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1945年7月29日 犬猿の仲でも同じ日本人

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

ゲーム内クレジット残額:2,327,910ゼニ

ゲーム内で関わった人数:21人(すずと周辺家族) + 5人(呉市避難家族) + 5人(黒田の謀略関係) + 5人(及川院長関係) + 628(陸軍病院治療患者) = 664人


1945年7月29日、午前8時。

藤堂中将が、自ら持ち込んだ(ことになっている)トラックからの荷下ろしの様子を満足げに見守り、黒田少将の特別病室へ足を運ぼうとしたその時だった。


「おい、門を開けろ! 緊急患者だ!!」


けたたましいエンジンの咆哮と共に、もう一台の軍用トラックが陸軍病院の正門に強引に乗り込んできた。

降りてきたのは、土気色になった海軍の将校と随行員たちだった。彼らはトラックの荷台の幌を乱暴に開け、病院の職員に向かって怒鳴り散らした。


「おい! すぐに手当てを頼む! 呉の鎮守府から運んできた!」


荷台には、昨日の呉空襲で爆風と炎に巻き込まれたと思われる、三名の海軍将校(中佐・少佐クラス)が寝かされていた。軍服は焼け焦げ、皮膚は黒く炭化し、絶え間なくうわ言を繰り返している。


「海軍の連中が、なぜ我々の陸軍病院に……!」


職員たちが戸惑う中、異変を察知した藤堂中将がすぐさま現場の指揮に割り込んだ。


「……構わん、収容しろ! 及川院長、昨日の重傷者と同じ処置だ!」


藤堂の鶴の一声により、先ほど浩平から大量の医療物資を受け取ったばかりの及川院長たちは、すぐさま三名の海軍将校を処置室へと運び込み、手慣れた様子でワセリンの塗布と『ジクロフェナク』『トラマドール』の投与を開始した。


◇◇◇

地獄からの使者

◇◇◇


三人の将校を運び終えた海軍の随行員たちは、ふと周囲の異様な空気に気づいた。

病院の中庭や廊下には、呉から逃げてきたと思われる数百人の火傷患者が溢れかえっている。……にもかかわらず、呉の海軍病院で聞くような「殺してくれ」という絶叫が全く聞こえないのだ。患者たちは皆、静かな寝息を立てており、さらに炊事場からは塩すいとんの豊かな匂いが漂ってきている。


海軍将校の顔色が変わった。


「……おい、お前ら。ここに『魔法のように効くすごい薬』があるというのは本当だったのか!? 飯まで食わせているじゃないか!」


将校は及川院長に詰め寄った。


「あるならよこせ! 薬と米だ! 呉の海軍病院や収容所は、ここよりもっと大勢の傷病兵や市民で溢れかえっているんだぞ! なぜ陸軍だけがこんなものを隠し持っている!」


「隠し持っているなどと人聞きの悪い!」


及川院長は血走った目で海軍将校を睨み返し、強い口調で突っぱねた。


「これらはすべて、我が陸軍の『特別ルート』で調達された極秘の軍需物資であり、この病院に収容された者たちを救うためのものだ! 貴様ら海軍に横流しする分など、一錠、一粒たりともない!」


長年の陸海軍の反目(対立)もあり、及川の態度は頑なだった。通常であれば、ここで海軍側も激高し、乱闘や軍法会議レベルの騒ぎに発展するところだ。

しかし、海軍将校の目は次第に絶望と悲痛な色を帯びていった。

彼は突然、泥だらけの軍靴のまま、及川院長と藤堂中将の目の前で、両膝を地面に突き刺すようにして土下座をしたのだ。


「頼む……!!」


額を地面に擦りつけ、海軍の誇りを捨てた将校の絶叫が響き渡った。


「どうか、お願いだ! 仲間たちと、多くの呉の市民たちが、今この瞬間も炎の痛みにのたうち回っている! 呉の収容所は、まさに人間の煉獄なんだ! 薬があるなら、少しでもいい、分けてくれ! 一生のお願いだ……ッ!」


その痛切な叫びに、及川も、周囲の看護婦たちも息を呑んで立ち尽くした。


藤堂中将は、土下座する海軍将校を見下ろしながら、心の中で(監視者・浩平)に向けて語りかけていた。


(監視者殿。あなたは今、休息の時を迎えておられるのだろう。だが、呉の海軍も民も、同じ日本人だ。あなたなら……きっと救いたいと仰るはずだ)


藤堂は静かに、しかし威厳を持った声で沈黙を破った。


「……及川院長」


「は、はいっ!」


「我が司令部からの追加の補給物資と薬は、今日の午後にもう一度、ここへ運んでくる。……今のこの病院の患者の治療に影響を出さない範囲で構わん。呉市へ提供できる『最大の量』を計算し、海軍のトラックに積んでやれ」


