↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/69

1945年8月5日 樺太防衛戦 その1

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

◇◇◇

ソ連の狂気

◇◇◇


1945年8月5日、午前11時20分。北緯五十度線北側・ソ連軍ハンダサ警備要塞。


モスクワからの対日宣戦布告電が極東全土を駆け巡ってから、わずか十分後のことであった。


要塞司令部の地下作戦室には、濃密な煙草の紫煙と、怒号が充満していた。

机の上には、ハバロフスクの極東軍総司令部(司令官:アレクサンドル・ヴァシレフスキー元帥)から届いたばかりの、赤インクで【至急・出撃】と打電された命令電報が叩きつけられていた。


「狂気の沙汰だッ! 正気の沙汰とは思えん!!」


机を拳で叩き割らんばかりに怒鳴りつけたのは、第214戦車旅団所属の戦車大隊長・イワノフ少佐であった。油にまみれた革の戦車帽を握りしめ、顔を真っ赤にして司令官の机へ身を乗り出す。


「司令官殿、外を見ろ! 望遠鏡を覗いたなら分かるはずだ! 我々の目の前にそびえ立っているのは、日本軍の陣地などではない! 高さ三十メートル、街一つを丸ごと呑み込むような『氷の山脈』だぞ! 道路も、川も、平原も、すべて青白い氷の絶壁で完全に塞がれている! 我が部隊のT-34戦車を、一体どうやってあの氷壁の天辺まで這い登らせろというのだッ!?」


傍らに立つ第79狙撃師団の歩兵小隊長も、蒼白な顔で叫んだ。

「工兵隊が調査に向かいましたが、壁の厚みは目視だけでも数十メートルに達しています! 地雷処理車も、渡河用舟艇も、何の役にも立ちません! あの下へ突撃すれば、ツンドラの泥と氷の崖に挟まれ、日本軍の格好の的にされるだけです!」


二人の前線指揮官の決死の抗議に対し、要塞司令官のミーシン大佐は、自らのこめかみを震える指で押さえながら、かすれ切った声を絞り出した。


「黙れ……! 貴様らの言いたいことは痛いほど分かっている! 私とて、あの化け物のような氷壁を我が目で見た!」


ミーシン大佐は受話器を荒々しく持ち上げ、壁を背にして立つ内務人民委員部の政治将校の冷徹な視線を気にしながら、咆哮した。


「だが、これはハバロフスク、ひいてはモスクワの最高総司令部(スタフカ)からの直接の厳命なのだ! 『赤軍は条約破棄と同時に国境を越え、既成事実を作らねばならん』と! 上層部は、前線が氷で塞がれたなどという報告を『ファシスト日本軍の謀略か、敗北主義者の妄言』として一切信じようとせんのだぞ!」


大佐は机の上の命令書を激しく指差した。


「政治将校同志の目は誤魔化せん! 出撃を拒否すれば、貴様も私も、この場で『反逆罪』として壁際に立たされ銃殺だ! やるしかないのだ! イワノフ少佐、貴様の戦車大隊全車を直ちに出撃させろ! 主砲の徹甲弾と榴弾をあの氷の壁の根元に叩き込み、力ずくで粉砕して突破口を穿つんだ!!」


