑顔で披露する。


「円塔というのは初めて見ましたが……。

 グルグルな階段ばかりで疲れますね。

 もともと、天文台だったみたいですから、円塔である必要性は理解できるのですけど……。

 個人的には、自動昇降機みたいな感じの物が欲しいです。

 自分の足で階段を上り下りすることは諦めますが、せめて荷物だけでも一階から最上階まで一気に運びたいですね。

 荷物を持ちながら階段を……」


「ちょっ! ちょっと待とうか、明葵嬢?!」


 立て板に水のように。


 無言で聞き役に徹する彰玄に向かって、延々と話し続ける明葵に凛が待てをかけた。


「君、どうしたの?!

 今朝までとは、明らかに様子が違い過ぎるんだけど!」


 今朝までは、それこそ萎れかけた花のように。


 諦めに満ちた瞳を伏せて、深窓の姫君のように霊山を見つめながら出窓に座っていた明葵。


「あー……頭でも打っ、熱でも有ったり……?」


 何が、明葵を此処まで変えたのか?


 彰玄や凛から見れば、変わった切っ掛けが分からない。


「……我慢しないことにしました。」


 ふふっと楽しそうに明葵は微笑む。


「霊山で一緒に過ごしていた友達が会いに来てくれたんです……!」


 喜びに頬を染め、楽しげな明葵の言葉に彰玄と凛に衝撃が走る。


「白 明葵、お前の友が……この部屋を訪れたというのか?」


「はい!

 もう……二度と会えないと覚悟していたので、本当に嬉しく堪らなくて……!

 その子が一緒に居てくれるなら……私は一人で我慢しなくても良いって思えたから……」


「っ……」


 喜びと幸せに満ちた明葵の微笑み。


「(何故……っ……!)」


 彰玄の前では決して見せなかったのに。


「……その者は、何処にいる?」


 彰玄の低い声が更に低くなり、微かに苛立ちと敵意が滲む。


「家族を傷付けない約束です」


 微笑みが消える。


 約束を反故にするのか、と怯むことなく明葵の瞳が彰玄を捕らえる。


「……約束は破らぬ。」


 少しだけ、目を見張る。


 今までの明葵ならば、彰玄に怯えるはずだった。


 しかし、彰玄に怯えるどころか噛み付いてきた。


「…………此処に、います」


「此処?」


「え……何処にもいないけど……」


 彰玄を暫し見つめ、明葵が答えた。


「いますよ。」


 明葵が己の足元へと視線を落とす。


 釣られるように明葵の足元へと視線を向ければ……


「みゃあん」


 明葵の服の影から現れた白い影。

 

「……猫……?」


「みゃおぉん……」


 明葵の足元に擦り寄り、尻尾を絡ませるように裾を撫でる。


「どっから入って……」


「窓の外からですよ。

 猫って、こんな高い所まで登れるんですねぇ……」


 嬉しそうに白猫を抱き上げて、明葵は頬を寄せる。


「うにゃぁん」


 白猫も明葵へとスリスリと柔らかな毛並みを甘えるように寄せる。


「…………」


 ふと、白猫と彰玄の目が合った。


 翡翠のような丸い瞳。


「……にゃっっ!」


 秒で鼻で嗤われた。


「(……この猫とは、絶対に相容れない。)」


「……にゃっ!」


 彰玄の神経を逆なでするように、勝ち誇った顔で明葵の頬を舐める。


「華乃ちゃん、擽ったいわ……!」


「みゃおぉん」


 擽ったいと微笑み、幸せそうに猫と戯れる明葵。


「…………」


「(……彰玄様……相手は猫ですよ……。

 猫相手に嫉妬するとか……)」


 明葵は気が付いていないが、完全に白猫と彰玄が視線だけで火花を散らしていることに凛は気が付く。


「……胃が痛い……」


 不機嫌さを押し殺し、普段通りに振る舞おうとしている彰玄を横目に。


 凛は深いため息をつくのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

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