10 六百年経っても、そういうところは変わらん
「何なん、相変わらず、はっきりせえへんな、ノブは」
六百年前、出会った頃の容姿のまま、ユウは長い黒髪を揺らせた。
家族だけでいるときは大阪弁。これはイコマ家の不文律。
「まあな。何百年経っても、そういうところは変わらんよな」
「そんなに若い体になっても?」
「この身体か? これなあ……。まだ馴染めんよな、完全には」
「そう? 前から思っててんけど、なかなかいい男やん」
「は! 微妙な気分になるで、そう言われると。以前よりいい、ってことかいな」
「いえいえ、決してそういう意味ではございません!」
ユウは笑ったが、まだこの体に他人を感じてしまうのは、本当のことだった。
何しろ、肉体を持たない記憶の人アギとして、六百年を生きてきたのだ。
はい、今からこの身体でやってください、といわれても、高々二年やそこらでしっくりくるはずがない。
ユウは、ずっと自分の身体というか、容姿だけは維持してきた。
四百年ほど前、神の国巡礼教団の無謀な航海にスパイとして送り込まれ、結果、遠い星で、パリサイドの肉体を得た。
パリサイドの肉体。
見かけはオットセイのような黒いずんぐりしたものだが、非常に高度な組成をしている。
古代宇宙生命体から与えられた身体で、空を飛ぶ、海底で暮らすことはもちろん、宇宙線が飛び交う宇宙空間を生身で移動することもできる。
しかも、十数キロに及ぶ羽を広げて、宇宙線からもエネルギーを得ることができ、いわば無敵のパワーを有している。
熟練したパリサイドとなれば、人らしい姿をまとうことも可能。
今、並んで歩くユウの姿は六百年前、大阪で恋人同士として過ごしていたあの頃のもの。
前を行くンドペキやスゥも、一時は記憶をなくしていたとはいえ、マトとして自分の身体を再生させ続けてきた。
六百年前、イコマは記憶を維持することを優先し、肉体は捨てた。
つい二年前にパリサイドの身体を与えられ、そのわずかひと月後には誰か知らない人の身体を持つことになったが、一度は捨てた身体。
違和感はあるが、どんな肉体でもどうということはないし、もちろん文句はない。




