勇敢たる者
物心つく頃から、この孤児院で過ごしてきた。
親のことは…知らない。顔も見たことない。
でも大丈夫だ。
皆が…家族がいるんだから。
俺とベックは一番年上で、一番の親友だ。
兄ちゃんとして、弟や妹たちのことはちゃんと守らないと駄目だ。
子供っぽいところを見せちゃ駄目だ。兄ちゃんだから。
弱いところを見せちゃ駄目だ。兄ちゃんだから。
欲張っちゃ駄目だ。兄ちゃんだから。
ベックも…そうしてるんだから。
正直俺は、ベックに憧れてたのかも知れない。
だから…ベックよりも兄ちゃんになりたいと思った。
ベックにも、俺に頼って欲しかった。
***
「FFFFFF」
「…これは真か?」
「…はい、何度も確認しました」
「…必ず確保しろ」
「はっ、アーデズのため!」
「純白魔力色事例発見」
「…何が純白だ」
「純黒魔力色保有者、生存」
「…やあっと現れた。私の実験台」
***
000000って、俺は一体どうしたんだ…
結局、色々検査は受けたけど健康ということ以外、何もわからなかった。
低適性症…っていう病気の一種らしい。
でも、低適性症の患者は皆魔力を吐き出す魔道具を使わないと生きていけないし、赤ん坊の時に死ぬことも多いらしい。
なんで俺だけ大丈夫なんだ…?
「ハイン兄ちゃん」
「う、うん?どうしたの?マリ」
「私…聞いたよ?ハイン兄ちゃん、身体痛いの?」
「…そんなことないよ!ほら、元気元気!マリだっておんぶできるし!」
「本当…?よかった…」
とにかく…問題はなさそうでよかった。
下の子たちに心配かけるわけにはいかないからな…
「ハイン兄!お客さんがハイン兄のこと探してる!」
「俺を…?」
俺は、お客さんが待っているという表口に向かった。
一体誰が…
表口の前には、初めて見る背の高い男が三人立っていた。
「ハイン!お前も呼ばれたのか?」
「ベック?!」
「こほん」
「あ、そうだ…失礼しました、僕がハインです。どちら様ですか…?」
「そうか、君が…」
「私は、アーデズ王国軍のタリック・アイルソン大尉だ」
「同じく、ハンク・カーター中尉だ」
「アインズ・ケルターン中尉だ」
…軍人さん…?
「今日君たちを訪ねてきたのは他でもない」
「ベックくん…君には是非とも勇者となり魔王を倒してほしい」
?!
ベックが勇者に…?
そっか、白色だから…!
「…」
「まあ、すぐには答えられないだろう」
「…ハインは、どうして一緒に呼ばれたんですか?」
「あ、すまない。もちろんハインくんにも頼みたいことがある」
「僕に…ですか?」
「ハインくん…君は魔力色000000でありながら健康に生きている…君が研究に協力してくれるなら、低適性症の治療に大きな助けになるだろう…もちろん報酬も出そう」
…そっか、俺でも低適性症の人たちを助けられるんだ…
それに報酬も…孤児院を助けられるかも知れない。
「…それなら…」
「…ハインにするのは、検査だけですか?」
ベック?!
「…」
「わかりました、勇者になります」
「ベック!!そんなに早く…」
「その代わり、僕たちの孤児院への経済的援助と…ハインには手を出さないことを約束してください」
?!
「…わかった。上と話してその方向に持っていこう」
「大尉、いいのでしょうか」
「…仕方がない、まずはベックを確保することが優先だ」
「それでは後日、改めて」
その時、内から院長が慌てて走ってきた。
「はあ…はあ…あ、あの…すみません!お上がりいただいてお茶でも…」
「結構。伝えることは伝えました。詳しい話は二人から聞くといいでしょう」
軍人たちは、院長の提案を断っては歩いて去ってしまった。
…本当に、ベックが勇者になるのか?
ベックが一人で、危ないところにいっちゃうのか?
***
「ハイン」
「おい、聞いてんのか?」
「…」
「お前、さっき自分の分ほとんどリンダに譲ってほとんど食べてねえだろ」
「…食欲なかっただけだ」
「いいから、これ食え」
「…食わねえよ、それ、お前の分だろ?」
「…ああ、そうかよ」
「…本当に行くのか?」
「…ああ」
「一人で…格好つけてんじゃねえよ…!」
「…ハイン、下の子たちには兄が必要だ」
「…頼んだぞ」
「いやだ…」
「お前を一人で行かせられるわけないだろ!!」
「…必ず帰ってくる。魔王でもなんでも倒して…俺、FFFFFFだぞ?最強だぞ?魔王なんてすぐに倒せるって」
「…お前、絶対子供扱いしてるだろ」
「お前が子供みたいに泣いてるから」
「やっぱりか!!お前…」
「ハハハ…」
「…ベック」
「やっと泣き止んだな」
「…」
「泣くんじゃねえよ、兄ちゃんだろ?」
「…お前も…魔王なんかに負けるんじゃねえぞ!!」
「ああ…必ず勝って戻る!」
***
「ベック兄ちゃん…行かないで…!」
「…早く帰ってくるから」
「…約束だよ?」
「…ベックくん、荷物はちゃんと持ったかい?」
「…気をつけて行ってらっしゃい」
「…行ってきます」
俺は、ただ何も言わず、去り行くベックの後ろ姿をじっと見つめた。
…ベック、お前にだけ荷は負わせない。
いつか必ず…お前を助けられるくらい…強くなるから…待ってろよ…!




