第37話 呪われた殿下
朝。
家の前にきのうの夜、立派な馬車がもう一度、停まっていた。
家族みんなが玄関の前にぎゅっと肩を寄せ合って、立っていた。
「リリィ」
お母さんが私の首に新しい、ふかふかの白いマフラーを巻いてくれた。
「お薬の作り方のノート、お父さんのお薬の名前、ぜんぶ、いれておいたわ」
「うん、お母さん」
「困ったときはお母さんにお手紙を書いてね。フェルディナンド様が毎月、馬車を出してくださるから」
「うん」
「それからね、リリィ」
お母さんは私の頬に両手をふんわりと添えた。
「ーー、辛くなったら、いつでもすぐに戻ってきて、いいのよ」
「うん」
「ここはいつでもあなたのお家、なのだから」
「うん、お母さん」
お母さんの青い瞳はいつもの色に戻っていた。
ただ、目尻の周りがほんのり、赤かった。
きのうの夜、二階でずっと泣いていたのは私だけじゃ、なかったらしい。
◇◇◇
「リリィ」
お父さんがごつごつした、温かい手で私の頭をくしゃっ、と撫でた。
「お父さんはお前を信じている」
「うん」
「お前はお父さんとお母さんの自慢の娘だ」
──、!
私の目からもう、涙がぼろりとこぼれた。
「うん。うん、お父さん」
お兄ちゃんがその隣で頷いた。
「リリィ、ぼくも来春、王都の医学校に上がる。それまで頑張れ」
「うん、お兄ちゃん」
──私はひとりじゃない。
──家族はちゃんと私の近くまでついてきてくれる。
「いってきます」
「いってらっしゃい、リリィ」
「気をつけて、ね」
「うん」
私は銀の十字の立派な馬車にぎこちなく、乗り込んだ。
馬車の扉がばたんと閉まる。
四頭の白い馬が雪をけって、馬車がゆっくりと村の道を進みはじめた。
◇◇◇
窓からローゼンタール離宮のある方角をちらりと見た。
雪の積もった、屋根の銀色の輪郭。
「ノエル」
私はちっちゃな声で呟いた。
「私、王都に行ってくる、ね」
「ーー、いつ、戻れるか、わからない、けど」
「ーー、戻ってきた、その時にもっとノエルの力になれる、私になってる、から」
「だから待っててね」
雪原を四頭立ての馬車がしずかに進んでいく。
ローゼンタール離宮の屋根は馬車の窓からゆっくりと消えていった。
◇◇◇
王都はホーニング村よりずっと大きくて、にぎやかな、街だった。
石畳の道。背の高い、整った家々。たくさんの市場の活気。
──、けれど。
その街のいちばん中央に。
白く大きな石造りの大聖堂がしずかにそびえ立っていた。
雪の中で銀色の十字の紋章がきらきらと輝いていた。
「ようこそ、リリィ様」
馬車を降りた私を白いベールをまとった、若い修道女様がにこやかに迎えてくれた。
亜麻色の髪を白いベールの中にしずかにまとめた、私よりすこしだけ、お姉さん、くらいの方。
「クラリッサと申します。本日よりリリィ様のお世話係を務めさせて、いただきます」
「クラリッサ様、よろしく、お願いいたします」
私は深く、お辞儀をした。
クラリッサ様はふっとちっちゃな、微笑みを見せて、頷いた。
「お部屋にご案内、いたします」
クラリッサ様の後ろをついて、白く長い石造りの廊下をしずかに歩いた。
廊下の窓からは雪の積もった、聖堂の中庭が見えた。
中庭の真ん中にちっちゃな、銀色の十字の像が雪を頂いて、ぽつんと立っていた。
案内された、お部屋は四角い、簡素な、お部屋だった。
ちっちゃな、木のベッド。
その横に木の机がひとつ。
机の上には新しい、白い蝋燭が一本、と井戸水の入った、白い水差し。
壁にはちっちゃな、十字の紋章がひとつ、控えめに掛けられていた。
窓はひとつだけ。
その窓の向こうに雪をかぶった、聖堂の中庭の銀色の十字の像がちょうど、見えた。
「リリィ様。ーー、何か、ご入用の物がございましたら、いつでもお申し付け、ください」
