1945年8月2日 見える幻と見えざる真実
この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません
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【ゲーム内で関わった人数:約133,000人 new:東京補給で+10000人】
◇◇◇
黒田家の朝の食卓
◇◇◇
1945年8月2日、午前6時50分
広島市鍛冶屋町・黒田官舎。
夏の朝特有の涼しい風が通り抜ける黒田家の台所では、妻のけいこ夫人がいつもより早くから起きて立ち働いていた。昨日、監視者から追加で支給された現代の上質の食パン、卵、そして見事なリブロースステーキ肉を使い、夫の旅立ちを祝う朝食を用意していたのだ。
400グラムの分厚いステーキ肉の大半は、黒田が長崎へと向かう列車の中で食べるための特製サンドウィッチ弁当に贅沢に挟み込まれた。そして、残りの肉を丁寧に薄切りにし、香ばしく焼いた卵や新鮮な野菜と共にふっくらとした食パンで挟んだ朝食用のサンドウィッチが、居間の座卓へと並べられた。
「お父さん、今日から長崎へ行ってしまうの?」
十二歳になる長男の正一が、珍しい洋風の朝食を美味しそうに頬張りながら、少し寂しそうに尋ねた。十一歳の長女の和子も、兄の隣でこっくりと頷きながら黒田の顔を見つめている。
「うむ。国にとって非常に重要な任務なのだ。正一、私が留守の間は、お前が唯一の男手として母親と和子をしっかり守るのだぞ」
黒田は子供たちの頭を優しく撫で、威厳を持ちながらも慈愛に満ちた声で言い聞かせた。
「はい! 僕、お母さんと和子を絶対に守ります」
正一は力強く胸を張り、和子も「お父さん、お気をつけて」と健気に微笑んだ。子供たちが奥の部屋へ片付けに立った後、けいこ夫人は黒田の傍らに寄り添ったが、その瞳にはどうしても拭いきれない不安の色が滲んでいた。広島の避難計画が進む中、夫が別の地へと赴くのだ。見送る妻としての心細さは計り知れなかった。
黒田は妻の小さな肩を引き寄せると、懐から使い慣れた手帳を取り出し、万年筆で静かに文字を書き始めた。
『1945年8月2日 AM 7:10 BLAK>FTKH 監視者殿、妻と連絡用で例の往復通信用の光る板を一台借りしてもよろしいでしょうか?』
黒田は書き終えた頁を手帳から切り離すと、そっと座卓の上に置いた。
その頃、現実世界の午前7時10分。
パソコンのモニターの前にいた浩平は、東京への大規模配給の流通網が順調に回っていること、そして広島の橘兄妹が静かに旅立ちの準備を進めていることを同時に見守っていた。その時、ゲームシステム内に仕込んでおいたテキスト監視用プログラムが黒田の手帳の文字を検知し、控えめなビープ音を鳴らした。
「黒田さんからのリクエストか。なるほど、残される奥さんの不安を和らげるために、連絡用の端末がもう一台欲しいんだな」
浩平はすぐに願いを確認し、ゲーム内ショップを開いて連絡用のAndroidタブレット端末を一台購入した。所持金から24,000ゼニが即座に差し引かれる。
浩平は自室の空間で、けいこ夫人専用として黒田の端末との直接の往復通信を可能にする自作アプリケーションのセットアップを最速で開始した。作業を進めながら、浩平はふと指を止めて考え込んだ。
「よく考えると……。昭和天皇、畑閣下、藤堂中将、金沢長官、黒田さんに加えて、今回はけいこ夫人、そして橘兄妹か。だんだんとタブレットを用いた通信の対象が増えてきたな。今はまだ1対1の割り当てでなんとかなっているけれど、じきに1対1通信が足りなくなるぞ。しかし誰とでも通信できると、誰かが誤って陛下へ直接通信を入れてしまうような事態は絶対に防がないといけないし、連絡先を適切に管理・制限する機能をシステム側に追加しないとまずいな」
今すぐにプログラムの改修を生成AIに丸投げして実行させることもできたが、もし重要な防衛戦の最中に通信の入れ違いが発生すれば致命傷になりかねない。浩平は「今夜のどこか、全員が寝静まったタイミングを見て、一括で通信管理アプリの更新を行おう」と決め、まずは目の前のセットアップを完了させた。
