008 スマホの真相とブッコロの本音
「頭いたいのいたいのトンデケー!」
「きゃ~ん♡ な~おった♡」
「いや嘘でしょう!?」
出会って開幕。ブッコロは魔法で女性の病気を治した。
本人曰く――若干胡散臭かったので後で竜崎さんの前で実演させて確認を取ったが――究極完全回復魔法を使ったらしい。
こういう所は無駄にダンジョンボスなんだよなほんと。
指先から淡く迸る光で円を描いて、霧夢さん?の額に指を触れてから「トンデケー!」してたのが若干それっぽくてイラッとしたのはまあどうでもいいとして。
ひとまずリビングに通してもらい、簡単な自己紹介を終えた後、とりあえず気になっていた事を聞いてみた。
「え? アタシがインフルエンサーの病気? ……いえ、インフルエンザですけど?」
彼女の名前は、霧夢霞さん。
社会人六年目のOLさんとの事。
「アチャー! 我めっちゃ惜しかったナー!」
「次から話くらいちゃんと聞いとけな!?」
額に手を当てて目を瞑りのけ反るブッコロを張り倒してやりたい。
「いやあ、ウチのボス相手にそれは無茶な話すよ」
「無茶なの!?」
霧夢さんがテイムしているブッコロの手下、死神族の人型モンスター(♂)であるギヴ・シネェにまでこの言われようだ。
情けない事限りなし。
でも、なるほど。
彼女のインフルエンザをはやく治してやりたいから、ブッコロ単独で大学まで来た訳か。
緊急の要件かと言われれば、別に、緊急とは言えないだろう。
だからといって悪気があった訳じゃなくてバリバリ善意な上に他人の為の行動。
……畜生、やっぱりそんな責める訳にもいかねえ。
「ええ無茶っす。ウチのボス、ポンコツパワハラ女なんで」
「その言いぐさはあまりにも酷ナイ!?」
「ポンコツはともかく、パワハラ? ブッコロお前何したんだ?」
「我なにもしてナイ!」
「いやそれは嘘っす。聞いて下さいよ狂四郎さん。六年くらい前になりますけど、安定して長期使用可能な自分専用のスマホが欲しいからって、オレに人間にテイムされてスマホ手に入れてこいって命令したんすよ?」
「なるほどパワハラだわ」
「昔の話! メッチャ昔の話ジャン!」
今更掘り返すの女々シイ!とギヴを指さし非難するブッコロ。
「ブッコロちゃんのスマホ代、今でもアタシが払ってるのよねえ」
マジで!?
このポンコツパワハラダンジョンボスから何かしらの対価すらも貰ってねえの!?
ならここは俺がそれなりの対応するしかねえじゃん!
「す、すみません! 今すぐスマホ返させますんで!」
「ナンデ!? ドボジデ!?」
「なんでじゃねえよ! 家にタブレットもパソコンもあるし、俺と連絡取るにしても竜崎さん居れば事足りるだろ!? ……そうだよお前別にスマホいらねえじゃん!」
「エエエエエ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ーッ゛!?」
今日みたいな事がまたあっても困るし、いやまあ手遅れかもしれねえけどさ!
だからその後生大事に胸に抱いてるスマホを今すぐ霧夢さんに返却しやがれ!
「やだヤダやだヤダやだヤダやだヤダ! 我スマホ欲しいノ!」
「ぜってえいらねえ!」
「欲しいノー! ぜったいぜったい欲しいノー!」
手足をばたばたさせて駄々っ子になっているブッコロ。
ダンジョンボスがガキみてえなマネしてんじゃねえ!
「駄目だ! タブレットで我慢しろ!」
お前にゃWi-Fiで十分だ!
キャリア通信なんざ十年早いんだよ馬鹿野郎!
「コレ、キョーシローとの思い出の品ナノ!」
…………は?
俺との思い出だあ?
「このスマホがなかったら、言語交換アプリ使えなかっタ! キョーシローと会えなかっタ!」
……なるほど。
そのスマホが唯一の俺との繋がりだった訳だ。
だから、それを奪われたくないって話なんだな?
