↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
75/76

最終話 Seem a Fleeting Dream

 ステージ上では今、スタッフたちによってドラムセットやギターなどのアンプが設置され、着々とライブの準備が進められていた。


 やがて全てのセッティングが整うと――


『お待たせしました。次は、市内のガールズバンド、“処刑エンド令嬢s(レディース)”のみなさんによる演奏です』


 案内所からのアナウンスが、スピーカーを通して商店街に響き渡る。


 会場からパラパラとまばらな拍手が上がる中、ステージ裏から四人の少女が姿を現した。


 四人とも身にまとっているのは、揃いのメイド服。


 ただし、普通のメイド服とは少々……いや、かなり違っている。


 ジェーン、駒(こま)、シャルロットの三人は、首元に血のように真っ赤に染まったチョーカーを身に着けている。


 そしてジャンヌに至っては――。


 メイド服そのものが、真っ赤だった。


 これは、ジェーン、駒(こま)、シャルロットの三人が斬首刑を、そしてジャンヌが火刑を暗示したもの。


 彼女たち自身が考え出した、“処刑エンド令嬢s(レディース)”を象徴するファッションである。


 そして、その狙いは見事に成功していた。


「なんだ、あの子たち?」


「あれ、バンド?」


「メイド服……?」


「一人だけ真っ赤なんだけど……」


 観客だけではない。


 通りを歩いていた人々までもが足を止め、ステージへと視線を向けている。


 インパクトは十分だった。


 四人はそれぞれの持ち場へと向かうと、楽器を手に取る。


 ジェーンは愛用のギターを肩に掛け、チューニングを確認すると――。


 ジャァァァンッ!!


 全力で弦を掻き鳴らした。


 続くように、駒(こま)のドラムが音を刻み、ジャンヌのベースが重低音を響かせ、シャルロットのキーボードがそれに重なる。


 四つの楽器から放たれた重厚な音が、春の青空の下へと広がっていく。


 少し変わったメイド服姿の少女たち。


 その四人が奏でる、少しどころではなく重たい音楽。


 それだけで充分なインパクトだった。


 最初はまばらだった観客席が、通行人を引き込むようにして徐々に埋まっていく。


 立ち止まる者。


 スマートフォンを取り出す者。


 友人に声を掛け、連れ立ってやって来る者。


 気が付けば、ステージの前にはかなりの人だかりが出来ていた。


 やがて、全てのセッティングを終える。


 ジェーンが目の前のスタンドに掛けられたマイクへ手を添えた。


『皆さま、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます』


 そう言って、メイドらしくスカートの裾を持ち上げながら一礼する。


 それに合わせ、他の三人も一斉に頭を下げた。


『大半の方が初めてだと思いますので、自己紹介させていただきます』


 ジェーンが顔を上げる。


『ワタクシたちは、かつて処刑された過去を持つメンバーによって結成されたバンド、“処刑エンド令嬢s(レディース)”と申します』


 ――ありのままの事実である。


 だが。


「……え?」


「処刑された?」


「何それ?」


「すごい斬新な設定!」


 観客席から、どよめきと笑い声が起こった。


 まあ、当然だろう。


 現代日本の女子高生が、いきなり「かつて処刑された過去があります」などと言われても、信じられるはずがない。


 ジェーンはそんな観客たちの反応を気にすることなく、堂々と名乗る。


『ワタクシはギターを担当しております――“九日間の女王”ことジェーン・グレイと申します』


 深々と一礼。


 続いて駒(こま)が立ち上がった。


『私が、ドラムを務めます――“奥州の才媛(さいえん)”、駒姫(こまひめ)こと最上《もがみ》駒(こま)です』


 こちらも深々と一礼する。


 次にシャルロットがマイクの前へ。


『アタシが、キーボード担当の――“暗殺の天使”の二つ名を持つ、シャルロット・コルデーで〜す!』


 元気よく手を振りながら名乗り、最後にぺこりと一礼。


 そして最後に――。


 ジャンヌが一歩前へ出た。


 マイクを握りしめる。


『そしてワタシが、ベースボーカルを務めます――“オルレアンの乙女”でお馴染みのジャンヌ・ダルクです!』


 声高らかに名乗った瞬間。


「おおおおおおおおっ!!」


 客席から、一際大きな歓声が上がった。


「ジャンヌ・ダルク!?」


「本物!?」


「知ってる! ゲームにも出てる人!」


「すげえ!」


 やはり知名度という点では、どうしてもジェーンたちよりジャンヌの方が上である。


 その反応を聞いたジェーンは、ほんの少しだけ頬を膨らませた。


(……ちょっとジェラシーですわ)


 しかし、そこは大人の対応。


 すぐに営業スマイルへ戻る。


『本日は、ワタクシたちのオリジナル曲をお届けしたいと思います』


 ジェーンは客席を見渡した。


『ご来場の方々は、どうかこの時間だけは足を止めて傾聴いただき、この後もお買い物や催し物を楽しんでくだされば幸いですわ』


 しっかりとイベントのアピールも忘れない。


 すると、駒(こま)もマイクを手に取った。


『地元の美味しいお野菜や果物が、たくさん並んでますよ』


「そうそう!」


「今日は安いよ!」


 どこからか商店街の人々から声が飛んでくる。


 シャルロットも負けじと続けた。


『フリマもやってるから、何か掘り出し物が見つかるかもしれませんよ〜』


「フリマ見てきた!」


「結構面白いよ!」


 こちらにも反応が返ってくる。


 そして最後にジャンヌ。


『あと、ひと息吐きたい時には、カフェ・レストラン“舞姫”がオススメです』


 そこで一拍置いて。


『今日は休業してますけど、普段はワタシたちもバイトしてますので、是非お越しください!』


「今日は休みなのかよ!」


「てか、ただの宣伝じゃん!」


 会場から、どっと笑いが沸き起こった。


 四人も思わず笑う。


 どうやら――。


 掴みは完璧だ。


 ジェーンは満足そうに微笑むと、再びマイクへ顔を近づけた。


『それでは、聴いてください』


 すぅ……。


 小さく息を吸う。


『“Seem a Fleating Dream”……』


 一瞬。


 会場が静まり返った。


 そして――。


 ドンッ!


