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1945年7月29日 呉鎮守府で直談判

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

ゲーム内クレジット残額:101,930ゼニ

ゲーム内で関わった人数:26人(すずと周辺家族) + 31人(黒田藤堂の謀略関係) + 10人(及川院長関係) + 631(陸軍病院治療患者) + 4人(巡洋艦救出人員) + 126人(先遣隊医師救助患者) + 667(浩平一時救助患者) + + ????人(これからの呉の負傷者治療) = 1495 + ????人


◇◇◇

鎮守府への誘い

◇◇◇


1945年7月29日、午後4時10分。


「物資はありがたく接収する! だが、陸軍の人間がこの門をくぐることは許さん。……藤堂中将閣下、賢明なご判断を」


海軍病院の正門前。眼鏡の奥の目を冷徹に光らせる海軍軍医大佐の言葉に、同行した陸軍の追加医療チームの司令部医務室付きの医師3名と看護婦5名は、戸惑いの表情で互いを見合わせた。彼らはまだ、監視者(浩平)の薬の威力を知らない。海軍の威圧的な態度に、どこか気圧されたような空気が流れる。


だが、その強固な「陸海軍の壁」を、内側から激しくぶち破る足音が響いた。


「どけ! どかんか、海軍の分からず屋どもが!」


病院の玄関から、血と煤、そして黄色いワセリンにまみれた防空白衣を翻し、血走った目で走ってきたのは、本日の朝、先遣隊として呉に乗り込んでいた陸軍病院の医師の一人だった。彼の後ろには、同じく疲弊しきった、しかし目に異様な光を宿した2名の看護婦が従っている。


「な、何事だ、陸軍の先生。ここは海軍の――」


門前の海軍大佐が咎めようとしたが、陸軍先遣隊の医師はその胸ぐらを掴まんばかりの勢いで怒鳴り返した。


「メンツなど糞食らえだ、金沢長官はどこにおられる! 藤堂閣下が連れてきてくださったこのトラックの荷台を見ろ! 我々が喉から手が出るほど欲していた『真水』と『包帯さらし』、そしてあの痛みを消し去る魔法の錠剤が、山ほど積まれているのだぞ!」


「なっ……魔法だと?世迷言を言うな!」


呉海軍病院の正門前で繰り広げられる、陸軍追加チームと海軍軍医大佐による不毛な押し問答。

実は、第二総軍の畑俊六元帥から、呉鎮守府司令長官である金沢正雄海軍中将へ、事前に「未来の日本の為に、陸軍の持ち込む物資の円滑運用に最大限協力してほしい」との緊急電話が入っていた。しかし、生粋の海軍軍人である金沢中将は、畑元帥のその言葉を「敗戦間近の狂言か、陸軍による呉の主導権強奪の策謀」と激しく懐疑的に捉えていたのだ。


門前でらちが明かない最中、血と黄色いワセリンにまみれた防空白衣の「陸軍先遣隊」の医師たちが院内から突っ込んできて、海軍の頑迷さを激しく非難する。その熱量に周囲が圧倒されていたその時、正門の奥から一人の海軍伝令兵が鋭く駆け込んできた。


「藤堂中将閣下、ならびに黒田少将閣下! 金沢長官より伝令にございます。お二方を直ちに、呉鎮守府司令長官室へお連れせよとのことです!」


藤堂中将は、ギロリと門前の海軍大佐を睨みつけると、毅然と言い放った。


「長官室への面会は承知した。だが、この無駄な問答の間にも命が消えている。せめて、我が方から連れてきた3名の医師と5名の看護婦は、すでに事情を熟知している先遣隊医師の指揮の元、直ちに病院内の患者救護に当たらせる。異論はあるまいな」


海軍大佐は、先遣隊の医師たちが持っていた特効薬の空き箱と、実際に痛みが引いて静かになった院内の実績を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔で渋々同意した。


