第7話 2人の筋トレ生活
「また、きちゃいました」
数日後。
ダンジョンの筋トレルームでダンベルを持ち上げていた俺の耳に、聞き覚えのある声が届いた。
振り返ると、そこには麗華が立っていた。
「おおっ、麗華! また来たのか!」
「はい。あれから、家でも少し身体を動かすようになったんです。それで、また大樹さんと一緒にトレーニングがしたくなって」
「そうか! それはいいことだ!」
俺は思わず笑顔になった。
筋トレの楽しさを知ってもらえたのなら、これほど嬉しいことはない。
「じゃあ、今日も始めようか!」
「お願いします!」
麗華も明るい声で答えた。
こうして、俺たち二人での筋トレ生活が始まった。
◇
「今日は筋トレの王様、スクワットをしてみよう!」
「スクワットですか?」
「ああ。下半身を鍛えるなら、まずはこれだ!」
俺は麗華の前で、スクワットの動きを見せた。
足を肩幅程度に開き、背筋を伸ばす。そこから椅子に座るように腰を落とし、再び立ち上がる。
「膝がつま先より大きく前に出ないように意識して、背中を丸めないこと。最初は自重だけでいいぞ」
「わかりました」
麗華は俺の説明を聞きながら、足の位置を調整した。
「じゃあ、やってみよう」
「はい」
麗華がゆっくりと腰を落とし、再び立ち上がる。
その動きに合わせて、長い黒髪が揺れた。
……おお。
俺は思わず目を見張った。
スクワットという種目は、身体を前傾させながら腰を落とす。そのため、自然とお尻が後ろに突き出される。
麗華の豊かなヒップラインが、実に見事な形で強調されていた。
これは……すごい。
今まで俺は、おっぱいこそ至高だと考えていた。
だが、筋トレをする女性のお尻というのは、こうも魅力的なのか。
大きく丸みを帯びたお尻が、動作に合わせてしなやかに動く。しかも、スクワットによって大臀筋が鍛えられていると思うと、さらに味わい深い。
「んんっ……!」
麗華が二回目のスクワットを行う。
「そうそう。いいフォームだ。膝の向きも問題ないぞ」
「は、はい……!」
三回、四回。
麗華は一生懸命に腰を落とし、立ち上がる。
しかし、慣れない運動のせいか、数回繰り返しただけで、すぐに息が切れ始めた。
「はぁ……はぁ……んっ……!」
額に汗が浮かび、頬が赤くなっている。
それでも、麗華は真剣にスクワットを続けていた。
な、なんということだ。|
おっぱいだけではない。お尻も負けていなかった。
俺は今まで、どこか大臀筋は大胸筋ほど重要ではないと考えていた。しかし、大臀筋にもこれほどの魅力があったとは。
「こ、これ……す、凄いですね……あっ、んん!!!」
「そうだ! その調子! でも、無理はするなよ!」
麗華は最後の一回を終えると、膝に手をついて大きく息を吐いた。
「はぁ……はぁ……。スクワットって、こんなにきついんですね……」
「下半身は大きな筋肉が多いからな。疲れるのも当然だ。でも、よく頑張ったぞ」
俺は満足げにうなずいた。
おっぱいを愛しつつ、お尻も愛する。これも俺の流儀だったのか。
たけのこだのキノコだの、レッドなキツネだのグリーンなタヌキだの、おっぱいだのおしりだの、胸だの尻だの、大胸筋だの大臀筋だの。
世の中には、根深い対立がいくつも存在する。
しかし、両者を愛することは決して矛盾することではなかった。
大胸筋も大臀筋も、どちらも素晴らしい。それでよかったのだ。
「大樹さん?」
「ん? どうした?」
「なんだか、すごく嬉しそうですね」
「ああ! 筋トレをすると世界が平和になるみたいだ!」
「……平和、ですか?」
「そうだ!」
麗華は少し不思議そうな顔をしたが、すぐに笑った。
◇
休憩を挟んだあと、俺たちはほかの種目にも取り組んだ。
麗華には無理のない重さのダンベルを使ってもらい、フォームを確認しながら少しずつ回数を重ねていく。
筋トレを始めたばかりの彼女は、まだ扱える重量も限られている。だが、前回よりも動きがよくなっているのは明らかだった。
「大樹さん、これなら前より少し重くしても大丈夫そうですか?」
「そうだな。フォームが崩れない範囲なら、少しずつ負荷を上げてみよう」
「わかりました!」
麗華は嬉しそうにうなずいた。
こうして二人でトレーニングをしていると、俺自身にもいい刺激になる。
一人で黙々と鍛えるのも悪くないが、誰かと一緒に筋トレをするのも楽しいものだ。
そして、トレーニングの最後には、いつものステータス画面を確認することにした。
「麗華も、自分のステータスを見てみるといいぞ」
「はい!」
――ピコン♪
俺の目の前に、半透明の画面が浮かび上がった。
いつもどおり、少し嬉しそうな電子音が鳴る。
そこには、見慣れた数値が並んでいた。
【ステータス】
・ベンチプレス:230kg
・スクワット:330kg
・デッドリフト:290kg
【スキル】
・サイドチェスト
「相変わらず、あてにならない数字だな」
――ピ……。
俺は画面を閉じた。
「麗華もやってみてくれ」
「はい。ええと……」
麗華が自分のステータス画面を呼び出す。
――ピコン!
