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エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜  作者: 神楽坂 響


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第3話:二歳児、妹に懐かれつつ密かに体幹を極める

新作『エルフの王女にフラれたので、辺境の荒れ地を最強の要塞都市にしてみる 〜日本刀と行政チートで始める他種族スローライフ〜』第3話をお届けします!

今回はアランが2〜3歳に成長し、お兄ちゃん子になった妹・ノエルとの微笑ましいやり取りや、柔らかい幼児の肉体を維持しながら実践する「極限のボディコントロール」の深化をじっくりと描きます。貧乏男爵家の日常と、着実に積み上げられていく主人公の基礎をお楽しみください!

【年齢:2〜3歳(幼児期)】

――人間の体というものは、本当に不便にできている。

生後数ヶ月の寝たきり状態から脱し、おむつを卒業して少しずつ言葉や動作が自由になってきたとはいえ、今の私の肉体はまだ二歳から三歳程度の子どものそれにすぎない。骨格は柔軟な軟骨成分が多く、筋肉の総量は大人のそれに遠く及ばない。下手に負荷をかければ成長を阻害するか、あるいは取り返しのつかない身体的損傷を負うことになる。

だが、じっとしていては我が家の破産未来は変えられないし、何より私の理想郷計画――将来、大好きなエルフや獣人たちが笑顔で暮らせる最高のスローライフ都市を築くという野望――の第一歩すら踏み出せない。

「あーらん、おにぃちゃん、まてーっ!」

そんな私の思考を心地よく、そして盛大に遮るように、背後からコロコロとした足音が近づいてきた。

振り返ると、そこにはピンク色の小さなワンピース(お手製のボロボロの布切れだが)を纏った、我が家の末っ子・ノエルが必死の形相でトコトコと走ってきていた。彼女はまだ二歳にも満たないはずだが、最近になって歩行を覚えて以来、すっかり私――アランのお兄ちゃんとしての背中を追いかけるのが日課になってしまっているらしい。

「ほら、ノエル。そんなに急いで走ると、転んでおでこを打つぞ」

私は幼児特有の少し舌足らずな発音で声をかけつつ、ノエルがバランスを崩して転びそうになった瞬間を見計らい、最小限の力で彼女の背中を支えて態勢を立て直させた。

派手に受け止めたり抱き上げたりするのではなく、彼女自身の重心の傾きを僅かな接触で誘導し、自然に立ち上がらせる。それは一歳半の幼児がやるような身のこなしではないのだが、今のノエルはただ「お兄ちゃんに助けたもらった!」と嬉しそうに目を輝かせるだけだった。

「おにぃちゃん、しゅごい!」

「……すごいと言うか、もう少し足元に気をつけなさい」

ノエルは満面の笑みを浮かべると、そのまま私の小さな足にしがみつき、離れようとしない。

前世の私は、役所の窓口で市民からの理不尽なクレームを浴びせられ、深夜は冷徹に予算書の数字や書類の山をチェックし続けるだけの、殺伐とした独身生活を送っていた。血の通った温もりなんてものは、実家の猫を撫でる時くらいしか感じたことがなかったはずだ。

それなのに、この異世界に転生して以来、この借金まみれのボロボロの男爵家で、毎日こうして無条件に懐いてくる妹の存在は、私の冷め切った公務員脳の隅々にまでじんわりと染み入るような不思議な癒やしをもたらしていた。

(――まったく。この可愛い妹や、いつも苦労している母さん、真面目すぎて胃に穴が開きかけている兄のアルフレッド、そして無能だが根は悪くない父上のレイモンド……。この家族が路頭に迷い、最悪の場合、借金のカタに売り飛ばされるような未来だけは、私の行政チートで絶対に阻止してやるさ)

私は心の中でそう強く決意し、ノエルの頭をポンポンと優しく撫でてやった。

ノエルはそれがよほど嬉しいのか、にぱっと花が咲くような笑顔を浮かべ、私の服の裾をキュッと握りしめたまま、ぴとっと頬をくっつけてきた。

しかし、感傷に浸ってばかりもいられない。

現実のクロフォード男爵家は、相変わらず一寸先は闇の財政難である。

廊下の向こうの執務室――と言っても、壁紙が剥がれ落ちた狭い一室から聞こえてくる父レイモンドの嘆き声は、日を追うごとに切実さを増していた。

「おい、どうするんだ! 来月の領主税の納付まであと少しだというのに、領内の商人たちからの税収は予定の半分にも届かんぞ! このままでは領地の統治権すら剥奪されてしまう……!」

