第三六話
「あ、目が覚めたんだ。心配したよ、深冬ちゃん」
「俊介さん?ってことは、ここ、村友茶屋だったんですか?」
「あれ?教えてあげなかったの?」
「先に兄者達に会いたいと申すので」
「そっかー。ちょうど中休みの時間だし、ゆっくりおしゃべりしてなよ。俺はお粥でも作ってくるから。深冬ちゃん、卵粥と梅粥、どっちがいい?」
「じゃあたまごで」
「りょうかーい」
そういうと俊介さんは厨房らしき場所に引っ込んでいった。
また深冬ちゃんって呼ばれたけど…まあ、いっか。
埜壬さんに続いて店舗部分に入ると、ぐったりした埜剛と峨岳さんが客席に座っていた。
「壬、お前どこに…って、嬢ちゃん!目が覚めたのか」
「もう歩いて大丈夫なのか?」
「はい。埜剛、峨岳さん、心配かけてごめんなさい」
埜剛の胸には包帯が巻かれていて、右肩から先がない。
峨岳さんもあちこちに包帯が巻かれている。
痛々しい姿の二人は、なぜか腰巻のエプロンを付けていた。
気にはなったけど、先に聞くべきは怪我の具合だよね。
「二人とも、怪我は大丈夫ですか?」
「嬢ちゃんのおかげでな。まだ肩から先は再生してないが、それ以外の傷は全部塞がっちまったよ。胸んところも元通りだ。壬なんざ、真っ先に全快したからな」
「宿祢も治りが早かったな。式神契約ってやつは便利だな。ったく、俺だけまだ傷が塞がっちゃいないぜ」
羨ましいな、なんて言いながら峨岳さんが笑った。
みんな元気になったんだ。
本当に良かった。
二人と同じ席に着き、気になったことをもう一つ聞いてみる。
「ところで、どうして二人ともエプロンなんてつけてるんですか?」
「これか。嬢ちゃんの目が覚めるまで世話になる代わりに、手伝わされててな」
「あの人間、容赦なかったな」
「ああ。こちとら怪我人だっていうのにな」
「まったくだ」
はあ、と二人が同時にため息をつく。
「えっと…とりあえず、お疲れ様です」
「それで、嬢ちゃん達はこれからどうするんだ?」
「わたし、帝に呼ばれていて都に行かなきゃいけないんですけど…」
ちらり、と埜剛を見る。
式神契約を交わした以上、埜剛には近くにいてもらわないといけない。
離れすぎちゃうと霊力を供給できないから。
でも、旅の目的かなにかあっただろうし、無理強いはできないし…。
「俺も壬も嬢ちゃんについて行くよ。目的があった訳じゃないしな」
「ありがとう」
「礼を言うのはこっちだ。嬢ちゃんは命の恩人だからな」
「某も異論はない」
「峨岳さんはどうするんですか?」
「呼び捨てでいいぞ。そうだなぁ、この怪我が治るまでは、ここに足止めだろうな」
「ちょうどよかった。人手が欲しかったんだよね」
「うおっ」
腕を組んでうーんと唸る峨岳さん…改め峨岳の背後から俊介さんがぬっと姿を現した。
「気配を消してくるなよ…」
「ごめんごめん。はい、どうぞ」
そういって俊介さんはわたしの前に器を置く。
ほかほかのたまごがゆだぁ。
いい匂いが食欲をそそるよ。
ぐぐーとお腹が鳴った。
さすがにちょっと恥ずかしいかな。
「遠慮せずにどうぞ」
「はい、いただきます」
ふーふーと冷ましながら一口。
素朴な味がおいしい。
「とってもおいしいです」
「そりゃよかった。さて猪君、本題に入ろうか。どうだい?このままうちの従業員にならないかい?三食宿付きだよ~」
「けどなぁ、お前、人使い荒いんだよな」
「ちゃんとお給料払うからぁ」
そのまま二人は何やら交渉を始めてしまった。
このままの勢いだと、峨岳が折れるような気がするわ。
「嬢ちゃん、本当にありがとうな。俺も壬も、なんて無茶苦茶だが、本当にありがとう。壬を死なせるのだけは嫌だったんだ」
そういえば、埜剛の腰に巻かれている女性物の着物、さっきの夢の中にいたあやめさんが来ていたものと同じだ。
宿祢の時みたいに、わたし、過去を見たのかもしれない。
そうすると、埜壬さんは…。
「あのね、さっき、夢を見たの」
わたしがさっき見た夢の話をしたら、埜剛も埜壬さんもすごく驚いていた。
宿祢の時もそうだったけど、契約をして魂の一部が繋がったせいかもしれない。
って、前にお姉さんが言っていた。
夢の話はほとんど事実で、その後も色々あったらしい。
しばらくの間、埜剛は埜壬さんに口をきいてもらえなかったどころか、やっぱり恨まれたんだって。
埜壬さんがモノノケを嫌うようになったのも、この一件の後からだとか。
今はもう二人とも昔みたいに仲がいいらしいよ。
埜剛がいつまでも埜壬さんに遠慮気味で、もう気にしなくてもいいと言う意味で、埜壬さんは本名ではなく『埜壬』って名乗り始めたんだとか。
残念ながら本名は教えてもらえなかったけどね。




