第43話 真実
半刻ののち。
陛下の私室。
王宮のいちばん奥の、深い、深いお部屋。
私はノエルの車椅子を押して、その扉の前に立った。
扉が内側から、そっと開いた。
中で、お父さん、お母さん、お兄ちゃんが、もう、楕円のテーブルについて待っていた。
クラリッサ様は、ひと足先に家族を連れてきて、もうお部屋を退出されていた。
「リリィ」
お父さんが、ちっちゃく頷いてくださった。
私もお父さんに、こくり、と頷き返した。
◇◇◇
お部屋の中は、ふだんの王宮のお部屋とはちがっていた。
中央に深い色合いの楕円のテーブル。
天井からふんわりと、白い光が、しんしんと射していた。
テーブルの上座には、まだ、誰もお座りでなかった。
その上座の右隣のソファが、空いていた。
「リリィ様、こちらへ」
ハインリッヒ先生が、上座の右隣のお席をお示しになった。
車椅子を押して移動し、ノエルがソファに、そっと腰を下ろした。
お父さん、お母さん、お兄ちゃんは、上座の左側に、並んでお座りになっていた。
ハインリッヒ先生とフェルディナンド様は、扉の脇に控えていらっしゃった。
ハインリッヒ先生は、白い長い医師のローブ。
襟元と袖口には、銀の細い縁取り。
首元には銀の鎖、円形のメダル(薬の杯と銀の星のしるし)。
長い白髪を、後ろでひとつにまとめておられる。
腰には革のベルトに、薬瓶のホルダー。
落ち着いた、ふしぎな知恵をたたえたお目。
フェルディナンド様は、深い藍色の長いお召し物。
肩から流れる、長い黒のマント、銀の鎖留め。
胸元には、銀の鍵のかたちをした、宰相の徽章。
白髪の混じった、短く整えた髪。
鋭く知性的な、深い灰色のお目。
家族の、しずかな円。
王宮の奥の、深い、深い円。
私たちは、陛下のお越しを、お待ちした。
◇◇◇
しばらくして。
奥の扉が、しずしずと、開いた。
陛下が、深い紫のマントを揺らして、お入りになった。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、ノエルと私が、いっせいにソファから立ち上がった。
私たちは深々とお辞儀をして、陛下をお迎えした。
「リリィ嬢、ノエル、家族の者、まいったか」
「はい、陛下」
陛下が、上座にお座りになった。
私たちも、ふたたび、席についた。
そしておだやかなお声で、陛下がこうおっしゃった。
「ここは完全な防音となっておる」
「あらゆる結界が張られておるゆえ、ここで話した内容は、外に漏れることはない」
「ーー、安心して、よい」
陛下のお目が私たちを見つめた。
防音の、結界の張られた、私室。
ここで話したことは、外に、漏れない。
◇◇◇
陛下のご威厳のあるお声が深みを増した。
「ーー、ノエル」
「はい、父上」
「お前の婚約者として、このたび、リリィ嬢を迎えることにした」
「よいな、ノエル」
ノエルの蒼い瞳が、重くなった。
そして頷かれた。
「はい、父上」
ノエルの声が、ふだんよりずっと、しっかりと、深かった。
私の頬がぽっと、温かくなった。
◇◇◇
「ーー、婚約式は、二ヶ月後の、夏至に行う」
「同じ日に、リリィ嬢の聖女就任式と、ジョン男爵の男爵授与式も、合わせて執り行う」
二ヶ月後の、夏至。
私の十三歳の誕生日。
その日に、ノエルとの婚約式。
そして、聖女就任式と、お父さんの男爵授与式。
三つの式を、ひとつの大きな日に。
私の心臓が、ぐっととん、と跳ねた。
「ノエルとリリィ嬢は、これより、王立アカデミーに通いながら、後継者教育に励むように」
「はい、父上」
「はい、陛下」
「リリィ嬢がアカデミーを卒業したのちに、ご婚儀をあげよう」
ご婚儀。
私がアカデミーを卒業したら。
私の頬が、真っ赤に染まった。
◇◇◇
「今後は、リリィ嬢にも警備をつける」
陛下のお目が私を見つめた。
「ノエルの寝室の隣をリリィ嬢の部屋とする。夜は、ノエルの部屋で、共に過ごしてくれ」
私の心臓が、どきん、と跳ねた。
