第33話:十二歳児、ボロボロの荒れ地を「エスペランサ」と命名し、行政チートで開拓の第一歩を踏み出す
『エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜』第33話をお届けします!
実家の借金を完全完済し、家族を救ったアランは、男爵領の端にある誰も見向きもしないボロボロの荒れ地を正式に譲り受けます。前世の行政官としての悔恨と、すべての他種族が笑顔で暮らせる理想郷への強い意志を胸に、その地に「エスペランサ(希望の地)」と高らかに命名するアランの感動的な開拓始動回をお楽しみください!
【年齢:12歳(少年期・エスペランサ建国編)】
クロフォード男爵家の応接室にて。
私――アラン・クロフォードは、目の前に広げられた領地の古びた権利書と土地台帳を眺めながら、静かに息を整えていた。
「おい、アラン……本当にいいのか? うちの領地の一番奥にあるあの土地はな、昔から『呪われた不毛の荒れ地』と呼ばれているんだぞ。まともに作物も育たず、魔物の群れが定期的に湧き出し、おまけに地盤も緩い。親父や俺としては、少しでもマシな土地を分けてやりたかったんだが……」
長男である兄アルフレッドは、山積みの書類の向こうから、申し訳なさそうに、そして本気で心配そうな顔を向けてきた。隣に座る父レイモンドも、腕を組んで難しそうな顔で唸っている。
「そうだぞ、アラン。お前が稼いだ莫大な金貨で我が家が救われたのは事実だが、わざわざあんなリスクまみれの魔物の巣窟を自分の領地として独立させる必要はないんじゃないか?」
家族がそこまで心配するのも無理はない。彼らが指し示すその土地は、王国南方の辺境に位置し、かつては開拓を試みた者たちが次々と頓挫し、最終的に放棄された文字通りの「死地」であった。人間社会の庇護もなく、税制やインフラの恩恵も届かない、ただの荒れ果てた泥と岩の広野である。
だが、私の脳裏に広がっていたのは、絶望の景色などではなかった。
(――ふふふ。人間社会の基準で見れば、確かにあそこは不毛の荒れ地だろう。だが、元・地方公務員にして筋金入りの他種族オタクである私の目に映るあの土地は、無限のポテンシャルを秘めた『最高のキャンバス』に他ならない……!)
私は完璧なまでに洗練された紳士の微笑みを崩さず、ふわりと首を横に振ってみせた。
「ご心配には及びません、兄上。むしろ、あのような場所だからこそ、私にとって最高の価値があるのです。他種族の者たちや、行き場を失った人々が自分たちの手でゼロから理想の街を築き上げる――これほどロマンに満ちた行政プロジェクトはありません」
私のその涼やかな、しかし微塵の揺るぎもない言葉に、アルフレッドは「お前は相変わらずスケールが大きすぎるというか、考えていることが斜め上だな……」と盛大なため息をついた。
しかし、私の瞳の奥に宿る本気の意志を察したのだろう。アルフレッドはやれやれといった調子で肩をすくめ、最終的な署名と捺印をその権利書に施してくれた。
「わかったよ。そこまで言うなら、あの荒れ地の管理権と独立領主としての権利はすべてお前に譲る。ただし、何か困ったことがあったら、いつでも実家に泣きついてこい。お前は我が家の命の恩人なんだからな」
「ありがとうございます、兄上。そのお言葉、ありがたく胸に刻んでおきます」
こうして、私は正式にクロフォード男爵領の最果てに広がる不毛の地を手に入れた。
その足で、私はすぐにガロウ師匠を連れ、馬を走らせてその現地へと向かった。
数時間後。
私たちの目の前に広がっていたのは、まさに「荒涼」という言葉がふさわしい光景だった。
吹き抜ける風は冷たく、地面は痩せ細ってひび割れ、ところどころに魔物の骨や放棄された古い小屋の残骸が転がっている。草木もまばらで、生命の気配が感じられない。
少し離れた場所で愛用の長刀と短刀を肩に担ぎながらその様子を眺めていたガロウが、低く笑った。
「おいおい、アラン。確かにこりゃあなかなかの地獄絵図だな。人間はもちろん、まともな魔物ですら住みたがらねぇレベルのクソ土地だぜ。本当にここで街なんて作れるのか?」
私はガロウの言葉に答えず、一歩前に踏み出した。
地面にしゃがみ込み、その黒々とした土をひとつまみして指先で軽くこすり、匂いを嗅ぎ、さらに周囲の地形を注意深く観察する。
(――ふむ。地質のpH値はやや酸性に傾いているが、地下水脈のラインは浅い層に通じている。セレス川の支流を引き込めば、灌漑用水路のネットワークは完全に構築可能だ。さらに、北側の岩盤を切り崩して魔導防壁の基礎石材に流用すれば、建築コストを大幅に削減できる……!)
