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残花葬送 ー世界から消す未来を、君と花束にするー  作者: 桝田キゲン
一.君を忘れるための花束

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16/25

それでも君と呼ぶ

 何かが。


 三回。


 木箱の内側を叩いた。


 こつ。


 こつ。


 こつ。


 夜一はカップを置いた。


「今の」


 澄花が床を見る。


「聞こえた」


 環は、すでに立ち上がっていた。


「地下へ行く」


「俺が先だ」


「一人で行かない」


「分かってる」


 夜一は厨房の火を消した。


 鍋の蓋。


 コーヒー器具。


 店の入口。


 一つずつ確かめてから、地下へ続く鉄扉へ向かう。


 急ぎたい。


 階段を飛び降りたい。


 箱を開け。


 種を取り出し。


 名前を呼びたい。


 それでも。


 手順を飛ばさない。


 焦って壊したものは。


 急いでも元へ戻らない。


「私も行きます」


 澄花が立つ。


「父親は」


「相沢先生がいます」


「種は」


 澄花は制服のポケットへ触れた。


「持っています」


「地下へ近づけすぎないでください」


「分かりました」


「何か呼びかけてきても」


「返事をしない」


「昼間でも?」


「今は例外です」


「例外、多いですね」


「事件の後なので」


「便利な言葉」


 環が鉄扉を開けた。


「二人とも。話は階段を降りながら」


 三人は地下へ向かう。


 一段。


 二段。


 三段。


 夜一は。


 数える余裕を失いかける。


 七段目。


 軋む。


 十二段目。


 欠けている。


 十八段目。


 冷たい空気。


 二十三段目。


 地下温室の扉は。


 すでに開いていた。


 白い根が通路へ伸びている。


 先ほどより太い。


 だが。


 暴れてはいない。


 床を這い。


 緩やかな曲線を描きながら。


 夜一たちを奥へ導いている。


「案内してるみたい」


 澄花が言った。


「罠かもしれない」


 環は白い根へ触れないよう歩く。


「マシロは」


 夜一が言う。


「こんな回りくどい罠を作らない」


「根拠は」


「面倒くさがる」


「人格の連続性を、その程度で判断するの?」


「生活は人格の一部だ」


「否定はしない」


 温室の最深部。


 白い鉢の隣に置いた木箱。


 蓋は開いていない。


 病院の洗剤が残る古いタオルも。


 かけたときのままだった。


 だが。


 箱の周囲を。


 白い根が幾重にも囲んでいる。


 内側から押し上げるように。


 蓋が小さく揺れた。


 こつ。


 一回。


 こつ。


 二回。


 こつ。


 三回。


「マシロ」


 夜一が呼ぶ。


 箱の揺れが止まる。


「聞こえてるか」


 返事はない。


「開けるぞ」


 夜一が蓋へ手を伸ばす。


 環が肩を掴んだ。


「待って」


「何だ」


「発芽後の形態が分からない」


「だから見る」


「有毒な胞子を出す可能性がある」


「マシロは毒じゃない」


「そういう意味ではない」


「分かってる」


「防護具を」


「本人の前で、化け物扱いするな」


「あなたが吸い込んで倒れれば」


 環は言った。


「もっと本人を傷つける」


 夜一の手が止まる。


 環は防護用の布を一枚差し出した。


 顔全体を覆うものではない。


 口元だけ。


「最低限」


「お前は」


「つける」


「澄花も」


「はい」


 三人で布を巻く。


 滑稽だった。


 白い種から戻ろうとしている少女を。


 毒花のように警戒している。


 だが。


 警戒と拒絶は違う。


 壊さないために。


 距離を測ることも必要な場合がある。


 夜一は箱の前へ膝をついた。


「開ける」


 蓋へ指をかける。


 ゆっくり持ち上げた。


 木の擦れる音。


 古いタオル。


 その中央。


 白い種は。


 なくなっていた。


