5、人間パッケージ
作業員の指先が、遥斗の鼻先で止まった。
焦げたゴムのような生ぬるい臭いが漂う。
足音が遠ざかった。
遥斗は扉の陰からそっと出た。
作業員たちの後を追う。
大きな金属扉が音もなく左右に開く。
閉まりきる直前、遥斗は滑り込んだ。
そこは白い光に満ちた巨大な部屋だった。
天井全体が発光しているかのようだ。
部屋を埋め尽くすのは、無数のレーン。
その上に、人間が等間隔に並べられていた。
全員、胴色の薄いフィルムで、つま先から頭まで真空パックされている。
筋肉の隆起や歪んだ表情が、膜越しに生々しく浮かび上がっていた。
誰も動かない。ただの肉塊だ。
(……人間の保管庫か)
遥斗は壁際に張り付き、息を殺した。
一人のパックされた顔と目が合った気がした。
膜の内側で眼球が激しく震えている。
まだ、意識がある。
レーンがガタンと動き、次の工程へ進む。
白い作業員たちが喉元に機器を当て、「プシュッ」と音を立てる。
タグが浮かび上がり、番号を記録していく。
レーンのフィルムの色が、ランクごとに違っていた。
一番奥のレーンは、白銀に輝いている。
そこに、葵がいた。
遥斗の息が止まった。
完璧なプロポーション。喉元にタグが光っている。
(ここでも……あっち側か)
◇
新たな人間たちが、作業員に連れられて入ってきた。
その中に夏目がいた。
まだ制服を着ているが、足取りは完全に機械的だ。
喉の黒いタグが鈍く明滅している。
夏目は白銀から二つ隣の、鉄色のレーンに立たされた。
カシューという音とともに、衣服を剥ぎ取られ、フィルムで包まれる。
遥斗は柱の陰から見つめていた。
(夏目ですら……この位置か)
クラスで一目置かれていた夏目でさえ。
ここでも順位は変わらない。
遥斗の口の端が、わずかに歪んだ。
(あの時、声をかけていたら……)
いや。
どうせ自分も、同じだ。




