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1945年7月31日 オヤジ救出作戦 その1

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

【現在のクレジット残額:928,518,980ゼニ(コードによる自動運用分を含む)】

【ゲーム内で関わった人数:約123,500人】


◇◇◇

新たな機能

◇◇◇


1945年7月31日。ゲームの画面に、これまで見たこともないほど大量の通知が、滝のように流れ落ちてきた。


【おめでとうございます。ゲーム内で関わった人数が12万人を超えました。これに伴い、プレイヤーレベルが一気に『40』へと上昇しました】


画面には、未受け取りだった生存関与ボーナスが、次々と加算されていくログが出力された。


LV26〜29ボーナス(7000〜10000人):計34,000,000ゼニ

LV30〜40ボーナス(20000〜120000人):計770,000,000ゼニ

【ボーナス総計:804,000,000ゼニ】支給完了。


さらに、レベル40への到達に伴い、システムの仕様が大幅に拡張される。

日次支給額の増額: 1日の基本予算が1億2000万ゼニに増額。


『世界の品物の一時収納機能』の解放:


ゲーム世界に存在する、分離可能な物品(所有者がいない、または所有者が所有権を一時的に放棄したもの)を、空間を越えてインベントリへ回収し、保管できる。再配置の際には、指定の座標、温度、速度を付与して世界へ戻すことが可能。


『特定検索機能』の解放:


人名、地名、固有名称を検索窓に入力することで、カメラの視点を瞬時に該当の対象へジャンプさせる。

なお、広範囲の現象(石油、砂金、鉱脈等)は検索対象にならない。


『東京マップ』の解放:


畑元帥の移動に伴い、1945年の東京都とその周辺地域が探索可能エリアとして解放されました。


【現在のクレジット残額:928,518,980ゼニ(自動運用分を含む)】


「……き、9億? 桁数が多すぎて一瞬バグかと思ったぞ」


浩平は画面に並ぶ「9」の数字を前に、思わず椅子から立ち上がった。前日、呉への大規模な水と食糧の配給を行ったことで、間接的に救われた20万人の市民のデータがシステムに「実績」として承認され、国家予算規模の莫大な予算が還元されたのだ。これだけの資金があれば、理論上、100万人の人間をしばらく養うことすら不可能ではない。


◇◇◇

呉への一週間分の物資

◇◇◇


午前7時00分。浩平の自宅。


前夜の列車内での柳瀬中佐による襲撃事件の余韻が残る中、浩平は早朝からパソコンの前に張り付いていた。

まずは新しく設定した自動給水プログラムが正常に動いているかを確認するため、カメラの視点を呉の宮原浄水場へと飛ばした。標高90メートルの低区配水池には、深夜0時の自動更新によって、澄み切った冷水が並々と満たされていた。


「よし、給水ラインの自動化は完璧だな。次は、呉の需品庫にお米と食糧を送り込むか」


浩平は、毎日手動で物資を配置する手間を省き、かつ現場の軍人たちが計画的に分配できるよう、思い切って「一週間分」の物資をまとめて三つの赤レンガ倉庫へ一括投入することにした。

さらに、昨日の配給で「1人あたり1200キロカロリーでは、生き延びられても腹いっぱいには程遠い」という現実を痛感したため、今回は精米の量を1.5倍(1日1合半)、砂糖と油の量も2倍へと贅沢に増量した。


精米(業務用20kg袋)/ 2,250袋 = 11,250,000ゼニ

業務用小麦粉(25kg袋)/ 1,000袋 = 2,500,000ゼニ

業務用上白糖(20kg袋)/ 500袋 = 3,000,000ゼニ

業務用キャノーラ油(一斗缶16.5kg)/ 242缶 = 1,210,000ゼニ

【呉市食糧配給(1日分):17,960,000ゼニ】


これを7日分、さらに呉海軍病院への医療物資の継続支援(1日あたり1,741,000ゼニ)の7日分を合わせて、総額【1億37,900,000ゼニ】を一括で引き落とした。広島の陸軍病院は、前日畑元帥が届けた分でまだ余裕があるため、後日の補充に回す。


【現在のクレジット残額:790,618,980ゼニ】


広大な呉の三棟の赤レンガ倉庫が、床から天井に至るまで、麻袋と一斗缶の山によって完全に埋め尽くされた。浩平は、1日の推奨配給量を細かく記載したA4の指示書をプリントアウトし、金沢長官の執務デスクの上へと直接転送した。