浩平はタブレットの画面にテキストエディタを立ち上げ、丁寧な日本語で案内を入力した。
『けいこ夫人へ
こちらの光る板は、夫である黒田さんと往復通信ができる未来の道具です。板の脇の上にあるボタンを押せば画面が光ります。絵の中に「黒田」と書かれている場所を指で触れば、まるで往復書簡のように、けいこさんと黒田さんの姿と言葉を交互に映し出して直接連絡を取り合うことができます。どうぞお使いください。 ――監視者 浩平』
浩平が転送ボタンをクリックすると、タブレット端末は黒田夫妻の目の前の座卓の上へと音もなく出現した
「おお……! 監視者殿、迅速なるご配慮、心より感謝いたします」
黒田は虚空に向けて深く頭を下げた。けいこ夫人は、目の前に突如として現れた滑らかな漆黒の板と、そこに浮かび上がる美しい文字の光に「まあ……!」と両手で口を覆って驚愕していた。
「あなた、これが噂に聞く未来の通信機ですか? 離れていても、あなたの姿が見えるのですか?」
「うむ。これがあれば、私が長崎のどこにいても、お前や子供たちの顔が見えて声を聞くことができる。監視者殿が我々の絆を繋ぎ止めてくださったのだ。だから、何も心配せず私を送り出してほしい」
黒田の力強い言葉に、けいこ夫人はようやく安堵の涙を浮かべ、しっかりと端末を胸に抱きしめて頷いた。
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旅立ちの汽笛
◇◇◇
午前8時00分。広島駅。
真夏の強い日差しが早くもプラットホームのコンクリートを焼き始める中、広島駅の構内には独特の緊迫感が漂っていた。
長崎への全権勅使という極めて重い大命を帯びた黒田重徳中将を迎えるため、専用の臨時列車が蒸気を吹き上げながらホームへと入線していた。周囲には、出発の安全を確保するために第二総軍や地元の憲兵たちが厳重な警備線を敷いている。
駅のホームには、夫の見送りのために寄り添うけいこ夫人の姿があった。子供たちは官舎の留守を守るためにおいてきたが、その分、夫婦の別れの時間は静かで深いものとなっていた。
「では、行ってくる。けいこ、橘君のお母親の件、くれぐれもよろしく頼むぞ」
黒田は軍帽の庇を正し、新調された中将の階級章を胸に輝かせながら妻を見つめた。
「はい、あなた。橘様のお母親のことは私にお任せください。どうか御身を大切に、大役を果たしてきてくださいませ」
けいこ夫人は凛とした佇まいで頭を下げ、夫の無事を祈った。その手には、先ほど監視者から授かった未来の板が、しっかりと鞄の中に収められている。離れていても繋がっているという確信が、彼女の背中を力強く支えていた。
黒田は力強く頷くと、翻る軍服の裾と共に専用列車の重厚な客車へと足を踏み入れた。
やがて、鋭い汽笛の音が広島の青空へと響き渡り、車輪がゆっくりと回転を始める。列車が次第に速度を上げ、ホームから滑り出していく様子を、けいこ夫人は小さくなるまでいつまでも駅の乗り場で見送っていた。
現代の自室でその光景をモニター越しに確認した浩平は、静かに打鍵を再開した。
「黒田さんは長崎へ向けて出発した。広島の橘兄妹もまもなく東京行きの便に乗る。そして東京では、間もなく歴史を動かす財閥の怪物たちが皇居へ集まる時間だ……」
日本の運命を握る各タイムラインが、午前八時の針と共に一斉に加速を始めていた。浩平は息を呑み、次なる決戦の舞台である皇居・御文庫附属室へとカメラの焦点を切り替えた。
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嵐の前の拝謁
◇◇◇
1945年8月2日、午前7時30分。
連日の猛暑と絶え間ない空襲の脅威にさらされる帝都。その陰で、日本の経済を牛耳る四大財閥の総帥たちのもとには、宮内省からの異例極まる深夜の緊急召集令が下っていた。
「戦局がここまで逼迫し、明日をも知れぬこの期に及んで、なぜ我々を呼び出すのだ。それも、軍部ではなく陛下直々の御意志だという……。国を維持するための資金を、また我々に身を削って差し出せと言うのか」
