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1945年8月2日 即席の終戦御前会議 その2

このエピソードは、物語中の昭和天皇に対して、かなり踏み込んだ描写をしています

どうかたフィクションSF物語として、楽しんでいただけたら幸いです

【現在のクレジット残額:1,131,018,280ゼニ】

【ゲーム内で関わった人数:約133,000人】


◇◇◇

幕開けと未来の目録

◇◇◇


1945年8月2日、午後2時。


宮内省の案内を受け、米内光政海軍大臣、豊田副武軍令部総長、そして梅津美治郎参謀総長の三閣下が、重々しい足取りで御文庫附属室へと到着した。

すでに室内で待機していた昭和天皇、鈴木貫太郎首相、東郷茂徳外相、阿南惟幾陸相、畑俊六元帥、そして木戸幸一内大臣。史実において1945年8月9日の深夜に開かれるはずだった「終戦決定の御前会議」の全メンバーが、一週間も早いこの8月2日の午後に、完全な形で揃い踏みを果たしたのだった。


最高軍略会議の刺すような緊張感を察し、同じ部屋にいた四大財閥の総帥たちは息を殺してもじもじと身を縮めていた。


「総帥方。ここから先は国家最高の軍略・外交会議となります。どうぞ隣の待機室へお移りください」


木戸内大臣の促しに応じ、総帥たちは起立した。車椅子の岩崎大弥太を擁する面々は、一礼して退出の途につこうとした。


「木戸大臣。我々三菱は一度失礼させていただき、全力をもって直ちに金地金を掻き集めて参る所存でございます」


手ぶらで参内したことに不甲斐なさを感じていた岩崎がそう告げた、その瞬間であった。


ペラリ。


何もない空中から一枚のA4用紙が滑り落ち、岩崎の膝の上へと収まった。そこには現代の端正なフォントで、こう記されていた。


『総帥方へ

私から、未来の知識となる書籍や新素材サンプルなどのプレゼントがございます。ぜひ隣室でそれらを受け取り、内容をご確認いただいてからお帰りになられますように。 ――監視者 浩平』


紙面を見つめた総帥たちは目を見張った。今まさに、自分たちの手へ「未来の技術と知識」が直接授けられようとしているのだ。彼らは顔を見合わせると、異論なく隣の待機室へと足を進めた。


隣室へ移動した彼らに対し、現代のモニターの前に立つ浩平は、大人の経済論理である「Give & Take」の仕掛けを本格的に始動させた。これは単なる一方的な資産の供出ではない。「未来の世界市場を独占するための、これ以上ない確実な超巨額の先行投資」であることを彼らの頭脳に刻み込むための戦略だった。


◇◇◇

未来を穿つ「ギブ・アンド・テイク」

◇◇◇


最初の対象は三井財閥であった。

商業貿易と石炭化学、金融に強みを持つ三井は、当時は石油資源の枯渇により、石炭から航空燃料を合成する「人造石油」の極めて悪い効率に頭を悩ませていた。


浩平はゲーム内ショップから、三井向けの現物サンプルと技術書を購入し、300ミリ四方のダンボール箱(100ゼニ)へと整然と詰め込んだ。


高強度ナイロン・ポリエステル合成繊維の布地サンプル(約3,000ゼニ)

炭素繊維カーボンファイバープレート(約5,000ゼニ)

ポリカーボネート製透明容器5個(約500ゼニ)

技術書『現代石油化学工業と高分子材料工学』(約5,000ゼニ)

技術書『効率的触媒反応による有機合成プロセス』(約5,000ゼニ)

【三井向けセット総額:18,600ゼニ】


箱と共に転送された手紙には、浩平からの明確な指針が添えられていた。


『三井の産業や得意分野を鑑み、未来に躍進できる技術サンプルと専門書を用意しました。絹を凌ぐ強度を持つ合成繊維、金属並みに頑丈で軽い炭素繊維、ガラスのように透明で絶対に割れない樹脂のサンプルです。持ち帰って御社の技術者に見せ、開発を推進されるのが妥当と存じます。 ――監視者 浩平』


