1945年8月3日 避難開始
この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません
【現在のクレジット残額:1,305,410,580ゼニ】
【ゲーム内で関わった人数:約140,000人】
◇◇◇
マップの解放と誠一郎への宿題
◇◇◇
1945年8月3日、午前0時00分。
日付が8月3日へと変わったその瞬間、現代の自室にいる浩平のパソコン画面に、滝のような勢いで膨大なゲーム通知が流れ落ちてきた。
【おめでとうございます。ゲーム内で関わった人数が14万人を超えました。これに伴い、プレイヤーレベルが『42』へと上昇しました】
画面のログには、これまで未受け取りだった生存関与ボーナスが次々と加算されていく数値が出力されていく。
LV41ボーナス(130,000人達成): 130,000,000ゼニ
LV42ボーナス(140,000人達成): 140,000,000ゼニ
デイリーログインボーナス: 140,000,000ゼニ
【ボーナス獲得総計:410,000,000ゼニ】
さらに、連続して新エリアの解放通知がポップアップした。
『福岡マップ』『長崎マップ』の解放:
黒田中将の移動に伴い、1945年の福岡、長崎とその周辺地域が探索可能エリアとして解放されました。
『千歳マップ』『札幌マップ』の解放:
橘誠一郎と橘ちひろの移動に伴い、1945年の千歳、札幌とその周辺地域が探索可能エリアとして解放されました。
画面を見つめていた浩平は、静かに首を頷かせた。
「やはり、私の存在を知っている重要人物が移動することで、スポット的にマップが解放される仕組みだな……。だがこれだと、点と点の解放で効率が悪い。鈴木首相に手渡した300億ゼニ相当の大口配給手形が全国各地の倉庫で本格運用されれば、配給網に沿って一気にマップが広がっていくはずだ」
前日、浩平は鈴木首相に300億ゼニ相当の大口手形を渡していた。信頼できる文官や地方の役人が現地の倉庫で手形を使えば、即座に食糧が出現する。浩平はその背後で稼働するデータベースやUUIDの手形発行・管理システムを、ゲームのコンソール上でPythonを使って組み立てていた。
また、浩平の手持ちクレジットは現在13億ゼニを超えていたが、もし手持ち資金が一定水準(5億ゼニ)を下回ると、御文庫附属室に積み上げられた2.4トンの金塊から必要な分だけを自動買い取りするプログラムも組んでおいた。一気に全額を買い取ってしまうと、使わなかった場合に金塊へ戻す手段がないため、必要な分だけをゲーム内買取システムに流す方式をとったのだ。日本側も金塊の減り具合で支援資金の運用状況を可視化できるため、双方にとって都合の良い資金管理であった。
午前6時00分。千歳・軍指定宿泊所(旅館)。
これから乗り込む午前8時発の輸送機に備え、橘誠一郎少佐とちひろの二人は早朝から起きて身支度を整えていた。
室内の机の上には、一重に折りたたまれた手紙が置かれていた。表題には大きく『監視者殿へ』と書かれている。
カメラ越しにその光景を見た浩平は、思わず苦笑いを浮かべた。
「あちゃー……しまったな。橘兄妹には直接連絡を取るための暗号コードを教えてなかったよ。初期の黒田さんとのやり取りを思い出すな」
浩平が画面上の手紙をクリックすると、スキャンされた文字がウィンドウに浮かび上がった。
『監視者殿。昨夕、当飛行場の加藤大尉より、北海道都市部における激しい食糧難の苦境を聞き及びました。物流途絶により、兵も民も明日の米すらなき惨状にございます。大本営へ戻り次第進言するよう乞われましたが、監視者殿の御手元にある配給手形をもって、この地の民を今すぐ救うことは叶いませんでしょうか。ご指示を仰ぎたく存じます。 橘誠一郎』
手紙を読み終えた浩平は、腕を組んで少し考え込んだ。