「ーー、ありがとう、ございます」
修道女様がしずかにお辞儀をして、扉を閉めた。
ぱたんと低い音。
そして、しん、とした、しずけさ。
家の暖炉のぱちん、ぱちんと薪の弾ぜる音も。
お母さんが台所で何かを刻む、とん、とん、という音も。
お父さんとお兄ちゃんの低い笑い声も。
ぜんぶ、もう、ここにはない。
私はちっちゃな、木のベッドにちょこんと腰かけて。
膝の上に抱えてきた、お母さんの薬草ノートをぎゅっと抱きしめた。
それが私の新しい、しばらくのお家、だった。
◇◇◇
次の日の朝。
私はフェルディナンド様の執務室に呼ばれた。
書斎にはたくさんの古い本と薬草の図鑑が棚にぎっしり、と並んでいた。
暖炉の火がぱちんと弾ぜていた。
「リリィ様。よく、ご決断、くださいました」
「はい」
フェルディナンド様は私に温かいハーブティーをすすめてくれた。
カモミールとリンデン、半々のお茶。
懐かしい、お母さんの味だった。
ふっと胸が温まる。
「リリィ様。きのう、ご家族の前ではお話、いたしませんでしたが」
「はい」
「お看ていただきたい方のお名前とご身分をお伝えしなければ、なりません」
私はハーブティーのカップを両手でぎゅっと握った。
「はい」
フェルディナンド様のおだやかな目が私をまっすぐに見つめた。
「王宮の呪われた殿下でございます」
◇◇◇
──、!
──、殿下。
──、王宮の?
頭の中がぐらりと揺れた。
「お、殿下?」
「はい」
「私、村の薬師の娘が殿下をですか?」
私の声が無様に上ずった。
「ええ。それがリリィ様のお力を求めて、参った、いちばんの理由でございます」
フェルディナンド様はゆっくりと説明してくれた。
殿下はお生まれになった時からずっと呪いに苦しまれている。
王宮のお抱えのお医者様たちが何人も何人も診た。
各地から優れた薬師が呼ばれた。
大聖堂からも何人ものお祈り上手の聖職者が派遣された。
──、けれど。
呪いは解けなかった。
殿下のお体は長年、不思議なほどにお小さなまま。
そして、いま、お体がいよいよ、悪い方向に傾きはじめておられる、らしい。
「最後のお頼みでございます、リリィ様」
フェルディナンド様の声におだやかな、けれど、深い、祈りのような、響きが混じった。
「リリィ様のその不思議なお力が殿下の命の最後の糸を繋いでくださるかもしれません」
◇◇◇
私の指先がふるえた。
──、王宮の殿下。
──、生まれた時から呪われている、お方。
──、お薬の効かない、お方。
お体が長年、お小さなまま。
その最後の言葉に。
胸の奥がなぜか、ちりちり、と痛んだ。
──、お体が長年、お小さなまま。
──、お薬の効かない、お方。
私はその痛みを頭の中でゆっくりと確かめた。
──、緊張、だ。
──、これは緊張の痛み、なんだ。
雲の上の殿下にこれからお会いする。
私みたいな、村の薬師の娘が王宮で殿下をお看する。
──、そんなの緊張、しないわけがない。
胸の痛みの本当の意味を私は自分に別のわかりやすい理由をつけて、納得しようとしていた。
「フェルディナンド様」
私はぐっと両手でお茶のカップを握り直した。
「私でお役に立てるなら、お会いします」
「リリィ様」
フェルディナンド様の目がふっと潤んだ。
「ありがとう、ございます」
「ーー、ただ」
フェルディナンド様のおだやかな声がふっとしずかになった。
「王宮へのお目通りにはいくつもの手続きとお時間がかかります」
「お時間」
「ええ。陛下のご裁可、殿下のお側付きの整え、それからリリィ様のお身分のお整えもございます」
「私の身分?」
「リリィ様はこれより大聖堂、お預かりの聖女候補となられます。ですのでそのお式とお記録も必要、なのです」
「!」
聖女、候補。