 代わりに。


 小さな花が咲いている。


 薄い青色の花弁。


 中心は金色。


 短い茎。


 二枚の葉。


 箱の中へ収まるほど。


 小さな花。


「花?」


 澄花が覗き込む。


「種から、いきなり」


 環は記録帳を開いた。


「発芽時刻、午前七時四十六分。形態は」


「待て」


 夜一が言う。


「何」


「まだ本人に聞いてない」


 夜一は。


 青い花へ顔を近づけた。


「マシロ」


 花は動かない。


「起きてるなら三回」


 沈黙。


「眠いなら一回」


 花弁が。


 一度だけ閉じた。


 澄花が息を呑む。


「眠いみたい」


「起こしますか」


 環が聞く。


「無理に起こさない」


「状態確認が必要」


「眠いと言った」


「花弁が閉じただけ」


「一回だ」


「意味づけは慎重に」


「お前も見た」


「見た。聞いてはいない」


 青い花が。


 もう一度だけ閉じた。


 そして。


 少し間を置き。


 三回。


 細かく震えた。


「一回と三回」


 澄花が言う。


「眠いけど、聞こえてる?」


 夜一は花を見る。


「そうか」


 返事はない。


「では、寝ろ」


 夜一は箱の蓋を閉じなかった。


 光を遮らないように。


 布を少しだけずらす。


「上へ戻るぞ」


「ここへ置いたまま?」


 澄花が尋ねる。


「動かす方が危険です」


 環が答える。


「でも、一人に」


「一人じゃない」


 夜一は温室を見回した。


 灰瓶。


 鉢。


 種箱。


 マシロを構成していた人生の痕跡。


「百二十七人いるから?」


「そういう意味じゃない」


「では」


「夜明堂の下だ」


 上には。


 カウンター。


 欠けたカップ。


 蜂蜜。


 焦げた煮込み。


 誰かが手を動かし続ける生活がある。


「起きたら呼べ」


 夜一は青い花へ言った。


「呼ばなくても、見に来る」


 花弁が一度だけ揺れた。


「嫌そう」


 環が言う。


「眠いだけだ」


「都合よく解釈してる」


「所感欄へ書け」


 澄花が記録帳へ書き込む。


 事実。


 花弁、一回閉じる。


 その後、一回と三回の反応。


 感じたこと。


 眠いけれど。


 放っておかれるのも嫌そう。


「最後の部分」


 環が言う。


「所感です」


「分けているならいい」


 三人は地上へ戻った。


          ◇


 それから三日。


 青い花は。


 箱の中で眠り続けた。


 夜一は毎晩。


 店を開ける前に地下へ降りた。


 水分。


 温度。


 花弁の色。


 根の伸び方。


 一つずつ記録する。


 温度計は直した。


 環に三度言われたからではない。


 必要だったからだ。


 ただ。


 直したことを環へ伝えると。


「ようやく」


 と言われたので。


 少し後悔した。


 一日目。


 変化なし。


 声をかけると。


 花弁が一度揺れた。


 二日目。


 葉が一枚増えた。


 蜂蜜を近くへ置くと。


 茎がそちらへ少し傾いた。


 三日目。


 花弁の先に。


 白い色が混じった。


 夜一が。


「白い花は嫌いだった」


 と言うと。


 花全体が。


 背を向けるように傾いた。


 嫌いなのか。


 夜一の言葉へ反発したのか。


 ただ光の方向が変わっただけなのか。


 分からない。


 記録には。


 そのまま書いた。


 事実。


 光源と反対方向へ、約三度傾斜。


 所感。


 白い花と言われて。


 不機嫌になったように見える。


 環は毎晩来た。


 規則上の監視。


 という名目だった。


 初日は。


 店へ入るなり温度計を確認した。


 二日目は。


 地下の監視装置を二台設置した。


 三日目には。


 夜一が淹れたコーヒーへ。


 自分で牛乳を足した。


「勝手に触るな」


「苦い」


「コーヒーだからな」


「苦味は目的ではない」


「子どもか」


「味覚の好みと年齢は無関係」


 澄花も毎日。


 学校帰りに来た。


