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盲目の蛇女は始まらない  作者: 甘味処 雨
起きはじめ
8/15

歩き初めにそっと押す

街に入ると、彼女は足を止めた。


人々の声が、あちこちから響いている。


笑い声。呼び声。石を打つ乾いた音。


それらが混ざり合って、絶えず揺れていた。


そのにぎわいの中で——


彼女は、ただ立ち尽くす。


一歩も動けずに。


音に圧されるように、息をひそめている。


布で隠された目は見えないはずなのに。


それでも、不思議とわかった。


今、彼女の目は——


爛々と輝いている。


すべてを一度に受け取ろうとして、追いつかないままに。


感嘆と、戸惑いと。


そのどちらにも動けずにいる。


僕はその様子を見て、小さく息を吐く。


そして、そっと手を伸ばす。


彼女の手を取る。


一瞬、わずかに強ばる。


けれど、振りほどかれることはなかった。


「行こう」


短く言って、軽く引く。


少女の体が、遅れてついてくる。


一歩。


また一歩。


戸惑いながらも、街の中へと踏み出していく。


声の渦の中へ。


光の中へ。


僕はその手を引いたまま、街の奥へと進んでいった。

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