(事あるごとに上司へ許可を取る姿勢自体は、軍人として間違っていない。だけど、自律的に動けない分だけスピード感に欠けるな……。まあ、誠一郎はまだ26歳。つい最近まで中尉だったんだから、独断専行する度胸がなくて当然か。よし、彼の将来の『将官教育』も兼ねて、ここで一つ宿題を与えてやろう)
浩平はキーボードを叩き、一枚のA4用紙を旅館の机の上へと転送した。
ポン。
『誠一郎、ちひろへ
飢えている民を救いたいという気持ちは、私だけでなく陛下も全く同じように強く抱いておられます。
報告・連絡を徹底し、上官の許可を必ず取るというあなたの姿勢は手続きとして正しく、何一つ間違っていません。
しかし、明日の糧がなくて飢え死にしかけている人々からすれば、『救える力があるのになぜ躊躇するのか』と理不尽に映る現実を自覚してください。
今後、あらかじめ渡してある物資引換手形を『どこで・誰に使うか』については、『人を救うため』であれば、すべてあなた自身の判断で実行してください。黒田中将も、自らの判断で福岡の現場に物資を支給しました。
そのための『宿題』を一つ与えます。
現在の札幌市の人口は約二十二万人、周辺の千歳などを含めるとおよそ二十五万人です。
あなたはこれから飛行機に乗るまでの限られた時間の中で、自ら千歳飛行場の上官たちと交渉し、札幌広域の軍民の一週間分の食糧を適切な場所へ物資引換手形で支給しなさい。
以降、私への直接の連絡や要望は、手帳を用いた文字のやり取りで行います。連絡したい当日の日付と少し先の時刻を、自身の持つ手帳の最後のページに手書きで記入し、続けて以下の【識別記号】と内容を書き込んでください。悩みや叶えられないことがあれば、遠慮なく相談してください。
誠一郎専用記号:ICRO>FTKH
ちひろ専用記号:CHRO>FTKH
記入例:1945年8月3日 午前6時20分 CHRO>FTKH 手帳とペンがほしい
――監視者 浩平』
実のところ、つい最近少佐に昇進したばかりの誠一郎には、手帳や万年筆を常時携帯するような習慣もなかった。もっと言えば、彼は万年筆も所持していない。浩平はゲーム内ショップから、誠一郎用のシックなレザー手帳(1,000ゼニ)と、金属製の上質なボールペン(2,000ゼニ)を購入し、手紙の隣へと転送した。
手紙と真新しい手帳、ボールペンを目にした誠一郎は、ハッと息を呑んだ。
「自分の判断で……民を救えと……! 私にそれほどの重責が……」
浩平からの強い信頼と「宿題」の重みに、誠一郎は背筋を正し、拳を強く握りしめた。
手紙を脇から覗き込んでいたちひろは、兄の手帳を見て「私もお兄ちゃんと同じ手帳とペンがほしいわ!」と目を輝かせた。ちひろは早速、転送されてきたばかりのボールペンを手に取ると、誠一郎の手帳の末尾に、浩平の教え通りに書き込んだ。
『1945年8月3日 午前6時20分 CHRO>FTKH 兄と同じ手帳とペンがほしい』
午前6時20分ジャスト。
浩平のパソコンから「ピピッ」と電子音が鳴り響いた。画面上のデータベースに、ちひろからのメッセージが即座に同期されたのだ。
「あはは、早速試してきたか」
浩平は苦笑いしつつも、「手帳とボールペンは同じデザインでも、女性らしくワインレッドのやつにしてあげよう」
浩平はショップから、ワインレッドの合皮手帳(1,000ゼニ)と、レッドカラーの金属製ボールペン(2,000ゼニ)を購入し、部屋へと転送した。
◇◇◇
不器用な約束
◇◇◇
午前6時30分。
「お食事をお持ちいたしました……」
旅館の女将が、静かに朝食の膳を運んできた。昨晩と同じく水のように薄い芋粥で、朝食だからかカボチャの煮物すら添えられていない悲惨なものだった。
ちひろは不意に悪戯っぽい笑みを浮かべると、女将の目の前でわざとらしく兄に向かって声を張った。
「ねえ、旦那様! 監視者様がおっしゃっていた通り、女将さんたちを助けて差し上げてはいかがかしら?」
「ぬ……っ!?」
妹に不意打ちを喰らった誠一郎は動揺し、顔を赤くしながら咳払いをした。逃げ場を失った誠一郎は、深々と頭を下げる女将に向き直った。
