第35話:十二歳児、エスペランサに訪れる新たな移住者たちと元公務員が築く温かなセーフティネット
『エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜』第35話をお届けします!
ウサギ耳の少女リルを救い、初期インフラの構築を進めるアランの元に、噂を聞きつけた新たな移住者たちがやってくる第35話。前世の地方公務員としての経験をフルに活かし、不条理な差別や過酷な税制に苦しんできた人々へ「本当に安心できるセーフティネット」をゼロから設計していく感動と癒やしの初期開拓編です。今回もお楽しみください!
【年齢:12歳(少年期・エスペランサ初期開拓編)】
「ふむ、地下水脈から引き込んだ灌漑用水路の水圧バランスは良好。仮設の魔導防壁も、微弱な魔力波を全周に展開することで、周辺の低級魔物を自然に遠ざけることに成功しているな」
私は新しく建てられた丸太作りの仮設役場兼執務室の机に向かい、真新しい羊皮紙の帳簿にきれいに整った文字でペンを走らせていた。
ペン先がサラサラと心地よい音を立てる。窓の外を見やれば、数日前に私が救出したウサギ耳の少女――リルが、トコトコと軽やかな足取りで広場を横切っていくのが見えた。彼女の頭の上にあるふさふさとした長い耳や、その背中を追うように揺れる尻尾は、あの時の飢えと恐怖が嘘のようにイキイキとしており、見ていて胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じる。
(――順調すぎるな。このペースであれば、今月中には最初の居住区画のインフラが完全に定着し、王国全土からこぼれ落ちた者たちを受け入れる受入体制の基礎が整う)
前世の行政官としての血と、すべての他種族に対する狂おしいオタク的愛着が、この荒れ地をみるみるうちに「奇跡の楽園」へと変えていっている。
その時、少し離れた外周の防壁付近で、ガロウ師匠の低く通る声が響いた。
「おい、アラン。また新しい来客だ。今度は二人連れ、それもキツネ系の亜人らしいぞ」
私は即座にペンを置き、立ち上がると、スッと背筋を伸ばして執務室を出た。
防壁のゲート付近へと向かうと、そこにはガロウに付き添われた二つの影があった。
一人は疲労の色を隠せない大人の女性、そしてもう一人は、母親の衣の裾をぎゅっと掴み、怯えた様子で周囲を窺う小さな女の子だった。二人とも、頭の上にはふさふさとしたキツネの耳が生え、その特徴的な尻尾が不安そうにパタパタと揺れている。
「……あ、あの……私たちは、通りすがりの旅の者です……。どうか、ここで一晩だけでも休ませていただけないでしょうか……?」
キツネ耳の女性――サナと名乗るその母親は、私やガロウの姿を見て怯えたように身を縮こまらせた。彼女の衣服は長旅ですり切れ、手にはボロボロになった荷車が握られている。人間たちの領地で重税と差別にあい、生きる場所を追われてここまで逃げてきたのだろう。その背景が、一目見ただけで痛いほど伝わってきた。
私の脳裏に、前世の窓口業務での記憶がフラッシュバックする。
公的なセーフティネットからこぼれ落ちてしまった人々の姿。制度の壁という名の問題が、どれほど多くの弱者を悩ませてきたことか。
(――だが、ここは違うようにしたい。ここは、私が創り上げる『エスペランサ』だ。ルールがないなら、誰もが救われる新しいルールを最初から作ればいい!)
