4、扉の墓場
扉の向こうは、学校の廊下ではなかった。
広大なホール。
天井は暗く高く、床だけが薄く光っている。
そこに、無数の扉が乱雑に存在していた。
壁に埋め込まれた扉、宙に浮く扉、床から生える扉。
大きさも形も素材もバラバラだ。
遥斗は恐る恐る歩いた。
多くの扉は閉まっていたが、開いているものもあった。
中を覗くと、誰もいない事務所のような部屋。
机とパソコンが並んでいるだけ。
さらに奥へ進むと、脱け殻のような人々がいた。
指を何度も数え続ける男。
扉に向かって泣きながら訴え続ける女。
彼らの目は虚ろで、遥斗の姿など映していない。
(……狂ってる)
遥斗がそう思った瞬間、背後から声がかかった。
「君、日本人か?」
ネクタイを緩めた会社員風の男だった。
泥と埃にまみれているが、目にはまだ正気が残っている。
「あいつら——白い化け物が、一定間隔で巡回してる。一緒にここを抜けないか?」
男は遥斗の肩に手をかけようとした。
希望に満ちた目で。
遥斗は一瞬、迷った。
教室でスピーカーの配線を切った時の記憶が蘇る。
誰も助けなかったクラスメイトたち。
命令した者だけが英雄面をしていた。
「……無理」
遥斗は男の手を振り払い、後ろへ下がった。
「おい、待てよ! 諦めるのか!?」
背中で男の叫び声が響くが、遥斗は振り返らなかった。
壁際に移動し、息を殺して観察を続けた。
しばらくして、白い人影が現れた。
全身を白い上下で覆った作業員たち。
フードで顔は隠れ、胸に何かの刺繍がある。
三人……やがて四人になった。
彼らは人々を避けるように、迷いなく扉と扉の間を歩いている。
遥斗は距離を保ちながら、後を追った。
突然、作業員たちが一斉に振り返った。
遥斗はとっさに近くの半開きの扉の陰に滑り込んだ。
心臓が激しく鳴る。
口を両手で押さえ、息を殺した。
――カク、カク、カク。
乾いた足音が近づいてくる。
足音が、遥斗の隠れた扉のすぐ外で止まった。
遥斗は動かなかった。
まばたきすら怖い。
扉の隙間から、白く滑らかな指が、ゆっくりと室内を探るように這い込んできた。
(来るな、来るな、来るな!)