私みたいな、村の薬師の娘が聖女、候補。
頭の中がぐらりと揺れた。
「私、聖女様なんかではないんです、フェルディナンド様」
「ふふ、リリィ様。ーー、それは大聖堂が判断、いたします」
フェルディナンド様の声にふっとおだやかな、笑みが混じった。
「お時間はおおよそ、三ヶ月、いただきます」
「ーー、三ヶ月」
「はい。その三ヶ月のあいだにリリィ様には王宮でのお振る舞いをしずかにお学び、いただきたいのです」
◇◇◇
その翌日から。
私の大聖堂での新しい毎日が始まった。
朝。
まだ、星が空に残る、青い時間に大聖堂の低い、長い、鐘がぼうぼうと鳴った。
私は簡素な、白いローブを頭からかぶって、大聖堂のいちばん奥の礼拝堂までしずかに歩いた。
聖職者の方々と聖女候補の少女たちが十数人。
朝の祈祷の列にならんだ。
大聖堂の高い、高い、天井からステンドグラスの色が白い大理石の床にしずかに降り注いだ。
赤、青、緑、金色。
雪の朝の礼拝堂はまるで別の世界、だった。
私はふっと目を閉じて、いつものお祈りを繰り返した。
ーー、王宮の呪われた殿下、もうすこし、もうすこしだけ、待っていてください。
ーー、私がいま、まいります。
◇◇◇
朝の祈祷が終わると。
聖女候補の少女たちは礼拝堂を出て、それぞれのお勉強のお部屋へちりぢりに向かった。
私には私だけのためにお部屋がひとつ、用意されていた。
そこでクラリッサ様が教本を両手で抱えて、私を待っていた。
クラリッサ様は私のお世話係であり、今日からは王宮でのお振る舞いをお教えくださる、たったひとりのお先生でもある。
ご年は十四歳。私よりふたつ、お姉さん。
亜麻色の髪を白いベールの中にしずかにまとめて、おだやかな、空のような色の瞳。
そのおだやかな瞳の奥にふっとご年に似合わない、深い、しずけさが灯って、いた。
「リリィ様。ーー、ご紹介がおくれて、申し訳、ございません」
「はい」
「わたくしは五歳の頃に大聖堂にお預けになりました」
「五歳、で」
「はい。それから九年、聖女様お側付きのお部屋で王宮でのお振る舞いと聖女としてのお祈りのご研鑽をぜんぶ、積んでまいりました」
「聖女様、お側付き」
「はい。ご本物の聖女様のお側でお辞儀からお食事の作法、王宮のご階級、それから神聖のお力の流し方、お祈りの組み立て方、ぜんぶをしずかにお学び、しました」
「!」
「リリィ様の聖女候補としてのご研鑽をこん度はわたくしがお側でお支え、することになりました」
クラリッサ様はふっとちっちゃな、お辞儀をしてくれた。
ーー、五歳から九年。
ーー、クラリッサ様はそのぜんぶを聖女様のお側でご研鑽にお使いになって、きた。
私の胸の奥がふっとしんとなった。
ーー、これから三ヶ月、私のいちばん、近くで私を王宮へと整えて、くださる、お方。
「クラリッサ様。ーー、よろしく、お願い、いたします」
私は深く、頭を下げた。
「リリィ様、こちらこそ」
クラリッサ様のちっちゃな、おだやかな微笑みが私の新しい毎日のいちばん、最初のともしびになった。
◇◇◇
「リリィ様。ーー、今日から王宮でのお辞儀のいちばん基本からお練習、いたしましょう」
「はい、よろしく、お願いいたします」
クラリッサ様はまず、私に四種類のお辞儀を見せて、くださった。
陛下の御前での深い、深い、お辞儀。
皇后陛下の御前でのおだやかな、ふっくらとした、お辞儀。
殿下の御前での敬意の籠った、すこし速めのお辞儀。
宰相、大公、それぞれへのちっちゃな違いのお辞儀。
「お背中の角度は四十五度。ーー、お膝は軽く、揃え、左の足を後ろ、半歩」
「お顔は伏せて、お話しかけられても二呼吸、置いてからお顔をお上げ、なさってください」
「はい」
私はクラリッサ様のお手本をまねて、深く、頭を下げて、みた。
!
