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1945年7月31日 帝都内乱 その2

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

【現在のクレジット残額:789,424,780ゼニ】

【ゲーム内で関わった人数:約123,900人】


◇◇◇

市ヶ谷台の膠着

◇◇◇


1945年7月31日、午後3時30分。


東部軍管区司令部から出撃した田中静壱大将の本隊が、天皇陛下の安否を最優先して皇居へと向かう一方、分派された市ヶ谷台分隊は、猛烈な砂煙を上げて陸軍省庁舎の敷地へと滑り込んだ。

この分隊を率いるのは、田中大将の懐刀であり、軍紀に厳格なことで知られる【不破ふわ 哲朗てつろう陸軍大佐】である。


不破大佐率いる東部軍の正規部隊が、庁舎の外側から柳瀬中佐の造反部隊を二重三重に包囲し始めると、市ヶ谷台の空気は一触即発の限界に達した。

四方の退路を完全にロックされ、力攻めでは勝ち目がないと悟った首謀者の柳瀬一真中佐は、拡声器を通じて「不破大佐と直接話をしたい」と申し出た。田中大将から「可能な限り血を流すな」との厳命を受けていた不破大佐は、その要求を応じ、銃を収めて単身で正面玄関前へと歩み進んだ。


夏の照りつける陽光の下、かつての同僚でありながら、包囲する側とされる側に分かれた二人の将校が対峙する。


「柳瀬中佐! 兵を退け!」


不破大佐は、威厳に満ちた声で柳瀬を叱責した。


「不満や意見表明があるならば、軍規に基づいた正当な手続きを使え! 上官の命令を無視し、このような無謀な造反を起こすとは何事だ。軍紀を乱す者は、皇軍の兵にあらず!」


対する柳瀬は、血走った目で不破を睨み返し、声を枯らして反論した。


「正当な手続きだと!? 悠長なことを言うな、不破大佐! 敵の新型爆弾によって広島が、国が滅びようとしているのだぞ! 国家存亡の危機の前に、体制内で是非を語り合う時間などがどこにある! 阿南陸相も畑元帥も国賊の術中に落ちた。今ここで決起せねば、皇国は戦わずして滅ぶのだ!」


「狂うな、柳瀬!」


不破大佐は一歩踏み出し、その場で柳瀬の身柄を拘束しようと手を伸ばした。

その瞬間、柳瀬は狂気的な笑みを浮かべ、手にした南部十四年式拳銃の銃口を、自らの右側頭部へと強く押し当てた。


「動くな! 拘束を試みれば、ここで脳漿をぶちまけて自決する!」


柳瀬の指が、引き金にじりじりと力を込める。


「外にいる300人の同志たちは、俺の自決を合図に、死に物狂いで殉国の突撃を敢行するよう誓い合っている。それでも良ければ、俺の身柄を奪ってみせよ!」


「……っ」


柳瀬の捨て身の脅迫に、不破大佐の動きが止まった。ここで首謀者を死なせれば、騙されている300人の若い兵士たちが文字通りの玉砕突撃を起こし、市ヶ谷は血の海と化す。不破は苦渋の選択として、柳瀬が造反部隊の陣地へと帰還することを許さざるを得なかった。


今回の造反部隊は、史実の「宮城事件」とは組織の練度が違っていた。

過激な主戦派の青年将校や兵たち300人強のほとんどが、自分たちが「軍規違反のクーデター」に参加していることを完全に自覚し、その上で自らの行為を絶対の正義と信じ込んでいた。そのため、不破大佐が拡声器で「今なら不問に処す、武器を捨てて投降せよ」と何度呼びかけても、応じる者は誰一人としていなかった。


彼らの主張は、ただ一つに統制されていた。


「――我らは国を売る奸臣の命令には従わん! 陛下の直接の『聖断(お言葉)』があれば我らは従う。それ以外の命令は、一切受け入れん!!」


◇◇◇

地下壕への動画配信

◇◇◇


市ヶ谷台庁舎の外周から浩平のFPVカメラで、この緊迫した直談判の様子をデスクトップの画面越しに見ていた浩平は、キーボードを叩きながら険しい表情を浮かべていた。


「これは予想以上にまずいな……。造反部隊の連中、完全に脳が主戦論でロックされていて、諦める様子が全くない。自分たちがやっている犯罪を、本気で『国を救う大義』だと思い込んでやがる。最悪の場合、プログラムを書き換えて、広範囲に非致死性物理衝撃を発生させて、全員を一気に昏倒させるしかないか……?」


