表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

第2話「誰も知らない火曜日」

少女の言葉を聞いた瞬間、黒崎の背筋に冷たいものが走った。


「……今、なんて言った?」


少女は変わらず微笑んでいる。


「火曜日。」


その言葉は、まるで禁じられた言葉のように路地裏に響いた。


黒崎は思わず周囲を見回した。


誰もいない。


だが、誰かに聞かれてはいけないような気がした。


「君……火曜日を知ってるのか?」


少女は小さく頷く。


「うん。」


「他にも知ってる人がいるのか?」


「知らない。」


即答だった。


黒崎は息を飲む。


「君は誰なんだ?」


少女は少し考えるような顔をした。


「ユイ。」


「名前じゃなくて……」


「ユイだよ。」


話にならない。


だが、今はそれ以上に聞きたいことがあった。


「火曜日はどこへ行った?」


ユイは空を見上げた。


夕焼けが街を赤く染めている。


「なくなった。」


「なくなった?」


「うん。」


「どうやって?」


「消えた。」


黒崎は頭を抱えたくなった。


子供の答えのようでいて、不思議と冗談には聞こえない。


むしろ本気でそう言っているように見えた。


「君はどうして覚えてるんだ?」


ユイはしばらく黙った。


そして小さな声で言う。


「忘れないから。」


その言葉だけは妙に重かった。



その夜。


黒崎は家に帰っても眠れなかった。


パソコンを開く。


ネットで検索する。


「火曜日」


検索結果はゼロ。


正確には、曜日の一覧に火曜日が存在しない。


月曜日。


水曜日。


木曜日。


金曜日。


土曜日。


日曜日。


それで終わり。


まるで最初から六日しかなかったように。


黒崎は震える指で検索を続ける。


「Tuesday」


「火曜」


「第二曜日」


何も出ない。


世界中から火曜日が消えている。



深夜二時。


黒崎は机の引き出しを開けた。


そこには亡くなった母親の古い日記が入っている。


何年も前のものだ。


ふと気になった。


もし火曜日が消えたなら、過去の記録はどうなっているのだろう。


ページをめくる。


するとある日の日記で手が止まった。



六月一日


今日は家族で買い物に行った。


明日は――



文章が途切れている。


次のページ。



六月三日


昨日は雨だった。



黒崎は固まった。


「……なんだよ、これ。」


六月二日がない。


ページ自体は存在している。


だが、そこだけ真っ白だった。


誰かが書いた文章を消したように。



その時。


カタン。


窓の外で音がした。


黒崎は顔を上げる。


マンションの五階。


外に人が立てる場所などない。


しかし確かに何かがいた。


黒い影。


人のようなもの。


そいつは窓の向こうから黒崎を見ていた。


顔は見えない。


ただ異様に長い腕だけが見える。


黒崎が立ち上がった瞬間。


影は消えた。


まるで最初から存在しなかったかのように。



翌朝。


黒崎は再びユイを探した。


あの路地裏へ向かう。


するとユイは昨日と同じ場所に座っていた。


まるで動いていないように。


「ユイ。」


「おはよう。」


「昨日、俺の家に誰か来た。」


ユイの表情が変わる。


初めて笑顔が消えた。


「見ちゃったんだ。」


「何なんだ、あれは。」


ユイは静かに答えた。


「探してるの。」


「何を?」


ユイは黒崎の目を見た。


そしてこう言った。


「火曜日を覚えてる人。」


風が吹いた。


路地裏の奥から、どこか遠くで列車の音が聞こえた。


ありえないはずだった。


この場所の近くに線路はない。


ユイはその音の方を見る。


「始まった。」


「何が?」


ユイは答えない。


ただ、暗い路地の奥を指差した。


そこには昨日までなかった階段が現れていた。


地下へ続く古びた石の階段。


その先から、列車の音が響いている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