安田財閥の総帥・安田三は、出頭に向けて身支度を整えながら、周囲の幹部たちに向けて苛立ちを隠さずに不満をぶちまけていた。すでに財閥の資産の大半は軍事生産に動員され、国債は紙屑同然となり、各企業も連日の空襲で工場を焼失して文字通り瀕死の極限状態にある。敗戦の色が濃い今になって、これ以上の資金や財産の供出を求められるなど、彼らにとっては到底納得のいく話ではなかった。安田だけでなく、三井八郎左衛門、住友吉右衛門たちもまた、重苦しい憤りや冷ややかな諦念を抱きながら、早朝の皇居へと車を走らせていた。
その頃、東京帝国大学病院の一室。
三菱財閥の総帥・岩崎大弥太は、中度の腹部大動脈瘤と重い神経症を患い、医師から「一歩もベッドから動いてはならぬ」と厳命を受けていた。しかし、岩崎は荒い呼吸を繰り返しながらも、病床を這い出て自らの衣服を着替えさせ、執事や三菱本社の最高幹部たちを鋭い眼差しで一喝した。
「……陛下が直々に我らを召されるのだ。たとえこの身がここで果てようとも、三菱の代表として参内せぬわけにはいかぬ。車椅子を用意せよ。這ってでも宮城へ行く」
その凄まじい執念に押された幹部たちは、東大病院の医師たちの制止を振り切り、岩崎を車椅子へと乗せて宮内省の手配した黒塗りの差し回し乗用車へと押し込んだ。国家の命運が完全にひっくり返ろうとしているこの瞬間を、昭和の怪物は病の苦痛に顔を歪めながらも、ただただその両目だけは爛々と輝かせて見据えていた。
◇◇◇
白き奔流と坂下門の怪
◇◇◇
午前8時00分。
財閥総帥たちの乗った乗用車が、瓦礫の広がる都心の道路を皇居に向けて進んでいた。その道中、彼らは車窓の外に広がる、通常ではあり得ない異様な光景に目を奪われた。
「な……、何だ、あれは」
安田三が車の窓を開け、驚愕の声を漏らした。
早朝5時から始まっているという「謎の恩賜配給」の真っ最中だった。
街のあちこちに設けられた配給所には、見渡す限りの群衆が押し寄せていた。しかし、これまでのような奪い合いや殺気立った混乱はそこにはない。人々は、両手で「純白の精米」や「真っ白な砂糖」を大事そうに抱きしめ、天を仰いで大声を上げて泣き崩れていた。
その周囲を警備するのは、警察ではなく、荷物の運搬を自ら手伝う近衛兵と東部軍の将兵たち、そして大量の軍用トラックの群れだった。
「近衛と東部軍が総出で民に食料を配っている……。宮中で一体何が起きているのだ。クーデターか、それとも我々の知らぬ間に、一発逆転の秘策でも成ったとでも言うのか」
車椅子の岩崎大弥太も、窓の外で起きている信じ難い救済の現場を見つめ、深く考え込んでいた。これほどの物量の米や砂糖が、一体どこの倉庫から湧き出てきたのか。その疑問は、彼らの合理的な経済脳ではどれほど考えても答えが出なかった。
午前8時30分。
財閥総帥たちの車は、厳重な警備を潜り抜けて皇居の坂下門へと到着し、一堂に合流した。
中に入ると、目の前を通り過ぎていくトラックの荷台や、東庭の片隅にまだ小山のように残っている膨大な物資の山が彼らをさらに圧倒した。
「宮中の物資は、一体どこから来たのだ? 軍の秘密倉庫か? それとも農業が盛んな地方の隠し蔵から強制接収したのか?」
三井八郎左衛門が額の汗を拭いながら呟くが、住友吉右衛門も沈黙したまま、ただただ眼前の不可解な物量に息を呑むばかりだった。
この時点で、現代の自室にいる浩平は、皇居上空に固定したカメラを通じて、坂下門に集結した財閥の怪物たちの様子を静かに見守っていた。
「物資は見た感じ、七割方は都内へ搬出されたな。東部軍と近衛の兵站は想定以上に優秀だ。……問題は今日だけで終わらせないことだ。今日の夕方までに、明日の配給資金となる金を彼らからしっかり回収しなきゃいけない。お、あそこに集まっているのは、どう見ても財閥のトップたちだな。いよいよ本番か」
浩平はキーボードに指を置き、彼らの会話を一言も漏らさぬよう集中した。
◇◇◇
不満と、手品と消失する金塊
◇◇◇
午前9時00分。
宮城の地下、御文庫附属室の隣に設けられた宮中控室にて、総帥たちと木戸内大臣との面会が始まった。
木戸内大臣の口から、昭和天皇が彼らを召集された理由についての事前説明が粛々と行われた。
それは、帝都の三百五十万の民を飢餓から永続的に救うため、財閥が保有する金地金や貴金属を国へと供出してほしいという、あまりにも突飛で一方的な要求だった。