「これで、一人あたり1日約1600キロカロリーだ。満足な満腹にはまだ遠いけれど、既存の軍の備蓄と配給と合わせれば、餓死のリスクからは完全に脱却できるはずだ。……金沢長官、あとはそっちで上手く差配してくれ」


画面の向こう、呉鎮守府長官室では、突如としてデスクに現れた指示書を掴んだ金沢中将が、直後に廊下から駆け込んできた部下の報告を聞いて目を見開いていた。


「な、何だと……!? 三棟の倉庫のすべてが、天井まで米の袋と油の缶で埋まり、扉が内側から開かぬほどだと!?」


「ハッ! 昨日の10倍以上の物量にございます! 病院への薬品箱も、一週間分が山積みになっております!」


報告を裏付けるように、手元の紙には『当面の間、これだけの量を維持する。民へ等しく行き渡らせよ』と印字されている。

金沢長官は、椅子に深く寄りかかり、天を仰いで笑った。


「ハハ……。一週間分をまとめて前払いでよこすとは、天の監視者殿の度量の大きさには、恐れ入るばかりだな。おい、すぐに大八車の手配を昨日の倍に増やせ! 呉の民を、一人残らず食わせるぞ!」


◇◇◇

東京駅の罠と、見えない手

◇◇◇


午前11時00分。東京駅、東海道線プラットフォーム。


浩平が現実世界の仕事を一区切りさせ、画面を『東京マップ』へと切り替えると、ちょうど畑元帥の乗った特別急行列車がホームへと滑り込むところだった。

列車が停止し、客車の扉が開く。畑元帥と副官、随行の将校たちが、全身を縄で強固に縛り上げた柳瀬中佐を中央に挟み、警戒しながらホームへと降り立った。


だが、直後に待ち構えていた数十名の東京憲兵隊が、小銃を構えて畑元帥らを完全に包囲した。

モニターの前で浩平が息を呑む中、信じられない光景が映し出される。


包囲した憲兵の一人が、畑元帥らの目の前で、囚人であるはずの柳瀬中佐の縄をナイフで素早く切り離したのだ。自由になった柳瀬中佐は、手首をさすりながら、歪んだ笑みを浮かべて憲兵の隊長に言い放った。


「ご苦労。手回し通りだな。……これでようやく、皇国の戦を汚そうとする国賊どもを、一網打尽に始末できる!」


「――くそ、憲兵隊も、最初から柳瀬の過激派グループの身内グルだったのか!」


浩平は怒りで頭に血が上り、マウスを握りしめた。だが、畑元帥は毅然として右手を掲げ、画面の向こうの浩平の介入を強く制止したまま、憲兵たちに囲まれて駅の薄暗い地下通路へと連れ去られていく。畑元帥の意志を尊重し、ここで物理的な強行突破を行うわけにはいかない。


「いや、待て。今すべきことは何だ? どうやって救い出す? ……そうだ、証拠を残したらまずい!」


浩平は、憲兵たちが畑元帥らの荷物――昭和天皇へと献上するための風呂敷包みや二重の木箱を、押収品として手荒に台車へ積み上げるのを目撃した。あの箱の中には、未来のカラー印刷で刷られた『現代の日本地図』や『令和の皇室百科』が入っている。もしこれらが徹底抗戦派の手に渡り、未来の情報として悪用されれば、歴史のタイムラインが致命的なトラブルを起こしかねない。


「今こそ、『購入品の回収機能』を使うタイミングだ!」


浩平は画面上の台車に視点を定め、風呂敷の中の木箱を透過するようにクリックした。

システムがオブジェクトの構造を識別する。箱の所有権は、逮捕された畑元帥の手から離れ、憲兵たちも単なる押収品として扱っているため、一時的な「所有権の放棄状態」とみなされた。


フッ、フッ、フッ。


木箱の内部から、最悪のネタバレ本である『日本地図帳』と『皇室百科』、ポータブルDVDプレイヤーと広島原爆の写真集、さらに要人への土産用に用意したアリナミンEXプラス20缶が、外側の風呂敷や箱の形を一切崩すことなく、音もなく浩平側のゲーム内インベントリ空間へと回収された。

