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歩き初めにそっと押す
街に入ると、彼女は足を止めた。
人々の声が、あちこちから響いている。
笑い声。呼び声。石を打つ乾いた音。
それらが混ざり合って、絶えず揺れていた。
そのにぎわいの中で——
彼女は、ただ立ち尽くす。
一歩も動けずに。
音に圧されるように、息をひそめている。
布で隠された目は見えないはずなのに。
それでも、不思議とわかった。
今、彼女の目は——
爛々と輝いている。
すべてを一度に受け取ろうとして、追いつかないままに。
感嘆と、戸惑いと。
そのどちらにも動けずにいる。
僕はその様子を見て、小さく息を吐く。
そして、そっと手を伸ばす。
彼女の手を取る。
一瞬、わずかに強ばる。
けれど、振りほどかれることはなかった。
「行こう」
短く言って、軽く引く。
少女の体が、遅れてついてくる。
一歩。
また一歩。
戸惑いながらも、街の中へと踏み出していく。
声の渦の中へ。
光の中へ。
僕はその手を引いたまま、街の奥へと進んでいった。