「木戸大臣! 冗談も大概にしてください!」
安田三が、これまでの不満をぶちまけるように机を叩いて立ち上がった。
「陛下のお言葉であればこそ、病を圧してまで這うようにして参りました。しかし、我が安田とて、連日の戦災で資金繰りは完全に破綻寸前、カツカツの状態であります! 出せる金など、せいぜいこれくらいが限界だ!」
安田は随行員に命じ、持参させていた約10キログラムの金地金の入った頑丈なケースを机の上に叩きつけるようにして置いた。
安田の激昂を皮切りに、三井や住友の総帥たちも「これ以上の国債引き受けは不可能」「事業の継続すら危うい」と口々に抗議の声を上げながらも、最終的には陛下の勅命の重みに屈し、それぞれが車に積んできた金地金を次々と机の上へと差し出した。
安田の10キログラムを筆頭に、三井、住友の三財閥が供出した金塊は、合わせてちょうど20キログラムに達した。
その激しい議論の間、車椅子に座った岩崎大弥太だけは、一言も発することなく、ただじっと木戸内大臣の表情と、その奥にある「何か」を冷徹に見定めようと注視していた。
木戸内大臣は、総帥たちの抗議を受け止めながらも、目の前に積まれた計20キログラムの金塊を見つめ、胸の内で深く安堵していた。モニター越しにその様子を見ていた浩平も、小さくガッツポーズを取った。
「よし……! これで、明日の東京市民への配給分の買い取り資金は確保できた!」
木戸内大臣は姿勢を正し、周囲を見渡した。
「総帥方。皆様が供出してくださったこの大切な金塊は、私が陛下を代表して確かにお預かりいたします。よろしいですな」
不機嫌極まりない安田や三井は、苦々しい表情で視線を逸らした。
「……ですが、今回だけだと約束してください。我々財閥とて、戦後の会社の立て直しや、従業員たちの生活を守るための『備え』が必要なのですから」
「承知しております」
木戸内大臣は静かに頷くと、あらかじめ懐に用意していた一枚の和紙の委任状を取り出し、積み上げられた20キログラムの金塊の上にそっと添えた。そこには、力強い筆跡でこう記されていた。
『こちらにある金塊は、監視者浩平殿に一任致します ――宮内省・木戸』
浩平はこの瞬間を逃さなかった。ゲーム買取画面を開き、買取機能のターゲットに机の上の金地金20キログラムを指定した。
画面に簡素な確認ウィンドウが表示される。
【金塊 20kg 純度99.99% 買取価格:500,000,000ゼニ 買い取りますか? YES/NO】
浩平が静かに「YES」をクリックした。
【現在のクレジット残額:1,576,082,180ゼニ】
次の瞬間、机の上に重々しく置かれていた20キログラムの金塊が、その上に添えられていた木戸内大臣の委任状ごと、光の粒子となって一瞬でかき消え、跡形もなく消滅した。
「……っ!? な、何が起きた!?」
安田三が弾かれたように椅子から立ち上がり、金塊の消えた机の上を凝視した。三井も住友も、自分の目が狂ったのかと何度も瞬きを繰り返し、顔を見合わせた。
「手品……か? 宮内省は、我々の財産をこのような安っぽい手品で騙し取るつもりか!」
不信感を爆発させようとする彼らに対し、木戸内大臣は微動だにせず、静かに微笑んで車椅子の岩崎大弥太へと視線を向けた。
「皆様、これは手品でも詐欺でもございません。今ここで皆様が供出してくださった大切な金が、どのようにして民の命を繋ぐ糧へと姿を変えるのか……。これからその『現実』をお見せいたしましょう。どうぞ、こちらへ」
◇◇◇
見える幻と見えざる真実
◇◇◇
午前9時30分。
木戸内大臣の案内に従い、総帥たちは普段は決して立ち入ることのできない、長和殿の広い廊下へと案内された。
そこには、毅然とした佇まいの昭和天皇と、厳しい表情で直立する畑俊六元帥がすでに待機していた。
一時間前まで東庭に山積みされていた配給物資は、すでに近衛と東部軍のトラックによってほぼすべてが都内へと搬出されており、そこにはただ、頻繁に行き来したタイヤの跡や、僅かな麻袋の擦り切れた繊維が地面に残されているだけだった。
「三井、岩崎、住友、安田。よく参ってくれた」
昭和天皇は、車椅子の岩崎大弥太をはじめとする四人に視線を向けられ、穏やかに、しかし威厳に満ちた声で語りかけられた。
