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1945年7月28日 監視者

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

ゲーム内クレジット残額:8660ゼニ + デイリーボーナス30000ゼニ + 課金10000ゼニ = 48660ゼニ

ゲーム内で関わった人数:21人 + 5人(呉市避難家族) + 5人(黒田の謀略関係) + 5人(及川院長関係) = 36人


◇◇◇

狂乱の四重奏

◇◇◇


1945年7月28日、正午。

陸軍病院の黒田の特別室へ、及川院長の案内のもと、藤堂中将とけいこが入室した。


「……藤堂閣下」


病床の縁に腰掛けていた黒田は、かつての死相が嘘のように血色の良い顔で立ち上がり、静かに敬礼した。咳はすっかり収まり、その姿勢には軍人としての確かな覇気が戻っていた。


藤堂はその光景を見て、今朝の司令部での出来事、そして呉から届いた「空襲や火災」の第一報を思い出した。

すべては、この男の手紙の通りになった。

藤堂の脳内で、呉で焼かれている数千の同胞の命と、黒田が元気そうに立っている事実が理不尽に交錯し、限界に達していた精神が弾け飛んだ。


「黒田……ッ!!」


及川院長が退室してドアが閉まった瞬間、藤堂は腰のホルスターから軍用拳銃を引き抜き、黒田の眉間めがけて突きつけた。


「ひぃっ……!」


「閣下! 何を!」


けいこが悲鳴を上げ、黒田を庇うように銃口の前に立ちはだかった。


「どけ、夫人!」


「藤堂閣下! 早まりなさんな!」


「黙れ! お前の背後にいるのは何者だ!? なぜ呉の被害を事前に知っていた!? 本当にアメリカのスパイではないと言い切れるのか!? 正直に言え!」


藤堂の目は血走り、引き金にかかった指が小刻みに震えている。


その時、病室の外で怒声が響いた。


「黒田閣下はおられるか! 通せ!」


「だ、駄目です! 今は大事な面会が……きゃあ!」


ドバンッ!と激しい音を立ててドアが蹴破られ、カーキ色の軍服にFFP2マスクを装着した橘誠一郎中尉が病室に乱入してきた。


「閣下に何をするッ!」


橘は銃を構える藤堂を見るや否や、階級の差も忘れて猛然と飛びかかろうと構えた。


「橘か! 貴様まで……!」


銃を構える中将、庇う妻、飛びかかろうとする中尉、そして冷や汗を流す少将。

病室内は一触即発、まさに大乱闘の様相を呈していた。


◇◇◇

物理介入アイシング

◇◇◇


「うわあああ! なんだこの内輪揉めは!?」


モニターの向こうでFPVカメラを操作していた浩平は、急転直下の事態にパニックに陥った。


「やばい、撃たれる! 鎮めろ、インパクトがあって現場を一瞬で鎮められるものを……!」


浩平はゲーム内ショップの検索窓に猛スピードでキーワードを打ち込み、『ブロック氷 1貫目(約3.75kg) 350ゼニ』を見つけ、即座に購入ボタンを叩き割る勢いでクリックした。

【購入品の初期状態指定機能LV1】を使用し、4人がもみ合っている中心、わずか1メートル四方の隙間の「上空2メートル」の座標に設定。


「落ちろッ!!」


ドッガァァァァンッ!!


密室の病室内に、爆弾が落ちたかのような凄まじい轟音が響き渡った。


「なっ……!?」


「きゃあああ!」


銃を構えていた藤堂も、飛びかかろうとしていた橘も、何が起きたか分からずその場に尻餅をついた。


4人の中心の床に、突如として巨大な透明の氷塊(1貫目の業務用水冷氷)が叩きつけられ、粉々に砕け散って冷たい破片と冷気を撒き散らしていた。

腰を抜かした藤堂の目の前、わずか数センチのところに、一枚の白い紙片がヒラヒラと舞い落ちる。


『お前ら頭を冷やせ! 説明してやるから、物騒な物を収めろ!』


黒田はゆっくりとベッドから立ち上がると、氷の傍らに落ちたその紙片を拾い上げ、銃を降ろして震えている藤堂の目の前に突きつけた。


「……閣下。ご覧いただけましたか。これが、私の背後にいる『御使い』の力であります」


黒田の静かな、しかし確信に満ちた声が、氷の冷気と共に病室に響いた。藤堂は、銃を取り落とし、床に散らばる透き通った氷塊を信じられない面持ちで見つめ続けた。


「何事ですかッ!!」


大きな音に驚いた及川院長が、ドアを半分開けて血相を変えて飛び込んできた。

しかし、彼が見たのは、平然と立っている黒田、腰を抜かしている藤堂中将、戦闘態勢のまま固まっている橘中尉、そして顔を覆っているけいこ夫人……そして、床の真ん中で冷気を放つ「巨大な氷」だった。