彼女の目の前にも、半透明の画面が現れた。
「わあ……!」
麗華は表示された内容をじっと見つめた。
「これが、私のステータスなんですね」
【名前】九条麗華
【ステータス】
・HP:70/100
・MP:20/20
・筋力:6
・耐久:5
・敏捷:6
・器用:15
・知力:14
・幸運:17
「……うーん」
俺は画面を眺めて首をひねった。
「どうしたんですか?」
「いや、こんな訳の分からない数値を出されても、あまり役に立たないだろう?」
「そ、そうでしょうか?」
「筋トレをするなら、やっぱりビッグスリーの重量がわかったほうがいい。麗華もそっちの表示にしたほうがいいぞ」
「ビッグスリー?」
「ベンチプレス、スクワット、デッドリフトの三種目のことだよ。筋トレの基本になる種目だ」
「なるほど。でも、どうすれば表示を変えられるんですか?」
「簡単だよ」
俺は麗華のステータス画面を指さした。
「こうやって、手で振り払うんだ」
「えっ?」
俺は以前、自分のステータス画面で試したときと同じように、目の前の画面を横へ払ってみせた。
――ピコン!?
俺の目の前にあった画面が、音を立てて消えた。
「それから、もう一度呼び出す」
麗華も俺の真似をして、目の前の画面を手で振り払った。
半透明の画面がふっと消える。
そして、もう一度呼び出すと――。
――ピコン!
新しい画面が浮かび上がった。
【名前】九条麗華
【ステータス】
・ベンチプレス:20kg
・スクワット:30kg
・デッドリフト:25kg
「わあ! 本当に変わりました!」
「だろ?」
麗華は目を輝かせて画面を見つめている。
「これなら、筋トレの参考になって便利ですね」
「そういうこと。実際に持ち上げられる重量とは違うんだけど、いいトレーニングをした後は数値がよく上がるんだ!」
「そうなんですねっ! 私も、これを参考にします!」
麗華は嬉しそうにうなずいた。
――ピコン♪
ステータス画面も、どこか満足げに明滅した。
俺たちは、実際に扱える重量とステータス上の数値を見比べながら、少しずつトレーニングを続けていくことにした。
◇
それから、麗華は定期的に筋トレルームへ顔を出すようになった。
最初は慣れない動きに苦戦していたが、通うたびにフォームがよくなり、扱える重量も少しずつ増えていく。
俺も自分のトレーニングを続けながら、麗華に種目のやり方や注意点を教えた。
「大樹さん、今日は前より重いダンベルでもできました!」
「おお! すごいじゃないか!」
「うふふっ。大樹さんに教えてもらったおかげです」
「いや、頑張ったのは麗華自身だよ」
「ありがとうございます」
そんな会話を交わすことも増えた。
トレーニングの合間には、筋肉の話をしたり、ダンジョンのことを教えてもらったりもした。
麗華は俺の知らない情報をいろいろと知っていたし、俺は彼女に筋トレの楽しさを伝えた。
お互いに教え合えることがある。
それが、二人で過ごす時間をさらに楽しいものにしていた。
いつしか、俺は麗華が来る日を楽しみにするようになっていた。
彼女のほうも、筋トレルームに来るときには以前よりずっと自然な笑顔を見せるようになった。
トレーニング中、ふと目が合うことがある。
そのたびに、麗華は少し照れたように笑う。
すると、不思議なことに、俺の身体の奥から力がみなぎってくるような感覚があった。筋トレで限界まで追い込んだときの高揚感とも違う。麗華と目が合うだけで、もっと頑張れるような気がするのだ。
……なんだろうな。
筋トレを一緒にしているだけなのに、以前とは少し違う気がする。
麗華と過ごす時間が、俺にとって特別なものになり始めていた。
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ダンジョンでレッツ筋トレ!
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