「今朝、帝都の至る所で民たちが白い米を食べ、涙を流して喜んでいる。皆様が先ほど木戸に預けてくれた大切な財産は、民の命を繋ぐための確かな力となった。国を代表して、皆様の決断に感謝する」
総帥たちは陛下の前に深く頭を下げたが、安田や三井の胸中には、未だに「金塊が消えた手品」への疑問と不満がくすぶっていた。
昭和天皇はその総帥たちの懐疑的な気配を察せられたように、ゆっくりと向き直り、長和殿の正面に広がるがらんとした東庭の虚空へと向けて、静かに口を開かれた。
「では、監視者・浩平殿。昨夜のように、こちらの東庭へ、明日の東京の民へと配る糧を、再度購入してはもらえないでしょうか」
虚空に向けて放たれた、陛下の不可解極まる言葉。
その様子を見た安田三は、隣の三井にそっと耳打ちした。
「……おい、陛下は一体どなたとお話しされているのだ。連日の空襲によるお心労で、もしや頭の方が……」
陛下が何もない空に向かって話しかけている姿に、総帥たちは驚愕を通り越し、皇室の将来に対する深い動揺と心配を抱き始めていた。
現代のモニターの前でその囁きを聞いた浩平は、苦笑しながら呟いた。
「やっぱり、人間はどんなに見識があって偉い存在になっても、自分の目で見ない限りは信じられないよね。他人事じゃなく、俺だって同じ立場なら疑う。だけど、こうやって毎回毎回『証明』して見せないと話が進まないのは、ちょっと手間がかかって面倒だな。……よし、それじゃあ驚いてもらおうか」
浩平は画面上の大口業務通販窓口から、先ほど買い取った五億ゼニの資金をすべて使い、昨日と同様の千トンの精米、七百五十トンの小麦粉、六百トンの砂糖を一括で購入。転送の対象座標として、目の前に広がる長和殿の東庭を指定し、実行キーを叩いた。
ドォ、ン……ッ!!!
突然、宮殿全体を揺らすかのような、凄まじい大気の振動が鼓膜を打った。
総帥たちが驚いて身をすくめたその刹那、先ほどまで完全な空白だった東庭の広場に、突如として空間が歪むような光の歪みが発生した。
そして次の瞬間、何もない虚空から、見上げるほどの高さを誇る「数万袋の麻袋と段ボール箱の山」が、雪崩のような重量感を伴って一瞬にして出現し、地面を激しく揺らして積み上がった。
「ひぃ……っ!?」
安田三が短い悲鳴を上げてその場に尻餅をついた。三井八郎左衛門は口を大きく開けたまま硬直し、住友吉右衛門はあまりの超自然的な光景に腰を抜かして手すりにしがみついた。
目の前で起きたのは、手品や幻覚などという言葉では到底説明のつかない、数千トンもの「物理的な物量の顕現」だった。袋の隙間からは、上質な米や砂糖の香りが、確かに風に乗って彼らの鼻腔を突き抜けていった。
その驚愕の渦の中で、車椅子に座る岩崎大弥太だけは、狂気とも言える理解の光をその目に宿していた。
都内での白い米の配給、消え去った金塊、そして目の前の虚空から出現した数千トンの物資。すべてのピースが脳内で完全に繋がり、岩崎はこれまで誰も辿り着けなかった「真実」へと一瞬で到達した。
「……なるほど。……天の御力か」
岩崎は震える手で車椅子の手すりを握り締め、乾いた声で、しかし部屋中に響き渡るほどの強い意志を込めて静かに言葉を紡いだ。
「――三菱は、陛下のお望みを、これより全力でお助け申し上げます。我が財閥の持つすべての資産、すべての技術、そしてすべての力を以て、この『見えざる大兵站』を全面的に支援させていただきます」
その怪物の果敢な決断の言葉に、昭和天皇は深く、満足そうに頷かれた。
未だにショックから立ち直れず、目の前の米の山を見つめて呆然と自失している安田や三井の総帥たちを横目に、一行は木戸内大臣の静かな先導により、さらなる未来の驚異の待つ「御文庫附属室」へと、重い足取りで移動を始めた。
【現在のクレジット残額:1,131,082,180ゼニ】
【ゲーム内で関わった人数:約133,000人】
おまたせしました
1945年8月2日はまた長い1日になりそうです
次は岩崎総帥の救助と、乱入した鈴木総理大臣の話になりそうです(笑)
なお、毎回5億ゼニをいただいて支出は4億5000万ゼニで残り5000万ゼニですが
浩平は決してネコババする気はありませんのでご安心ください