 凪の種はまだ動かない。


 夢も見ていない。


 匂いもしない。


 それでも。


 記録帳へ書く。


 異常なし。


 返事なし。


 今日の授業。


 昼食。


 父の体調。


 友達に誘われたこと。


 断らず。


 一時間だけ寄り道したこと。


 凪に話す内容というより。


 自分が現在を生きた記録だった。


 冬一は入院した。


 世界花の中で。


 健康な自分と重なったためか。


 一時的に検査数値は改善している。


 だが。


 癌は消えていない。


 余命の見立ても。


 大きくは変わらなかった。


 澄花は放課後。


 病院へ行く。


 それでも。


 毎日ではなくなった。


 相沢千景と相談し。


 看護師へ任せ。


 友人と帰る日を作った。


 罪悪感はある。


 記録帳に。


 そう書かれていた。


 父が一人でいる間。


 何か起きたらどうしよう。


 私が遊んでいる間に死んだら。


 後悔する。


 それでも今日は。


 友達とクレープを食べた。


 美味しかった。


 夜一は。


 その記録を読まない。


 澄花が見せたいページだけを見る。


 人の感情を調べることと。


 すべてを覗くことは違う。


 四日目の朝。


 事件は起きた。


          ◇


 夜明堂の閉店準備を終えた夜一は。


 地下へ降りた。


 温度。


 十八・六度。


 湿度。


 六十三パーセント。


 白い鉢。


 異常なし。


 灰瓶。


 変化なし。


 木箱。


 空だった。


 夜一は瞬きをする。


 もう一度見る。


 タオル。


 細い根の跡。


 青い花はない。


「マシロ」


 返事はない。


 箱を持ち上げる。


 底。


 裏。


 周囲。


 どこにもいない。


 白い根は。


 温室の出口へ向かっていた。


「マシロ!」


 夜一は階段を駆け上がる。


 七段目の音も。


 十二段目の欠けも。


 数えない。


 鉄扉を押し開ける。


 店内。


 琥珀色の灯り。


 誰もいない。


「マシロ」


 カウンター。


 厨房。


 観葉植物の陰。


 いない。


 入口の鍵は閉まっている。


 窓も。


 二階へ続く階段。


 寝室。


 倉庫。


 どこにも。


「マシロ!」


 二階から戻ったところで。


 厨房から音がした。


 ごとり。


 金属。


 夜一は花鋏を抜き。


 厨房へ踏み込む。


 鍋の前に。


 一人の少女が立っていた。


 白い髪。


 ではない。


 薄い青。


 根元は白く。


 毛先へ向かうほど。


 雨上がりの空のような色になっている。


 長さは肩まで。


 以前より短い。


 白いワンピースも着ていない。


 夜一が地下へ置いていた古いシャツを。


 無理に身体へ巻きつけている。


 背丈は。


 以前のマシロより少し低い。


 十五歳ほどに見えた。


 裸足。


 細い手。


 金色の右目。


 左目だけが。


 薄い青。


 少女は鍋の蓋を持ち上げ。


 中を覗いていた。


「誰だ」


 夜一が聞く。


 少女が振り返る。


「ひどい」


「何が」


「私を育てて」


 青い瞳が夜一を見る。


「誰だと言う」


 夜一の手から。


 花鋏が僅かに下がった。


「マシロか」


「たぶん」


「たぶん?」


「起きたら」


 少女は自分の髪をつまむ。


「そう呼ばれていた記憶があった」


 声は。


 地下で聞いたものと同じ。


 以前より低い。


 言葉の切り方も違う。


「でも」


 少女は青い毛先を見る。


「白くない」


「少し白い」


「ほとんど青」


「だから名前を変えるか」


 少女は夜一を見た。


「すぐ、それを聞くの」


「前のマシロとは違うなら」


「同じ名前を使ってはいけない?」


「お前が決めろ」


 少女はしばらく夜一を見る。


「花屋は」


「夜一」


「覚えてる」


 夜一の胸が動いた。


「何を」


「久世夜一」


「他には」


「生活能力が高い」


