69 そんな気持ちだからダメなのよ
数日前、不審人物が二人、シャルタに通じる小道で巡回中の警察官に目撃されている。
ただ、その報告には二通りある。
パイサイドだったという報告と、そうではなかったという報告。
今日また、姿を見かけたのだという。
「今日は一人だけのようでしたが、逃げ足の速い奴で」
「現在捜索中ですか」
「ええ。しかし、水中に逃げられては手も足も出ないので」
「確かにパリサイドだったのですか?」
「ええ、まあ。その辺りは曖昧なんですが」
先日の目撃情報も、今日のそれも、一瞬、姿を見たというもの。
それに、この暗さ。パリサイドなのかどうか、言い切れるものではないだろう。
今まだパリサイドの身体を有している者がいるとすれば、どういうことになるのか。
ロームスが滅んで、あるいは力が弱まって、宇宙船に乗っていたパリサイドは全員が人の姿に戻った。
元々パリサイドだった者も、アギからパリサイドになった者も。
地球に残されたパリサイドは、そのままその姿を保持しているのだろうか。
あるいは、別系統のパリサイドがいるのだろうか。
「逃げた、んですか?」
「我々の姿を認めたのでしょう。さっと姿を消したようです」
パリサイドであれば、人の能力をはるかに超える視力を持っているはずだし、動きも敏捷だ。
空を飛ぶこともできるし海中深く潜ることもできる。
まして殺傷能力は言うに及ばず。
己の姿を自在に変えることさえできるのだ。
眼前から姿を消すことなど容易いこと。
「パリサイドではない、という可能性は?」
「ううむ」
ボニボニは、腕を組んで「五分五分でしょうな」と、無難な回答を口にした。
「いずれにしろ、探し出すしかありません」
シェルタの内部を、数人の警察官が捜索しているらしいが、そもそも警察官はユーペリオンに二十人ほどしかいない。
全員をここに投入するわけにもいかない。
とても探しきれるものではない。
「我々も加わりましょう」
返事も待たずにンドペキが先頭に立って、シェルタ内部に入った。
懐かしい場所。
景観は依然と全く変わっていない。
天井の高いホールのような空間に大小様々な岩が突き出し、または転がっている。
その周りには無数ともいえる空間、つまり空洞や通路が迷路のように連なっている。
チョットマが演説した大岩もあのときのままの姿で鎮座している。
真っ暗なことに変わりはないが、どことなく侘しい感じがするのはなぜだろう。
政府建物に侵攻を開始したときのような高揚感はないし、人影もない。
淀んだ空気が静かに溜まっているだけで、地面に落ちたメモ一枚のゴミさえも、まるで遺跡の一部になったかのように、うっすらと埃を被っている。
ンドペキがてきぱきと持ち場を決めた。
このシャルタの内部構成を知り尽くしているとは言えないが、警官達よりまし。
警官達は民間人のンドペキに指示を出されて、顔を見合わせたが、結局は肩をすくめただけでおとなしく従った。
見つからないと思うけどな、という呟きと共に捜索に向かおうとする警官の背に向けて、チョットマがアカンベーをしてみせた。
「見つからない? ふん! そんな気持ちだからダメなのよ」
ポンポンと大岩を飛び越えて、チョットマは暗闇に消えた。
「用心するんだ! 相手が何者か、分からんぞ!」
ンドペキの呼びかけに、闇の中から弾んだ声が返ってきた。
「了解! 隊長!」