だが、武力による強制排除は最後の手段だ。浩平はまず、この現地の生々しい状況を、地下壕に隔離されている当事者たちへ共有することを優先した。


浩平は、デスクトップ録画ソフトを起動し、柳瀬と不破大佐の直談判シーン、そして上空のカメラが捉えた東部軍が造反部隊を包囲している鮮明な映像を、音声付きでリアルタイム録画した。

生成されたH.264形式のmp4動画ファイルを、ゲーム内のインベントリ直通VPN(レベルアップによる機能)を経由して、ゲーム内ショップで購入したばかりの最新型11インチAndroidタブレット(24,000ゼニ)へアップロード。


そして、動画をそのまま「ループ再生状態」にセットしたまま、市ヶ谷の頑強な防空壕の中で息を潜めている、畑元帥と阿南陸相の目の前の空間へと、ピンポイントで転送した。


フッ。


薄暗い地下壕の作戦机の上に、突如として眩しい光を放つ薄型のガラスタブレットが出現した。


「うおっ!? な、なんだこれは……光る絵が動いておる!?映写機?」


隣にいた副官が飛び上がる中、畑元帥は「待て、これは監視者殿からの映像通信だ」と察し、すぐさまその未来の端末を両手で厳かに受け取った。

阿南陸相も背後から身を乗り出し、その11インチの画面を凝視する。


そこには、ほんの数分前に地上で行われた、柳瀬と不破大佐の激しい怒号の応酬、そして市ヶ谷台を包囲する東部軍の全景が、寸分の濁りもない鮮烈な映像と音声で完全に再現されていた。


「不破が来てくれたか……! 田中大将が動いてくれたのだな」


阿南陸相は東部軍の味方の姿に胸を撫でおろした。しかし、画面から流れる柳瀬の「陛下の直接の命令でなければ従わん」という狂信的なセリフを聞き、畑元帥は深く眉をひそめた。


「頑なだな、柳瀬の奴め。文字通りの狂信カルティストだ。これでは、外からの説得だけでは容易に解散せんだろう……」


◇◇◇

乾いた地下壕と、未来の雫

◇◇◇


その時、彼らが立てこもっている薄暗い地下壕の作戦室の隅で、もう一つの事件が発生した。


この防空壕の中には、避難してきた上級将校たちに混じって、一人の若い青年将校が潜入していた。彼の名は【神崎かんざき 陸雄りくお陸軍中尉】。陸軍士官学校を優秀な成績で卒業し、軍務局に配属された柳瀬中佐の熱狂的な信者であった。

神崎中尉は地上の決起に呼応し、退避の混乱に乗じて地下壕の物資・保管庫の管理担当として潜り込んでいたのだ。


神崎は、周囲の将校たちの口から「田中大将の東部軍が間もなくここへ到達する」という絶望的な情報を耳にすると、顔をワナワナと震わせ、やけくそになって行動を起こした。


「……国賊どもめ、東部軍の手を借りて逃げ延びるつもりか! そうはさせん!」


神崎中尉は物資庫に鍵をかけると、地下壕内に備蓄されていた貴重な飲料水用の大型貯水タンクのバルブをすべて全開にし、一滴残らず排水管へと一気に流し込んでしまったのだ。

続いて食料品の廃棄にも取りかかろうとしたが、麻袋の量が多すぎて一人で短時間に処分するのは不可能だと悟り、彼はその場で作業を断念した。


市ヶ谷庁舎の地上水道は、すでに柳瀬の造反部隊によって爆破されている。この状況で地下壕内の最後の砦であった飲料水の備蓄まで完全に失われたことは、地下に立てこもる100人以上の将校たちにとって、文字通りの致命傷を意味していた。


