第10話 筋トレルームの奥にあったもの
その日、いつものように、俺と麗華はダンジョンの筋トレルームでトレーニングをしていた。
ダンベルベンチプレスにダンベルスクワット、ダンベルデッドリフト。二人でメニューをこなし、最後に軽くストレッチをする。
「ふう……今日もいいトレーニングができましたね」
「ああ。やっぱり筋トレは最高だな!」
俺は床に座り、脚を伸ばした。
「麗華、最後にもう少し柔軟性を高めておこうか」
「はい。でも、私、身体が硬いんですよね」
「じゃあ、手伝ってやるよ」
麗華は床に座って両脚を開いた。
俺は後ろに回り、彼女の背中に手を添える。艶やかな黒髪が肩から背中へと流れ、さらりと揺れる。その美しい髪から、ほのかに甘い香りが漂ってきた。
「ゆっくり前に倒してみて」
「はい……」
麗華が上半身を前に倒す。俺は背中を軽く押して、無理のない範囲で伸ばしてやった。
「あっ……大樹さん……もう……」
「おっと、痛かったか?」
「い、いえ……んっ! も、もう少し、もう少しだけっ……!」
「無理はするなよ。痛みが出る前に止めよう」
俺は力を緩め、麗華の様子を確認する。
「ありがとうございます。今度は大樹さんの番ですね」
「ああ。じゃあ、交代だな」
俺たちは互いのストレッチを手伝いながら、トレーニング後の身体をゆっくりとほぐした。
ストレッチを終え、器具を片付けていたときだった。ふと、筋トレルームの奥にある壁が目に入った。
「……ん?」
よく見ると、壁の一部にわずかな隙間がある。
今まで何度もこの部屋を使ってきたのに、まったく気づかなかった。
「麗華、ちょっとこっちに来てくれ」
「どうしたんですか?」
「この壁、なんだかおかしくないか?」
俺が壁に手をかけて押してみると、ゴゴゴ……という音とともに壁の一部が動いた。
「えっ! 隠し扉ですか?」
「どうやらそうみたいだな」
壁の向こうには、奥へと続く通路があった。
通路の先からは、これまでのダンジョンとは明らかに違う、強い圧迫感が伝わってくる。
「……行ってみますか?」
「ああ。せっかくだし、確かめてみよう」
俺たちは慎重に通路を進んだ。
やがて、広い空間に出る。
その中央には、巨大なウシ型のモンスターが待ち構えていた。
全身を覆う硬い外殻。太い四肢。そして、こちらを見下ろす大きな頭。
これまで倒したことのあるモンスターとは、明らかに格が違う。
「な、なんですか、あれ……!」
「どうやらボスってやつみたいだな」
次の瞬間、モンスターが咆哮を上げた。
「グオオオオオオッ!」
地面が震えるほどの声に、麗華が身構える。
「麗華、危ない! 俺の後ろに下がってろ!」
「で、でも、大樹さん!」
「大丈夫だ。まずは俺が相手をする!」
「は、はいっ!」
「ググググオオオオオオッ!」
ボスが雄たけびをあげながら、こちらに向かって突進してきた。
俺は突進を横にかわし、ボスと向き合った。
「さて、どうするか……」
これまでのモンスターなら、サイドチェストで倒せていた。だが、目の前のボスは別格だった。
「サイドチェスト!」
俺は大胸筋を強く収縮させ、ポージングを決めた。
――ピコン!
身体から力があふれ、ボスの巨体が大きくよろめく。
「おおっ! 効いてる!」
しかし、ボスは倒れなかった。
「くそっ、これでも駄目か!」
ボスが再び体勢を立て直す。
その姿を見据えながら、俺はふと、別のポージングが頭に浮かんだ。
「……試してみるか」
「大樹さん?」
俺は全身に力を込め、腹筋と脚の筋肉を強く収縮させた。
「アブドミナル・アンド・サイ!」
――ピコンッ!!
その瞬間、身体の奥からとてつもない力が湧き上がった。
「おおおっ!?」
ボスの巨体が大きく吹き飛ぶ。
「グオオオオオオッ!」
壁に叩きつけられたボスは、そのまま光の粒子となって消えていった。
「……え?」
あまりにもあっけない決着に、俺はポーズを解いたまま固まってしまった。
「す、凄い……! 大樹さん、今のは何だったんですか!?」
「新しいポージングだ! アブドミナル・アンド・サイ!」
俺は自分の身体を見下ろした。
サイドチェストでは倒しきれなかったボスを、新しいポージングなら一発で倒せた。
「これは凄いぞ……!」
ボスが消えた場所には、大きな魔石と、見たこともないモンスター素材が残されていた。
「これは……!」
麗華が素材を手に取り、目を見開いた。
「どうした?」
「この魔石、すごく大きいです。それに、この素材……かなり貴重なものですよ!」
「そんなにすごいのか?」
「はい! 普通のモンスターから採れるものでも相当な価値になるとニュースで言っていました。これだけあれば、かなりの金額になると思います!」
「おお! それはいいな!」
思わぬ収穫に、俺も嬉しくなった。
これだけの素材が手に入ったのなら、今後の生活にも役立つだろう。
だが、俺にとって一番大切なのは、やはり筋トレだ。
ボスとの戦闘も、なかなかいいトレーニングになった。
俺はステータス画面を呼び出してみた。
――ピコン!
そこには、驚くべき数値が表示されていた。
【ステータス】
・ベンチプレス:300kg
・スクワット:480kg
・デッドリフト:420kg
【スキル】
・サイドチェスト
・アブドミナル・アンド・サイ
「おお……!」
ベンチプレス300kgに、スクワット480kg、デッドリフト420kg。
もう世界記録を超えてるな。
まあ、いいトレーニングができたってことか!
俺は満足げにうなずいた。
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ダンジョンでレッツ筋トレ!
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