「か、閣下! しかし、海軍に陸軍の特秘物資を……」


困惑する及川に、藤堂は鋭い視線を向けた。


「これは取引だ、及川。彼らを救うことが、数日後、我が軍の大計を動かす布石となる。すぐに医師や計算係を集め、分配量を割り出せ!」


◇◇◇

希望への積み込み

◇◇◇


藤堂の厳命を受け、及川院長は渋々ながらも即座に医師たちを集め、先ほど「幌トラック」から下ろしたばかりの物資の山から、呉へ割く分量を弾き出した。


「米は我々にとっても命綱だ、多くは出せん。だが……鎮痛剤は多めに出してやろう」


荷下ろしされたばかりの軍用トラックの横に、再び物資が積み上げられていく。


備蓄米5kg×5袋(貴重なため少量)

上白糖1kg×10袋(重傷者への塩入り砂糖水用)

業務用小麦粉25kg×1袋

キャノーラ油1000ml×2ボトル

ジクロフェナク錠(25mg)500錠(こちらの用量確保のため制限)

トラマドール錠(25mg)1500錠(広島の重傷者は30名程度のため、大半を放出)

ペニシリン系抗生物質 1000カプセル

ゲンタマイシン軟膏 200本(こちらの消費が激しいため制限)

白色ワセリン(500g)50個(同上)

ステロイド錠(5mg)200錠(効果が未知数のため少量供与)

透明ボトル入り補給水スポーツドリンク50本(同上)


「海軍さん」


及川院長は、立ち上がった海軍将校にリストを突きつけた。


「これだけの物資を渡す。だが、貴様らがこれを将校や上官のためだけに『悪用』しないとも限らん。だから条件がある」


「条件……?」


「我が陸軍病院から、この薬の用法を熟知している医師2名と看護婦3名を、呉の治療現場へ同行・支援させる。彼らの指示に従って使うなら、持って行け」


海軍将校は、信じられないものを見るような目で及川と藤堂を見上げ、再び深く、深く頭を下げた。


「……恩に切る。陸軍の御恩、呉鎮守府は決して忘れん!」


午前9時。

陸軍の医師と看護婦を乗せ、現代の「魔法の物資」を積んだ海軍のトラックが、土埃を上げて呉の地獄へと向かって走り出した。

藤堂と黒田が仕掛ける、海軍を巻き込んだ「壮大な反逆」の歯車が、ついに音を立てて回り始めたのだ。


◇◇◇

即席冷蔵庫

◇◇◇


現実世界の午前9時。

疲労から泥のように眠り、二度寝からようやく目覚めた浩平は、ハッと跳ね起きた。


「やばい! 橘家に朝の牛乳を届けるって約束してたのに!」


寝癖も直さずにパソコンの前に座り、FPVカメラを橘家へと飛ばす。

時刻はすでに1945年の午前9時過ぎ。橘家ではすっかり朝食が終わった後らしく、ちひろが流し台で昨日送った缶詰の空き缶を洗っていた。おそらく、日持ちしないバナナやお粥、缶詰の肉で朝の腹ごしらえを済ませたのだろう。


「約束した牛乳はまたも遅れてしまった。……なにやってんだ俺は」


浩平は自己嫌悪に陥りながら、急いでネットスーパーの画面を開いた。


『牛乳 1000ml(250ゼニ)』を2パック、そして昨日馴染みの『ブラジル産 鶏もも肉 500g(200ゼニ)』を2パック、カートに入れる。


しかし、ここで浩平は手を止めた。


(真夏の広島だぞ? 生の牛乳や肉なんて、常温でちゃぶ台に置いたら数時間で腐るじゃないか)


そこで浩平は、深夜に解放されたばかりの『購入品の初期状態指定機能LV2』と『組み合わせ機能』を使った、ある作戦を思いついた。


「2000mlのペットボトルのお茶をマイナス40度まで凍らせて保冷剤代わりにして、ゲーム内で買えるクーラーボックスに詰め込めば……即席の冷蔵庫になるな。気温28度だとしても、真空断熱のクーラーボックスなら、箱の内部が15度になるまで二日は持たせられるはずだ」


だが、浩平はふと考える。


「せっかく氷代わりのドリンクを買うんだ。どうせなら、お茶よりも喜ばれるものがあるんじゃないか?」


浩平は手元のスマートフォンのAIアシスタントを起動し、「終戦前の日本人の少女が一番喜ぶ、当時からある冷たい飲み物は?」と音声で検索した。

AIは即座に意外な、しかし納得の答えを返してきた。


『カルピスが最適と考えられます。1919年から販売されており、当時の贈答品として高級かつ大衆の憧れでした。また、エネルギー補給にも適しています』


「カルピスか! たしかにカロリーも高いし、保存も効く。それに決定だ」


浩平はゲーム画面のUIを操作し、『購入品組み合わせ機能』のウィンドウを開いた。

ドラッグ&ドロップでアイテムを箱の中に配置し、スライダーで個別の初期温度を設定していく。


保冷ボックス 6L(2500ゼニ/初期温度:0度設定)

