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1945年7月28日 捕らぬ狸の皮算用

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

ゲーム内クレジット残額:21910ゼニ

ゲーム内で関わった人数:21人 + 5人(呉市避難家族) + 5人(黒田の謀略関係) + 5人(及川院長関係) = 36人


◇◇◇

廃人ゲーマーの覚悟

◇◇◇


1945年7月28日、午後1時過ぎ。

病室の興奮が少し落ち着いた頃、藤堂中将は虚空に向かって一つの現実的な問いを投げかけた。


「監視者殿。防空演習や建物疎開を強行するには、大義名分の他に『実益』を匂わせる必要がある。市中心部の20万人を郊外へ退避させるとして、凄まじい量の食糧が要る。……監視者殿は、どれくらい提供できるのだ?」


モニターの前の浩平は、急いで頭の中で電卓を叩いた。


(現在のレベルは3。もし、及川院長と陸軍病院を使って今日中に数百人の火傷患者を治療できれば、関わった人数は一気に増える。明日にはLv10以上になり、デイリーボーナスが100万ゼニに跳ね上がるかもしれない)


単純計算で、100万ゼニをすべて備蓄米(5kg/2000ゼニ)に突っ込めば2500kg。約16,666合だ。大人1人が1日に1合食べるとしても、1万5000人強を1日食わせられる。

小麦粉(25kg/2500ゼニ)なら、10トン買える。食パン換算でおよそ30万枚分、5万人を食わせられる計算だが、小麦粉だけではパンは作れないし、調理の手間を考えれば現実的ではない。


「ここは『捕らぬ狸の皮算用』でも、ハッタリをかまして軍人を動かすしかない」

浩平は、残高から『業務用小麦粉 25kg(2500ゼニ)』と『コシヒカリ備蓄米 5kg(2000ゼニ)』をそれぞれ一つ購入し、ドスンッと藤堂の足元に出現させた。


『米なら、状況次第だが現状は1日に2500kgかそれ以上を提供できる。小麦粉なら、10トンから15トンくらいになる』


『今日中に、この陸軍病院で呉市の空襲から逃げてきた負傷者をできる限り治療してほしい。薬も食べ物もこっちで提供する。現代の薬の説明書は、もう及川に渡して構わない。正しい説明書があれば、医者たちも使い方を理解できる』


そのメモを読んだ浩平は、自分自身の思考に苦笑した。


(もし明日Lv10になったとして、それは俺の『課金上限』も上がるってことだ。10万ゼニを課金するのに、現実の金が1日10万円かかる……もう完全に廃人ゲーマーの領域じゃないか)

だが、だからこそ今日中は「赤字(自腹課金)覚悟」でも、より多くの人間を救ってシステム上のスコア(関与人数)を爆発的に稼ぐ必要があった。


黒田はそのメモを読み終えると、傍らの橘中尉に命じた。


「橘、及川院長を直ぐにここへ呼んでこい」


「はっ!」


◇◇◇

病院長の驚愕と軍の機密

◇◇◇


数分後、及川院長が小走りで病室に戻ってきた。

しかし、彼が入室した瞬間に見たものは、床に積み上げられた凄まじい量の薬のシートと軟膏の山、そして見上げるほど巨大な25キロの小麦粉の袋だった。


「な、なんですかこれは……!?」


及川が驚愕して立ち尽くしていると、藤堂中将が中将特有の威厳に満ちた声で重々しく告げた。


「及川院長。これは、我が陸軍が極秘ルートで調達した未来の……いや、特効薬だ。正しい使い方が書かれた説明書もある」


藤堂は及川の肩にポンと手を置いた。


「陸軍は、呉市から逃げてくる避難者を、この病院で全面的に救助することを決断した。食糧も、必要であれば提供する。……ただ、本件は絶対に外部に漏らさぬよう、秘密裏に遂行せよ。できるな?」


「は、はいっ! 陸軍の総力を挙げたご支援、まことに感謝いたします!」


中将からの直々の命令と、目の前の圧倒的な物資。及川の医師としての使命感が熱く燃え上がった。

及川はしかし、少し申し訳なさそうに手を揉んだ。


「あの、避難民の多くは着の身着のままで、酷くお腹を空かせているはずです。できれば、陸軍からもう少しお米のお裾分けをいただければと……。最大500人の受け入れを想定しますと、この5キロのお米があと14袋(70キロ)ほどあれば、なんとか炊き出しができるのですが」


その言葉を聞いた瞬間、モニターの前の浩平はヒヤリとした。


(5kgの米が14袋で、28,000ゼニ……。今の残額は17,410ゼニしかない!)


