表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森で見つけた呪われ少年を看病していただけなのに、王太子殿下に溺愛されています  作者: 葉月晴子
第二部 太陽を、迎えに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/74

第50話 戴冠

冬至。


ノエル十八歳の、誕生日。


王宮の大広間。


天井のはるか高いところから、銀の鎖でつながれた、いくつもの水晶のシャンデリア。


その光が、白い大理石の床を、しんしんと照らしていた。


大広間には、全大陸の外交使節、王宮の大臣、貴族の方々。


そして、アーデルハイト王国民の代表たちが、ぎっしりと、立ち並んでいた。


ノエル、立太子の儀。


長い、ノエルの旅路の、ひとつの結び。


◇◇◇



私は、聖女のドレスに、銀の紋章のついた藍色のショールを羽織って、玉座の右脇に立っていた。


胸元には、聖女の銀の十字。


長い髪は、お母さんが結んでくれた青いリボンで、しっかりと結ばれていた。


そして、新しく授けられた、婚約者の銀の紋章。


ノエルとお揃いの、藍色。


私はノエルの、生涯の伴侶。


玉座の前に、ノエル。


王太子の正装。


濃い藍色のお召し物に、銀の刺繍。


肩から流れる、深い藍色のマント。


腰には、ノースランド戦の時代から伝わる、王家の剣。


長身が、まっすぐに、玉座の前に立っていた。


◇◇◇



玉座に、陛下。


濃い藍色のお召し物に、銀の刺繍。


胸元には、金色に輝くライオンの王家の紋章。


肩から長く流れる、紫のマント。


その隣の白い椅子に、皇后陛下。


白いショールで、ふっくらと膨らんだお腹を、優しく包んでおられた。


ご懐妊。


けれど、まだ、外には知られていない。


今日、この立太子の儀のあとに、お国に公表される。


ーー、もう、隠さなくていい。双子の王子の誕生を、お国じゅうが、祝ってくれる。


◇◇◇



陛下が、玉座を立たれた。


陛下の威厳ある声が、大広間に響き渡った。


「ノエル・アレクシス・アーデルハイト」


「はい、父上」


ノエルの低い声が、響いた。


「これより、我が王家の王太子として、我が国を守れ」


陛下が、銀の冠を、ノエルの頭にお乗せになった。


歴代の王太子の頭を飾ってきた、金と銀の細工の、軽やかな冠。


ノエルが、まっすぐに、頭を上げた。


「はい、父上」


ノエルが、腰の剣を抜いて、両手で、陛下に捧げた。


歴代の王太子の伝統。


陛下が、ノエルの剣を、両手で受けて、ふたたびノエルの腰におさめてくださった。


「わが息子よ、アーデルハイト王国を、その剣で、守れ」


「はい、父上」


陛下の蒼い瞳と、ノエルの蒼い瞳が、まっすぐに、見つめ合った。


◇◇◇



フェルディナンド宰相が、紫の絹に乗せた、金色のライオンの紋章を、玉座の前にお運びになった。


陛下の胸元と、同じ、金色のライオン。


「ノエル、これより、王家の紋章を、授ける」


陛下のお声が、大広間に響いた。


そして陛下が、その金色のライオンを、ノエルの胸元に、しっかりとお付けくださった。


ーー、!


ホーニング村の離宮に届いていた、お手紙の封蝋と、同じライオン。


ノエルをお迎えの黒塗りの馬車の扉と、同じライオン。


陛下の胸元と、同じライオン。


いまノエルの胸元にも、輝いている。


ノエルの長い旅路の、結びの日。


私の頬を、涙がぼろりと流れた。


◇◇◇



私は聖女として、ノエルの隣に進み出た。


両手を組んで、頭を垂れた。


ーー、神様。


ノエルに、お力をお与えくださいませ。


お国の繁栄と、平安を、お守りくださいませ。


私の中の聖女のお力が、ふんわりと、ノエルの胸元の金色のライオンに、流れていった。


ノエルの蒼い瞳が、私の方を、見つめた。


その目に、涙がにじんでいた。


私たちは、お互いに、こくり、と頷きあった。


◇◇◇



陛下が、ふたたび、大広間にお立ちになった。


「わが国民、わが大臣たち、わが外交使節たち」


陛下の声が、大広間に、響き渡った。


「もうひとつ、お知らせしたきことが、ある」


大広間が、しんと、静まりかえった。


陛下の蒼い瞳が、皇后陛下のほうを、向いた。


「皇后エレオノーラが、第二子と第三子を、ご懐妊である」


「ーー、双子で、ある」


「ーー、!」


大広間が、どよめいた。


外交使節の方々、大臣の方々、貴族の方々。


ぜんぶの目が、皇后陛下のお腹に、注がれた。


皇后陛下が、ショールを、ふんわりと開けて、ご自分のお腹を、お見せになった。


ふっくらと丸い、双子のお腹。


ーー、!