「こ、これが……石油を原料とした布だと!? 絹や綿を遥かに凌ぐ強度を持ち、腐食もせぬ……! ガラスのように透明でありながら割れぬプラスチックだと!?」


三井八郎左衛門は手に取ったポリカーボネート容器の頑丈さと、滑らかなナイロン布地に身体を震わせた。石油化学がもたらす未来の巨大産業の全貌を前に、三井の総帥は言葉を失って歓喜に打ち震えていた。


◇◇◇


次に呼ばれたのは、鉱業と非鉄金属精錬の最高峰である住友財閥だった。

A7075アルミニウム合金の品質安定や、特殊鋼に必要なレアメタルの不足に苦しんでいた住友に対し、浩平は同様にダンボール箱(100ゼニ)を転送した。


チタン合金製ボルト(約2,000ゼニ)

超強力ネオジム磁石(約1,500ゼニ)

デジタルマルチテスター 10台(約20,000ゼニ)

技術書『現代結晶工学と非鉄金属材料の組成表』(約5,000ゼニ)

『日本国内・南方圏における未発見レアメタル鉱脈特定マップ(最初の10ページだけ)』

【住友向けセット総額:28,600ゼニ】


『住友の精錬技術は未来でも日本の誇りです。指先ほどのサイズで凄まじい磁力を発するネオジム磁石や、軽くて鋼鉄並みの強度を誇るチタン合金をお確かめください。また、鉱脈マップの冒頭を添えます。 ――監視者 浩平』


住友吉右衛門は、指にくっついたネオジム磁石を力任せに引っ張っても剥がれない異常な磁力と、空気のように軽いチタンボルトを分析して青ざめた。


「我が社の金属精錬の常識が、遥かの彼方まで置き去りにされている……! 何よりこの『鉱脈マップ』の続きがあれば、戦後の住友は世界の金属・材料市場を完全に支配できる! 我が住友は手持ちの全金塊をすぐさま提出いたします!」

住友の総帥は狂喜乱舞し、真っ先に全資産の投入を即断した。


◇◇◇


そして、ゼロ戦を生み出した重工業のエース・三菱財閥。

真空管の不良率やレーダー性能の限界に苦しむ三菱に対し、浩平は圧倒的なエレクトロニクスの未来を叩きつけた。あまりの物量ゆえ、三菱だけは二つの巨大な箱による豪華な支給となった。


電子工作パーツ一式(LED、MLCCコンデンサー、IC、オペアンプ等)(約15,000ゼニ)

ポータブルオシロスコープ(テスター兼用)3台(約60,000ゼニ)

デジタル位相差顕微鏡 DPH-2700FM(約350,000ゼニ)

技術書『固体物理学の基礎と半導体工学』(約7,500ゼニ)

技術書『ガスタービン熱力学と高温度耐熱超合金の製造加工技術』(約7,500ゼニ)

【三菱向けセット総額:440,000ゼニ】


『岩崎さんへ。これらをお納めください。――これより、真空管の時代は終わります。半導体と超合金の未来を、三菱の手で切り拓いてください。 ――監視者 浩平』


車椅子に座る岩崎大弥太は技術者ではない。しかし、ズシリと重い位相差顕微鏡の美しさと、『半導体工学』という本のタイトルを目にした瞬間、これが今後の社運どころか国家の命運を左右する「神器」であると直感した。


「監視者殿……。このような無上の宝を……」


岩崎は胸を詰まらせ、深々と頭を下げた。同時に、本日自分たちだけが金塊を持参していなかったことに強い負い目を感じ、「すぐに会社の金をすべて運び出させねばならん」と心に誓っていた。


◇◇◇


最後に残されたのは、独自の重工業部門を持たない「金融の安田財閥」であった。

浩平が安田に与えたのは、二冊の厚い経済書だった。


経済書『近代金融史』(約4,000ゼニ)

経済書『新版・グローバリゼーション』(約4,000ゼニ)

【安田向けセット総額:8,000ゼニ】


『安田さんへ。これらは私の世界の歴史ですが、この世界にそのまま当てはまる保証はありません。参考程度にお読みください。 ――監視者 浩平』


安田三は最初、「なぜ我が安田だけは本二冊なのか」と不満げに眉をひそめた。しかし、『近代金融史』の目次をざっとめくった瞬間、安田の全身にトリハダが立った。戦後のハイパーインフレ、通貨切り替え、そして金融再編の全結果が書かれているのだ。金融において「未来の経済動向を知る」ことほど悪魔的な武器はない。


さらに、周囲を見渡せば三井、住友、三菱の当主たちが未来のサンプルを貪るように見つめ、正気を失ったかのように「全財産を注ぎ込む!」と叫んでいる。


(技術を持たぬ我が安田が、この未来への投資競争に出遅れれば、新時代において一瞬で破滅する……!)