「……クソッ! 悪魔めが!!」


イワノフ少佐は吐き捨てるように軍帽を被り直し、扉を蹴破るようにして作戦室を飛び出していった。

理性も軍事常識も圧殺された独裁国家の歯車が、超常の氷壁へ向けて、無謀極まりない突進を命じられた瞬間であった。


◇◇◇

古屯の鉄獅子

◇◇◇


同時刻、午前11時20分。南樺太・古屯(ことん)主陣地。


国境の氷壁から立ち上る霧のような冷気が吹き下ろす古屯の指揮所で、橘誠一郎の胸ポケットに収められた新型タブレットが、鋭い電子音を響かせた。


誠一郎が素早く画面を開くと、現代の自室にいる浩平からの通信が表示された。


『誠一郎、相模造兵廠から回収した重兵器のリストを以下に送る。

この場(古屯)へ配備する数量の決定と運用は、小林連隊長と相談して貴方が決めろ。

ソ連軍はしばらくあの氷壁を突破できないが、一時間もすれば

少数歩兵による迂回や浸透作戦を仕掛けてくる危険がある。警戒を怠るな。


【相模造兵廠・回収重兵器リスト】

・三式中戦車(チヌ): 12両

・九七式中戦車(新砲塔チハ): 28両

・九八式六屯牽引車(ロケ): 16両

・九〇式七五粍野砲および九六式十五糎榴弾砲: 計20門

・各種戦車砲弾・榴弾(木箱入り): 約15,000発

――監視者 浩平』



画面に並ぶ数字を見つめ、誠一郎の切れ長の目が鋭く光った。

本土決戦用に温存されていた最新鋭の三式中戦車に、重厚な十五糎(センチ)榴弾砲。一国の野戦軍をまるごと支えるだけの破壊力である。


だが、誠一郎は興奮に呑まれることなく、極めて冷静に状況を分析し始めた。


(……いや、落ち着け。浩平殿の絶対的な監視と氷の城壁がある以上、これらの戦車や大砲は、万が一の破綻に備えるための『最後の保険』に過ぎない。何より……今の古屯守備隊に、これらの最新兵器を乗りこなせる兵がどれほど残っている?)


誠一郎は迷うことなく方針を定めた。


「敷香の軽中型火器と同じだ。ここ古屯だけに全てを注ぎ込んではならん。残る戦力は後方の敷香や、ちひろのいる恵須取、そして真岡の防衛に温存すべきだ。……まずは三分の一をここに展開する!」


現代の自室でモニター越しに誠一郎の表情と会話ログを見ていた浩平は、思わず笑みをこぼした。


「……へえ。浮足立たずに、現場の兵站と運用能力を冷静に計算したか。誠一郎のやつ、広島にいた頃と比べたら、見違えるほど成長したな」


◇◇◇


誠一郎は即座に小林与喜三連隊長と第2大隊の将校たちを招集した。


「小林閣下、大隊長殿! 至急、陣地内にいる兵員の中から、『戦車の操縦・整備経験者』および『野砲・重砲の射撃経験者』を一人残らずリストアップしてください!」


小林大佐は怪訝な顔をしながらも、今朝の敷香での奇蹟と目の前の氷壁を思い出し、即座に中隊長らへ確認を走らせた。

数分後、集まった報告は極めて厳しい現実を物語っていた。


「……報告します! 満洲の機甲部隊や戦車学校からの転属者で、戦車の操縦・整備ができる者は、下士官を含めてわずか八名! 野砲や高射砲の照準・装填を扱える砲兵経験者は、十名足らずであります!」


歩兵第125連隊は、元より歩兵銃と軽機関銃を主体とする部隊であり、重火器を扱える人員は関東軍に引き抜かれた後の「搾りかす」同然であった。


「八名に十名か……」


小林大佐が渋面を作った。


「橘少佐。九七式中戦車を一両動かすだけでも、車長、操縦手、砲手、機銃手の最低四名――機銃手を省いても三名の練度ある兵が必要だ。たった八名の経験者で、一体何ができるというのだ?」


誠一郎は揺るぎない眼差しで返した。


「ソ連軍の戦車が物理的に氷を越えられない今、我々の戦車が野原を機動戦闘する必要はありません。車体を『可動式の装甲トーチカ(移動砲台)』として運用するのです!

経験者一名に対し、呑み込みの早い新兵三名をセットにして車内に配置します。照準と操縦の要所だけを経験者が担い、弾薬の装填や補助を新兵にやらせれば、即席の訓練を兼ねながら立派に陣地防衛の火力を担えます!」


誠一郎の現実的かつ柔軟な用兵思想に、小林大佐は目を見張り、膝を打った。


「なるほど……! 走り回る必要がないなら、即席の砲台として十分に機能するな! よし、直ちにその人員を後方広場へ集結させろ!」


誠一郎は懐から新型引換手形を取り出し、鉛筆を走らせた。


九七式中戦車(新砲塔チハ): 8両(経験者8名に対応)

三式中戦車(チヌ): 3両(最重要拠点防衛用)

九八式六屯牽引車(ロケ): 5両

九〇式七五粍野砲および九六式十五糎榴弾砲: 計10門

各種戦車砲弾・榴弾: 約5,000発(木箱入り)


古屯主陣地の後方、鬱蒼としたエゾマツ林に囲まれた補給広場。

誠一郎が裏面の認証暗号コードを手形へ書き入れた瞬間――。


ズババババババッッ!!!!