「――何をやっている、貴様ァッ!!」


間もなくして、物資庫から響く異常な水の排水音に気づいた他の将校たちによって、神崎中尉の破壊活動が露見。神崎はその場で床へと組み伏せられ、厳重に拘束された。


地下壕の作戦室へと引きずり出された神崎中尉に対し、阿南陸相は自ら前に立ち、怒りで声を震わせながら審問に当たった。

「神崎中尉! 狂ったか! 水をすべて捨てるなど、ここに立てこもる同胞をすべて干上がらせるする気かッ!」


しかし、神崎中尉は拘束されながらも、不敵な笑みを浮かべて一点張りの主張を繰り返した。


「ふははは! 阿南閣下、これでもうあなた方に選択肢はありません! 水がないのだ、数時間もすれば全員が渇きで動けなくなる! 命が惜しければ、今すぐ地上に出て、正義の柳瀬中佐に降伏し、その身の穢れを清めるのが正しい道なのです!!」


周囲の将校たちが「なんという狂人だ……」「我々はここで干からびるのか」と絶望の声を漏らす中、隣でその様子を見ていた畑元帥は、ふんと鼻で笑い、哀れむような目を若い中尉へと向けた。


「……水をすべて流せば、わし達が飢えと渇きで降伏するとでも思ったか、若造」


畑元帥は、腰の軍刀の柄に手を当て、力強く言い放った。


「お前たち過激派は、大きな勘違いをしている。……天の監視者殿の本当の『救済の力』の底知れなさを、その狭い脳みそで1ミリたりとも見くびるな!」


モニターの前でそのやり取りを確認した浩平は、ニヤリと笑ってマウスのホイールを回した。


「神崎とかいう中尉さんよ、せっかくの嫌がらせだけど、俺のインベントリ機能の前にはただの空振りなんだわ。水がない? なら、もっと良いものを送ってしてやるよ」


浩平はゲーム内のショップ画面を開き、防空壕に避難している約100人の将校たちの2日分に相当する水分として、現代の『2Lペットボトル入りスポーツドリンク』を200ボトル(計400リットル、150ゼニ/1本)を一括で購入した。


【総支出:30,000ゼニ】


浩平は購入したボトルが箱詰めされた重厚な段ボール箱の山を指定し、地下壕の作戦室、畑元帥のすぐ背後の空きスペースの座標へと一気に転送した。


ドスッ! ドスッ! ドスサァアアンッ!!!


「ひぃっ!?」


神崎中尉が悲鳴を上げ、周囲の将校たちが一斉に飛び退いた。

何もないコンクリートの床の上に、突如として、見たこともない頑丈な現代の段ボール箱が十数箱、凄まじい質量感を伴って出現したのだ。


畑元帥が手近な箱のガムテープをベリベリと剥ぎ取ると、そこには、真夏の地下壕の冷気でうっすらと結露した、冷え冷えの透明な2Lペットボトルが、眩しいほどの青いラベルを纏って整然と並んでいた。


「な……なんだ、この美しく透明な筒は!? 水……いや、怪しげな液体が満ちている!」


阿南陸相は、空中から突如として現れた「未来の飲料の山」を前に、その強面をこれ以上ないほど驚愕の形へと歪ませて絶句した。


一方の畑元帥は、冷たいペットボトルを1本引き抜くと、それを驚愕で硬直している神崎中尉の目の前に突きつけ、最高の、そして最高に満足げな笑顔を浮かべて言い放った。


「見たか、若造。これが天の監視者殿の『兵站インフラ』だ。お前がどれほど水を流そうが、わし達の喉が乾くことは、未来永劫あり得んのだよ!」


地下の暗闇の中、突如としてデプロイされた「未来の雫」が、絶望に震えていた上級将校たちの心を驚愕と希望で一気に塗り替えていく。

モニターの前の浩平は、その圧倒的な勝利の余韻に浸りながら、いよいよ柳瀬の包囲網を内側から完全に無力化するための、真の「通信プログラム」の実行へと、指先を滑らせていった。