強い焦燥感に駆られた安田三は、震える声で叫んだ。


「三井殿、三菱殿! 御社が未来の技術を推進するための莫大な資金の融資と決済は、すべて我が安田銀行が一手に引き受けます!


安田の持つ純金資産のすべてを、そのバックアップとして差し出しましょう!」


金融の巨頭が自ら決済の引き受けを申し出たことで、四大財閥による「国家買収級の巨大ファンド」がこの瞬間に完成した。


◇◇◇

地下壕の湿度と現代の除湿器

◇◇◇


その時、画面越しに岩崎大弥太の額から滝のように汗が吹き出しているのを見た浩平は、ふと首をかしげた。


「あれ……? 皇居の地下壕って、もしかして暑いのかな?」


浩平は試しに、ゲーム内ショップから「温度・湿度計付きデジタル置き時計」(900ゼニ)を購入し、待機室の机の隅へと転送した。


画面に映し出された数値を見て、浩平は納得の声を上げた。


【室温:19.2℃ / 湿度:81%】


「温度は十九度だから暑くはない……むしろ涼しいくらいだ。だけど湿度が八十パーセントを超えてる! なるほど、じめじめした不快感と高血圧の圧迫感で滝汗をかいてたんだな。……これは隣の御文庫附属室も同じ環境のはずだ。除湿機を入れよう。壁のコンセントで動かせるかな?」


浩平はFPVカメラを操作し、壁の隅を拡大した。そこには昭和初期の白磁で作られた丸型の露出型コンセントが設置されていた。AIに互換性を確認したところ、「ボルト数とアンペア容量さえ範囲内であれば、現代のAタイププラグがそのまま使用可能」との回答を得た。


浩平は少しの遊び心を込め、日本の技術の粋を集めたハイパワー除湿機「三菱電機 MJ-PV250」(50,000ゼニ)を購入。箱から出して電源コードを伸ばした状態のまま、待機室の中央へと転送した。


ポン。


転送された白い機械に添えられた紙には、こう書かれていた。


『総帥方へ。この部屋は湿度が非常に高いため体調を崩しやすいです。この白い機器を部屋の隅へ運び、黒い電源プラグを壁のコンセントに差し込んでみてください。 ――監視者 浩平』


三井八郎右衛門がすぐに駆け寄り、本体正面に刻まれた文字を見て声を上げた。


「おい岩崎! これを見ろ!『MITSUBISHI』と書いてあるぞ! 未来の御社が作った機械だ!」


「なに……! 我が社が作ったものとな!?」


車椅子の岩崎は住友吉右衛門に手押ししてもらい、自社の未来の製品の前ににじり寄った。

住友が黒いプラグを磁器コンセントへと差し込む。


ピッ……。サー―――――……。


電子音と共に、本体上部から心地よい乾燥した冷風が吹き出し、液晶画面に「現在湿度 81%」の数値が明るく点灯した。

わずか十数分で部屋の重苦しい湿気がぐんぐんと吸い取られ、湿度の表示は「62%」へと急降下していった。サラサラとした快適な空気が部屋を満たしていく。


「おお……! なんという心地よさだ! 身体の重みが消えていくようだぞ!」


住友と三井の総帥は驚嘆し、車椅子の岩崎の肩を叩いてヤジを飛ばした。


「おい岩崎! この機械、戦後に量産できたら我が社にも安く卸してくれよな!」


岩崎は誇らしげに胸を張り、笑みを浮かべた。


「もちろんだ! 我が三菱の誇りにかけて、極上の価格でお届けしよう!」


モニターの前でその睦まじい光景を見た浩平は、満足そうに頷いた。


「よし、ずいぶん仲良くなったな。これで一台は設置完了……。次は本番の『御前会議』が行われる隣の御文庫附属室だ。せっかくだから三井さんにお願いしよう」


浩平はもう一台の「三菱電機 MJ-PV250」(50,000ゼニ)を購入し、同じく開封状態にして転送した。


『三井総帥へ。陛下や内閣大臣がおられる隣の部屋にも、同じ機械を設置したいと考えております。運搬をお手伝いいただけますでしょうか? ――監視者 浩平』


手紙を読んだ三井八郎右衛門は「陛下のためとあれば喜んで!」と即座に立ち上がった。


浩平のFPVカメラは、18キログラムもある重い除湿機を大切そうに抱え上げ、汗をかきながら隣の御文庫附属室へと力強く歩みを進める三井総帥の背中を、静かに追尾していった。


