第三五話
※ ※ ※
目が覚めて最初に見たのは見知らぬ天井だった。
今のは…夢、だったのかな?
妙にリアルで、埜剛がいて…。
「冬殿…」
小さく呼ばれて視線を向ければ、宿祢がわたしの手を握ったまま眠っていた。
呼ばれたわけじゃなく、寝言だったみたい。
なんだか微笑ましくて自然と笑ってしまう。
宿祢らしくて、ちょっとホッとする。
それにしてもあぐらをかいたままなんて、器用に寝るんだから。
宿祢を起こさないように気を付けながら体を起こす。
痛みはないし、ちょっとだるいけどなんともなさそう。
宿祢を起こそうかどうしようか迷っていると襖が開いた。
「目が覚めたのか…よかった」
手に桶を持った埜壬さんは、ホッとした顔をしている。
「はい、おはようございます」
「まったく…のんきな奴だな。ああ、おはよう」
「あの、埜剛は?」
「某も兄者も、命に別状はない。峨岳もな。全部お前のおかげだ。ありがとう、冬」
「いえ、よかった…。わたしちゃんと契約に成功したかどうか確認できないまま気絶しちゃったみたいだったから…」
「三日も眠ったままだった」
「そんなに!?」
「むぅ…」
驚いて声が大きくなったわたしに気づいたのか、宿祢が目を覚ました。
眠そうに眼をこすりながらボーっとわたしを見る。
「冬…殿?」
「おはよう、宿祢」
「ふ、冬殿ー!」
「きゃあっ」
寝ぼけている宿祢に笑いかけたら、一気に顔をくしゃくしゃにして飛びつかれてしまった。
支えきれずに倒れかけたわたしを埜壬さんが支えてくれる。
「冬殿ぉ、よがっだぁ…よがっだでござるぅぅぅ」
「し、心配かけたのは謝るから。いい子だから泣き止んで。ね?」
「うっく…ひっく…」
「ほら、鼻水をかめ」
よしよしと頭を撫でれば宿祢はすぐに離れてくれた。
目からは大粒の涙がボロボロ零れ、鼻水も垂れている。
それを見て埜壬さんはちり紙を渡す。
受け取った宿祢はちーんと鼻をかんだ。
「心配かけてごめん。これからは無茶しないように気を付けるから」
「ひっく…とにかく、無事でよかったでござるよ」
また泣き出し始めた宿祢をよしよしと撫でる。
心配をかけたのだから反省しなくちゃいけないのは分かってる。
でも、こんなに泣いてもらえて、ちょっと嬉しいなって思っているわたしがいるのも事実。
「腹は減っていないか?」
「んー…確かにちょっと空きました」
「ならば、粥か何かを作ってこよう。少し待っていろ」
「でも、その前に埜剛達に会いたいです」
「そうか。なら下に降りよう。宿祢、支えてやれ」
「うむ」
まだ泣いている宿祢に支えてもらいながら階段を下りる。
甘い、いい匂いが一階には漂っていた。
お腹すくなぁ。