「こ、氷……!? なぜ、こんな真夏に、こんな巨大な氷が……!」


及川院長は目をひん剥いた。この時代、製氷機は軍需工場などにしかなく、真夏の病院において氷は血液や薬品を冷やすための「超・重要戦略物資」である。


「も、もったいない!」


及川はすぐさま廊下へ顔を出し、「おい! 誰か、大きめのたらいと鍋を持ってこい! 早く! 溶ける前に回収するんだ!」と職員に向かって怒鳴った。


看護婦たちが慌てて鍋を持ち込み、床の氷をかき集めていく。

黒田は及川に鋭い目配せをし、「下がれ」と顎で促した。


「ハッ、お騒がせいたしました! すぐに退室します!」


及川は氷の入った鍋を抱え、ホクホク顔でそそくさと病室を出ていった。


病室には再び、重苦しい静寂と4人の当事者が残された。

モニターの前の浩平は、ふとため息をついた。


「……ここの全員、もう巻き込んじまった当事者だな。まとめて説明するしかないか」


浩平はショップで『個包装FFP2マスク 20枚入り箱(1000ゼニ)』を購入し、黒田の机へ転送した。


『感染のリスクはある。まず全員このマスクを着用しろ。それから詳しく説明する!』


ポンッ、という音と共に机に箱が出現した。

藤堂は再びビクッと肩を跳ねさせたが、もはや銃を構える気力は失われていた。


この超常現象を幾度となく見慣れている黒田は、手慣れた様子で『エタノールスプレー』を自分の手に吹きかけて消毒した。


「藤堂閣下。けいこ。まずはこれを着けてください。私の結核がうつってはいけませんから」


黒田は箱から取り出したFFP2マスクを、腰を抜かしている藤堂とけいこに手渡し、ゴム紐の掛け方とノーズワイヤーの調整方法を指導し始めた。

(橘中尉はすでにマスク装着済みのため、直立不動のままその様子を見守っている)。


純白の高性能マスクで顔の半分を覆った、大日本帝国の中将と少将、そして将校と夫人。

奇妙な集団による、歴史の裏側の作戦会議が、今まさに始まろうとしていた。


◇◇◇

未来からの告白と医療物資

◇◇◇


1945年7月28日、午後12時過ぎ。

現代のモニターの前にいる浩平は、自身の残りクレジット(48,310ゼニ)を確認しながら、戦略を練っていた。


呉からの火傷の負傷者は、これから間違いなく広島市内へ大量に流れ込んでくる。すず個人の草の根の活動だけでは到底救いきれない。ならば、黒田少将と及川院長という「正規の病院ルート」を使って、大々的に治療を展開させるべきだ。


(今日のうちに限界まで人を救えば、明日にはレベル4かレベル5になり、さらに莫大な予算が下りるかもしれない。もうゼニを節約する意味はない)


浩平は、すずに渡した薬のバリエーションをベースに、火傷の激しい痛みを抑えるためにより鎮痛作用の強い『ロキソプロフェンナトリウム』を選択し、限界までカートに詰め込んだ。


ペニシリン系抗生物質 50シート(500カプセル):5000ゼニ


解熱鎮痛剤(ロキソプロフェン等) 50シート(500錠):5400ゼニ


化膿止め軟膏(ゲンタマイシン等) 50本:10000ゼニ


白色ワセリン(大容量ボトル) 10個:5000ゼニ

(合計:25,400ゼニ)


浩平は、病室にいる4人へ順序立てて事情を説明するため、これらを一度に落下させるのではなく、数回に分けて「メッセージの紙片」と共に転送することにした。


コトッ。

病室の机の上に、最初の抗生物質の山と、一枚の紙片が出現した。


『まず訂正しておこう。私は神でも神の使いでもない。この世界の住人ですらない。強いて言えば監視者だ。君たちの世界の理の外側に生きる人間だ。

私の世界は82年後の2027年だ。これらの薬は未来の薬で、腕時計は未来の腕時計、食べ物も全部未来のものだ。今朝の呉市の空襲は、私がいた世界の歴史で実際に起こった事実だ。黒田が持っている本にも書かれている。』


黒田はそのメモを読み、静かに目を閉じてから、横にいる藤堂中将へ手渡した。さらに、枕元に隠していた現代の写真集『広島原爆の日』を取り出し、藤堂の膝の上に置いた。


藤堂は震える手でメモと写真集をめくった。

高解像度のカラー写真、見たこともない滑らかな紙質。そして、そこに明確な歴史的事実として記された「呉軍港空襲」の文字。


「82年後……未来の、人間……」


藤堂は呻き声を上げ、その場に崩れ落ちそうになった。しかし、大日本帝国の中将としての強烈な矜持プライドが、彼に怒りをもたらした。藤堂は天を仰ぎ、虚空に向かって怒鳴りつけた。