◇◇◇

終戦御前会議

◇◇◇


1945年8月2日、午後2時30分。


防音扉がゆっくりと開き、三井財閥の総帥・三井八郎右衛門が、18キログラムもあるズシリと重い白い機械――未来の「三菱電機製・除湿機」を大切そうに抱えて、殺伐とした御前会議の現場へと足を踏み入れた。


室内には、昭和天皇を中心に、今しがた到着した米内海軍大臣、豊田軍令部総長、梅津参謀総長を加えた「最高戦争指導会議」の全メンバーが居並び、針を刺すような重苦しい空気が充満していた。


「……ん? 何者だ貴様は!」


新しく入室してきた軍令部総長の豊田副武大将が、鋭い目つきで三井を睨みつけ、怒号を飛ばした。


「今は国家の命運を分ける最高機密の会議中だ! 民間人は引っ込んでいろ!」


突如飛んできた大将の威圧感に、三井総帥は思わず身をすくめた。しかし、作戦卓の奥から昭和天皇の静かな、しかし重々しいお声が響いた。


「豊田、言葉を慎みなさい。これは監視者・浩平殿の細やかな配慮によるものだ」


「へ……陛下!?」


豊田大将は慌てて頭を下げ、言葉を呑み込んだ。


三井総帥は深く頭を下げると、急いで壁の隅にある白磁の露出型コンセントを探し当てた。黒い電源プラグを慎重に差し込むと、ピッという電子音と共に静かな送風音が響き、上部から爽やかな乾燥風が吹き出し始めた。表示パネルに「現在湿度 82%」の数値が明るく点灯したのを確認すると、三井総帥は一礼し、脱兎の如く部屋を退室していった。


三井総帥が去ったのち、畑俊六元帥の操作により、作戦卓の上のモニターで歴史ドキュメンタリー映画『太平洋戦争の終わり』の再生が開始された。


約100分にも及ぶその映像は、あまりにも残酷で、そして圧倒的な「現実の未来」を映し出していた。


映像は沖縄戦のモノクロフィルムから始まり、米軍機視点による東京大空襲の鮮明なカラー映像、さらには当時の欧米や中国、日本本土の情勢をナレーションと写真で追っていた。

やがて、アメリカにおける原子爆弾の実証実験の成功、B-29爆撃機の選定、そして製造された二基の核爆弾「Big Boy(Fat Man)」と「Little Boy」の構造、候補都市選定の裏にあるアメリカの政治的思惑が詳細に解説された。


続いて画面に映し出されたのは、米軍視点から捉えた広島と長崎の原爆投下時のカラー映像であった。巨大なキノコ雲が天空を焼き尽くし、地表が一瞬で灼熱の地獄絵図へと変貌する凄惨なカットの連続に、室内からは息を呑む音が漏れた。


そして物語は、日本が降伏を決断する1945年8月9日の「御前会議」の再現シーンへと差し掛かった。畑元帥が一度リモコンの停止ボタンを押し、映像を一時停止させた。約40分が経過したこの時点で、ポツダム宣言受諾を巡る議論が画面上で繰り広げられていたのだ。


◇◇◇


沈黙を破ったのは、最も強硬な抗戦派である豊田軍令部総長だった。豊田は大汗をかきながら立ち上がり、激しい身振り手振りでポツダム宣言の受諾に猛反対した。


「絶対にいかん! ポツダム宣言の無条件受諾など、断じて認めるわけにはいかん!」


豊田は血走った目で周囲の閣僚たちを睨みつけ、持論をぶちまけた。


「第一に! 未来の歴史が分かっているというのであれば、アメリカ軍の上陸地点をあらかじめ特定し、そこに全精鋭を集中させて痛烈な一撃をお見舞いできるはずではないか! 空襲とて事前に市民を避難させれば被害は最小限に抑えられる!