「……お前たちの持ち込んだ特効薬の効果は認めよう。だが、院内の最終決定権は、あくまで我々海軍病院にあることを忘れるな!」


「分かっている。行くぞ、黒田」


藤堂と黒田は伝令の案内を受け、重苦しい空気が漂う呉鎮守府の司令長官室へと歩を進めた。


◇◇◇


1945年7月29日、午後4時25分。


長官室の重厚な扉を開けると、そこに佇んでいた金沢正雄海軍中将が、深く、丁寧な一礼をもって二人を迎えた。


「藤堂閣下、黒田閣下。まずは、広島からこれほどの物量を率いて呉の救援に駆けつけてくれたこと、海軍を代表して深く感謝の意を表する」


だが、頭を上げた金沢中将の目は、冷徹な軍人に戻っていた。彼は言葉をなだめるように続ける。


「……しかし、だ。統帥権の独立、そして管轄を重んじるのは我が軍の絶対たる伝統。戦時下において組織の境界を曖昧にすることは、最悪の混乱を招く。陸軍側も、この大原則は重々理解されているはずだ。物資は海軍が責任を持って管理・運用する。陸軍はこれ以上、現場に介入されるな」


◇◇◇

公平という「理想論」

◇◇◇


藤堂は、金沢の言葉の裏にある「海軍のメンツ」を敏感に感じ取り、一歩も引かずに切り返した。


「金沢閣下。私たちが運んできた物資は、現行の軍の常識では計れない『特別な物』にございます。その利用方法や投与の加減は、未来の技術を熟知している我々が常に指導せねばならん。そして、我々が救うべき対象は、海軍の兵のみにあらず。呉の街で焼け出された民間人もまた、平等に救助せねばならんのです」


その言葉を一聴した金沢中将は、鼻で冷たく笑い、藤堂の提案を一蹴した。


「藤堂閣下、甘いな。今は戦争中だ。残念ながら、限られた食糧も薬も救護の手も、すべて『軍を最優先』にせざるを得ん。それが防衛の現実だ。閣下の民への過剰な思いやりは、この極限状態においてはあまりにも身の程知らずな『理想論』に過ぎんのだよ!」


軍最優先。民間人は後回し。

金沢が吐き捨てたその冷酷な言葉は、FPVカメラを通じて、現代世界のモニターの前にいる浩平の耳へダイレクトに届いていた。


「……理想論だと?」


浩平の脳裏に、さっき見たばかりの「地獄の三丁目」で、水も薬もなく泥の上で干からびて死んでいった民間人の子供たちの姿がフラッシュバックする。

せっかく、260万ゼニの限界突破課金をして、1万人以上の全員を救えるだけの物資と薬をトラックに満載して送り届けたのだ。それを、組織の派閥の意地と「軍優先」という悪癖で、目の前の命を間引きしようとしている。


「ふざけるな……。命を何だと思ってるんだ!」


浩平の胸の内に、言葉にできない激しい怒りが沸き上がった。この頑固な海軍中将の頭を、未来の圧倒的な事実で叩き割ってやる。浩平は躊躇なく、ゲーム内ショップの検索バーを叩いた。


『日本海軍艦艇図鑑 精密図解(2000ゼニ)』を購入。

そして、一部の商品で選べる『ギフト包装』機能を使い、今までメッセージの140文字制限を、ギフト手紙に切り替えると500文字まで増えた。

浩平は、怒りの丈をぶつけたメッセージをキーボードに叩きつけ、藤堂の背後のデスクの上へと転送した。


コトッ。


藤堂中将のすぐ後ろの机の上に、突然、現代の精緻な印刷技術で作られたフルカラーの書籍が出現した。

藤堂は振り返らずともそれが「監視者殿の介入」であることを悟り、サッとその手紙を抜き取ると、金沢中将の目を真っ直ぐに見据えて、そこに書かれた言葉を寸分違わず、朗々と読み上げ始めた。


「――海軍中将閣下。その立派な肩書と権限で、米は生まれますか?」


「何……?」


金沢が眉をひそめる。藤堂の声には、まるで神が告げるかのような冷徹な響きが宿っていた。


「今、この呉で足りないさらしと包帯を、その権限で一反でも生み出せますか? 沈没した艦の鉄の底に閉じ込められたまま、酸素が尽きて苦しむ兵を、あなた自身の腕で救い出せますか? ……あなたにできることは、藤堂中将や医者たちが必死に繋ごうとしている命を、派閥の意地で邪魔して、ただ『死者の数』を増やすことだけです。違いますか?」