すべてを消し去って空箱にしてしまうと、不審に思った憲兵たちがその場で箱を開けて大騒ぎする危険がある。そのため、昭和天皇の目を引くための『新訂原色植物大図鑑』の上巻の1冊と、高級ウイスキーの箱だけはそのまま残し、最低限の質量感を維持した。


台車は何の異変も察知されることなく、憲兵たちの手によって東京駅の暗がりへと運び去られていった。


◇◇◇

九段下の秘密独房

◇◇◇


正午。九段下・東京憲兵司令部、秘密地下独房。


冷たいコンクリートの壁に囲まれた薄暗い地下室へ、畑元帥と副官、そして随行員たちの身体が手荒に押し込まれ、鉄格子の扉が重々しい音を立てて閉ざされた。


独房の外の通路では、柳瀬中佐が憲兵隊長を壁際に押しつけ、血走った目で声を潜めて迫っていた。


「隊長、何を躊躇っている! 後日の憂いを完全に断つためにも、今すぐここで、あの老いぼれ(畑元帥)とその一派をスパイ容疑で秘密裏に銃殺しろ! 奴らは不気味な写真や動く絵を使い、陛下をたぶらかして国を売ろうとしているのだぞ!」


しかし、憲兵隊長は柳瀬の手を冷ややかに払い、困惑を隠さない表情で首を振った。


「柳瀬中佐、滅多なことを言うな。お前たちの言い分通り『怪しげな物資の不正流用』の疑いで身柄を拘束するまでは、軍務局からの超法規的な要請として付き合ってやった。だが、相手は元帥陸軍大将だぞ。陸軍の頂点に立つ重鎮を、一憲兵隊長の一存で裁判もなしに処刑などできるわけがなかろう。陸軍大臣や宮中への手続きが先だ」


「チッ、役人め……!」


柳瀬中佐は激しく歯噛みし、その表情に焦燥の色を隠せなかった。もし、この不当逮捕の事実が阿南陸相や政府の上層部に完全に露見すれば、軍紀違反として真っ先に処罰されるのは自分たち過激派の方だからだ。


同じ頃、司令部の検分室では、畑元帥らから押収した木箱の開封が行われていた。

憲兵たちが風呂敷を剥ぎ取り、慎重に木箱の蓋を開けると、そこから現れたのは、現代の洗練されたデザインが施された高級ウイスキー『響 21年』の美しいボトルの数々と、1冊の極めて分厚い書籍だった。


「……なんだ、この酒は。これほど見事なガラス瓶は見たことがない。それに、この本は……」


憲兵が『新訂原色植物大図鑑』を手に取る。表紙を開くと、そこには当時の技術では絶対に不可能な、瑞々しい極彩色の植物の写真が、まるで生きているかのような鮮やかさで印刷されていた。


「長官、これは……。本当に、我が国の軍工廠が秘密裏に開発した特殊印刷技術なのかもしれません。印刷の質が、現在一般の本を遥かに超越しています」


部下の報告に、憲兵隊長はますます眉のシワを深くし、畑元帥という存在の後ろにある「底知れぬ影」への恐怖を募らせていた。


独房の奥で静かに壁に背を預ける畑元帥の胸元では、浩平が仕掛けた透明な盾の自動防衛プログラム(target_defense_loop.py)が、ミリ秒単位で周囲の弾道ベクトルを監視し続けていた。銃殺の危険は、システムが完全にプロテクトしている。


◇◇◇

広島・呉への緊急要請

◇◇◇


「物理的な暴力ならシステムで防げるけど、この時代の政治的な罠からオヤジを救い出すには、俺だけの力じゃ無理だ。この時代のルールを知り尽くした、現地の重鎮たちの知恵を借りるしかない」


浩平は即座にFPVカメラの視点を広島の総軍司令部、そして呉の鎮守府長官室へとジャンプさせた。それぞれのデスクの上に、現在の帝都の緊迫した状況を伝える2枚のA4用紙を出力し、同時にデプロイした。


『藤堂さん、金沢さんへ


緊急事態が発生した。畑元帥が昨夜、東京に向けて出発した後、日付が変わる頃に列車内で柳瀬中佐からの暗殺未遂に遭った。私の自動防衛の仕掛けが発動したため事なきを得たが、畑元帥と副官一同は、本日午前11時頃に東京駅へ降り立った直後、待ち構えていた東京憲兵隊によって不当に逮捕された。