大広間が、わあっと、歓声に包まれた。


「聖女リリィ嬢のお力により、皇后は完全に回復し、新しい命を、二つも、腹に迎えた」


「来春には、ご誕生の予定で、ある」


陛下の声が、大広間に、満ちた。


歓声が、いっそう大きくなった。


聖女リリィのお力。


皇后陛下のご快復。


双子のご誕生の予定。


長く、ひとりっ子だったノエルに、弟か妹。


◇◇◇



と、そのとき。


私の視線の隅に、ふと、ひとつの影が、映った。


ノースランドの、外交使節。


その顔が、ふっと、青ざめていた。


気の遠くなるような、計画。


わが王家の血脈を、自然に絶やして、わが国を乗っ取る、ノースランドの陰謀。


いま、その計画が、無惨にも、砕け散った。


二人もの新しい命が、わが王家に、宿っている。


ノースランドの目論見は、ここに、終わった。


ノースランドの外交使節の目が、深く、揺れていた。


◇◇◇



大広間の鐘が、しんしんと鳴り響いた。


雪の中の王宮に、新王太子のお披露目と、双子のご懐妊の祝福の声が、こだましていった。


外の雪が、白く、白く、降り続いていた。


冬至の日。


ノエル十八歳の、誕生日。


新しい王太子の、誕生の日。


わが王家に、新しい命が宿った、お知らせの日。


長い、ノースランドの陰謀の、終わりの日。


◇◇◇



その夜。


王宮の奥の、二人だけの応接間。


暖炉で、薪が、ぱちぱちと、温かく燃えていた。


ノエルが、深い藍色のマントを脱いで、肘掛け椅子に座っていた。


胸元には、金色のライオン。


私は、ノエルの隣の椅子に、腰をおろした。


「ノエル」


「ーー、ふん」


「立太子、おめでとう」


「ーー、ふん」


ノエルが、深く、息を吐いた。


そして、目線を、私の方に向けた。


蒼い瞳の奥が、静かに、揺れていた。


「リリィ」


「うん、ノエル」


ノエルの低い声が、暖炉の前に、響いた。


「ーー、お前は、俺の太陽だ」


うれしくて、声が、出なかった。


ーー、私が、ノエルの、太陽。


ノエルの蒼い瞳が、私を、まっすぐに見つめていた。


◇◇◇



「ーー、本当はさ、リリィ」


「うん」


「リリィを王宮に迎えに行かせたのは、俺なんだ」


「ーー、!」


「聖女候補としての招請、フェルディナンド様に頼んだのは、俺だ」


「ノエル」


「俺のわがままで、お前をホーニング村から呼んでしまった」


「本当は、お前には、他の人生もあったのに」


「俺のようなやつに、捕まってさ」


「ーー、俺は、お前を、手放せなかった」


ノエルの蒼い瞳が、暗く、揺れた。


無愛想な言葉の奥にずっと隠れていた、罪の意識。


ずっと続いた、ノエルの、ひとりっ子の、寂しさ。


◇◇◇



「ううん、ノエル」


私の声が、しっかりと、響いた。


「私、ノエルを助けるためにね、薬が、作れるようになったのよ」


「ーー、!」


「ホーニング村で薬草を勉強したのも、聖女のお力に目覚めたのも、ぜんぶ、ノエルを助けるため」


「だから、ノエルがお迎えに来てくれる日を、ずっと、ずっと、待ってたの」


ノエルの目に、涙が、溢れんばかりだった。


「リリィ」


「うん、ノエル」


「ーー、太陽が、俺を迎えに、来てくれたんだな」


ノエルが、私を、深く、抱きしめた。


私の頬を、涙が、ぼろぼろと流れた。


ーー、太陽を、迎えに。


太陽が、ノエルを、迎えに来た日。


ノエルが、八年前、森で、リリィに、はじめて「迎えに来てくれ」と願ったあの瞬間から。


今夜、太陽は、ノエルのもとへ、降り立った。


◇◇◇



ノエルの腕の中で、暖炉の火が、ぱちぱちと、温かく弾けていた。


「リリィ」


「うん」


「ご婚儀は、二年後、お前が十六歳の冬至に」


「俺たち二人の成年宣言式と、同じ日に」


「うん、ノエル」


「絶対に、待っている」


「うん、ノエル。私も、絶対に、待ってる」


ノエルが、私の頭の上に、自分の額を、こつん、と当てた。ノエルの体温が、私の額に、伝わってくる。


額を合わせたまま、ノエルは、しばらく動かなかった。それから、ゆっくりと顔を傾けて、私の唇に、口づけた。


何度も交わしてきたはずのキス。それなのに今夜のは、いつもより長くて、深い。


唇が離れたあとも、ノエルは、止まらなかった。私の頬に、こめかみに、それから、首筋に、順に唇を落としていく。くすぐったくて、私は、ちいさく肩をすくめた。


「ノ、ノエル……っ」


「……じっとしてろ」


低い声が、首すじの肌に、じかに触れる。耳まで、かっと熱くなった。


最後に、ノエルは、鎖骨のくぼみに、ちょん、と唇を当てて、それから、名残惜しそうに、顔を上げた。


「ーー、続きは、婚儀の夜だ」


ぶっきらぼうに、けれど、その耳は、私よりずっと、赤い。


「お前は、まだ、十四だからな」


ーー、ノエルらしい。


私が、くすっと笑うと、ノエルは、ばつが悪そうに、もう一度、私を、腕の中に引き寄せた。


「……からかうな」


そっぽを向くノエルの胸に、そっと寄りかかる。手のひらの下で、金色のライオンの紋章が、ノエルの速い息にあわせて、かすかに上下していた。


長い、長い旅路の、ひとつの結び。


そして、新しい旅路の、はじまり。


王宮のいちばん奥の応接間に、ふたつの心臓の鼓動だけが、響いていた。


外では、雪が、しんしんと、白く、降り続いていた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


第二部 太陽を、迎えに 完結


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