「あ……女将さん。一日お世話になった。この後すぐ、係の者が米一袋をここへ運んでくる手はずになっている。受け取ってくれ」
「え……お、お米……ですか……!?」
女将は信じられないといった様子で目を見開き、ぼろぼろと涙をこぼして畳に何度も頭を擦り付けた。「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
感謝の言葉を残して女将が退室すると、誠一郎はちひろを睨みつけたが、妹は悪びれもせず「ふふん」と鼻を鳴らした。誠一郎は深く溜息をつくと、浩平から与えられていた「選択式・弁当引換手形」を二枚取り出した。
鉛筆でチェックを入れ、暗号文を書き写す。
二人の目の前に、湯気を立てる香ばしい「カツ丼」と豪華な「幕の内弁当」が出現した。二人は出来立ての温かい朝食用弁当を美味しそうに平らげた。
そして出発前、誠一郎は女将への約束通り、部屋の隅へ「精米20kg 1袋」の手形コードを記入し、ズシリと重い純白の米袋を出現させて置いたのだった。
午前7時10分。
朝食を終えて宿を出た二人を、加藤大尉が例の石炭車で出迎えた。
黒煙を吐き出す車内で、誠一郎は後部座席から意を決したように加藤大尉の背中に語りかけた。
「加藤大尉。……昨晩言っていた食糧の件だが、なんとかなるかもしれん」
「えっ……!? 閣下、本当でございますか!?」
「うむ。千歳飛行場へ到着次第、直ちに基地の司令官殿へ面会をセッティングしていただきたい」
「ハッ! 直ちに手配いたします!」
加藤大尉は歓喜に声を震わせ、石炭車のアクセルを全力で踏み込んだ。
◇◇◇
千歳基地の奇跡
◇◇◇
午前7時30分。千歳飛行場。
加藤大尉の迅速な手配により、誠一郎は千歳飛行場に隣接する「千歳海軍航空基地司令部」の司令官室へと通された。
面会したのは、千歳基地の最高責任者である岡村武雄 海軍少将であった。
本来、誠一郎たちが搭乗する予定の輸送機は『午前8時00分 千歳発 ──> 午前9時30分 樺太・大泊着』というスケジュールであったが、今回は彼ら二人だけを運ぶ専用のチャーター便であったため、出発時間を遅らせることは容易であった。
ちひろを応接室に待機させ、一人で司令官室へと足を踏み入れた誠一郎は、自分より遥かに階級が上の岡村少将に対し、姿勢を正して正対した。
「……橘少佐。第二総軍からの極秘特使であることは承知しているが、何ゆえ出発直前のこの時刻に、私との面会を望まれたのだ?」
岡村少将の鋭い眼光に対し、誠一郎は背中に汗をかきながらも、阿南陸相から授かった直筆の辞令を提示し、必死で言葉を紡いだ。
「岡村閣下! 陛下のご聖慮により、本州および北海道の軍民を救うための極秘配給物資が、大本営の特殊ルートによって手配されております! 直ちに、千歳飛行場内にある大型の空き格納庫へご案内いただきたい!」
「何……? 極秘配給物資だと……? 馬鹿な、本州からの船はすべて止まっているのだぞ!」
岡村少将は怪訝な表情を隠さなかったが、陛下の墨付きと陸相直々の辞令を前に、無下に突っぱねることもできなかった。半信半疑のまま、岡村少将は誠一郎を基地内で最も広い「第一大型格納庫」へと案内した。
がらんとしたの広大な格納庫の中央に立った誠一郎は、緊張で指を震わせながら、ポケットから3セットの「大口物資引換手形」を取り出した。
精米500トン(業務用20kg×25,000袋)
小麦粉500トン(業務用25kg×20,000袋)
上白糖300トン(業務用20kg×15,000袋)
【購入総額:235,000,000ゼニ】
人口25万人の札幌市および千歳周辺の全住民が、丸一週間(一人一日2000キロカロリー)生き延びるための糧食規模である。
「少佐……一体何をするつもりだ?」
不審そうに見つめる岡村少将の目の前で、誠一郎は暗号文の英数字を手形の枠内へ手書きで書き写した。
最後の文字が記入された、次の瞬間――。
ズド・ズド・ズド・ズドドドド―――――ッ!!