私の脳内ネットワークは、一瞬にして数百行のインフラ整備計画、土壌改良のタイムテーブル、そして予算の動的配分シミュレーションを叩き出した。
胸の奥で、熱い感情がこみ上げてくるのが分かった。
前世の相原湊だった頃。役所の窓口で、制度の壁や縦割り行政の冷たさ、そして世間の偏見によって、本当に助けを必要としている人々が救われこぼれ落ちていくのを、私は何度も目の当たりにした。
「もっと上のレイヤーから社会の仕組みを変えられれば……誰一人として排除されない、温かなセーフティネットを作れたはずなのに……!」
その悔恨と無力感が、過労の末に倒れた私の胸の奥に深く、暗い棘となって突き刺さっていた。
だが、今は違う。
この異世界において、私には前世の行政知性と、すべての種族を平等に愛するオタク的熱量、そして一国を揺るがしかねない神速の剣技と最強の相棒が揃っている。
「……前世の俺は、冷たいシステムを変えられなかった。だが、この世界なら違う」
私は立ち上がり、新相棒『霊刀・虚空』の柄にそっと手を添えながら、地平線の彼方へとまっすぐ視線を向けた。
声のトーンは静かだったが、そこには一切の迷いのない、絶対的な決意が込められていた。
「この不毛の荒れ地を、すべての他種族が人種の壁を越えて手を取り合い、ありのままの笑顔で暮らせる『真の共生社会』へと生まれ変わらせる。誰もが排除されず、誰もが希望を持てる場所――」
私の言葉を聞いたガロウは、その琥珀色の瞳を細め、どこか誇らしげな、そして感心したような笑みを浮かべた。
「ほぉ……いい目をしているじゃねぇか。で、そのデカい理想郷の名前はなんて言うんだ?」
私は涼やかに微笑み、かつて胸に誓ったその名前を高らかに告げた。
「――『エスペランサ(希望の地)』です」
その瞬間、風が止み、乾いた荒野を包んでいた重苦しい空気がふわりと軽くなったような気がした。
エスペランサ。希望の地。
かつては誰も見向きもしなかった絶望の荒れ地が、すべての者たちにとっての救いの楽園へと変貌を遂げる、その歴史的な第一歩が今、静かに踏み出されたのだ。
「さて、師匠。感傷に浸るのはここまでです。早速、我が理想郷の第一段階となる『初期インフラの構築』を開始しましょう」
私は表情を引き締め、元・地方公務員としての血と、剣士としての全リソースを完全に全開にした。
「まずは、地下水脈の浄化施設の設置と、農業用灌漑水路のルート選定、そして外敵の侵入を防ぐための仮設魔導防壁の敷設です。ガロウ師匠には、敷地内の治安維持(害獣駆除)を主任としてお願いできますか?」
「おう、任しときな! お前のその楽しそうな顔を見せられたら、こっちも気合が入るってもんよ!」
ガロウが豪快に笑い声を上げ、双刀の柄に手をかける。
私は『霊刀・虚空』を抜刀し、全属性同時圧縮エンチャントの出力をミリ単位で調整しながら、荒れ地の中心へと踏み出した。
行政チートと圧倒的な武力を武器に、私はエスペランサの土地を我が手で最高の世界へと創り上げていく。
物語の本当のメインステージが、今、盛大に幕を開けたのだった。
第33話をお読みいただき、ありがとうございます!
実家からボロボロの荒れ地を正式に譲り受けたアランが、前世の公務員としての悔恨とすべての他種族を救う強い意志を胸に、その地に「エスペランサ(希望の地)」と高らかに命名する建国始動回をお届けしました。
アランの胸に秘められた「芯のある理由(原体験)」と、ガロウと共に歩み始めるインフラ整備・開拓のワクワク感を楽しんでいただけたなら幸いです。