及川はまだ監視者(浩平)の存在を知らないため、あくまで黒田と藤堂に向かって要求している。

黒田は虚空(浩平)をチラリと見てから、鷹揚に頷いた。


「……院長が言う量を用意してやろう。薬もそうだ。説明書の用量を守り、今日の分だけでよりたくさんの患者を救え。明日の薬や食糧は、明日また支給する」


浩平は意を決して、スマホの決済画面を開き「20,000円」の追加課金ボタンを叩きッターンと押した。


(これで今日の課金額は3万円だぞ……! 頼むから明日、すごいボーナスをくれよ!)


ゲーム内のクレジット残額が【37,410ゼニ】に回復したのを確認し、浩平は米14袋を購入した。ただし、病室を米袋で埋め尽くすわけにはいかないため、藤堂の指示に従い、司令部から乗ってきた小型軍用車の荷台へと座標を指定して一気に転送した。


数分後、及川の指示で数名の看護婦たちが病室に入り、夢のような「薬の山」を回収していった。病院全体が、これから押し寄せるであろう呉からの第一波を受け入れるための、野戦病院のような凄まじい熱気に包まれていった。


◇◇◇

第一波の到着と、塩むすびの味

◇◇◇


午後3時頃。

呉市から命からがら逃げ延びてきた避難者の第一波、約200人が、陸軍病院の正門に殺到した。

髪は焼け焦げ、衣服はボロボロに引き裂かれ、多くの者が広範囲の火傷と煤で真っ黒になっていた。うめき声と泣き声が入り混じる地獄絵図。


しかし、今日の陸軍病院は違った。


「こちらへ! 重傷者は廊下の奥へ! 軽傷者は中庭に座ってください!」


及川院長から『未来の薬のレクチャー』を受けた医師と看護婦たちが、的確に避難者を誘導していく。


「痛い、痛いよぉ……っ」


火傷で泣き叫ぶ子供の腕に、医師が『ゲンタマイシン軟膏』を分厚く塗り、その上から『白色ワセリン』で空気を遮断する保護膜を作った。

さらに、すり潰した『ロキソプロフェンナトリウム』を水で飲ませる。

数十分もしないうちに、現代の強力な消炎鎮痛剤が劇的に効き始め、地獄の苦しみを味わっていた患者たちの表情からスッと痛みが引き、安らかな寝息へと変わっていった。


「なんだ、この薬は……。本当に痛みが消えたぞ……!」


医師たち自身が、その凄まじい薬効に一番戦慄していた。化膿止めの抗生物質も、明日には劇的な効果を発揮するだろう。


一方、中庭では炊き出しが始まっていた。

軍用車から運び込まれたばかりの純白の精米が、大釜で次々と炊き上げられていく。


「さあ、皆さん! 陸軍からの配給です! 一人一個ずつ、順番に受け取ってください!」


割烹着姿の職員たちが、熱々の塩むすびを握り、煤だらけの避難者たちに配って回った。

火傷の痛みが和らいだ避難者たちは、手渡された白く輝くおにぎりを両手で包み込むように受け取った。

一口かじると、米本来の強烈な甘みと、塩の塩味が口いっぱいに広がる。


「……うまい。うまいよぉ……っ」


家を焼かれ、家族とはぐれ、絶望の淵にあった人々が、おにぎりをボロボロこぼしながら泣き崩れた。

病院の二階の窓からその光景を見下ろしていた黒田、藤堂、橘の三人は、無言で固く唇を結んでいた。


「監視者殿が言った通りだ」


藤堂が低く呟いた。


「……我々にできるのは、この地獄から一人でも多くの民を逃がすことだけだ。黒田、橘。明日は司令部を動かすぞ」


「はっ!」


浩平の「自腹課金」による決死の医療支援が、確実に数十、数百という命を救い、そして歴史の歯車を狂わせるための巨大なエネルギーへと変換され始めていた。


◇◇◇

癒えゆく小さな命

◇◇◇


1945年7月28日、正午。

すずは、ずっしりと重い大きな竹籠を背負い、鶴江町にある井上家へと急いでいた。

籠の中には、早朝に握った50個の塩むすび、真空パックの『焼豚』のブロック、下処理済みの『冷凍タラ』を使った甘辛い煮魚、そして水分が飛ぶまでこんがり焼いた銀鮭。さらに1キロの精米と、火傷治療のための未来の薬が詰め込まれている。