敷香の倉庫を上回る、目も眩むような青白い雷光が大地を薙ぎ払った。

大気が激しく圧縮され、次の瞬間、がらんとしていた広場に、地響きとともに巨大な鋼鉄の巨獣たちが実体化した。


ズゥゥゥンッ! ガシャンッ!!


日光を浴びて鈍く輝く濃緑色と茶色の迷彩塗装。

長大な75ミリ野砲を誇らしげに空へ突き出す三式中戦車三両と、精悍な新砲塔チハ八両。その後ろには、威容を誇る十五糎榴弾砲の巨砲と牽引車、そして山のような砲弾木箱が、整然と並び立っていた。


「う……うおおおおおおおおっ……!?」


集められていた戦車兵経験者の古参軍曹が、腰を抜かして泥の上にへたり込んだ。


「ち、チヌだ……! 内地の決戦用にしか配備されていないはずの、最新鋭の三式中戦車だッ!!」


「チハ車も……すべて砲塔の大きい新砲塔型だ! 弾もある! 油も満タンだッ!」


兵士たちが狂喜乱舞し、ある者は泥だらけの手で装甲板に抱きつき、ある者は涙を流して長砲身を撫で回した。

絶望的な丸腰の国境守備隊に、いまやソ連軍の重戦車すら正面から撃破し得る「鋼鉄の牙」が与えられたのだ。


「全車、直ちに配置につけ! 経験者は新兵を叩き起こして持ち場を教え込め! 監視者殿の神恩に、命を賭して報いるのだッ!」


小林大佐の雷のような号令が、古屯の空に轟き渡った。


◇◇◇

砕け散る氷塊とソ連戦車兵の挫折

◇◇◇


午前11時30分。北緯五十度線北側。


ズゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


ツンドラの泥炭地を震わせ、黒煙を吹き上げながら進軍してきたのは、ソ連赤軍第214戦車旅団の主力――約三十両のT-34/85中戦車の車列であった。


傾斜装甲と太い85ミリ主砲を備えた、独ソ戦を勝ち抜いてきたソ連の誇る傑作戦車。

しかし、その車長用ハッチから身を乗り出すイワノフ少佐の顔には、勝利への確信など微塵もなかった。


視界のすべてを塞ぐ、高さ三十メートルの青白い絶壁。

真夏の陽光を浴びて不気味に冷気を放つその氷の山脈は、まるで地上に落ちてきた氷河そのものであった。


「……全車、停止! 横隊に展開せよ!」


無線機越しにイワノフ少佐の悲壮な声が飛ぶ。


「目標、前方の氷壁最下段! 距離三百! 一点集中砲撃で氷の根元を粉砕し、突破スロープを形成する! 各車……撃てッ!!」


ドガァァァァァァンッッ!!!!


三十門の85ミリ戦車砲が一斉に火を噴いた。

凄まじい衝撃波が湿原の草を薙ぎ倒し、猛烈な砲煙の向こう側で、徹甲榴弾の群れがコンテナ大の氷塊の基部へ吸い込まれた。


カァァァァァンッ! ボグァッ! バリバリバリバリッッ!!