 駒(こま)のドラムがエイトビートを刻み始める。


 それを皮切りに、ギター、ベース、キーボードが一斉に奏で出した。


 ♪ 


 Warning! Warning! A Scary Wolf is Coming Soon


 Hurry up and Hide Somewhere


 断崖絶壁 孤立無援 このまま消えてしまおう


 私のココロは壊れてしまいそう


 現実世界は地獄よ オオカミよりもコワイ


 LoserのDancing もっとRomantic Night


 CoolなKissで染め上げるわ……


 今宵 Parting これで最後よ


 Seem a Fleeting Dream……


 ♪


 音楽が進むにつれ、観客たちの身体が自然とリズムを刻み始める。


 最初は様子を窺っていた者たちも、いつの間にかステージへと釘付けになっていた。


 やがて曲が間奏へ入る。


 客席は――総立ち。


 会場のボルテージは、一気に頂点へと駆け上がっていく。


 その時だった。


「ナデシコちゃ~~~~んッ!!」


 ジェーンがギターソロを弾いている最中、客席から大きな声が飛んできた。


 ジェーンがそちらへ目を向ける。


 そこには、数人のクラスメイトの少女たちがいた。


 みんな大きく手を振っている。


 ジェーンは一瞬、目を丸くした。


 そして――。


 パチッ。


 口元を上げると、彼女たちへ向かってウインクを飛ばした。


「きゃあああああっ!」


 それだけで、クラスメイトたちは大喜びだ。


 その反応に、ジェーンも大満足。


 そして、ふと周囲を見渡した。


 いるーー


 八塚見(やつかみ)が。


 担任の那波(なわ)が。


 そして――両親も。


 少し離れた場所には、薫子(かおるこ)と『HY=Society(ハイソサエティ)』のメンバーたち。


 ステージの裏には、セツナと神社の宮司の姿もある。


 知っている顔。


 知らない顔。


 年齢も立場も違う。


 今日、この場所で初めて彼女たちの音楽を聴いた人も大勢いる。


 それでも――。


 誰もが彼女たちの奏でる音楽に耳を傾け、そのリズムに身体を揺らしていた。


 ジェーンはステージの上から、もう一度仲間たちへ視線を向ける。


 駒(こま)が――。


 ジャンヌが――。


 シャルロットが――。


 笑顔で応えてくれる。


 ジェーンも笑った。


 かつて、大衆の前で、その命を絶たれた少女たち。


 人々の視線に晒されながら、逃げることも出来ず、その人生を終えた少女たち。


 そんな四人が今は――。


 大衆の前に立ち。


 大衆の心を揺り動かす音楽を奏でている。


 なんという皮肉だろう。


 けれど――。


 ジェーンは、そんな運命を嫌いではなかった。


 むしろ。


 最高に――面白いと思っていた。



 ♪


 絡んだこの糸 まるで前世の罪


 深くこの体 食い込んでゆくわ……


 LoserのDancing もっとRomantic Night


 CoolなKissで染め上げるわ……


 今宵 Parting これで最後よ


 Seem a Fleeting Dream……


 WinnerのCrying きっとLonely Blue Night


 誰を求め彷徨うの?


 いつか Smiling 「また会いましょう」


 Seem a Fleeting Dream……


 Life is Just Seem a Fleeting Dream


 Life is Just Seem a Fleeting Dream……


 ♪


 最後の音が――。


 青空へと溶けていく。


 そして。


 演奏が終了した。


 シン……。


 一瞬だけ。


 会場が静まり返る。


 四人が息を整える。


 ジェーンが顔を上げる。


 次の瞬間――。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 割れんばかりの拍手と歓声が、会場を包み込んだ。


「すげえええええ!」


「最高ーッ!」


「処刑エンド令嬢s(レディース)!」


 最初はまばらだった観客席。


 それが今では、完全に埋め尽くされている。


 座席だけでは足りず、周囲には大勢の立ち見客までひしめいていた。


 ジェーンは、その光景を見つめる。


 胸の奥から、熱いものが込み上げてくる。


 全力を尽くして演奏出来た。


 そして、その演奏をたくさんの人たちが受け止めてくれた。


 これ以上ないほどの満足感。


 そして――高揚感。


 ジェーンは隣を見る。


 駒(こま)も。


 ジャンヌも。


 シャルロットも。


 みんな同じ顔をしていた。


 笑顔だ。


 四人はステージの前へ移動し、一列に並ぶ。


 そして――。


「ありがとうございました!!!!」


 四人揃って、深々と頭を下げた。


 その瞬間。


 再び、会場中から大きな拍手が巻き起こった。


 かつて処刑台で散った少女たちは――。


 今、同じ大衆の前で。


 歓声と拍手を、その身いっぱいに浴びていた。


 それはきっと。


 彼女たちが二度目の人生で掴み取った――最高の青春の証だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。