「それが、警備上、もっとも安心だからな」
陛下のお声が深かった。
私は丁寧に頭を下げた。
「かしこまりました、陛下」
私の声が、わずかに震えた。
ノエルが、目線を私のほうに向けた。
その耳が、ほんのり、桃色に染まっているのが見えた。胸の奥が温かくなった。
◇◇◇
陛下のご威厳のあるお目が重くなった。
「ーー、さて、ここからが本題である」
陛下のお声が、重くなった。
ハインリッヒ先生が、白いハンカチに包まれた銀色のお皿と藍色の石を、陛下のお手元にお運びした。
陛下がそれをテーブルの真ん中にお置きになった。
「皇后の寝室から、こんなものが出てきた」
陛下のお目が、お父さん、お母さんを見つめた。
「これが、何か、わかるか」
◇◇◇
お父さんとお母さんが、テーブルの上の藍色の石を見つめた。
お母さんが、息を呑んだ。
「ーー、こ、これは」
お母さんの声が震えた。
「あなた」
お父さんがしっかりと頷いた。
そして深いお声で、こうおっしゃった。
「これは、隣国の、魔道具にございます」
陛下の目が、大きく見開かれた。
ハインリッヒ先生も、フェルディナンド様も、息をのまれた。
◇◇◇
「隣国の、魔道具、と」
陛下のお声が重く、震えた。
「はい、陛下」
お父さんの声が続いた。
「お身体が弱っている方のお側に、これが置かれてしまったら、御命を奪いかねません」
皇后陛下のお部屋に、これが置かれていた。
長年、皇后陛下のお身体を、しんしんと削っていた、その正体。
陛下のお目から、涙がひと粒、流れた。
「ーー、皇后を、ーー、これが」
陛下のご威厳のあるお声が、わずかに震えた。
ノエルの目は、動かなかった。
私の胸の奥が、ぎゅっとぎゅっと絞られた。
◇◇◇
お母さんの目が揺れていた。
そして、お父さんに目線をやった。
お父さんは頷いた。
「陛下」
お父さんの声が響いた。
「この魔道具について、私どもには、もうひとつ、お話し申し上げたきことがございます」
「ほう」
陛下の目に、驚きが走った。
「ーー、これは、私どもの本当の素性と、強く関わってまいります」
私も思わず目を見開いた。
お父さんと、お母さんの、本当の素性。
◇◇◇
お父さんが、テーブルの上の古い木箱を開けた。
中から出てきたのは、深い藍色の絹に包まれた、銀の紋章。
その紋章には、北の星と、二本の剣の意匠。
陛下が、息を呑まれた。
「ーー、これは」
陛下のお声が震えた。
「ノースランド王家の、紋章」
「はい、陛下」
お父さんが立ち上がった。
そして陛下にお辞儀をなさった。
「陛下、ご無礼を承知で申し上げます」
お父さんの声が、ずしりと響いた。
「私の本名は、ジョン・フリードリヒ・ノースランド」
「ノースランド王家の、第三皇子でございます」
陛下が、はっとされた。
私の頭が、まっしろになった。
お父さんが、ノースランド王家の、第三皇子。
長年、ホーニング村の薬師として、私を育ててくれた、お父さんが。
◇◇◇
お父さんの声が続いた。
「二十年前、王位継承の争いで、兄たちの暗殺未遂を受け、瀕死の身でエルフの郷へ逃れました」
「公式の記録の上では、私は亡くなったことになっております」
「エルフの郷でエマと出会いました」
「そしてノースランドがエルフ王国を侵略し、エマと共にこちらへ逃れてまいりました」
「以来、ホーニング村の薬師として、リリィを育てました」
陛下のお目が潤んだ。
「ーー、ジョン皇子」
陛下のお声が震えた。
「よくぞ生きておったな」
陛下がしっかりと頷かれた。
「面を、上げよ」
お父さんが顔を上げた。
私の頬を、涙がぼろりと流れた。
◇◇◇
続いて、お母さんが立ち上がった。
そして陛下にお辞儀をなさった。
「陛下」
お母さんの声が深かった。
「私の名は、エマ・リューネブルク」
「エルフ王国の第一王女でございます」
陛下の表情が、揺れた。
お母さんが、エルフ王国の第一王女。
ホーニング村で、薬草を私に教えてくれた、お母さんが。
◇◇◇
お母さんの声が続いた。