耳を劈くような硬質な破砕音が天地に響き渡った。


浩平がマイナス十度で急速凍結させたコンテナ氷は、極めて高密度で硬質であったが、同時に強い衝撃に対してガラスのように割れる「脆性(ぜいせい)」という物理的性質を持っていた。

戦車砲の放つ猛烈な運動エネルギーと炸薬の爆轟を受け、直撃を受けた最下段の氷塊群は、一瞬にして数千万個の細かな氷の破片となって四方八方に爆散した。


白い氷煙がもうもうと立ち込め、視界を覆い隠す。


「やったか……!?」


砲手を務める若いソ連兵が、照準器から目を離して歓声を上げかけた。


だが――風が氷煙を吹き払った瞬間、戦車兵たちの息が凍りついた。


「な……何だと……!?」


イワノフ少佐は双眼鏡を握りしめたまま、愕然と息を呑んだ。


確かに、最下段の氷塊が砕け散り、表面の氷がガラガラと崩落していた。

しかし――削れたのは、奥行き五十メートルのうちの、一番外側の「わずか2.4メートル(コンテナ一個分)」に過ぎなかったのだ。


しかも、最下段が削られたことで、上段に積まれていた数百トンもの氷塊が無差別に崩れ落ち、砲撃地点の足元には、刃物のように尖った巨大な氷の瓦礫が不規則に折り重なる「凶悪な氷の岩場」が形成されていた。


「だ……大隊長! 二番砲、装填完了! 次弾を撃ちますか!?」


通信手がおびえた声を上げるが、イワノフ少佐は力なく首を振った。


「……ダメだ。撃てば撃つほど、状況が悪化する」


イワノフには、戦車兵としての直感で完全に理解できていた。

一度崩れて不規則な瓦礫の山となった場所には、いくら徹甲弾を撃ち込んでもエネルギーが乱反射して奥まで届かない。

そして何より――この急造された氷の斜面は、キャタピラが噛み合うような泥や岩ではないのだ。真夏の熱で表面がわずかに溶け出し、極上の潤滑油のようにツルツルと滑る氷の斜面。

無理に戦車を乗り入れれば、キャタピラが激しく空転して横滑りし、上の段からいつ落ちてくるか分からない40トン級の氷塊の直撃を受けて圧殺されるのがオチであった。


「奥行き五十メートルの氷山を、二メートル削っただけでこれだ……。あと何千発、何万発撃ち込めば向こう側が見えるというのだ……?」


イワノフ少佐は乾いた喉を鳴らし、自嘲の笑みを漏らした。


「……こりゃあ、ダメだ。戦車の出る幕じゃない。神の悪戯に喧嘩を売るようなものだ」


◇◇◇


同時刻。南側・古屯主陣地。


「……ッ!?」


突如として北の空から地響きとともに轟いてきた猛烈な砲撃音に、陣地内の日本軍将兵が一斉に土嚢の陰へと身を伏せた。

新兵たちが銃を抱えて震え上がる。


「て、敵の砲撃だッ! ついに始まったぞ!」


望楼にいた小林連隊長と誠一郎は、即座に双眼鏡を目に当てた。

砲煙が漂う北の空――しかし、飛来してくる砲弾は一発たりともなかった。すべての砲弾は、国境線の氷壁の北側に吸い込まれ、そこで爆発していたのだ。


やがて観測兵が、信じられないものを見たという声で叫んだ。


「ほ、報告! ソ連軍の戦車隊が、氷壁の基部に向けて一斉砲撃を行いました!」

「被害は!? 壁は抜かれたのか!?」小林大佐が身を乗り出す。


観測兵と言えども、氷の壁の上まで登るか、遠く山西側の頂上に登らない限り、直接に北側の氷の壁の様子を目視する事はできない

現段階では、向こうから伝わった音で現場に何かが起きたかを分析するに過ぎない


「いいえ! 壁の表面がわずかに崩れたのみ! 氷の壁はビクともしておりません! 敵戦車隊、前進を停止……完全に立ち往生しております!!」


その報告が指揮所に響き渡った瞬間、張り詰めていた空気が一気に解き放たれ、将兵たちから大きなどよめきと歓声が沸き起こった。


「す……げえ……! 敵の戦車砲を、真っ向から受け止めてビクともせんのか!」


「本当に……本当にあの氷の城が、敵を押し留めてくれたんだ!」


誠一郎は静かに目を閉じ、胸ポケットのタブレットの上に手を当てた。


(浩平殿……。貴方の計算通りです。彼らは一歩たりとも、この大地を踏み越えることはできません)


