未詳の四体目
「エラさんにハインさん……」
「もしかしてまたスライム討伐でしょうか……?」
「いえいえ、今回は別の依頼を受けようと思って……」
「本当ですか……?」
受付嬢さんは、疑い深い眼差しで俺たちを見つめてきた。
「……あれは本当に誤解ですって。スライムを狩ってたのはちょっと事情があってですね……」
「どんな事情でしょうね……」
「はは……」
見てられなかったのか、エラが割り込んできた。
「このハウンド討伐の依頼を受注したい」
「は、はいっ!当該依頼には要件がございますので確認させていただきます……」
……受付嬢さんも「黒衣の魔女」は流石に怖いらしい。
***
「報告によると、発見されたハウンドは全部で3体だ」
「3体か……」
でも、計画はあるから多分大丈夫だ!
「ハウンドは狼より少しだけ大きいが……足は狼よりも遅い。何せ半物質だからな」
「へえ……」
しかし……人数が少ないと流石に不便だな。
戦闘も、荷運びも、偵察も全部自分でやらないといけないのか……
まあ、その分取り分は多いけど。
「あっ、あった……!」
「ちょっと荷物を預かってくれ」
「ああ」
「体外排出の出番だな」
「ああ……」
まだ細かい操作はできないけど……純黒魔力を撒き散らすことはできる。
体外排出!
体外排出を維持した状態で、一歩ずつハウンドたちに近づいていく。
やがて、一番近いところにいたハウンドが反応を見せた。
よし……計画通りだ。
一体ずつ引き寄せて倒す、ガルドさんたちのパーティーで学んだ魔物の狩り方だ。
俺の魔力を取り込んだハウンドは、俺の方を睨み出した。
ダメージを受けたときと同じで、純黒魔力を取り込むと凶暴になるんだっけ……
よし、いつでも来い……!
ハウンドは、いきなり俺に突っ込んできた。
純黒燃!
「ガルルルル……」
避けられたハウンドは、方向を切り替え再び俺の方に駆けてきた。
迎え撃つ。
俺もハウンドの方へ走り、メイスを振った。
メイスはハウンドの顎の間に挟まり、顔を引き裂いて真っ二つにした。
次第に、ハウンドは消散し、魔石だけが残った。
「うえぇ……!」
こんな倒し方のつもりじゃなかったのに……
これは夢に出てきたら嫌なやつだ……!
「ほう、一撃か。やはり体内燃焼はある程度熟達しているな」
「……これ見て何も思わないのかよ……」
「次、やらないのか?」
「ちょっと気分悪くなったから休ませてくれ……」
「冒険者業をやるんだったら慣れた方がいいぞ」
それはそうだけど……慣れすぎるのもどうかと思いますけど。
それから、気を取り戻した俺は残りの2体も無事討伐に成功した。
普通に倒す分には俺も抵抗はない……
一体目のときは偶然がすぎただけだ。
「ひゅー……」
「ほっとしてるところ悪いが……あそこにハウンドの足跡が続いている」
「えっ?」
「恐らく、4体目がいる」
「げっ……」
「このまま帰って依頼達成ということにしてもいいが……他の冒険者が思いもよらないハウンドと遭遇して危険になる、なんてこともあるかもな」
「討伐するしかないじゃん……」
俺たちは、その足跡を辿って進んでいった。
しばらくすると、ハウンド一体が兎を口に咥えているのが見えた。
地面には、兎の血が垂れ落ちていた。
「あいつで最後か……」
一体だけなら、わざわざ誘き寄せる必要もないな。
俺は、ハウンドの視界の外から少しずつ近づいていった。
奇襲で一気に終わらせる……!
俺は、メイスを持った右手を持ち上げた。
そのときだった。ハウンドと俺の目が合った。
?!
俺が慣性で止まれず腕を振り下ろすと、ハウンドは素早くメイスを避け、俺の脇腹に噛みついた。
「くっ……!!」
「あれは……!」
「このっ……!」
噛みついているハウンドをメイスで振り下ろそうとすると、ハウンドはまた先程までのハウンドと同じ魔物とは思えない速さでメイスを避けた。
「なんだこいつ……!」
防具のせいで歯が入らないのがわかったのか、ハウンドは俺から離れて後ろに下がった。
そして、すぐに俺の方に突っ込んでは飛び跳ねた。
やつの爪が俺の目を奪う寸前に、俺はとっさにメイスの棒でそれを防いだ。
危ねぇ……!
「あの素早さは異常だ……!ハイン!私も加勢する!」
「ごめん!頼む!!」
「体外排出……!」
エラは魔力を遠隔で操れる……!
俺が受け止めてる間に純黒魔力を取り込ませれば……!
えっ?
全く反応がない。
苦しみ出しもしなければ、凶暴にもならない。
ただそのまま。
どういうことだ……?
「おかしい……!」
「あれは、本当に魔物なのか……?」
「あの素早さ……まさかとは思うが……!」
「ハイン!!もう少し耐えてくれ!!」
「何か手があるのか?!」
やがて、俺の懐に潜り込んだハウンドは防具を貫き、俺の肌を裂いた。
「くあああっ!!」
「ハイン!反撃するんだ!!」
「でも……」
「いいから早くしろ!!」
「わ、わかった……!」
俺がメイスを振り下ろすと、ハウンドはまた物凄いスピードで攻撃をかわした。
「今だ……!」
「体外排出!!」
「今だ、ハイン!!追撃を喰らわせろ!!」
「えっ?!」
「説明は後だ!!」
エラの考えはわからないけど、今は信じるしか……!
俺はハウンドを追いかけ、メイスを振った。
当たってくれ……!
純黒燃!!
「カアアアアア」
えっ?攻撃が……当たってる……?!
目の前のハウンドは、確かに痛みに苦しんでいた。
「早く止めを刺せ!!」
「わ、わかった!」
「喰らえっ!!」
「カアアァ……」
首の上からメイスを振り下ろすと、ハウンドは直に動かなくなった。
「はあ……はあ……こいつ……一体何なんだ……?」
「……待て、消えてない……!くそっ、まだ足りないのか!!」
「いや、もうやめていい」
「……エラ?」
「やはり消散しないか……」
「どういうことだ……?」
「これは……半物質ではない。完全な『物質』だ」
「……は?」
「それに……さっきの素早い動き……あれは恐らく魔法だ」
「……は?」