「二十年前、ノースランドがエルフの国を侵略し、私の故国は滅びました」
「父王は、瀕死のジョンを匿い、私を共に逃がしてくれました」
「その別れが、父との最後でございました」
お母さんの目から、涙がひと粒、流れた。
「エマ王女、よくぞ生きておったな」
陛下のお声が、重く、震えた。
◇◇◇
お母さんの目が、テーブルの上の藍色の石を見つめた。
「この、魔道具」
お母さんの声が、わなわなと震えた。
「私の故郷、エルフの郷でも、同じ石が、あちこちに、置かれておりました」
「ーー、!」
陛下が、はっとされた。
「ーー、エルフの郷でも、と」
「はい」
お母さんの声がさらに、続いた。
「エルフの郷で、この石は、『幸運の石』と、呼ばれておりました」
「ーー、!」
「ある日、誰がはじめに広めたのか、わからぬまま、こんな噂が立ったのでございます」
「『この石を、誰にも気が付かれずに内緒で、こっそり大事な人のそばに置くと、幸運がもたらされる』、と」
「『けれど、誰かに話してしまえば、効果は失われる』、と」
陛下が、はっとされた。
「それで、エルフの民は」
「はい。みなが、こっそりと、お城のあちこちに、軍の野営地に、ご自分のお部屋の枕元に、置きました」
「誰にも内緒で、そっと、こっそりと」
「けれど本当は、その石こそ、呪われたお力の石でございました」
「エルフの呪術知識を、ノースランドの呪術師が悪用し、ノースランドの禍々しい呪いを付与した、呪具だったのでございます」
「人の生気を、しんしんと吸い取り、お身体を、屍に変えてしまう、闇の力を発する石なのです」
陛下の目が、わなわなと震えた。
◇◇◇
「しばらくして、エルフの民の中で、ふしぎなことが、次々と、起こりはじめました」
お母さんの声が、震えていた。
「すこし負傷しただけの兵が、ばたばたと、お命を落とす」
「ふだんお元気な兵が、すうっと、お床から起き上がれなくなる」
「私の父王、エルフ王の、お身体も、日々、すこしずつ、弱っておられました」
「私の母、エルフの皇妃も、長く、お床に伏されておりました」
「本来、エルフは、戦には、強い民でございます」
「弓矢の腕で、外部の者を、決してお城に寄せつけない」
「けれど、いつの間にか、エルフの民は、内側から、しんしんと、削られていたのでございます」
「ノースランドの侵略のおりには、もう、エルフの兵は、戦う力を、失っておりました」
◇◇◇
お父さんが、お母さんの肩を、しっかりと支えた。
お母さんの目から、涙がひと粒、流れた。
「あとから、わかったことでございます」
「エルフの郷に『幸運の石』を広めたのは、ノースランドに留学していた、ひとりのエルフの民でございました」
「ーー、!」
「その民が、『幸運が来た』と申して、石の効能を解き、エルフの人々に、流行らせたのでございます」
◇◇◇
「本物の『幸運の石』は、エルフの古代から伝わる、幸運の守りでございました」
「けれど、実際に、エルフの民の手に渡り、お置きになっていたのは、本物ではなく、ノースランドの呪いが付与された、紛い物の石」
「見た目だけを、エルフの本物の石に似せて、ノースランドが、ご大量に作らせた、呪いの石でございます」
「紛い物の呪いの石が、タダで、しんしんと、エルフ王国の中に持ち込まれ、人々の手から手へ、流布していったのでございます」
「留学していたあのエルフの民も、ご自分が広めているのは、本物の『幸運の石』だと、最後まで、信じておりました」
「本当に、エルフの人々のために、お広めになっていた」
「ノースランドの呪術師が、その留学のあいだに、その民を、ご操作になられていたのでございます」
陛下のお目から、ぼろぼろと、涙が流れた。
「ーー、それと、同じことが、わが王宮にも」
「はい、陛下」
お母さんの声がずしりと、響いた。
「これと同じことが、いま、この国でも、行われようとしております」