「お父様、落ち着いてください。ですが、確かに今年の冬を越すための種籾の購入資金すら怪しい状態なのは事実です。私が隣町の商会に頭を下げに行って、借入の交渉をしてきましょうか……?」

長男であるアルフレッドの切実な声が響く。

それを聞いた私は、部屋の隅のラグマットの上で、そっとため息をついた。

(ダメだ、父上も兄上も「商会に頭を下げる」「借金をしてその場しのぎをする」という発想から抜け出せていない。根本的な税の徴収システム、そして領内にある特産品の流通ルートのボトルネックを解消しなければ、いくら金を借りても穴の空いたバケツに水を注ぐようなものだ。しかし……今の私にはまだ、公の場で大人の商売や税制改革に口出しするだけの権限も社会的信用もない)

大人の社会において、二歳や三歳の幼児がどれほど正論を吐いたところで、「おませな子ども」「気のせい」で片付けられるのが関の山だ。下手に天才的な知恵を見せつければ、変に警戒されたり、あるいは悪辣な商人に利用されたりするリスクすらある。

だからこそ、今の私に必要なのは、いつの日か大人の社会で対等に交渉し、この荒れ果てた環境を切り盛りするための基礎体力をつけておくことだった。

(無理な筋トレができないこの幼児の肉体で、いかにして無駄のない動きを身体に覚え込ませるか……)

私はノエルがすやすやと眠り始めたのを確認すると、そっと彼女の腕を外し、部屋の隅の壁際に移動した。

誰も見ていない隙を見計らい、私は呼吸を整え、自身の肉体内部に意識を集中させる。

(――極限省エネ型・インナーマッスル最適化計画、第2段階)

外見的にはただ床に座っているだけの幼児に見えるだろうが、今の私の体内では、神経伝達の効率化と筋肉の微調整が行われていた。

まだ魔力をどうこう扱うような段階ではない。純粋に、人間の肉体としてのエネルギーロスを極限まで削ぎ落とし、最小限の力で最大の出力を生み出すための「身体操作(ボディコントロール)」の構築だ。

一歩を踏み出す際、足の裏のどの点に体重を乗せれば床板の摩擦抵抗が最小限になり、最も素早く移動できるか。腕を振る際、肩関節のどの筋肉を弛緩させ、どの深層筋だけを瞬発的に収縮させれば効率が良いか。

無駄な力みが一切ない、完璧な重心移動。

それを毎日の生活の中で無意識レベルに落とし込むことで、いつか訪れるであろう試練や外の世界に飛び出すその日に向け、着実に動ける身体の土台を築き上げていく。

「おや、アラン? またそんなところで一人でじっと立ったり座ったりして……。もしかして、お散歩の練習をしているのかしら?」

ふと、優しい笑みを浮かべた母・ソフィアが部屋に入ってきた。

私は慌てて、わざと少しバランスを崩して尻餅をつき、「ばぶっ」と幼児らしい間の抜けた声を漏らしてみせる。

「もう、危ないんだから。本当に、アランは不思議な子ねえ。時々、ものすごく遠くを見ているような、おませな目をしているんだから」

母はクスリと笑いながら、私を優しく抱き上げて高い高いをしてくれた。

その温かい体温に包まれながら、私は(危ない危ない、少し演技が雑だったか)と思いつつ、心の中で苦笑した。

それから数年後。

我が家の財政悪化はいよいよ取り返しのつかない水準へと達し、父レイモンドはいよいよ追い詰められていくことになる。

そして、私自身も「他種族巡礼ツアー」という名の――人生を大きく変える旅立ちの時期へと、着実に歩みを進めていくのだった。

第3話をお読みいただき、ありがとうございます!

今回は2〜3歳に成長したアランの日常と、お兄ちゃん子な妹・ノエルとの微笑ましいやり取り、そして幼児の肉体で地道に実践する「ボディコントロール」の深化を書き綴ってみました。

ギスギスした貧乏男爵家の中にある家族の温もりと、アランの密かな努力が、今後のドラマをより一層引き立てていきます。

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