「うわああああっ!?」
格納庫の天井を揺るがすほどの重厚な落振音とともに、空無だった広大な床一面へ、純白の米袋、小麦粉の袋、そして砂糖の袋が、まるで空間の亀裂から溢れ出すかのように怒涛の勢いで積み上がった。
わずか数秒にして、超大型格納庫が天井近くまで隙間なく食料の山で埋め尽くされたのだ。
「ひ……米が……米がこんなに……!? なんだこれは……! 私は夢でも見ているのか……!?」
岡村少将は腰を抜かしかけ、壁にしがみついて絶句した。
誠一郎は滝のような汗をぬぐいながら、昨晩習った浩平からの教えを思い出し、必死でつまずきながら説明を試みた。
「こ……これは……陛下の深きご聖慮と……天の『監視者』殿の神通力によって……もたらされた糧食にございます! 岡村閣下! これをもって、札幌ならびに千歳の民と兵の一週間分の配給に充ててください……!」
「あ……あつ……あいがたい……! 感謝いたす、橘少佐……! いや、監視者殿……!」
目の前にある圧倒的な物質の真実を前に、岡村少将は感極まって涙を流し、誠一郎の手を両手で強く握りしめたのだった。
こうして浩平からの「宿題」をやや不器用ながらもやり遂げた誠一郎は、胸を張り、安堵の表情を浮かべた。
予定より一時間遅れた午前9時00分。
誠一郎とちひろの二人は、給油を終えた双発輸送機へと乗り込み、目的地の北の最果て――『樺太・大泊』へ向けて、真夏の北の大空へと飛び立っていった。
【現在のクレジット残額:1,070,399,580ゼニ】
【ゲーム内で関わった人数:約140,000人】
◇◇◇
広島の逆算の三日間
◇◇◇
1945年8月3日、午前10時00分。
現代の自室で作業を進めていた浩平のパソコンから、再び連絡用の「ピピッ」という電子音が鳴り響いた。画面上のデータベースに、第二総軍司令部・藤堂中将からの通信メッセージが表示された。
『1945年8月3日 午前10時00分 FUJI>FTKH
広島は本日より全市避難を開始する。大口の配給物資手形は受領したが、避難先となる武田山周辺において、炊き出し用の器具ならびに雨風を凌ぐ建物が圧倒的に不足している。
さらに追加として、以下の物資支援を要請する。
・二十万人分の毎日のORS(経口補水液)
・二十万人分の調理用および日常用飲用水タンク
・避難・輸送用トラックを動かすための軽油燃料ならびにガソリン ――藤堂』
画面の文字を見つめ、浩平は静かに息を吐いた。
「そうか……原爆投下予定日は8月6日の早朝。全市20万人以上の人間を徒歩とトラックで山間部へ避難させるなら、今日8月3日からの開始でギリギリ逆算が間に合う計算だ」
浩平はキーボードに手を置き、自らの配慮不足を省みた。
どれほど何百トンもの白米があっても、それを炊き上げる大鍋やコンロがなければ民は食べられない。ましてや、猛暑の八月における20万人の徒歩移動だ。水分の補給と熱中症対策としてのORS(経口補水液)は命綱になる。
(雨風を凌ぐ施設か……。四人用の簡易テントは一式4000ゼニだが、耐久性に難がある。かといって頑丈な20ft金属コンテナハウスは中古でも一基30万ゼニ。定員10人程度だから一人当たり3万ゼニと高額すぎる。……だが、コンテナは物資の安全な保管庫になり、万が一の爆風や熱線を凌ぐ気密シェルターとしても機能する。組み合わせるのがベストだな)
さらに難題だったのは車両用の燃料だ。
ディーゼル車用の軽油としてB100バイオディーゼル燃料は確保できるが、ガソリンはネット通販での販売不可という制約がある。AIに代替手段を照会したところ、「洗浄油」としてのホワイトガソリンが18L缶単位で購入可能と判明した。ただし価格は一缶9000ゼニ。1リットル換算で約500ゼニという高値だった。