私は表情筋を微調整し、完璧なまでの「穏やかで頼もしい少年領主の微笑み」を浮かべると、一歩前に進み出て丁重に一礼した。
「よくぞいらっしゃいました、サナさん、そしてお嬢さん。ここは『エスペランサ』という名の独立領地です。どうぞ、何の心配もいりません。ここはあなた方を傷つける者は誰もいない、安全な場所ですよ」
私の思いがけない丁寧な言葉と、敵意のない穏やかな雰囲気に、サナは目を見張った。
「え……? 領地……? ですが、ここは何も噂に聞かない荒れ地のはずでは……それに、私たちは人間たちから追われていて、お金もまともに持っていません……」
「お金の心配は後回しで結構です。まずは旅の疲れを癒やしてください」
私はそう言って、ガロウに合図を送り、用意してあった温かいハーブティーと、リルが差し入れてくれたスープの入った木製のカップを二人に手渡した。
カップを受け取ったサナと、その娘のココナは、恐る恐る口に含んだ。
「……あたたかい……お肉と野菜の味がする……こんな美味しいスープ、何ヶ月ぶりだろう……っ!」
ココナが目を潤ませ、母親の腕の中で小さく感涙をこぼす。その姿を見たサナもまた、抑えきれなかった涙をポロポロとこぼしながら、何度も私に頭を下げた。
「ありがとうございます……ありがとうございます……! 人間に追われて、どこに行っても追い出されて……私たちはもう、どこで生きていけばいいのか分からなかったんです……っ!」
その切実な叫びに、私の胸の中のオタク的保護欲と、行政官としてのプライドが激しく共鳴した。
(――っ……! なんて尊い母娘なんだ……! その人間は、こんな素晴らしいモフモフたちを追い立てるなんて正気か!? 今すぐ私の『虚空一閃』で、周辺の悪徳役人どもを全員社会的に失脚させてやりたい……っ! だが、それ以上に、この街を絶対に守り抜くという実務的な責任感に燃えてきたぞ!)
私は胸の前でしっかりと手を組み、力強く、しかし優しく彼女たちに告げた。
「サナさん、聞いてください。このエスペランサには、あなた方を不当に縛る重税も、身分による差別も一切ありません。ここでは、誰もが自分の働いた分の報酬を自分のものにでき、安心して眠る家が保証されます」
「そんな……そんな夢のような場所が、本当にあるんですか……?」
「ええ。今から私が、あなた方の住民登録と、生活を立て直すための初期支援の手続きを行います。どうぞ、安心してここの住民になってください」
私がそう微笑むと、サナは崩れ落ちるようにその場に膝をつき、私の手を両手で包み込んで何度も感謝の言葉を繰り返した。ココナもまた、「お兄ちゃん、ありがとう……!」と私の服の裾をぎゅっと掴み、満面の笑みを見せてくれた。
その瞬間、私の内心のメーターは完全に振り切れ、頭の中で盛大なガッツポーズの嵐が吹き荒れた。
(――っ……! ココナちゃんが「お兄ちゃん」って呼んでくれた……! 天国かここは!? この笑顔を守るためなら、私は寝る間を惜しんで何万枚でも申請書類を書いてみせよう……っ!)
それから数日後。
エスペランサの仮設居住区には、サナとココナの姿があった。
リルはすっかりお姉ちゃん風を吹かせながら、ココナに新しい洋服やこの土地周辺の案内をして回っており、二人はまるで本当の姉妹のように仲良く笑い合っていた。
その微笑ましい光景を、ガロウは腕を組んで目を細めながら眺め、私はというと、次なるインフラ拡張のための『水道・電気(魔導)・通信網の統合管理プラン』の策定に没頭していた。
エスペランサは、ただの開拓地ではない。
それは、傷ついた魂や行き場を失った人々が、人間も亜人も関係なく「ただの住民」として笑顔を取り戻す、真の意味でのセーフティネットを備えた要塞都市へと着実に成長を始めていた。
物語は、さらなる仲間との出会いと、王立学園への扉を開く次なるステージへと静かに加速していく。
第35話をお読みいただき、ありがとうございます!
エスペランサの初期開拓がさらに深化し、キツネ耳の亜人母娘が新たな移住者として加わる心温まるエピソードをお届けしました。
前世の行政経験を活かして、不条理に苦しんだ人々を温かく迎え入れ、独自のセーフティネットを構築していくアランの姿や、リルがお姉ちゃんとして奮闘する微笑ましい日常を楽しんでいただけたなら幸いです。
次話からも、エスペランサの発展や、いよいよ迫る「王立学園への入学」とシルフィリアとの地獄のすれ違い(悶絶ラブコメ)に向けてストーリーが大きく動き出していきます!
引き続き、アランの行政チートと優しさに満ちたエスペランサ開拓記をどうぞよろしくお願いいたします!




