8 賢明なチョイスね
一週間ほど前。
「ラッキーだったね」
チョットマとイペとサリの三人は、地下避難フロア、ユーペリオンの最奥部のさらに奥、資材庫をうろついていた。
許可がなければ入れないエリアだ。
いくつもの巨大な洞穴には、天井から鍾乳石が無数に垂れ下がっている。
洞穴はすべて合わせると、サッカースタジアムが十個分はあるだろう。
そこに、先人たちが残してくれたざまざまな備蓄物資が大量に積み上げられている。
いわば、巨大なタイムカプセル。
「明日のパーティ、おしゃれしていけるね」
「だめよ、チョットマ。目先のことだけ考えちゃ」
たしなめられても、明日は待ちに待ったパーティ。
チョットマは期待で胸が膨らむのを抑えきれなかった。
何しろ、楽しみのなさすぎる避難所暮らし。着の身着のままで、地底の岩の隙間をうろつくだけの毎日。
そこに舞い込んだ一通の招待状。
その書状には、イエロータドのバーで、仲良くなった人々が集う会と記されてあった。
一周年記念だという。
「本当に必要だと思うものを選ぶのよ」
「分ってるって」
「分ってないわよ。なに、それ」
イペがチョットマが手に取った物を棚に戻すと、
「さあ、行くわよ」と、せかす。
それでもチョットマは、別の品物に手を伸ばす。
「これって、なにするもの?」
「睫毛カーラーね。睫毛をこうやって、カールさせるのよ」
「イペみたいに?」
イペの右瞼の上には葉っぱのような痣があって、それを素敵に長くて濃い睫毛が隠している。
「じゃ、これは?」
「お肌の油分を拭き取る紙」
「これは?」
「爪にきれいな光沢を付ける液ね」
「へえ。いろいろあるんだ」
「そうね。ここへ来ると、先人の偉大さに感服するわね」
いつの時代の人々が遺してくれたのか知らないが、痒いところにも手が届く品揃え。
今、ユーペリオンで暮らす三千人が、これに頼って暮らしている。
イペも懐かしいのか、棚に所狭しと積まれた化粧道具に目を細めた。
「昔は豊かだったんだね」
避難生活のために、というには贅沢すぎる物資も数多い。
身の回りの品もそうだが、産業用に使う資材も備蓄され、その種類は千差万別だ。
さすがに貴金属の類はないが、最低限の生活に必要な食糧はじめ、飲料や衣類、日用品や事務用品、各種工具なども様々に取り揃えられている。
ちょっとしたおしゃれ用品や装身具、ボードゲームなどの遊び道具まであった。