◇◇◇

二重橋前の火種

◇◇◇


1945年7月31日、午後3時30分。


皇居の目と鼻の先にある近衛師団司令部庁舎。その師団長室に、血相を変えた伝令兵が飛び込んできた。


「報告します! 東部軍管区司令部の一隊が、突如として乾門、坂下門など宮城(皇居)のあらゆる城門の前に集結、完全なる包囲体制を敷きつつあります!田中静壱大将の本隊が現在、二重橋前に待機されています!」


「何だと……!? 田中静壱大将が、宮城を包囲したというのか!」


近衛師団長である森赳もり たけし中将は、驚愕のあまり手にしていた書類を落とした。近衛師団は天皇陛下と皇居の守護を司る絶対の直属部隊である。そこへ事前の連絡もなく東部軍の正規部隊が押し寄せてきたなど、軍の系統として言語道断であった。


「直ちに二重橋前へ向かう! 副官、随行を立ち上げろ!」


森中将は激しい焦燥感に駆られ、副官や数人の随行将校を従えて庁舎を飛び出した。その随行将校の中には、すました顔で軍帽を正す近衛師団参謀――【古賀こが 秀正ひでまさ少佐】の姿もあった。


古賀少佐は、わずか数十分前に陸軍省の柳瀬中佐から「畑と阿南が国賊に寝返った。皇国を救うため近衛も蹶起せよ」との扇動を受け、内応を約束した張本人だった。クーデターの手回しが露見した際の内通者として、何食わぬ顔で師団長に同行しているのだ。


炎天下、二重橋前へと急ぐ道中、古賀少佐は森中将の背中に向けて、不安を煽るような言葉を巧みに投げかけた。


「師団長閣下、これは異常事態にございます。東部軍の田中大将は和平派の重鎮とも太いパイプを持つ男。……もしや、東部軍自体が上層部に反旗を翻し、陛下を力ずくで奉じるための『反乱』を起こした可能性も否めませんぞ。我ら近衛の手で、宮城を断固として死守せねばなりません!」


「田中大将が反乱だと……? 馬鹿な、あの大将に限ってそのようなことが……」


森中将は古賀の言葉に困惑しつつも、目の前に見えてきた二重橋前広場の異常な光景に、思考を遮断された。そこには、田中静壱大将自らが率いる東部軍の本隊が、厳重な軍容で道を塞いで待ち構えていた。


◇◇◇

カマ掛けと詭弁の限界

◇◇◇


午後3時40分。皇居・二重橋前広場。


真夏の熱気が容赦なくアスファルトから照り返す広場の中央で、近衛師団トップの森中将と、東部軍トップの田中大将が真っ向から対峙した。周囲の兵士たちが固唾を呑んで見守る中、両雄の激しい口論が始まった。


「田中大将! これは一体いかなる軍紀違反か!」


森中将が、怒りを露わにして詰め寄る。


「近衛の管轄である宮城の諸門を、東部軍が断りもなく包囲するなど、明らかな越権行為である! 直ちに兵を引かれたし!」


しかし、田中大将は微動だにせず、その圧倒的な体躯から威圧するような声を放った。


「森中将、声を荒げる前に身内の足元を見るが良い。……たった今、市ヶ谷の陸軍省庁舎が、貴殿の配下である近衛師団の一部『造反部隊』によって完全に包囲、占拠されたとの連絡を、地下壕に籠る阿南陸相から直接受け取っている!」


「な……何だとッ! 我が近衛が陸軍省を包囲した!?」


森中将は雷に打たれたように絶句した。だが、すぐにはその言葉を信用できず、すぐさま隣に控えていた参謀の古賀少佐へと顔を向けた。


「古賀参謀! 陸軍省の件、何か知っているか! 近衛の兵が動いたという報告は我が元に届いているか!」


古賀少佐は一瞬だけ目を泳がせたが、すぐに鉄の仮面を張り付かせて首を振った。


「いえ、全くの事実無根にございます! 我が師団の近衛歩兵連隊は、一兵たりとも許可なく屯所を出ておりません。田中大将、それは何かの誤報か、あるいは東部軍が我が近衛を陥れるための詭弁ではありますまいな!」