「皇后陛下のお部屋から発見された、この『眠りの魔石』も、エルフの郷で『幸運の石』と呼ばれていたものと、同じ細工」
「ご操作されたメイドや、それと知らずに置いた者が、王宮のいちばん奥に、こっそりと置いていたのでございましょう」
「長い、長い時をかけて、皇后陛下のお身体を、削っておられたのでございます」
陛下のお目から、ぼろぼろと涙が流れた。
◇◇◇
お父さんが、続けて話した。
「ーー、陛下、もう、ひとつ、ご明言、申し上げたきことがございます」
「ほう」
◇◇◇
「私は、第三王子の頃から、薬草と医学を学んでおりました」
お父さんの声が、深かった。
「呪術や、魔法には、まったく、興味が、ございませんでした」
「ただただ、薬草の力で、人をお救いしたい、と」
「けれど、王家を出てから、二十年」
「ホーニング村の薬師として、薬草を求めて各地をまいる中で、本当は、もうひとつ、お役目を、果たしておりました」
「ノースランドの悪事の痕跡を、ずっと、探っておりました」
陛下が、はっとされた。
「ノースランドの悪事」
「はい、陛下」
◇◇◇
「私の兄たちの、誰かが、古の封印を、解いたのではないか、と」
「ーー、!」
「兄たちは、王位継承の争いで、私を、瀕死に、追い込んだ者たち」
「あの者たちなら、禁忌の封印にも、手を掛けても、ふしぎではない」
お父さんの声が、ずしりと響いた。
「各地の古代遺跡を、巡ってまいりました」
「薬草を、おひろいするふりをしながら」
「いくつもの、遺跡で、封印の跡を、見てまいりました」
「はがされた、跡」
「割られた、跡」
「持ち去られた、跡」
「その封印の奥にいたものは、おそらく、三百年前のアヴァロンの、残滓」
陛下のお目が、重く揺れていた。
◇◇◇
「その残滓が、復活し、ノースランド王家を、お操りになっておるのではないか」
「長年、痕跡を、辿ってまいりました」
「そして、本日、皇后陛下のお部屋から、この『眠りの魔石』が出てまいりました」
「これは、エルフの郷で見たものと、同じ細工」
「ノエル様の長年のご呪病も、ノースランド王家男子に発動する呪詛と、合致いたします」
「すべての糸が、つながったのでございます」
「皇后陛下の魔道具も、ノエル様のご呪病も、ぜんぶ、ノースランド由来の、禍々しい呪術」
「わが王家を、内側から、削り続けてきた、深い、深い、長い、長い、計略」
陛下のお目から、ぼろぼろと、涙が流れた。
「ーー、ノースランド、わが王家を、長く、削っていたか」
陛下のご威厳のあるお声が、震えた。
◇◇◇
陛下のお目が私を見つめた。
そしてお父さんとお母さんを、見つめた。
「ジョン皇子、エマ王女、それでは、リリィ嬢は」
「はい、陛下」
お父さんが頷いた。
「リリィは、エルフ王家とノースランド王家の両方の血を引いております」
「夏至生まれの、陽の極み」
「そして、恐れながら、ノエル様は、冬至のお生まれ」
「陰の極み、でございます」
「ーー、!」
陛下が、はっとされた。
ノエルの蒼い瞳も、揺れた。
◇◇◇
お父さんの声がさらに、続いた。
「古より神話に伝わる、陰陽の摂理にもとづき、聖女と王太子は、必ず、ご一対のもの」
「夏至の陽と、冬至の陰、二つが、ご一緒に、お国をお守りなさる、というのが、宇宙の、深い、深い摂理でございます」
「リリィとノエル様の、お二方が、ご一緒になられること、それこそ、神様の、深い、深い思し召しでございます」
陛下のお目から、涙が流れた。
「それでは、ノエルがあの森で、リリィ嬢と、お出会いになったのも」
「はい、陛下」
お父さんがしっかりと頷いた。
「すべて、神様の、お引き合わせでございます」
「陰の極みの王子と、陽の極みの聖女が、出会わぬはずが、ないのでございます」
◇◇◇
お父さんの声が、さらにさらに、続いた。
「ーー、リリィの欠点を補い、お二方の、長所を活かせる、陰陽の組み合わせ」
「ーー、これは、偶然では、ございません」
「ーー、神様の、お導きによるものとしか、思えません」