「誰が言った」


「たくさん」


「たくさん?」


 少女は自分の胸へ触れた。


「私の中にいた人たち」


「全部いるのか」


「全部はいない」


「何人残した」


「数えてない」


「記録は」


「起きてすぐ数えると思う?」


「必要だ」


「花屋は面倒」


「それは覚えてるのか」


「今、思った」


 夜一は少女を見る。


 以前のマシロに似ている。


 似ていない。


 口調。


 姿勢。


 視線。


 動作。


 どれも。


 少しずつ違う。


「甘いものは」


 夜一が尋ねる。


「試してない」


「雨」


「今日は降ってない」


「白い花」


「知らない」


「雑草」


「何それ」


 夜一の知るマシロではない。


 少なくとも。


 完全には。


「覚えてない」


 少女が言った。


「何を」


「花屋と」


 少し間を置く。


「何をしていたか」


 夜一は答えない。


「記憶はある」


 少女は続ける。


「コーヒー」


 厨房を見る。


「焦げた鍋」


 観葉植物の方角。


「植物の陰。雨。誰かの名前」


 自分の胸元へ触れる。


「たくさん」


「なら」


「でも」


 少女は首を横に振った。


「自分のものに感じない」


 夜一の指が。


 花鋏の柄へ食い込む。


「借りた記憶みたい」


「そうか」


「悲しくない?」


「何が」


「前の私が」


 少女は夜一を見つめた。


「戻らなかった」


 夜一は。


 目の前の少女を見る。


 青い髪。


 違う声。


 違う目。


 知らない表情。


「悲しい」


 言葉にした。


 逃げずに。


「でも」


 夜一は花鋏から手を離す。


「それを、お前に返せとは言わない」


「本当に?」


「返せるのか」


「分からない」


「なら、いい」


「簡単」


「簡単じゃない」


「顔が変わらない」


「顔で決めるな」


 少女が。


 僅かに目を見開いた。


 それから。


 小さく笑った。


「その言葉は覚えてる」


「誰のだ」


「分からない」


「マシロが、よく言った」


「前の?」


「ああ」


「では」


 少女は鍋へ視線を戻す。


「私も使う」


「好きにしろ」


「同じになるためじゃなく?」


 夜一は答えなかった。


 少女は鍋を指した。


「これは?」


「昨日の煮込み」


「焦げている」


「上は食える」


 少女の青い目が。


 少しだけ揺れた。


「覚えてる」


「何を」


「その言葉」


「食べた記憶は」


「ある」


 少女は鍋の匂いを嗅ぐ。


「でも、美味しいかは覚えてない」


「食うか」


「毒?」


「入ってない」


「花屋は嘘をつく?」


「つく」


「正直」


「隠しても仕方ない」


 夜一は皿を出した。


 煮込みを温める。


 火。


 鍋。


 湯気。


 昨日と同じ。


 以前のマシロへ作ったものと同じ。


 だが。


 味付けを少し変えた。


 蜂蜜は入れない。


 代わりに。


 塩を一つまみ。


 少女は。


 その動きを見ていた。


「どうして変えた」


「今のお前の好みが分からない」


「前の味でいい」


「比べるのか」


「比べないと」


 少女は言った。


「分からない」


「無理に同じものを食う必要はない」


「私が決める」


 夜一は。


 何も言わなかった。


 以前のマシロが。


 彼へ言った言葉。


 私も。


 依頼人と同じに数えろ。


 今の少女も。


 自分で決めると言う。


「分かった」


 夜一は二つの小皿へ煮込みを盛った。


 一つは。


 以前の味。


 薄い。


 少し甘い。


 もう一つは。


 塩気を増やしたもの。


「どっちがどっち」


「左が前」


「右が今?」


「今かどうかは」


 夜一は皿を差し出す。


「お前が決めろ」


 少女は左から食べた。


 表情は変わらない。


「どうだ」


「普通」


 夜一の胸が。


 一瞬だけ跳ねた。


 少女は首を傾げる。


「この言葉」


 皿を見る。