井上家に到着すると、家主の妻・よしこが青い顔で迎え入れてくれた。


「すずさん、よく来てくれたねぇ……。主人は今朝の呉の空襲のせいで、役所の緊急準備に呼び出されてしもうて」


家にはよしこと、軍需工場への動員が中止になって自宅待機している中学生の娘二人(長女の春香、次女のなつき)がいた。


すずは土間に籠を下ろすと、真っ先に奥の部屋へと向かった。

そこには、一昨日逃げてきた佐藤一家が横たわっている。


「浩くん、具合はどう?」


すずが声をかけると、10歳の末っ子・浩が、ゆっくりと上体を起こした。


「……おばちゃん。まだ痛いけど、楽になったよ」


一昨日は高熱とうわ言で生死の境を彷徨っていた浩が、自分の力で座っている。すずは安堵の息をつき、浩の右腕を覆っていた布をそっと外した。

傷口はまだ痛々しいが、化膿止めの『ゲンタマイシン軟膏』と『白色ワセリン』の厚い保護膜のおかげで、グジュグジュとした感染症の兆候は完全に抑え込まれていた。


「よかった。今日もちゃんとお薬塗ろうね」


すずは浩の腕にたっぷりと軟膏とワセリンを塗り直し、続いて12歳の長男、13歳の長女の小さな火傷、そして母親であるきよこの顔や腕の水ぶくれにも同様の処置を施した。

最後に、すり潰した解熱鎮痛剤を飲ませる。


処置が終わると、ちゃぶ台を囲んで全員での食事が始まった。

すず、井上家のよしこと娘二人、そして佐藤一家五人。合わせて九人が、すずの持参した食糧に手を伸ばす。


「こ、こんな立派な煮魚……それにこのお肉(焼豚)、柔らかくて味が染みてて、夢みたいじゃ……」


よしこの娘たちが、タラの煮付けと甘辛い焼豚に目を輝かせ、無我夢中で白米を掻き込む。佐藤一家も、痛みが引いた体で、塩むすびと鮭を涙を流しながら咀嚼していた。現代の豊かなタンパク質と脂質が、傷ついた彼らの細胞を急速に修復していく。


食後、すずは全治まで約2週間分となる薬をよしときよこに手渡し、塗り方と飲ませ方を丁寧に教えた。


「すずさん……今朝の、呉の空襲の音、聞こえたじゃろ?」


よしこが、震える声ですずに耳打ちした。


「また何百機も来て、呉の街はもう火の海じゃって。……広島にも、いつかあんなのが来るんじゃろうか。うちの近くにも、朝から火傷した呉の人がぎょうさん逃げてきとるんよ」


よしこの言う通りだった。井上家の外からは、当て所なく彷徨う避難民たちのうめき声や、「水をください」「軒先を貸してください」と懇願する声が絶え間なく聞こえていた。井上家にもすでに何度か見知らぬ避難民が助けを求めてきていた。


すずは唇を強く噛み締めた。自分の手元には、浩平から与えられた薬がまだ6人×2週間分ほど残っている。しかし、外にいる何十、何百という避難民全員を救うことは絶対に不可能だ。


「よしこさん……今度、多めに薬や食べ物を持ってくる。でも……外におる周りの人たち全員分までは、さすがに足りんのよ」


すずは、胸が張り裂けそうな思いで言葉を絞り出した。


「だから……どうしたいか、誰を助けるかは、よしこさんに任せます。ごめんなさい……」


「……謝らんで。すずさんがうちにしてくれただけで、もう十分すぎるけえ」


午後4時。

すずは井上家を後にした。帰り道、煤で顔を真っ黒にし、トボトボと歩く避難民の子供たちとすれ違うたび、すずは何もできない己の無力さと悔しさに、何度も立ち止まりそうになりながら家路を急いだ。


◇◇◇

神様による配給の遅れ

◇◇◇


午後5時。桜ヶ丘町、すずの家。

浩平はモニターの前で、FPVカメラの視点をすずの家のちゃぶ台へと移動させた。

メモには、たった一言『肉と米』と書かれていた。佐藤一家への大規模な援助で、すずの家の備蓄も底を突きかけているのだ。


「……困ったな」


浩平はゲーム内クレジットの残高【9,410ゼニ】を見て頭を抱えた。

普段なら肉と米くらい安いものだが、今日は陸軍病院への大規模投資(自腹3万円課金)を行ったため、残高が心許ない。米5kg(2000ゼニ)と肉を十分に買えば、一気に残金が目減りする。


(レベルアップとクレジットの更新・ボーナス付与は、日付が変わる夜12時だ。そこまで耐えれば莫大なゼニが入るし、課金枠もリセットされる。……米だけは、夜12時を回ってから転送しよう)


浩平は、安価でカロリーの高い『ブラジル産 鶏もも肉 500g(200ゼニ)』を5パック、合計2.5kg(1000ゼニ)だけを購入し、ちゃぶ台に転送した。

そして、事情を説明する紙片を添えた。


『すずさんへ。現在、呉市からの避難民の救助に動いている都合で、米の支給は今夜12時まで待っていただきたい。

この鶏肉は、ゆみこさんをはじめとする周りの家にも分けてやってくれ。

なお、すずさんの家、ゆみこさんと周りの家、井上一家(佐藤一家も)は、陸軍の藤堂中将と黒田少将によって保護される事になった。万が一、憲兵隊や特高警察が来た時は、この二名の名前を出しなさい。』