浩平は計算を終えると、速やかに返答と物資手配の文面をA4用紙に打ち込み、藤堂中将の元へ転送した。
ポン。
『藤堂中将へ
事情は承知いたしました。
炊き出し器具としてカセットガスコンロおよび軽量の調理鍋・食器類を大量手配します。
雨風を凌ぐ設備については、資材貯蔵用兼避難用の金属コンテナ100基と、大型組み立てテント50,000セットで対応してください。
・カセットガスコンロ + カセットボンベ(避難日数分) × 10,000セット
・金属製調理用大鍋およびステンレス食器一式
・組み立てテント(4人用) × 50,000セット
・ORS経口補水液用500Lタンク + 個人用500ml水筒(20万人分)
・塩、調味料、必要生活用品一式
・軽油(B100バイオディーゼル)10,000L / ガソリン(ホワイトガソリン)10,000L
テントと調理器具一式は、コンテナの中に収納した状態で現地へ直接転送します。コンテナの設置場所と燃料の降ろし場所の指示を乞う。 ――監視者 浩平』
実は昨日、浩平は黒田中将や橘誠一郎と同様に、藤堂中将へも莫大な「物資引換手形」を渡していた。しかし広島市では、これまで大規模な全市配給を行っていなかった。
理由は単純だった。
もし市中心部の倉庫に数百トンの米や砂糖を出現させれば、万が一8月6日に原爆が落とされた際、せっかくの食糧が市街地もろとも焼失してしまうからだ。
さらに、市民に前もって食料を満足に与えすぎてしまえば、いざ「全市民疎開」の大号令を出した際、疎開先で配られる食料という「吊り下げニンジン」としての誘導効果が薄れてしまう。
だからこそ藤堂中将は、浩平の物資を既存配給の補給程度に抑え、呉での成功例にならって栄養失調患者や衰弱者のいる家庭への「特別配給」として密かに運用し、この8月3日の全市避難開始の日をじっと待っていたのだ。
◇◇◇
総軍司令部の広場と「命の水筒」
◇◇◇
藤堂中将は浩平からの手紙を受け取るや否や、即座に返信の手帳に配置場所を記入した。
燃料類は受け入れと給油の便宜上「第二総軍司令部(旧陸軍幼年学校)の広い中庭広場」を指定。そして100基のコンテナ群については、避難拠点となる「武田山の北側麓に広がる平坦地帯」を地図で指し示した。
同時に藤堂は総軍代理司令としての権限を発動し、武田山北麓の物資が混乱で強奪・持ち去られるのを防ぐため、即座に警戒部隊として数小隊を現地へ派遣した。
配置の連絡を受けた浩平は、すぐさまゲーム内ショップの大口業務用窓口から、怒涛の避難用物資を購入し始めた。
【購入物資内訳】
20ft中古コンテナ(200,000ゼニ)× 100基 = 20,000,000ゼニ
4人用組み立てテント(4,000ゼニ)× 50,000セット = 200,000,000ゼニ
カセットガスコンロ(1,500ゼニ)× 10,000セット = 15,000,000ゼニ
調理用大鍋(5L蓋付き・500ゼニ)× 10,000個 = 5,000,000ゼニ
ステンレス製皿(100ゼニ)× 200,000枚 = 20,000,000ゼニ
プラスチック製500ml水筒(100ゼニ)× 200,000本 = 20,000,000ゼニ
500L ORS経口補水液(1℃保冷設定・4,500ゼニ相当)× 400セット = 1,800,000ゼニ
B100バイオディーゼル燃料(20L/10,000ゼニ)× 500缶(10,000L)= 5,000,000ゼニ
ホワイトガソリン(18L/9,000ゼニ)× 550缶(10,000L)= 4,950,000ゼニ
【今回購入総額:291,750,000ゼニ】
浩平はコンソール上で総軍司令部広場宛ての物資を選択し、「転送」ボタンをクリックした。
ドス、ズズズズズ―――――ッ!!
