第二の魔術
「なるほど、釘とハンマーで訓練か、その発想はなかった」
「身体強化はある程度熟達したことだし、そろそろ次の段階に進んでもいいだろう」
「次の段階?」
「ああ、その前に…お前には少しだけ魔法の勉強をして貰う」
「……魔法か?魔術じゃなくて?」
「そうだ」
「俺は魔法を使えないんじゃなかったのか……?」
「まあ、聞け」
「お前も知ってる通り、魔法には三つの属性が存在する」
「ああ……赤、緑、青だろ?」
「じゃあ、それぞれが正確に何なのか、知っているか?」
「それは……知らないな」
「簡単に説明すると……赤は力を足し、青は力を引く」
「へえ……じゃあ、緑は?」
「緑は……」
「どうかしたのか?」
「……緑は、物を作る」
「えっ、確か回復魔法って緑属性じゃなかったっけ」
「ああ……あれは実のところ、傷口に新しい生体組織を作って傷を塞いでいるんだ」
「……それで、なんでそんなに不機嫌なんだ?」
「『物を作る』なんて、簡単に言ってもそれは普通あり得ないことだ」
「……なんでだ?」
「力だけで……無から物を作る、なんてことが魔法なしでできると思うか?」
「……」
「赤属性も、青属性も、魔法なしで似たような現象は再現できる。だが、緑属性は違う。少なくとも今の物理学では無理だ」
「以前、魔法を魔力なしで再現する実験も行われたが…緑属性だけは方法すらわからなかったため、実行もできなかった」
「……」
「そこで、私はそもそも前提が間違っているのではないかと考えた。緑属性は力で物を作っているんじゃない」
「そもそも、魔力とはなんだと思う?魔力は人体で生成されるエネルギーを含んだ粒子と言われている」
「……」
「私は緑属性魔法は緑属性のパスウェイを通って加工された魔力同士が凝集し、新しい物質を構成する現象という仮説を立てた」
「だが、結果物である物質は魔力で構成されていない。それに、このような現象は他の粒子からは観察されていない。そこで私は魔力だけに関わる物理法則の仮説を立てた」
「……」
「私はそれを生成力と…」
「……あのさ」
「……そんなに長々と話してもちっとも理解できないんだけど……」
「……まあ、要するに、生成力という力によって固まった魔力が物質になるということだ」
「最初からそう言えよ!!」
「……とにかくだ、この仮説は魔物の発生の原因をも説明できる」
「……!」
「魔物は生きた魔法……ということだ。まあ、生きているというのは比喩表現で、実際生命体の基準は満たしていないがな」
「魔物は、言わば不完全に固まった魔力の塊だ。これを半物質という。半物質は魔力によってその形を保っている……だから魔力を取り込むために生命体を攻撃しているんだ」
「……腹が減ってるからじゃなかったのか?!」
「まあ、強いていえば生命体でいう空腹感と似たようなものだろう」
「ということで、ここに魔物がいる」
エラは部屋の隅からケージを取り出した。
「うわああっ!」
「そう驚くな、最小クラスの魔物、『スライム』だ」
「なんてことしてんだ!!町の中に魔物を持ってきてもいいのか?!」
「ちゃんと研究目的で許可は取ってある。ケージの中から出さなければ問題はない」
「ったく……驚かすなよ……危ないだろ……」
「魔物は一種の魔法だ。そしてここで一つ復習だ。純黒魔力は魔法に変換できない……これは覚えているな?」
「まあ、覚えてるっていうか当たり前に思ってるけど……」
「そして、低彩度の魔力は高彩度の魔力と結合しようとする……」
「……」
「……まあ、見ろ。つまりこういうことだ。魔物に私の純黒魔力を取り込ませれば……」
「……?」
やがて、スライムは身体をよじりながら苦しみ出した。
そして、すぐにケージの中で散り、そこには小さな魔石だけが残った。
「?!どうなってるんだ??」
「魔法に変換されない純黒魔力が魔物を構成する有彩魔力と結合し、半物質の維持を妨害したんだ」
「そんなことが……!」
「魔法を霧散させる……これがお前に習得して貰う二つ目の魔術だ」
「魔法を……消す……!」
「ああ、これができるようになれば、魔物相手は勿論、対人戦でも有利になるだろう」
「あ、そういえば一つ聞きたいんだけど……」
「何だ?」
「この間パーティーでコボルト狩りにいったとき……コボルトサージェントがいきなり俺の方に突っ込んできたんだ。俺は何もしていないのに……」
「さっきお前が言った通り、魔物が魔力を取り込むために人を襲ってるなら、なんで俺を襲ったんだ?」
「普通、魔物に魔力の色を見分けるくらいの知能はない」
「……しかし妙だ」
「……?」
「真っ先にお前に襲いかかったのだとしたら、考えられる理由は……その場にいた者の中で魔力量が一番多かったということだ」
「……えっ?」
「……少しでいい。血を採らせて欲しい。お前の魔力量を計りたい」
「ええっ……」
「なんだ、採血は怖いか?」
「そ、そんなことねぇよ!」
「よし、チョロいな」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」