「便利」


「前のマシロも使った」


「なら、使わない」


 右を食べる。


 少し。


 目が開く。


「こっち」


「塩辛くないか」


「ちょうどいい」


「そうか」


「がっかりした?」


「何が」


「前と違う」


 夜一は。


 少しだけ間を置いた。


「少し」


 認める。


「でも」


 右の皿を見る。


「今の味は分かった」


「次も作る?」


「ああ」


「同じに?」


「少し直す」


「どうして」


「鶏肉が崩れすぎた」


「私は気にならない」


「俺が気になる」


「面倒」


「食う側は黙ってろ」


 少女は。


 煮込みをもう一口食べた。


「花屋」


「夜一」


「夜一」


 名前を呼ぶ。


 以前とは違う声。


 違う間。


 それでも。


 夜一を呼んでいる。


「私は」


 少女が言う。


「マシロのままでいる」


「そうか」


「でも」


 自分の青い髪を触る。


「前の私と、区別したい」


「どうする」


「名前に何か足す?」


「マシロ二号」


「嫌」


「青マシロ」


「もっと嫌」


「新マシロ」


「商品みたい」


「では、自分で考えろ」


 少女は。


 少し考えた。


「マシロでいい」


「区別は」


「夜一が覚える」


「何を」


「今の私が」


 右の皿を指す。


「塩気のある煮込みを好きなこと」


「それだけ?」


「これから増やす」


 夜一は少女を見る。


 前のマシロではない。


 だが。


 前のマシロがいなければ。


 ここにはいない。


 同じではなく。


 無関係でもない。


「分かった」


 夜一は言った。


「何が」


「今のマシロ」


 その呼び方で。


 彼女の髪へ。


 小さな花が一輪咲いた。


 薄い青。


 中心は金色。


「これは何」


 マシロが髪へ触れる。


「感情で咲く」


「前も?」


「ああ」


「今、何の感情」


「知らない」


「役に立たない」


「花屋なので」


「花屋なのに」


 マシロは花を指で摘まもうとする。


「取るな」


「どうして」


「痛いかもしれない」


「分からない」


「なら、触るな」


「過保護」


「管理だ」


「同じ?」


「違う」


「どう違う」


「分からない」


 マシロは笑った。


 今度の笑い方は。


 前の彼女と似ていなかった。


 口元だけではなく。


 目を少し細める。


 誰か別の人生から持ってきた癖かもしれない。


 あるいは。


 今の彼女が。


 初めて作った表情かもしれない。


「コーヒー」


 マシロが言った。


「飲むか」


「三杯?」


「蜂蜜は」


「まず一杯」


「甘くないぞ」


「比べる」


「何と」


「前の私と」


「競うな」


「違う」


 マシロは青い目で夜一を見る。


「知りたい」


 夜一は湯を沸かした。


 豆。


 二十二グラム。


 湯。


 三百二十ミリリットル。


 カップは二つ。


 一つには苦いまま。


 もう一つには。


 蜂蜜一杯。


 夜一はカップを差し出す。


 マシロは匂いを嗅ぐ。


 警戒するように。


 一口。


 顔が歪んだ。


「苦い」


「蜂蜜一杯だからな」


「三杯」


「試すんじゃなかったのか」


「結果が出た」


「二杯半」


「三杯」


「健康に悪い」


「私は植物」


「都合よく使うな」


「三杯」


 夜一は。


 蜂蜜を二杯追加した。


 マシロは混ぜる。


 飲む。


 今度は。


 表情が変わらない。


「どうだ」


「普通」


「使わないんじゃなかったのか」


「便利だから」


「前と同じだな」


「違う」


 マシロはカップを両手で包んだ。


「今」


 夜一を見る。


「私が選んだ」


 夜一は何も言わなかった。


 否定しない。


 同じだとも言わない。


 今の彼女が選んだ言葉として。


 受け取った。

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