「ならば! 未来の人間殿は、なぜその圧倒的な力で大日本帝国を勝利へ導かない!? なぜ我々に新型兵器を与えない!? ここまでたくさんの命が散っていく悲劇を、ただ坐視ざしするというのか!」


背後に立つ橘中尉も、拳を白くなるほど握りしめ、血を吐くような思いで天井を睨みつけていた。軍人として、敗北の運命を突きつけられることは死以上の屈辱だった。


◇◇◇

滅びの運命と、チョコレートの謎

◇◇◇


コトッ。

鎮痛剤と軟膏の山と共に、二枚目の紙片が机に落ちた。


『私の力は限られている。提供できる物資にも限りがあり、日本の敗戦を覆す事は到底できない。

こちらの世界の史実では、8月6日に広島へ新型爆弾が投下され14万人が死亡。三日後の8月9日には長崎に投下され7.4万人が死亡する。そして……8月14日の御前会議で降伏が決定し、次の日の8月15日、天皇陛下による玉音放送で全国民に敗戦を受け入れる旨が公表される。

現時点で私が介入できるのは、この広島だけだ。』


絶望的な未来の羅列。


「玉音、放送……。陛下が、降伏を……」


藤堂は膝から崩れ落ちた。橘中尉もまた、無惨な死を遂げる祖国の未来に声もなく立ち尽くした。


「藤堂閣下」黒田が静かに口を開いた。


「この本にも、長崎の悲劇が記されておりました。……我々の戦争は、もう終わるのです。それも、最悪の形で」


圧倒的な絶望の沈黙の中。

顔を覆っていた黒田の妻・けいこが、ふと顔を上げ、放心したようにつぶやいた。


「……道理で。あのチョコレートは、今まで食べたことのないような、とろけるような味がしましたわ……」


82年後の未来。その事実が、極上の洋菓子という身近な体験と結びつき、けいこに奇妙な納得と安堵をもたらしていた。


◇◇◇

守るべき者たち

◇◇◇


トンッ。

最後に、巨大なワセリンのボトル10個と、最後の紙片が現れた。


『私ができる事は、限りのある物資、薬、食料品を提供し、広島中心部の市民の郊外への避難を援助することだけだ。実際に人と物を動かせるのは、君たちの力しかない。具体的に薬や食料品以外に何が必要か、君たちの提案があればこちらが出来るだけ用意する。


橘中尉へ:君を一部騙すような真似をして申し訳ない。ただ、君を救いたいという黒田少将の願い自体は間違いない。

藤堂さん、黒田さんへ:広島市桜ヶ丘に住むすずさん一家、ゆみこさん一家と周りの家族は、私の指示で動いている。鶴江町に住む役所職員の井上一家と、避難してきた佐藤一家も同様だ。特高警察や憲兵隊から彼らを守るよう、取り計らってもらいたい。』


最後のメッセージを読み終えた橘誠一郎は、真っ直ぐに背筋を伸ばし、虚空に向かって完璧な敬礼をした。


「監視者殿。騙されたなどと、微塵も思っておりません。閣下と監視者殿が私と家族の命を救ってくださったこと、それは紛れもない真実です。……この命、広島の民を救うために使い切る覚悟であります!」


藤堂中将もまた、ゆっくりと立ち上がった。

床に散らばったままの氷の冷気が、彼の頭を完全に冷やしていた。大日本帝国の敗北が確定しているのなら、軍上層部の顔色など窺う意味はない。最後に残された軍人としての使命はただ一つ。


「監視者殿。……帝国が滅びるというのなら、我々の最後の任務は、一人でも多くの赤子(国民)を地獄から逃がすことだ」


藤堂は黒田に向き直った。


「黒田。お前が指名したその市民たち……すず、ゆみこ、井上、佐藤一家だったか。彼らの保護は、私が陸軍中将の権限をもって全力で保証する。特高の犬どもには指一本触れさせん」


「感謝いたします、藤堂閣下」


黒田は深く頭を下げた。


「そして黒田。疎開の大義名分だが……『新型毒ガス弾に対する、全市規模の防空演習および大規模な建物疎開』という名目で強行する。これだけの薬が未来から用意できるのなら、話は早い。及川院長らを取り込み、医療班を盾にして市民を郊外へ逃すぞ」


監視者からの圧倒的な物資と情報、そして未来の真実。

病室に集った4人は、もはや軍の命令系統から完全に逸脱した「広島救済のクーデター部隊」として、確固たる結束を固めたのだった。

お待たせしました

もっと書きたかったけどあっという間に5000文字を超えた

物語の中の時間は1時間くらいしか経過せず、密度の高い描写はこの日にはしばらく続きます

今までデイリーボーナス頼りの浩平は、ついに追加課金するチャンスがくるかもしれない(笑)

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