カルピス 1.5L(200ゼニ/初期温度:マイナス40度設定)※氷代わり

牛乳パック①(250ゼニ/初期温度:マイナス40度設定)※氷代わり・保存用

牛乳パック②(250ゼニ/初期温度:1度設定)※すぐ飲む用

鶏もも肉①(200ゼニ/初期温度:マイナス20度設定)※保存用

鶏もも肉②(200ゼニ/初期温度:1度設定)※すぐ調理する用

(総額:3600ゼニ)


浩平はこれを橘家の居間に出現させるよう座標を設定し、慌てて書いたメモを添えて「購入(転送)」ボタンをターン!と叩いた。


◇◇◇

真夏の霜

◇◇◇


橘家の居間。

後片付けを終えたちひろが部屋に戻ると、ちゃぶ台の横に、見慣れない「真っ青な箱」がドンと置かれていた。

現代の強化プラスチック製のクーラーボックスだ。金属でも木でもないその奇妙な質感と鮮やかな青色に、ちひろは目を丸くした。


箱の上には、一枚の紙片が置かれている。


『ちひろさんへ

又も遅れてしまい恐縮です。青色の箱に食材が入っていますが、箱には二日ほど保冷の効果があります。冷気が逃げるため、頻繁に開け閉めしないよう心がけてください。

冷やしの元になっている白い容器には凍ったカルピスが入っています。明日以降、溶けたら飲んでください。

牛乳も肉も、直ぐ使える1パックと、凍っている保存用が1パックずつ入っています。

黒田少将関係者より』


「カルピス……! それに、保冷の効果?」


ちひろはドキドキしながら、青い箱の頑丈なバックルに手をかけ、パコンと蓋を開けた。


——フワァァァッ。


開けた瞬間、真夏の蒸し暑い居間に、真っ白な冷気が溢れ出した。


「ひゃあ……! つ、冷たい!」


箱の中は、まるで真冬のような冷気に満ちていた。底には石のようにカチカチに凍りつき、真っ白な霜を吹いている不思議な形の容器ペットボトルと、同じく凍りついた牛乳の紙パック、そしてカチカチの鶏肉が並んでいる。

その上に、冷たく冷やされた「凍っていない」牛乳と生の鶏肉が置かれていた。


「すごい……氷もないのに、なんでこんなに凍っとるん……?」


魔法のような箱に感動しながらも、ちひろは手紙の『頻繁に開け閉めしないように』という注意を思い出し、慌てて冷えた牛乳パックだけを取り出すと、バタン!と急いで蓋を閉めた。


ちひろは、表面に冷たい水滴を浮かべた牛乳パックを両手で大事に抱え、奥の部屋で横になっている兄・誠一郎の元へと小走りで向かった。


「お兄ちゃん! 起きとる? また黒田閣下の使いの人が来てくれたんよ!」


「……ちひろ? 今度は、何を……」


体を起こした誠一郎は、妹が抱えている「冷気を放つ四角い紙の筒」を見て息を呑んだ。


「これね、牛乳! しかもすっごく冷たいんよ! 青い不思議な箱があって、中にはカチカチに凍ったカルピスとお肉も入っとったの! 魔法みたいじゃね!」


ちひろは興奮気味に笑い、湯呑みにトクトクと真っ白な牛乳を注いで誠一郎に差し出した。


「さあ、冷たいうちに飲んで! 栄養つけて、早く良くならんとね!」


誠一郎は、差し出された湯呑みを受け取った。手のひらから伝わる、真夏とは思えない圧倒的な冷たさ。


(……凍った飲み物に、冷気を保つ不思議な箱。……やはり、人間の仕業ではない)


誠一郎は、黒田少将と一緒に聞いた『未来からの監視者』の存在を、この冷たさから強烈に実感していた。妹は「黒田閣下の関係者」という言葉を純粋に信じているが、誠一郎はこれが神仏にも等しい存在からの、規格外の慈悲であることを知っている。


誠一郎は湯呑みの牛乳を一口飲んだ。

冷たく、濃厚な脂肪分と甘みが、結核で衰弱した体に染み渡っていく。涙が出そうなくらい美味しかった。


「……お兄ちゃん、美味しい?」


ちひろが嬉しそうに覗き込んでくる。


誠一郎は、真実(監視者のこと)を妹に明かすわけにはいかないため、湯呑みを両手で包み込みながら、深く頭を下げてこう答えるしかなかった。


「ああ……。黒田閣下には……本当に、面目ないことだ。このご恩は、一生かかっても返しきれんよ」

(監視者様……。愚かな私と妹を、ここまで救ってくださり、本当にありがとうございます)


誠一郎は、天井の向こう側にいる見えない恩人に向けて、心の底からの感謝と祈りを捧げた。


おまたせしました

おそらく次の話で、藤堂中将の上官が色んな方面から噂やプレッシャーで藤堂中将を呼び出すことになる…

呉の様子も次話もしくは次々話に書けたらいいなと思う

8/6に向けて、1日は何話も分けて描写する羽目になるのでご容赦ください

そこは体感的に、ゼニの補充が待ち遠しい感がりますね(笑)

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