61羽 「あははははー」②
沈黙が。痛い。
ブラズヴェル防衛卿は体感5分くらい黙った後、ひとこと「なるほど」と言った。
「なかなか新しい価値観で驚いています」
「その驚きが伝わってきました」
「鑑別師殿は、ヴェルク=シーヴィのことだけを考えているのではないのですな」
納得したような声色で言われた。そりゃあ、ヴェルク=シーヴィにはお世話になっているけれどさ。僕、日本人だし。
「できることなら、この世界のすべての国が、平和であれ、と願っていますよ」
今度は体感30秒くらいで「なるほど」が来た。
「この件は、ハルの件も合わせて一度持ち帰らせてください。鑑別師殿のお考えは、承知しました」
僕との会談はそれで終わり。そのあとブラズヴェル防衛卿はキャラヤに呼ばれて行った。どうかな。協力してくれるかな。ドルテランさんの判断によるよな。ちょっと遅いけどお歳暮とか送った方がいいかな。
そして、軍事専門家ではなく趣味で国防もできない僕は、完全なるお飾りとしてときどき状況を知らされるだけになった。助かる。とても助かる。意見求められても授業でやったディスカッション以上のものは出てこないもん。
それで、年が明けているわけです。もう月半ば。
なので。
ルムスの公判が、始まりました。
今度は本当に、ルムスがヴェルンシーヴァへ移送されて来て。街の外縁あたりにある、めちゃくちゃ防備しっかりした飾りのない建物。そこにルムスの乗せられた護送ハルシーピ車が入っていくのを、僕はじっと見守った。
審議官のマレベさんには連絡をとっていた。それがよかったのかわからないけれど、ルムスは無事に心神喪失状態と判断されて。
本職の弁士さんの代わりに、僕が弁護に立つ。
不安だよ、とても。
ルムスは、前にイムロが変装したときみたいに、砂色の髪の毛が伸びきっていた。それに、元々普通体型だったのに、すごく痩せたと思う。やっぱり面会は断られたから、僕はそれを審議の場で見て知る。お別れを言われたあれ以来、ひとことも交わさずにやってきてしまった。手紙も未開封で差し戻された。
「それでは、ルムス・ハルカの第一回目の審議を始めます」
マレベさんが静かな声で述べた言葉は、部屋の隅々へと広がって響いた。
僕の考えるような裁判所の部屋とは違う。どちらかというと、この前の軍事会議の様子に近い。マレベさんという議長が、水色の丸首制服を着て席についている。同じ制服の書記の人がふたりいる。その対面にルムスが。僕は端っこの机について、そわそわとしている。沈んだ表情で隣に座っているのはタルク。それに……頼み込んでいっしょに来てもらったダンさんもいる。僕たちの反対側の端っこには、他の審議官さんがひとり。傍聴席はない。
「私たち審議官は、ハルに誓い公平な立場から情報を吟味し、精査します」
「ハルに」
「ハルに」
「ハルに」
マレベさんが胸に手を置いて言った言葉に、他の審議官さんと書記の人たちも同じように同調した。あっ、え、どうしよう。これ僕はやんなくていいよね? 審議官じゃないもんね?
「この場での発言はすべて公式な記録として残されます。各々その点を考慮して真実を述べてください。なにも述べなかった場合、それは同意とみなされます。必ずなにかをおっしゃってください」
その言葉へ、ルムスはなにも返さなかった。人形みたいにじっと、動かない。僕は、彼が本当に心の病に陥ってしまったのではないかと心配になった。
「では、この場で審議される内容を」
マレベさんが促すと、端っこに座っていた審議官さんが立ち上がった。そして手に持った紙を見ながら、書かれている内容を読み上げる。
「ルムス・ハルカ。28歳。男。18年前にヴェルミトゥラでの居住を始めたという記録があり、以後その地から出た記録はなし。7年前に一般公募から灰巣での職務に抜擢され、以来本件にて勾留されるまで雛の育雛係として勤務していた。勤務態度は極めて良好との証言あり。しかし、ヴェルク=ライナと通じている可能性があり、本日の審議に至る」
「ルムス・ハルカ氏、この内容に不服はありますか?」
ぴくりともせず。聞いているのかも怪しいと思える。僕はプロの弁士さんから教わっていたように、そのときに立ち上がって発言した。
「ルムス・ハルカ氏は、心神喪失と診断されました。よって私、鑑別師ヨータ・コガが代理応答いたします」
「事前に受け取った情報に従い、許可します」
「感謝します。まず、審議の内容で訂正したいことが一点あります」
タルクが、じっと僕を見ている。ルムスは黙っている。僕は大きく息を吸ってから、用意していた言葉を述べた。
「ルムス・ハルカ氏が、ヴェルク=ライナと通じているという情報は、誤りです」
僕がはっきりと告げた言葉に、タルクが身じろぎした。ダンさんもちょっと驚いている。そして、ルムスが。
ルムスが、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、顔を僕の側に動かした。
それだけで、僕は心底ほっとして、泣きそうなくらいほっとして、すごく気分が上がって緊張すらほぐれて……意気揚々と口八丁の言葉を並べ立てた。






