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2、止まらない放送

 秩序はあっという間に崩れた。

 泣き声と怒号が教室を埋め尽くす。


 机を担いで窓を叩く者、扉を蹴り続ける者。

 ガラスはびくともせず、机の脚だけが折れた。


「……あのスピーカーを壊せば、止まるかもしれない」


 田中が天井を睨んで呟いた。

 全員の視線が、教室の後ろに座る遥斗に集まった。


「おい、内海。お前がやれ」


 田中に促された男子生徒が、命令する。

 遥斗は黙って机を積み上げた。

 天井のスピーカーに手を伸ばし、配線を掴む。

 指にビニールが食い込み、痛みが走った。

 誰も助けない。

 皆が息を殺して見守っている。


 ――ブチ、ブチッ。


 銅線が弾け、指から血が滴った。

 生臭い鉄の匂いが広がる。

 一瞬の静寂。


「……止まったか?」


 だが、次の瞬間——


『——出席番号、三十番。渡辺 哲也。』


 声は脳の奥から直接響いた。

 命令を出した生徒が喉を掻きむしりながら、悲鳴を上げて消えた。


 遥斗は積み上げた机の上で、虚ろな目でそれを見ていた。

 その時、壁がゆっくりと波打つのに気づいた。

 まるで生き物の皮膚のように。

 遥斗は立ち上がった。


 誰も気づかない。


 彼は自分の席のすぐ後ろにあるロッカーに向かった。

 三段十二台の、一番端の古いロッカー。

 誰も使っていない、錆びたやつ。

 四月の始業式の頃から、このロッカーの下の隙間から、微かな風が吹いてきていたことを、

 遥斗だけが知っていた。

 遥斗はロッカーに手をかけた。


 重い。


 渾身の力で引くと、金属が床を擦る音が響いた。

 誰も振り返らなかった。


 奥の壁に、拳二つ分の穴が空いていた。

 遥斗は膝をつき、手を伸ばした。

 指先が触れた瞬間、古いコンクリートがボロボロと崩れ落ちた。


 穴の向こうから、生ぬるい風が吹き込んでくる。

 消毒液と焦げたゴムが混ざった、嫌な臭い。


(……外へ、出られるかもしれない)


 遥斗は振り返った。

 泣き叫ぶ女子生徒たち。

 扉を血まみれで叩き続ける男子たち。


 窓の外を虚ろに見つめる夏目。

 彼は口を開きかけた。


(夏目、くん……)


 だが声は出なかった。

 夏目は振り向かなかった。


 遥斗は穴に向き直った。

 そして、ゆっくりと体を滑り込ませた。


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