第十四話
皇帝の自室には部屋の主だけでなく、彰玄と凛の姿があった。
「……それで、明葵嬢の様子は?」
玉座の間に座していた時よりも、身軽な格好の黎陽が問い掛ける。
「大人しく従うそうだ。
その変わり、家族を守ってほしいと。」
「そうか……気丈な娘だな。」
急に父親とも引き離され、一人王城内に留め置かれることになったというのに。
黎陽としては、家族と離れたくない、と泣き叫ばれることも覚悟していた。
「………………あの……恐れながら、宜しいでしょうか?」
恐る恐る。
報告しない訳にはいかないよなぁ……と。
シクシクと痛む胃を押さえながら、凛が声を出す。
「何だ、凛?
お前が私達の会話に割り込んでくるのは珍しいな。」
「いえ……挟まないで済むなら、その方が楽なんですけど……。
でも、多分……これ、報告しとかないとヤバい奴かな、と……」
怪訝な表情の黎陽。
凛が言う"ヤバい"に心当たりが無く、首を傾げる彰玄。
「あの、明葵嬢ですが……多分、ものすごーく誤解してるのでは、ないかなぁと……」
「は……?」
「凛、何の話だ?」
胃が痛い。
「彰玄様……あの一連の流れを、第三者の視点で申し上げると……」
一度、言葉を切って……腹を据える。
「家族を人質に取られた姫君が、権力も、力も上の悪役に無理矢理に手籠めにされる三歩前ですよ。」
「…………は?」
「……彰玄……お前、何をした?」
遠い目をした凛の言葉に、彰玄は目を見開き、黎陽は頬を引き攣らせる。
「何もしていない!
白 明葵の誤解を解いて、提案された賭けに頷いただけだ!」
「あのですね……武人の力で逃げられないように腕を締め上げられ、家族を引き合いに出されて守ると言われて信じる奴はいません。」
ため息を付きたくなる。
「しかも、騙し討ちしたみたいに彰玄様の身分を明かされ、彼女の持つ知恵が目的だと言われる。
…………あれは、家族を守るために我慢して鳥籠に入っただけです。」
「…………彰玄……」
黎陽は、本気で頭を抱えた。
「……恐らく……明葵嬢の腕は痣が出来るでしょうし……腫れ上がりますよ、アレは。」
「っ……?!
そんな筈は……!
多少は、力が籠もったかもしれないが……」
「男、しかも武人相手ならばいざ知らず……女の体は彰玄様が思っているよりも、遥かに弱いですよ。」
「…………っ……」
ぐうの音も出ない。
「(……苦しめるつもりなど……!
守ると伝えたかっただけというのに、何故……このようなことに……)」
凛に指摘され、思い返してみれば…………確かに、明葵の様子は可笑しかったような……?
「……彰玄……明日の朝一番に、取り敢えず謝れ。
そして、腕の怪我とやらを確認して来い。」
「……わかった」
「凛。
念のため、お前も彰玄が明葵嬢に会う時は、側に控えるように。」
「……御意」
珍しく落ち込む彰玄に、黎陽はため息を付く。
「彰玄……お前が、女の扱いが下手だとは思わなかったぞ。」
「…………五月蝿い」
拗ねたように視線を逸らす弟。
冷徹非道。
血も涙もない冷酷な男。
武将の鑑と言われても納得してしまう弟の予想外の一面。
「何とか、明葵嬢の信頼を取り戻せ。
……全ては、それからだ。」
叡智を受け取るにしても、此方に敵意を持たれていては意味がない。
「(百の真実の中に、一つの致命的な嘘を混ぜられては敵わんからな。)」
落ち込む弟を追撃しないように、黎陽は心の内だけに留めるのだった。
皇帝の自室にて反省会を三人が開いている頃。
「……やっぱり、熱を持ち出しちゃった……」
ズキズキと痛む腕。
「(……いつでも、非力な女など痛めつけられるという無言の圧かしら……)」
熱を持ち、ドクドクと存在を主張する腕にため息を付く。
「…………昔の天文台、よね?」
痛みを紛らわせるために、周囲を見回す。
古い石造りの部屋に見合わぬ高価な寝具。
部屋の中央には、気象観測の巨大な道具。
古びた青銅の渾天儀。
天文台だったのならば……一階にあった何かの跡は水運儀象台を撤去したもの……?
「…………これ、何かの役に立つかしら?」
腕を庇いながら、部屋のあちこちを見て回る。
「水運儀象台の歯車とか、残ってないかしら……」
悩みながら出窓に近付き、青銅の格子を観察する。
「上手く、テコを使えば……枠ごと外せる……?
でも……外したままにしておくとバレちゃうから、開閉式にすれば……」
窓の外を格子越しに見れば、円塔を守るように兵士達が立っている姿が見える。
「……窓の外に滑車を取り付けて、自動昇降機とか作りたい……」
どうせ、何時かは殺される身。
知恵を披露するぶんには、嫌がられないだろう。
「……取り敢えず……使えそうな物を探さなきゃ……」
万が一、一階に火をつけられた場合など、最悪を想定しての事前準備は必要だ。
暫くは、殺されない程度に従順な犬として振る舞いながら…………脱出は無理でも、死ぬまでに時間は稼ぎたい。
明葵は心を切り替えて、当面の目標を定めるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです(*^^*)