「誤報、だと?」


田中大将は鼻で笑った。彼はすでに、市ヶ谷の外周を包囲している部下の不破大佐から、無線を通じて現地の詳細な状況を刻一刻と受け取っていた。古賀の否定が「完全な嘘」であることを、確定情報として把握しているのだ。


田中大将は、あえて冷徹な笑みを浮かべ、古賀少佐に向けて鋭いカマをかけた。


「ほう、古賀少佐。近衛の兵は動いていないと断言するか。……では、本来であれば市ヶ谷の周辺や屯所にいるはずの、貴師団の近衛歩兵連隊の若手将校と兵士たちは、今どこで何をしているのだ?」


想定外の具体的な追及に、古賀少佐の額から一気に冷や汗が吹き出した。しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。古賀は喉を鳴らし、苦し紛れの言葉をひねり出した。


「彼、彼らは……! 今朝の給食において不衛生の疑いがあり、部隊の多くが一斉に『激しいお腹の下し』を起こしまして! 現在は全員、各自の寝室にて療養、安静にさせております! それゆえ姿が見えぬだけです!」


広場に、一瞬の奇妙な沈黙が流れた。

精鋭たる近衛連隊の数百人が、一斉に腹を下して寝込んでいる――あまりにも稚拙で、むなしい反論だった。


田中大将は古賀を一瞥いちべつすら動かさず、正面の森中将を見据えて厳かに告げた。


「森中将。私の部下である不破大佐からの現地報告と、そこの参謀の言い分には、著しい食い違いがある。一斉に腹を下したなどという詭弁、貴殿は信じるか? 今すぐにでも、近衛歩兵連隊の屯所の所在を確認してもらい。不破の確実な報告によれば、彼らは今、現行犯で陸軍省庁舎を占領し、国家造反の最中にあるのだ!」


「……一斉に、腹を下した、だと?」


流石にそのあまりにも不自然な古賀の言い訳に、森中将の脳内で強烈な不審のフラグが立った。森は鋭い目で古賀を睨みつけると、背後に控えていた直属の伝令兵に向けて怒号を飛ばした。


「伝令! 今すぐ近衛歩兵連隊の屯所へ走れ! 兵たちが本当に寝室にいるのか、それとも市ヶ谷へ向かったのか、直ちに事実を確認して――」


「――そこまでだッ!!!」


事の露見を察し、完全に追い詰められた古賀少佐の理性が、ここで完全に破綻した。

古賀は狂ったように叫ぶと、腰のホルスターから十四年式拳銃を素早く引き抜き、安全装置を外す間もなく、隣にいた森中将の首元へと力任せに腕を回して引き寄せた。銃口が、森中将の側頭部へと強く突きつけられる。


「動くな! 東部軍の正規兵ども! 一歩でも近づけば、この場で師団長閣下の脳味噌をぶちまけるぞ!」


「古賀、貴様ァッ! 乱心したか!」


人質に取られた森中将が叫ぶ。広場の東部軍の兵士たちが一斉に小銃を構え、現場は一瞬にして最悪の状態へと陥った。


◇◇◇

10メートル/秒の物理パッチ

◇◇◇


「おいおい、東京駅の次は二重橋前かよ。主戦派の連中、どいつもこいつも追い詰められるとすぐ銃を抜いて人質を取りやがるな……」


現代の自宅。

パソコンモニターの前に張り付いていた浩平は、FPVカメラの映像越しに古賀少佐が森中将を羽交い締めにしている緊迫の様子を確認し、深くため息をついた。

これ以上事態が悪化し、近衛師団長である森中将がここで殺害されれば、東京の命令系統は完全に崩壊する。それは広島の原爆回避というメインミッションに対しても、致命的な不確定要素を引き起こしかねない。


「流石にここまでくると、俺が直接ゲームシステム(物理)の力で介入せざるを得ないな。まずは、この森中将を保護するために、畑のオヤジの時に書いた防衛コードを走らせるか」


浩平は使い慣れたゲーム内の開発環境エディタを開くと、昨日列車内で実行した『対象防衛ループ(target_defense_loop.py)』のソースコードを丸ごと画面にコピペした。