長官室の空気が、一瞬にして凍りついた。金沢中将の顔が、怒りでワナワナと震え始める。


「私はただ、死ぬ人間を少しでも減らしたいだけです。陸軍だろうと海軍だろうと関係ありません。同じ日本人として、命を救いたいだけなんです」


読み終えた藤堂は、手紙を静かに畳んだ。


「金沢閣下。これは、この日本を救おうと天より観測している、我が陸軍の背後にいらっしゃる方の言葉にございます」


「貴様ッ……! 我が海軍を、この金沢を愚弄するか! 幻術か何か知らんが、はったりも大概にしろ!」


プライドを極限まで侮辱された金沢中将が、逆上してデスクを叩こうとした、その時。


長官室のドアが勢いよく開き、一人の海軍参謀が息を切らせて飛び込んできた。


「長官! 緊急報告にございます! 先ほど港内で大破着底した巡洋艦の内部より、生存者4名が、自力で海面へ脱出してまいりました!」


「何だと!? あの完全浸水した区画からか!?」


驚愕する金沢中将の前に、参謀は彼らが身につけていた「奇妙な装備」をテーブルの上に並べさせた。

それは、現代の最新テクノロジーで作られた簡易ダイビングセット(0.5Lのミニ酸素ボンベ、まばゆいLEDライト、精密なレギュレーター、シリコン製マスク、プラスチック製のフィン)だった。


藤堂はそれを一目見て、内心で「やはり監視者殿だ……!」と激しく確信した。


「長官。その巡洋艦人員4名の救助は、先ほど手紙をよこした『監視者殿』が、人知を超えた力で直接行われたものです。これが、はったりに見えますか?」


「馬鹿な……こんな道具、どこの国が作れるというのだ! これは陸軍の謀略だ、信じられるか!」


金沢中将がなおも現実を拒絶しようとした、その瞬間だった。


モニター越しにその様子を見ていた浩平は、マウスをクリックした。


(まだ分からないか。なら、目の前で見せてやる)


浩平はショップから、ダイビングセットに付属していたものと全く同じ「LED防水ハンディライト(単体1500ゼニ)」を急遽購入。スイッチを『ON』にした状態のまま、金沢中将のデスクの上方、きっちり1メートルの空中を指定して転送した。


パッ!!!


何もない長官室の空間に、突然、太陽のごとき超高輝度の白い光が爆発的に出現した。

白いライトの本体が、重力に従ってストン、と金沢の目の前のデスクの上に静かに落下する。


「なっ……ああぁっ!?」


金沢中将は椅子ごとひっくり返らんばかりに飛び退き、光源を凝視した。発熱もそこまでせず、油も使わず、ただひたすらに純粋な光を放ち続ける小さな筒。空間が歪んで物質が出現する瞬間を目の当たりにし、彼の合理的な思考は完全に瓦解した。


◇◇◇

司令長官の妥協

◇◇◇


室内の全員が呆然自失となる中、藤堂中将は静かに、先ほど机に出現していた『日本海軍艦艇図鑑 精密図解』を金沢の前へと滑らせた。


「金沢閣下。これも、その方が置いていかれたものです。ご覧なさい」


金沢中将は震える手で、その極彩色の分厚い本を開いた。

数ページめくった瞬間、彼の目はこれ以上ないほど見開かれた。そこには、大日本帝国海軍が極秘中の極秘としていた戦艦や巡洋艦の「6面詳細図面」や「内部の完全な構造図」、さらには最高機密であるはずの兵装のスペックが、寸分の狂いもなくカラーで掲載されていた。外部の人間や陸軍が絶対に知り得ない情報が、網羅されていたのだ。


さらに金沢の指が止まる。

本の後半には、現状、呉軍港で大破し、あるいは炎上している艦艇たちのその後の歴史の運命が、詳細な写真と共に過去形の日付で書き連ねられていた。


『巡洋艦〇〇、7月28日の爆撃により大破着底。戦後、解体処分――』


「これが……我らの艦隊の……未来の姿……」


圧倒的な、ぐうの音も出ないほどの「証拠」の前に、金沢正雄の頑なだったプライドは完全に打ち砕かれた。未来の存在を、そして自分たちがこれから辿る破滅の歴史を、認めざるを得なかった。