第二に! アメリカと対等な平和協定を結ばない限り、皇軍が一方的に武装解除に応じ、反撃を停止するなどあり得ん!」


豊田大将は血走った目で昭和天皇と一同を見回した。


「そして第三に……! これまで国に命を捧げた何百万の英霊と民草は最後まで戦い抜かずして、何をもって彼らの尊い犠牲に報いるというのだ!!」


◇◇◇

浩平の怒り

◇◇◇


現代の自室でFPVカメラ越しに豊田大将の叫びを聞いていた浩平の胸中に、静かな、しかし激しい怒りが沸き上がった。


「皇軍の面目……? それが、人間の命そのものより重いと言うのか? あんたら陸海軍の軍部が主導して開いた戦端のつけを、なぜ関係のない日本国民がその『面目』のために命で支払わなきゃならないんだ……!」


浩平はキーボードを烈火のごとく叩きつけ、一枚のA4用紙に自らの魂を込めた文章を打ち込むと、すぐさま昭和天皇の前へと転送した。


ペラリ。


何もない空間から滑り落ちてきたその手紙を、木戸内大臣が恭しく拾い上げた。木戸は内容を目にすると息を呑み、昭和天皇にお見せしたのち、万感の思いを込めて室内へ向けて読み上げた。


『陛下、そして閣下たちへ


1945年現在のアメリカは、すでに3発の原子爆弾を所有しています。私が広島や長崎を救えたとしても、日本が抗戦を続ける限り、3発目、4発目と、一ヶ月ごとに原子爆弾が日本の主要都市へ次々と落とされるでしょう。

私には、そのすべてを防ぐ手段はありません。私は神ではないからです。


豊田閣下。あなたが言う「皇軍の面目」とは、一体何をもって満たされるのですか? 20万の民が焼き殺されるような地獄絵図をもって満たすのですか? 100万の女子や学生、若者たちが竹やりを持って戦車に挑み、無残に倒れることをもって満たすのですか?

彼らが享受するはずだった未来を、あなたは何をもって弁償するつもりですか?「愛国」という空しい言葉で誤魔化すのですか?「国の為」と説得するのですか?


その「国の為」という言葉も、胸に手を当てて考えてみてください。本当に「国の為」ですか?

特攻で散っていく若い兵士たちは、一体何を守ったと言えるのですか? それを命じた人間は、本当に「これが正しい」と心から言えるのですか?


未来の一民間人としての考えですが、「生きること」こそが最大の正義です。「国の為」を掲げ、プライドや面目、立場のために重ねられる無駄な犠牲は、歴史において、後の時代から「愚か」としか評価されません。


――監視者 浩平』


「くっ…………!!」


手紙が読み上げられる間、豊田軍令部総長の顔は激しい怒りと青ざめたショックでぐにゃりと歪み、今にも爆発しそうなほど怒脈を浮き立たせていた。


◇◇◇

聖断と、特攻の即時停止

◇◇◇


浩平の手紙を聞き終えた昭和天皇は、深く目を閉じられたのち、静かに、しかし断固たる覚悟を込めて目を開かれた。


「豊田、そして皆。……朕は、浩平殿の意見に全面的に賛同する」


「へ、陛下……!?」


昭和天皇は作戦卓を見つめ、声を震わせながらも力強く言葉を紡がれた。


「未来の美しい日本の姿を見て、我々がなぜここで戸惑う必要があろうか。……ああ、認めよう。朕が間違っていたのだ。最初から、この戦争を止めるべきであった。主戦派の言葉を信じ、看過すべきではなかったのだ。朕は、そのすべての責任を負うつもりである!」


天皇は立ち上がり、豊田大将を真っ直ぐに見据えられた。


「潔く負けを認め、一人でも多くの民を死の淵から救うことこそが、今なすべきことではないか! 面目とは何だ? 死んでしまえば何も残らず、後の時代からも決して評価されぬ。これから生きるべき者たちの未来の輝きこそ、朕が命に代えても守りたいものなのだ!」


