エピローグ
『処刑エンド令嬢s』
ジェーン・グレイ――。
駒――。
ジャンヌ・ダルク――。
シャルロット・コルデー――。
四人の少女たちは、舞台の上から観客へ向かって手を振っている。
その顔には、前世で彼女たちが味わった悲劇など、微塵も感じさせない。
ただただ満足げな笑顔。
今この瞬間を心の底から楽しんでいる、そんな表情だった。
そんな彼女たちの姿を、少し離れた舞台裏から眺める一人の女性がいた。
那波侑である。
「さてと……」
那波は小さく呟くと、踵を返す。
「何や、もう帰るん?」
そのすぐ目の前に、セツナが立っていた。
「ええ。こう見えて、私も結構忙しいんですよ」
那波は特に驚いた様子もなく、いつもの穏やかな笑顔を浮かべる。
しかし、セツナはそんな彼女をじっと見つめると、どこか呆れたように肩をすくめた。
「しかし、今回は随分まどろっこしいやり方やったなあ?」
「……何がです?」
那波の声が、少しだけ低くなる。
「最初から、転生者と宿主の情報を融合させるつもりやったんやろ?」
セツナが舞台の方へ視線を向ける。
「それやのに、転生者を一度元の時代に返すなんてなあ。結構意地悪やで」
「意地悪……ですか」
那波は苦笑した。
「あのコたちにも、散々言われましたよ」
「そら言うやろ」
セツナも笑う。
舞台の上では、四人がまだ観客へ手を振っている。
振り返り、その姿を見つめながら、那波は静かに口を開いた。
「幸せな時間――青春には、タイムリミットがある」
その言葉に、セツナは黙って耳を傾ける。
「それを知ったからこそ、あのコたちは最後まで諦めずに、あんなステキな曲を生み出すことが出来た」
那波の声には、どこか満足げな響きがあった。
「それこそが、人間が本来持っている可能性。私が見たかったものなのですよ」
セツナは、しばらく何も言わなかった。
やがて、舞台の上で笑い合う四人へ目を向ける。
「そうか……」
そして、小さく頷いた。
「そうかも知れへんな」
那波もまた、四人へ視線を戻した。
「それに、あのコは――ジェーンは、元の時代に戻る前に望んだのです」
「望んだ?」
「ええ」
那波は、ほんの少しだけ目を細める。
「“また会いましょう”と」
その言葉を口にした瞬間、那波の脳裏に、その時のジェーンの姿が蘇った。
「ですから、私は懸けてみたのです」
「……何を?」
「記憶を失くした四人が、同じ時、同じ場所に再び出会う可能性を」
セツナは目を丸くした。
そして――。
「……あのコらは、それをやってのけた訳か」
舞台の上へ視線を戻す。
ジェーン。
駒。
ジャンヌ。
シャルロット。
四人は今も笑っている。
「ホンマ、大したコらや」
その言葉には、心からの感心が込められていた。
那波はそんなセツナの横顔を見て、ふっと微笑む。
「では。また後でコーヒーを飲みに伺います」
「……ああ」
セツナは苦笑しながら手を上げた。
「ほなら」
「ええ。また後で」
那波はそのまま歩き出す。
その背中を見送ったセツナは、しばらく黙っていた。
やがて――。
「……ホンマ、難儀なヤツやな」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
那波は、人だかりを抜けた辺りで、ふと足を止めた。
そして、ゆっくりとステージの方を振り返る。
そこでは四人の少女たちが、今も観客からの拍手と歓声を浴びていた。
「青春……か」
那波は、うれしそうに。
それでいて、どこか羨ましそうに。
小さく笑って呟いた。
そして、彼女のショルダーバッグ。
その隙間からは、白い獅子毛が垣間見えた。
――――――
この物語の主人公は、承認欲求強めのワガママ令嬢――。
なお、本人にその自覚は、まったくない。
彼女は数百年後の未来――令和日本の女子高生に転生し――。
「青春リベンジ」を人生最大の目標に掲げ――。
生徒会長を目指したり――。
学園でハチャメチャしたり――。
バンドを始めちゃったり――。
とにかく、いろいろ大暴れしたのだけれど――。
彼女たちの物語は、ここで終わる。
――いや。
終わらない。
まだ、終われない。
なぜなら――。
彼女たちはまだ、青春真っ只中なのだから……。