◇◇◇

白銀の空挺隊と愚行の侵攻

◇◇◇


午前12時00分。ソ連軍ハンダサ警備要塞・作戦室。


砲撃開始から三十分。

戦車砲の無力さを悟ったイワノフ少佐からの「前進不能」の悲痛な報告を受け、ミーシン大佐は受話器を握りしめ、ハバロフスクの極東軍総司令部参謀長と猛烈な怒鳴り合いを演じていた。


『何だと!? たかが氷の塊一つ、戦車旅団の火力で粉砕できんというのか!』


電話の向こうから、冷酷な参謀長の声が響く。


「参謀長同志! あれは塊などという生易しい規模ではない! 厚さ五十メートルの氷山なのだ! 砲撃すればするほど氷が崩落し、戦車が登攀不能な氷河のトラップと化している! これ以上の砲撃は弾薬の浪費であり、物理的に前進は不可能です!」


『言い訳は聞かん! ポツダム宣言を受諾した日本軍が完全に武装解除の手続きに入る前に、我らは樺太全土を制圧し、オホーツクの覇権を握らねばならんのだ!』


参謀長は容赦のない、狂気じみた命令を叩きつけてきた。


『戦車が通れぬなら、歩兵を使え! 第79狙撃師団の全歩兵を分散させ、氷壁を力ずくでよじ登らせて日本側へ浸透させろ! 境界線のトーチカ群を裏側から制圧するのだ!』


「な……三十メートルの氷壁をよじ登れだと!?」


ミーシン大佐は絶叫した。


「そんな真似をすれば、登り降りの最中に無防備な兵士たちが、向こう側の日本軍陣地から狙い撃ちされて皆殺しになります! 犬死にだ!!」


『命令だ、大佐! 赤軍の辞書に「不可能」の文字はない! 直ちに全軍へ冬用装備を配備させ、登攀を開始させろ!』


参謀長は一方的に電話を叩き切る直前、冷たく付け加えた。


『安心しろ。地上の歩兵だけに戦わせはせん。すでに沿海州の第9空軍基地より、Il-2対地攻撃機およびPe-2爆撃機の大編隊が発進した。さらに、極東軍直属の精鋭空挺部隊を満載した輸送機部隊も樺太上空へ向かっている。空からの猛爆と空挺降下により、日本軍の防衛線を根底から粉砕してくれるわ!』


ガチャンッ!!


切れた受話器を手に、ミーシン大佐は全身から血の気が引いていくのを感じた。


「……歩兵を登らせろ、だと……? そして、空からの爆撃か……」


大佐はよろめきながら、作戦室の窓の外を見つめた。

倉庫からは、冬期戦用の白い迷彩外套と、アイゼン(氷雪用爪)、登山用ロープを抱えた哀れなソ連の若き歩兵たちが、青ざめた顔で氷壁の麓へと集結させられようとしていた。


そして――遠く北の空から、雲を切り裂くような無数の重低音の唸りが響き始めていた。

赤い星の翼を羽ばたかせ、北緯五十度線へと飛び立つ、ソ連軍の爆撃機大編隊のエンジン音であった。


歴史の正午――運命の1945年8月5日、午後12時00分。

地上を塞がれた赤軍が放った「空の猛獣たち」に対し、現代の監視者・浩平が張り巡らせた「迎撃スクリプト」の絶対防空圏が、いま静かに起動の時を迎えようとしていた。

最近は結構やらかしてしまいます(苦笑)

こちらの内容は、月曜日の時点で既に執筆が完了しており

しかし読者たちの期待を応じるためにもうちょっと後の展開を時間かけて書くと文字数はあっという間にオーバーになり、仕方なく2話に分割されてしまいます

結局区切りの関係で待たせてしまい、本当に申し訳ない

次の話は殆ど完成していて、木曜の夕方に投稿する予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ソ連サイドの情報わかるなら、日本軍装備残骸をたくさん渡して、これだけ撃破したがまだ沢山いる、援軍要請とかで時間稼ぎ?向こうの司令官も死にたくないし、プロレスな。
今回もありがとう。面白いです。 これソ連軍が氷山氷河をなんとかしても、 いくらでもおかわりどうぞが出来るって事ですよね。 これは愉快痛快。 それにしても同じ言葉を喋ってるのに全く会話が成立しない共…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。