40 迷ったのはその瞬間だけ その手を取った
ロームスの話題など、今は似合わない。
イエロータドにとってめでたい一周年記念なのだ。
ジルのそのかわいい唇からは、人が好んで触れたくはない、そんな話題が次々に飛び出してくる。
イエロータドがホステスとして誘っているわけは、こういう面があるからかもしれない。
きれいごとの話題や、よいしょのトークだけでは、バーはつまらないのだ。
「あの星域で消滅したんじゃないの?」
「そう言われてるよ。でもさ、私たちの身体に入り込んだ白い霧は死滅してないんじゃない?」
二人で、あの古代生命体の話題を蒸し返している。
チョットマもそれにやられた口である。
病理的に言えば、完治したということになっている。
つまり、奴らは意識をコントロールすることを諦め、出ていったことになっている。
「それにさ、あの星域以外にも生息していたら?」
「霧みたいなやつだからね。宇宙船スミヨシに隠れてたって、誰も気づかないかもね」
二人は声を潜めているわけではない。屈託なく、言い合っている。
チョットマの意識にロームスが一時的にも入り込んだことは、隊員なら誰もが知っている。
ンドペキやスミソ、そしてアヤに入り込んだことも。
ジルもシルバックも、もう大丈夫だと信じているのだ。
しかし、果たして「完治」したと言えるのだろうか。
チョットマは疑問に思うことがある。
あれから一度たりとも、声を聞いたことはないし、自分の意識が不自然な動きを見せたこともない。
しかし、奴がこの身体から出ていったという証拠は?
ンドペキやスミソはどうなのだろう。アヤちゃんは?
聞いてみたことはないが、もしかすると、人知れず悩んでいたりするのだろうか。
「それって、誰から聞いた話?」
シルバックがジルに話の続きを促している。
別の話題に移っていた。
「へへへ」
「何、その笑い?」
「内緒」
「はあ? あっ、さては!」
チョットマはなんだかよく分らなかった。
シルバックとジルは同じ職場。だからこそ分かり合える、共通の事柄もあるのだろう。
「彼氏?」
「ご想像にお任せします」などと言っている。
ボニボニは二人の会話をただ聞いている。
目が合った。
と、突然、立ち上がった。
前に立つと、芝居がかったお辞儀をする。
シルバックとジルが顔を見合わせた。
警察署長の意図はすぐ分かった。
「いかがかな」
ダンス。
「私と?」
「お願いできますれば」
と、手を差し出してきた。
チョットマは迷った。
この老け蛙と?
手は濡れてやいないかしら。
シルバックとジルに悪いし……。
しかし、迷ったのはその瞬間だけ。その手を取った。
「じゃ、お願いします」
変な言い方。
「喜んで!」
と、付け加えた。