陛下が、頷かれた。
◇◇◇
「ーー、陛下」
お父さんの声が、さらにずしりと、響いた。
「ーー、わが国が、永遠に繁栄するためには、ノースランドの闇を、ご駆逐になる必要がございます」
陛下のお目が、しっかりと頷かれた。
「ジョン皇子、心強き、お言葉である」
陛下のご威厳のあるお声が、ずしりと響いた。
◇◇◇
私は、思わず息を呑んだ。
私が、エルフ王家と、ノースランド王家の血。
私が、真の聖女の血筋。
ノエルが、冬至生まれの陰の極み。
そして、私が、夏至生まれの陽の極み。
ーー、ノエルと、私が、ご一対。
ーー、神様の、お引き合わせ。
頭の中がまっしろになった。
ノエルが私を見つめた。
「ーー、ふん」
ノエルの蒼い瞳が、さらに重くなった。
「俺の妻なら、当然だな」
ノエル。
私の頬を、涙がぼろぼろと流れた。
◇◇◇
陛下の目が、頷くように揺れた。
「ーー、すべて、納得が、いき申した」
陛下のお声が、ずしりと響いた。
「ジョン皇子、エマ王女、長年、わが王家の薬師として、リリィ嬢を育ててくれた。感謝の言葉もない」
「これより、リリィ嬢の家族は、わが王家と、家族である」
「わが王家をお守りくださる、家族にござる」
お父さん、お母さん、お兄ちゃんが、頭を下げた。
私の頬を、涙がぼろぼろと流れた。
◇◇◇
「それから、ジョン男爵、エマ夫人」
陛下のお声が続いた。
「皇后の看病を、引き受けよ」
「陛下、私どもにできることなら、何なりと」
お父さんがしっかりと頷いた。
「ジョン男爵を、皇后付き筆頭医師に」
「エマ夫人を、皇后付き筆頭薬師に」
「エリックを、皇后付き医師見習いに」
「エリックの医学校の友人、ヘンリックを、医師見習い助手に」
「クラリッサ大司祭を、皇后付き祈祷の兼任に」
「これより、わが王宮の中で、皇后付きの看護チームを編成する」
陛下のお声がずしりと響いた。
「ふだんから皇后の部屋に出入りしている、メイドや医師は、そのままに」
「その上に、家族の腕の確かな看護チームを重ねる」
「二重の体制で、犯人が察知できぬよう、皇后を守れ」
お父さん、お母さん、お兄ちゃんが丁寧に頭を下げた。
「必ず、皇后陛下をお守りいたします」
◇◇◇
「それから、ジョン男爵、エマ夫人」
陛下のお声が続いた。
「これより、王宮内の離れの宮を、ジョン男爵一家の住まいとして与える」
「ーー、!」
お父さんとお母さんが、目を見開いた。
「そこにも、余直々の警備を置く」
「日々、皇后の看病と、王宮内での会議への出席のためにも、一家は王宮内に住め」
「エリックと友人のヘンリックは、医学校に通うゆえ、ふだんは寮に住まい、週末は宮へ戻れ」
お父さんが、ゆっくりと頭を下げた。
「陛下、もったいなき、お言葉でございます」
お母さんも、お兄ちゃんも、丁寧に頭を下げた。
ーー、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが、王宮の宮に住まわれる。
ーー、警備のついた、王宮の中の、家族の宮。
お父さん、お母さん、お兄ちゃんと、また、ご一緒に暮らせる。
◇◇◇
長い、深いお話が終わった。
ハインリッヒ先生が、お父さんとお母さんに頭を下げてくださった。
フェルディナンド様も丁寧に頭を下げた。
◇◇◇
陛下のご威厳のあるお声が続いた。
「ーー、フェルディナンド」
「はい、陛下」
「皇后の寝室を、本日中に、わが寝室の隣の、もとの皇后の寝室へ移動させる件は良いな」
「はっ。先ほどから着手しております」
「皇后の隣の部屋を、看護の部屋とする」
「ノエルの隣をリリィ嬢の部屋として、看護に必要なものも全て準備せよ」
フェルディナンド様が、丁寧にお辞儀をなさった。
「はい、陛下」
「すでに、大工と、メイドと、衛兵に指示いたしております。この後もわたくしが直接指揮を取ります」
陛下がしっかりと頷かれた。
「ーー、これより、皇后とリリィ嬢と家族を含めた厳戒体制を、急いで、整える」