土間に戻ってきたすずは、ちゃぶ台の上に置かれた大量の鶏肉のパックと、紙片を読んだ。


「……夜12時まで、待ってほしい?」


すずの胸に、初めて「不安」の影がよぎった。これまで、注文すれば瞬時に何でも出してくれた神様(監視者)からの支給が、初めて「遅れ」を見せたのだ。


(神様でも、限界があるんじゃろうか……。もし、このまま支援が途絶えてしもうたら……)


避難民への援助を広げすぎたせいかもしれない、とすずは少しの恐怖を覚えた。


しかし、後半の文章を読んで、すずは息を呑んだ。


「陸軍の、藤堂中将と黒田少将が……私たちを保護する?」


雲の上の存在である将官、しかも陸軍のトップクラスの名前。それが特高警察への「最強の盾」になるというのだ。神様が、見えないところで軍の中枢すら動かしている。すずは震える手でそのメモを畳み、お守りのように胸元にしまった。


すずは気を取り直し、浩平の指示通りに鶏肉のパックを分け、隣のゆみこの家や、近所の数軒へと配って回った。

近所の家々には、浩平が以前支給した「備蓄米」がまだ3キロほど残っていたが、おかずとなるタンパク質が完全に枯渇していたため、分厚い鶏もも肉の配給に皆涙を流して喜んだ。


夕方。さちと、いつものようにやってきたふみこを交え、すずの家での夕食が始まった。

今夜のメニューは、シンプルに『鶏もも肉の炭火焼きとご飯』だ。

マングローブ炭の上で網を熱し、ぶつ切りにしたブラジル産の鶏もも肉を皮目から焼いていく。


ジュゥゥゥゥッ……!

皮から滲み出た大量の黄色い脂が炭に落ち、凄まじい煙と、暴力的なまでに香ばしい「焼鳥」の匂いが立ち昇った。


「お母ちゃん、すごい煙! でも、めっちゃええ匂い!」


「お腹空いたぁ……!」


さちとふみこが、煙に目を細めながらも涎を垂らして網を見つめている。


本来であれば、戦時下の住宅街でこれほど強烈な肉の匂いをさせれば、隣近所から恨みを買うか、特高に通報される危険があった。

しかし今日ばかりは違った。隣のゆみこの家からも、その向こうの家からも、全く同じ「鶏肉の脂が焦げる匂い」と煙が立ち昇っていたからだ。誰も文句を言う者はいない。桜ヶ丘町の一角だけが、奇妙な幸福と肉の匂いに包まれていた。


「さあ、焼けたよ。お塩を少しだけつけて食べんさい」


「「いただきます!!」」


ちゃぶ台には、すずが家にある米を慎重に計算して炊いた、一人一杯ずつの「普通盛り」の白米が並べられていた。

パリッと焼けた皮と、弾力のあるもも肉。噛み締めた瞬間に溢れ出す熱い肉汁。

二人の少女は、肉汁の染み込んだ鶏肉をご飯にバウンドさせ、夢中で掻き込んだ。


「……美味しい! お肉がプリプリじゃ!」


浩平からの米の支給が夜12時まで「お預け」になっているとはいえ、これほど上質なタンパク質があれば、茶碗一杯のご飯でも十分すぎるほどの満足感があった。


食後、すずは残り少なくなった米びつの底をさらい、ふみこの持ち帰り用のおにぎりを6個握った。

それに、こんがりと焼いた鶏もも肉(200gほど)を添えて風呂敷に包み、ふみこに手渡す。


(これで……お米は本当に底を突いてしもうたね)


すずは空になった米びつを見て少し不安を覚えたが、ふみこの満面の笑顔に救われる思いがした。


「今日もありがとう、おばちゃん! 弟、絶対に喜ぶけえ!」


笑顔で駆け出していくふみこの背中を見送りながら、すずは夜空を見上げた。


(夜の12時……。監視者さま、どうか無理をなさいませんように)


すずは、姿の見えない「神様」の加護を信じ、静かに祈りを捧げた。

ついに浩平は自分の浪費で痛い目を見た気がする(苦笑)

原因ランキング

1. 賄賂の為の三種類の腕時計を買うじゃなかった(6000ゼニの浪費、ここはまあフラグではあるが)

2. 橘中尉の腕時計(与えなくても何も変わらないはず)

3. 小麦粉25KG(いずれ利用されるが目の前には米が有利)

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