クラリッサ様の白いベールの下の目がふっと見開いた。
「リリィ様」
「はい?」
「お手本通り、でございます」
「え」
「もう一度、御皇后陛下へのお辞儀をお見せ、いただけますか」
私はすこし、戸惑いながら、お母さんに教わったとおりのおだやかな、ふっくらとした、お辞儀をもう一度、して、みた。
クラリッサ様のベールがふっと震えた。
「リリィ様。ーー、これは村娘のお振る舞いではございません」
「え」
「これは王家、またはそれに準ずるお家で幼いうちから丹念に仕込まれた、お辞儀、です」
「!」
私の胸の奥がふっとざわめいた。
ーー、お母さん。
ーー、いつも私に教えてくれた、そのお辞儀。
ーー、お母さんはいったい、どこでそれをお知りになったの。
「ーー、クラリッサ様、お母さんがずっと家で教えてくださっていたんです」
「お母様、が」
「はい」
クラリッサ様の深い目がふっと何かを考え込んだ。
そして、しずかに首を振った。
「ーー、左様でございますか。リリィ様のお母様はよほど、深い、お教養をお持ちなのですね」
「はい。お母さんは世界でいちばん、お優しい、薬師、なんです」
クラリッサ様はふっとおだやかに微笑んで頷いた。
◇◇◇
お辞儀の練習はその日のうちにぜんぶ、合格、いただいた。
クラリッサ様はつぎの日、食事の作法をお教えくださる、はずだった。
「リリィ様、長い、白いテーブルクロスに銀のフォークとナイフが何本も並んでおります」
「外側からお使いーー」
「はい」
「お食事の合間にお口をおふきになる、ナプキンはーー」
「お膝の上に四つ折りにたたんでお口をふくときは内側でふっくら、とお当て、いたします」
「!」
クラリッサ様のベールがまた、ふっと震えた。
「リリィ様」
「はい」
「ーー、もう、お分かりでございましたか」
「お母さんがいつも家のテーブルでお食事の時に教えてくださって、いました」
クラリッサ様はもう、何もおっしゃらなかった。
ただ、ふっと深く、頷いて、つぎのお教えに進んだ。
王宮の階級とそれぞれへのご挨拶。
陛下への御言葉のつけ方。
皇后陛下へのお見舞いのお言葉。
殿下への敬意のご挨拶。
私の口からすらすら、とお母さんに教わった通りのご挨拶が流れ出た。
クラリッサ様の白いベールの下にふっとちっちゃな、微笑みが灯った。
「リリィ様。ーー、お母様にいつか、御礼をお伝えしたいですわ」
「ふふ、お母さんに伝えておきます」
ーー、お母さん。
ーー、お母さんはなんでこんなにぜんぶ、ご存じだったの?