第二総軍司令部の広大な中庭に、地鳴りのような音が響き渡った。
広場一面を埋め尽くしたののは、20万本分の水筒が詰まった段ボール箱の山、そしてひんやりと冷えた一℃のORSがなみなみと注がれた400基の鮮やかなオレンジ色500Lタンクであった。さらに少し離れた区画には、B100バイオディーゼルとホワイトガソリンがぎっしりと詰まった緑色の中型燃料缶が、整然と積み上げられた。
「よし……! 兵士たちよ、ただちに動け!」
広場に臨席していた藤堂中将が喝を入れる。
待機していた整備兵たちが群がり、燃料缶からドラムポンプで軍用トラックの燃料タンクへバイオディーゼル軽油を注ぎ込む。久々の満タンとなったエンジンが、力強い重低音を響かせて一発で始動した。
荷台へ段ボール箱とORSタンクを積み込んだ数十台の軍用トラックが、排気煙を上げて一斉に市街地へと繰出していった。
市内の主要な交差点、学校、寺社、役所の前にトラックが停車し、兵士たちが大声を張り上げた。
「市民の皆さん! 猛暑による熱中症を防ぐため、陸軍より冷たい水筒と甘い清涼飲料を全員に配布する! 一人一本づつ受け取られたし!」
炎天下の街頭で、市民たちが半信半疑のまま隊列を作り、透明なプラスチック水筒を受け取った。中には一℃に冷やされたORS(経口補水液)が満たされている。
「う……うまい……! 少し塩気があるが、甘くて冷たい……!」
「こんな冷たくて甘い飲み物、戦争が始まってから一度も口にしたことがないぞ……!」
熱気に包まれていた街中で、一口飲んだ市民たちから歓声と感動の吐息が漏れ聞こえた。そこへ、兵士たちが絶妙な「吊り下げニンジン」の呼びかけを重ねていく。
「この冷たくて甘い飲み物が足りなくなれば、本日夕方にも各役所や寺社で追加配布を行う! さらに明日以降、武田山方面へ家財をまとめ避難・疎開を行えば、道中の沿線でいくらでも給水を行うぞ! 武田山の避難キャンプには、全員分の銀シャリ(白米)のおにぎりも大量に用意してある! 命を守るため、明日から北の山へ避難せよ!」
「お米のおにぎりだと……!?」
「山へ行けば、白米が腹いっぱい食べられるのか!?」
市街地に充満していた「なぜ今さら全市民避難なのだ」という不満と動揺は、冷たいORSの味わいと、武田山で待つ「銀シャリ」の約束によって、一瞬にして自発的な避難への情熱へと塗り替えられていった。
◇◇◇
武田山北麓の鋼鉄の城壁
◇◇◇
その頃、藤堂中将の命を受けて武田山の北側麓に到着していた第二総軍の警戒小隊は、山裾の平坦地に陣を敷いていた。
「小隊長、本当にこんな山奥に物資などが届くのでしょうか……」
若い兵士が半信半疑で呟いた、まさにその瞬間だった。
ズズズズズズズ―――――――ッ!!
大気が激しく振動し、何もない平坦な草地の上に、巨大な鋼鉄の塊が空から降り注ぐかのように出現した。
長さ約6メートル、高さ2.5メートルの巨大な20ft金属コンテナが、100基。
まるで古代の城壁か要塞のように、東西数百メートルにわたって美しく一直線に並び立っていたのだ。
「う、うわああああああっ! 敵の秘密兵器か!?」
「ひ、引き揚げろ! 空から鉄の箱が降ってきたぞ!」
初見の兵士たちが腰を抜かし、銃を構えてパニックに陥りかけたその時、小隊長が前に躍り出て大声で一喝した。
「慌てるな! 武器を収めよ!」
この小隊長は、かつて呉市での大規模な配給支援作戦に参加し、浩平の物質転送を間近で目撃した経験を持つベテランであった。小隊長は神妙な面持ちでコンテナの頑丈な鉄扉へ歩み寄ると、恭しく頭を下げ、重厚なレバーを引き上げた。
ガチャン……ギィィィィン……。
扉が開くと、コンテナの内部にはぎっしりと新品の四人用組み立てテントの箱、カセットガスコンロ、大鍋、そして輝くステンレスの皿が、天井まで隙間なく格納されていた。
「案ずるな……! これは敵の兵器などではない。我らを、そしてこれから避難してくる20万の広島市民を救うために、天の『監視者』様が授けてくださった『鋼鉄の糧食庫』だ!」
「監視者様の……!」
兵士たちは息を呑み、整然と並び立つ100基のコンテナ城壁を見上げた。
こうして、原爆投下予定日8月6日から逆算された運命の「8月3日」。
20万人の広島市民を灼熱の地獄から一瞬で連れ出すための、人類史上例を見ない大避難作戦が、第一歩を踏み出したのだった。
【現在のクレジット残額:778,649,580ゼニ】
【ゲーム内で関わった人数:約140,000人】
お待たせしました
今回の話は少し地味かもしれないが、避けては通れない描写なのでご一読していただければ幸いです
橘誠一郎の現在の直属の上司は、藤堂中将ではなく制度上阿南陸相に当たるが、阿南陸相も言われたまま辞令を出したので、実質の命令者は浩平に当たります