「よし、これで森中将の身の安全プロテクトは確保した。だけど、あの古賀とかいう少佐、ずっと銃を突きつけたままじゃ話が進まないな。……よし、インベントリにある『ポリカーボネート製の防護盾』に、直接、物理的な運動エネルギー(速度)を付与して射出してやる」


浩平はゲーム内のインベントリから、在庫アイテムとして保持していた重厚な警察用のポリカーボネート製シールド(盾)のオブジェクトを選択。その初期パラメータの『速度ベクトル』の項目へ、意図的な数値をタイピングした。


設定パラメータ:[Speed Vec: 10.0 m/s] [Init. Position: 古賀秀正の胸元前方30cm]


時速に換算すれば約36キロメートル。自動車が一般道を走るほどの、人間一人を確実に消し飛ばす質量弾としての設定だ。


「よし、古賀少佐。未来の治安維持用の盾の強度、その身で味わってみてくれ。鼻の骨が折れても、俺に文庫の苦情(文句)は言わないでくれよ?」


浩平の指先が、Enterキーを強く叩いた。


ドンッ!!!!!


「がはァッ!?!?」


次の瞬間、何もない真夏の青空から、突如として『頑強な透明の盾』が時速36キロの猛烈な速度を伴って空間から物質化し、古賀少佐の顔面と胸元に向けて真っ直ぐに激突した。

凄まじい衝撃音と共に、古賀少佐の体は後ろへと面白いくらいに弾き飛ばされ、手にした拳銃は宙を舞ってアスファルトへとカランカランと転がっていった。古賀はそのまま広場の地面を数メートルにわたって無様に転がり、鼻から鮮血を吹き出して悶絶した。


そして、古賀の体を完全に引き離したその『透明な盾』は、役目を終えた瞬間に、浩平の仕掛けた自動回収コードによって、再び一瞬で虚空へと消え去り、インベントリの中へと跡形もなく引き揚げられた。


「な……な、何が起きたのだ……!?」


人質から解放された森中将が、自らの身に起きたあまりの超常現象に目を丸くしてへたり込む。

田中静壱大将もまた、一瞬だけ驚愕に目をみはったが、すぐにその軍人としての意識を取り戻し、周囲の兵たちへ向けて地を這うような怒号を飛ばした。


「衛兵ッ! 乱心した造反の内通者、古賀少佐を直ちに拘束しろ! 逆賊の身柄を確保するのだ!!」


「ハッ!!」


周囲の東部軍の兵士たちが一斉に飛びかかり、地面でのたうち回る古賀少佐の体を力任せに押さえつけ、その手首へ強固に縄をかけ始めた。


二重橋前のデッドロックは、天の見えないエンジニアの「物理介入」によって、一瞬にして強制終了で無血解決された。しかし、市ヶ谷の地下壕に立てこもる阿南陸相と畑元帥の元には、地上を占拠した柳瀬の軍勢による、さらなるインフラ遮断の圧力が刻一刻と迫っていた。


【現在のクレジット残額:789,370,780ゼニ】

【ゲーム内で関わった人数:約123,900人】

おまたせしました

前回の投稿から、少し不評なのかな?と少し肌感覚がありました

本当は当時の軍国主義への描写を最小限にしたかったのに、今後の物語へ布石としては避けて通れない道だよな

しかし、宮城事件を見て、田中大将や森赳中将を救えたら良いな、と思う心理もあります(一応皇居襲撃は起こしてないため、田中大将もセーフなはず)

東京でのエピソードは、後数話くらい続く予定です

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― 新着の感想 ―
あの魔法つかい少女じゃないが、君は神に?な能力大盤振る舞いですなあ。 ファミコン世代だと、ここからマザーな感じで、ポー○ーがきて、力に溺れ、振り回しifもあったらワクワク。
面白く読ませてもらってます。 物理操作面で出来ることが増えると主人公の知恵の表現方法が難しいだろうなと思っちゃいます。
>前回の投稿から、少し不評なのかな?と少し肌感覚がありました たしかに通信網を設置するのは専門的すぎてイメージが難しい気がしますね。 その上、民間人から話が離れていますし。 でも、仰る通り、そこを書…
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