胸の奥のちっちゃな、謎の灯りがすこしずつ、すこしずつ、大きく、なって、いった。
◇◇◇
お振る舞いのお勉強は当初の想定よりもずっと早く、ぜんぶ、終わった。
クラリッサ様がフェルディナンド様にご報告に上がった、その日。
フェルディナンド様はおだやかな顔で頷いた。
「リリィ様、残りのお時間はお薬とお祈りのご研鑽にお使い、ください」
「はい」
それから私は大聖堂のいちばん奥の薬草庫に毎日、通った。
そこにはホーニング村では見たことのない、世界中の薬草がずらり、と棚にならんでいた。
南の島のつる草。
東の国の根。
雪山の奥でしか、採れない、ちっちゃな、青い花。
私は目をきらきらとさせて、ぜんぶの薬草の名前と効能をお薬のノートに書き写した。
「リリィ様、ぜんぶ、お覚えになる、おつもりですか」
薬草庫の係のおだやかな、年配の聖職者の方が笑いながら、訊いてくれた。
「はい。ーー、殿下のお薬にもしかしたら、ホーニング村にはない、薬草が要るかもしれないので」
「ふふ。リリィ様のお熱心、ですね」
聖職者の方は私に温かい、リンデンのお茶を入れてくれた。
ーー、ホーニング村のお母さんの味とすこしだけ、違う、リンデン。
ーー、けれど、そのおだやかな、香りはお母さんをふっと思い出させて、くれた。
◇◇◇
週に二度。
フェルディナンド様の執務室でお祈りのお稽古があった。
「リリィ様。神聖力という、お力はご本人の意識で流す向きを変えることができます」
「向き、ですか?」
「はい。ーー、たとえば、お熱を外に押し出す向き。お痛みを内にしずめる向き」
「!」
ホーニング村で私がハンスお爺さんの足にお祈りを繰り返していた、あの感覚をフェルディナンド様はことばで解き、ほぐして、くれた。
「リリィ様のご両手からふっと温かい光が出る、その感覚を頭の中で繰り返し、確かめて、ください」
「はい」
「そして、その光を外に押し出すか、内にしずめるか、ご自身で決められるようにお練習、ください」
ーー、それは私が五年間、ちっちゃな村でひとり、見様見真似で覚えてきた、お祈りの本物の教科書、だった。
私は夢中でお稽古に取り組んだ。
夜、ベッドの中で自分の両手を月明かりにかざして、温かい光を出す、出さない、を何度も確かめた。
ーー、王宮の殿下、もうすこし、もうすこしだけ、お待ちください。
ーー、私、しっかり、強く、なって、まいります。
◇◇◇
そうして、雪の深い大聖堂の毎日がひと月、ふた月、とゆっくり、過ぎていった。
時々、ホーニング村のお母さんとお父さんとお兄ちゃん、からお手紙が届いた。
「リリィ、お元気にしていますか。お父さんが毎晩、リリィのノートをぱらぱらとめくっています」
「リリィ、アンナとメイが毎週、家に遊びに来てくれます」
「お兄ちゃんも来春、王都に上がるよ」
私はお手紙を何度も何度も読み返して、いつでも机のいちばん見やすい場所に立てかけて、おいた。
ーー、家族の声がぜんぶ、その紙の上にちゃんといた。
ーー、私はぜんぜん、ひとりじゃ、なかった。
◇◇◇
三ヶ月が過ぎた、ある朝。
大聖堂のいちばん、長い、鐘が低く、ぼうぼうと鳴った。
フェルディナンド様が私のお部屋の扉をしずかにノックした。
「リリィ様」
「はい」
「お時間でございます」
私はしずかに立ち上がって、白いベールを頭からかぶった。
机の上のお父さんがこしらえてくれた、薬草籠をぎゅっと両手で抱きしめた。
ーー、王宮のお方、私、まいります。
雪がまだ、大聖堂の大きな窓の向こうでしんしんと降り続いていた。
リリィ・ホーニング、十二歳の冬の終わり。
ノエルと別れて、五年と三ヶ月。
大聖堂でフェルディナンド様からその方のご身分を聞いた、その日から。
──三ヶ月のしずかな、お振る舞いとお祈りのご研鑽を経て。
──今日、いよいよ、王宮の扉を私はくぐる、ことになる、その朝、だった。