沈没艦からの4名の生還、虚空から現れた光、そして未来の図鑑。

金沢中将は、未来の艦艇図鑑を震える手で閉じ、深く目を閉じた。長官室に重い沈黙が落ちる。

重すぎる沈黙の果てに、金沢中将は深く、深く溜息をつき、絞り出すように口を開いた。


「……藤堂閣下。私はな、四十余年、この海軍のために生きてきた。

統帥権の独立、海軍の誇り、組織の秩序……それが我々を支えてきた『壁』だと、信じて疑わなかった。

この壁を崩せば、軍は瓦解し、戦線は崩れる……そう教えられてきたのだ」


彼はゆっくりと目を開け、老いた軍人の目で藤堂を正面から見た。その瞳には、怒りではなく、深い疲労と葛藤が浮かんでいた。


「しかし……今、この目で見た。

虚空から現れる光、鉄の底から生きて還ってきた部下たち、そして……我々がまだ知らぬはずの、艦隊の未来の姿。

これが幻ではないのなら……私は、ただの組織の亡霊に過ぎなかったのかもしれん」


金沢は自嘲するように小さく笑った。


「会議を開き、統帥権を盾に取り、管轄を主張する。

それが我々の仕事だと思っていた。

だが、現実は……そんな悠長なことをしている間に、部下も、民も、泥の中で干からびて死んでいく。

……情けない話だ。海軍中将の肩書が、ただの足枷に成り下がるとはな」


彼は深く息を吐き、肩を落とした。長い沈黙の後、掠れた声で続けた。


「……藤堂閣下。私の負けだ。未来の御仁の、言葉の通りであるな」


金沢は眼鏡を外し、目元を押さえた。


「私は呉鎮守府の海軍の長として、組織の秩序を完全に無視することはできん。だが……現実を見ろと言われれば、確かに、このままでは何も救えん。

陸軍物資の運用指揮は、その利用法を完全に熟知している陸軍の医師方に一任する。トラックの随行員たちの救助活動への参加も、海軍として認めよう。……懸念の民間人の救助に関しても、海軍病院の診療と並行して、陸軍医師の判断の元で自由に行うことを許す」


そこまで一気に譲歩した金沢は、最後に軍人としての鋭い目を藤堂に向けた。


「ただし、これ以上の統帥権の乱れと、現地兵の混乱を防ぐため、ここ呉においては、広島へ帰還するその時まで、藤堂閣下、黒田閣下、お二方が直接現場を指揮することは差し控えていただきたい。物資と医療は現場に任せる。これで、よろしいか?」


藤堂は、隣の黒田少将と短く目配せを交わした。

これ以上海軍を追い詰めれば、かえって現場の組織的な瓦解を招く。物資の全権を陸軍医師に握らせ、民間人の救済枠を勝ち取ったのであれば、これ以上の好条件はない。


「承知いたしました、金沢長官。現場は医師たちに委ね、我々はここで行方を見守りましょう」


藤堂の同意に、金沢中将は力なく、しかし安堵したように頷いた。

陸海軍の強固な壁が、未来の圧倒的な奇跡によって、ついに完全な和解を見せた瞬間であった。

お待たせしました。

今回のエピソードは、正直に言うと執筆しながらかなり感情が揺れました。

政治や軍の派閥争いをメインに書きたいわけではないのですが、物語の流れ上、どうしても避けて通れない壁でした。

史実では海軍は陸軍に比べて比較的現実主義者が多く、早期講和を模索する声もあったと聞きます。しかし本作は広島から始まっているため、どうしても先に陸軍側を説得し、その上で海軍に協力を求める形になっています。

このエピソードで私が表現したかったのは、

表:現実を見据えての海軍の協力(条件付き)

裏:会議という名の、効率の悪い「現場に害悪しか生まない存在」

です。


そして一番怖いなのは、その後で金沢は絶対に気づくはず

本から「7/24や7/28の空襲がもう知っているなら、なぜ教えてくれない」の事だよね


司令長官クラスになると、多少「なぜ教えない理由」は理解できると思うけれども

物語的には7/24は浩平プレイ二日目、その時はまだすずさんとゆみこさんたちの事だけを心配していた。

初日の7/23いきなり政治工作して黒田や藤堂の信頼を勝ち取るとか不可能に近い。


7/28の時はきちんと浩平も黒田も藤堂空襲を意識していたが、結局「教えても信じてもらえず、逆に教える側が危ない」が理由で、事前回避は無理だった

浩平が5日10日早くこの世界(ゲーム)に介入できれば、歴史はまた違う方向に進むかもしれない


金沢中将は史実でも実務能力の高い人物として知られていますが、それでも組織の論理とプライドの壁は厚い。

そこを未来の力でどう乗り越えていくか……今後の展開も、ぜひご期待ください。

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