その凄まじい聖断の言葉に、海軍大臣の米内光政大将が弾かれたように立ち上がった。


「陛下……! 海軍大臣として、陛下の御聖慮に深く感服いたします! 海軍はただちに陛下の御心に従います!」


昭和天皇は深く頷かれると、その場で力強く命じられた。


「即刻、全軍における『特攻隊』の出撃を取りやめさせなさい!」


「陛下!」


木戸内大臣が思わず身を乗り出し、心配そうに声を上げた。


「陛下が直接軍の指揮官へ命令を下されたという記録が残れば、戦後の裁判において陛下にお立場が不利に及ぶおそれがございます……!」


しかし、昭和天皇は毅然として首を振られた。


「構わん! 記録などどうなろうと構わん! 若者たちの命の方が、遥かに大事なのだ!!」


その魂の叫びを聞いた阿南陸相と米内海相は、目から涙を溢れさせながら深く頭を下げた。


「ハッ……! ただちに全軍へ電報を打ちます!」


二人は室内の受話器へと駆け寄り、全国の陸海軍基地へ向けて「特攻出撃の即時全面停止」という勅命を怒号のような声で伝達し始めた。


閣僚会議における立場は、終戦賛成派5(鈴木、東郷、米内、阿南、梅津)対 抗戦派1(豊田)となり、大勢は完全に決した。なお、参謀総長の梅津美治郎大将は、浩平から示された「戦犯免責リストの作成」という受諾条件を知っていたため、豊田のように無謀な反対を続けることはなかった。


孤立した豊田軍令部総長は、膝から崩れ落ちるように頭を垂れた。


「……陛下の……陛下の御聖慮であらば……我々はただ……従うのみでございます……」


「うむ」


昭和天皇は豊田を見つめ、最後に厳しく付け加えられた。


「だが豊田、そして全員に命じる。切腹も、自決も絶対に許さん! 全軍、将兵に至るまで同じだ。この期に及んで自ら命を絶つことこそ、真の国家反逆であると心得よ!」


「は……ハッ……!!」


◇◇◇

涼やかな未来の風

◇◇◇


大局が決したところで、畑元帥は一時停止していたDVDの再生を再び開始した。


画面に「玉音放送」が流れ、昭和天皇の肉声が響き渡った瞬間、事前に映像を見ていた畑元帥と阿南陸相を除く全員――鈴木首相、東郷外相、米内海相、梅津参謀総長、そして強硬派だった豊田軍令部総長までもが、声を上げて号泣した。自らの敗北と、それによって救われる未来の重みに、老臣たちは涙をぬぐうことすら忘れて震えていた。


ちょうどその時、三井総帥が設置していった三菱製の除湿機が静かな送風音を立て、地下壕の湿度を「82%」から「55%」へと下げ切っていた。


重苦しく湿っていた地下室の空気が、驚くほどサラサラとした爽快な空気へと変わっていた。昭和天皇は深く息を吸い込まれ、穏やかな笑みを浮かべられた。


「今はまさに……涼しく未来の風が吹くときが来たようだな。先ほどの浩平殿の采配の通りだ。……朕は、今の放送を恥辱とは限らん。この放送が未来の豊かな日本へと繋がるのであれば、朕は今すぐであっても喜んでマイクの前に立つつもりだ」


DVDの映像は、戦後の復興パートへと移り変わっていった。

進駐してくる米軍の姿に拳を握りしめつつも、壊滅した焦土から立ち上がり、新幹線を走らせ、東京タワーを建て、世界中に自動車を輸出して誇り高く生きていく「未来の日本人」の姿に、閣僚たちは泣きながらも、どこかすがすがしい希望の光をその瞳に宿していた。


歴史の暗雲は払い去られ、1945年8月2日午後4時、日本の運命は完全に未来へと向け舵を切ったのだった。


【現在のクレジット残額:1,130,423,080ゼニ】

【ゲーム内で関わった人数:約134,000人(new: 8月以降の特攻出撃停止で+800人)】

お待たせしました、飛行機移動日が挟んで更新が遅れてしまった

頑張って描写しました、事務処理と連絡が残っていますが、ポツダム宣言受諾確定です

除湿器も頑張って設置しました

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― 新着の感想 ―
除湿機を導入して欲しいとの陳情を叶えてくれてありがとうございます。 これで陛下の肉体的な負荷はだいぶ良くなりそうで良かった。 ただ作者さんのプロットや、更新の負担になってしまったのでは無いかと心配し…
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