75 よくそんなこと言えるわね
「私は賛成」
ニレの大木にもたれたスゥが梢を見上げたまま言った。
「私もそれでいいと思う」
アヤはしゃがみこんで、枯れ葉の下を這い回る小さな虫の動きを眺めている。
すでに聞き耳頭巾を使わないでも、木々や小鳥や、岩までも声を聞ける境地に達しているアヤ。
さすがにバーチャルの虫と会話できるはずもないと思うが、アヤの唇が虫に話しかけている。
あんたもそう思うでしょ。
ユウが言った。
「チョットマは?」
局長級、部長・主幹級ではないが、今日は拡大会議。
ユーペリオンの主だった者が全員集まる百人を超える会議になるだろう。
「よくわからない。みんなの話を聞いて決める。パパとママはどう?」
「私も賛成」というユウの言葉に小さく頷いて、チョットマがチラリと目を向けた。
イコマも賛成だ。
しかし、そうなればニューキーツの街は完全に崩壊してしまう。
今は住めないとはいえ、破壊してしまっていいものだろうか。
もはや復興はできない。
「でも、僕はニューキーツ市民やない。当事者じゃない僕の一票はどうしたもんかな」
正直に言ったが、ユウの反論を受ける羽目になった。
「ノブ、よくそんなこと言えるわね。れっきとした当事者やんか。ユーペリオンの市民なんやから。いい加減、その優柔不断さ、ていうか変に気を回しすぎるところ、どうにかなれへんの?」
ひとり少し離れて石の上に座っているスミソが笑ったように見えた。
「優柔不断で悪かったな。せやから、歴史を記録するという仕事に就かされたんやんけ」
自虐的に軽い気持ちで思わず言ったのだったが、スミソが声を掛けてきた。
「それ、言っちゃまずいですよ。レイチェルが悲しみます」
しまった、と思ったが、口から出た言葉は消せない。
「すまない。冗談だ。悪かった」