容疑は「物資の隠匿および不正流用、統帥権への著しい越権行為、ならびに国家反逆の罪」である。畑元帥自身の強い意志により、私の力による憲兵隊の排除は制止された。


現在は九段下の東京憲兵司令部にある秘密地下独房に監禁されている。現時点で命の別状はなく、拷問も受けていないが、徹底抗戦派の若手がいつ暴発するかはわからない。あなたたちの知恵が必要だ。どうすれば合法的に、かつ手続き的に正しく、畑元帥をあの場所から救い出せるか。この紙の下の空白に、手書きで書面として教えてほしい。

補足:現時点での首謀者は陸軍省軍務局所属の柳瀬一真陸軍中佐と見る。藤堂さんはどう見る? 金沢さんも思いつくことがあれば是非。 ――監視者』


広島の総軍司令部。


現れた紙面を一読した藤堂中将は、その凄まじい内容に一瞬目を見開いたが、長年鍛え上げた軍人としての理性ですぐさま冷徹な落ち着きを取り戻した。彼は万年筆を握ると、紙の下の空白へ向けて、流れるような達筆で解決策を書き込み始めた。


『――状況は理解した。軍務局の過激派どもめ、先手を打って東京憲兵の幹部を抱き込んだか。柳瀬一真は陸軍内でも狂信的な主戦派として知られる男だ。

畑元帥を合法的に釈放させる権限を持つのは、陸軍の最高権力者である【阿南惟幾あなみ これちか陸軍大臣】しかいない。阿南陸相は過激派の暴走を抑えたがっており、かつ畑元帥を深く崇拝している。元帥が不当に監禁されていると知れば、必ずや直属の釈放命令を下すだろう。

ただし、今この状況で広島から東京へ軍用電話をかければ、確実に軍務局か憲兵の通信網によって傍受(盗聴)され、先手を打たれて元帥の身が隠滅される。東京の陸相へ直接、誰にも気づかれずに連絡を繋ぐ手段があれば良いのだが……』


同じ頃、呉鎮守府長官室。


金沢中将もまた、届けられた監視者からの緊急通知を前に、深く考え込んでいた。彼は手帳を取り出すと、短い沈黙の後、力強い筆致で紙へ回答を認めた。

なお、藤堂が阿南陸相を押した事は、金沢への連絡用紙には追記されていた。


『陸軍側が阿南陸相を動かすのであれば、我が海軍、および宮中(皇室)からは【木戸幸一きど こういち内大臣】を動かすべきである。木戸内大臣は陛下の最側近であり、和平派の筆頭だ。彼を通じて昭和天皇陛下へ直接、「畑元帥が主戦派の不当な罠によって拘束されました。元帥は陛下へ命を賭した直訴を求めております」と宮中から上奏させれば、聖断――すなわち陛下からの直々の親裁によって、憲兵隊を根底からひっくり返すことができる。

問題は、陸軍の厳重な包囲網が敷かれた九段下の憲兵司令部から、どうやって宮中の木戸内大臣へと連絡を届けるかだ。陸海軍の通信は完全に遮断されていると見るべきだろう』


モニターの前で、広島の藤堂、呉の金沢から同時に書き込まれた「解決策」を読み取った浩平は、不敵な笑みを浮かべてキーボードを叩いた。


「なるほど、陸軍大臣の阿南と、宮中の木戸内大臣の二人を動かせばいいんだな。そして最大の問題は『東京憲兵に気づかれずに、広島・呉から東京の中枢へ直接、確実な連絡を繋ぐ手段がない』こと……」


浩平は、レベル40に上がった手元のコンソール画面を見つめた。


「通信の傍受? 陸軍の包囲網? ――笑わせるなよ。そんなアナログな障害、俺のシステムの力の前には、1ミリの障壁にもなりゃしないんだよ」


午前11時30分。

東京憲兵隊が畑元帥の処遇に揺れる中、プログラマー浩平による、国家中枢の通信網を根底からハックする「超長距離・秘密通信ラインの確立」が、静かにその実行命令を待っていた。


【現在のクレジット残額:790,618,980ゼニ】

【ゲーム内で関わった人数:約123,500人】

おまたせしました

またテンポが遅くなってしまい恐縮です

次は、浩平は現代の力を使って広島から東京への直通回線を開通させる回です

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