「ダンジョンで拾ったスマホじゃいつ使えなくなるか分からないし、これ絶対必要だったノー!」
でも今はもういらねえだろ?とは思うものの、それはそれで人の心が無さ過ぎるか。
「……分かった。じゃあ解約だけはしてもらってこい。本体代と今までの費用は俺が払っておいてやるから」
六年分がいくらになるか、考えるだけで今から怖えけどな。
「…………キョーシロー名義で再契約ハ?」
「する訳ねえだろが!」
「……シナイノ?」
「…………しねえよ」
「……ソッカ」
がっくりと肩を落とす、しょんぼりブッコロ。
その悲しそうな目をやめろやクソが。
なんかしんねえけど胸が苦しくなってくるだろうがよ。
「…………お前、スマホ本気で欲しいのかよ?」
「……ウン」
いやでもやっぱ絶対いらねえと思うけどな!
タブレットで十分代用できる筈だけどな!
けどお前は欲しいんだな!? そうなんだな!?
「ああもう分かったよ畜生! 再契約してきてやるよ!」
「フワオウッ! マアジデエエエエエエエエエエエエ!?」
ええい暑苦しい背中に抱き着くな頭に登るな離れろ首痛めるわ!
「え!? パワハラポンコツクソ女に甘すぎないすか!?」
「お前腐ってもブッコロの手下だよな!?」
「メリットがあるから付き合ってやってるだけっす!」
「……え? それって、アタシと一緒にいるのも、メリット重視って事?」
マズイ。
霧夢さんが変な所に突っ込んで来たぞ。
「そりゃそうすよ。ただボスの命令ついでにダンジョンを出るのには一番都合が良かっただけなんで」
嘘だろそこまで言うの!?
「やだ♡ そういう正直な所が滅茶苦茶ス♡テ♡キ♡」
「貴女も貴女でそれでいいんですか!?」
「いいのよお♡ ギヴ君はいつも本音で喋ってくれるから信用出来ていいのよお♡」
「そうだカスミ。ソシャゲの課金したいから後でクレカ貸せっす。出したいキャラいるんすよね」
「はあい♡」
「はあいじゃないでしょ!? そこは断る所でしょ!?」
ソシャゲ課金するって言われて語尾にハートつけて喜ぶ人はじめて見たよ!
「やっぱカスミは昔も今も、なかなかに都合が良い女っす」
「最低だなお前!」
というかマジで何様だよ!
「……アレ? 我のラーメン修行配信に出演するメリットって何だと思ったノ?」
「ボスのラーメン食う動画、アホほどバズったっしょ? ならラーメン修行でワンチャンオレも人気出て、そんで配信で稼げるようになればもっと課金できるっすよね?」
「そっか、ギヴ君、お金の心配せず何度でも天井までガチャを回せるようになるのが夢だって言ってたもんね♡」
「最悪な夢じゃねえか!」
ここで言う天井とは、目的のキャラクターがガチャで出なくても、ガチャを回して得たポイント等でその目的のキャラクターを確定で引く事を指す。
ただ、天井までいくにはおよそ10万くらいかかるらしい。
「あーあ、カスミがもっと金持ってたらこんな金の心配なんてしなくて済んだんすけどねえ」
「そうだよね、ごめんねギヴ君?」
「謝る所じゃなくないですか!?」
「ううん、お金持ちじゃないアタシがいけないの」
「カスミの唯一都合の悪いとこが金なんすよねえ」
「全部お前の都合だろ!?」
「…………この二人の関係、オワってナイ?」
「流石のお前もそう思うんだ!?」
「もっと金持ちの女にテイムされにいけばよかったっすねー。場合によっちゃテイム解除してもらって別の女にいくのもアリっすかね」
「いくらなんでも最低最悪過ぎるだろお前!」
「うん♡ ギヴ君がそうしたいならアタシも頑張って応援するね♡」
「駄目だこの人もマジでオワッってる!」
正直者が好きなのはともかく、限度ってもんがあるだろうが!
「……我はキョーシロー以外無理ダゾ? こんな奇跡的な関係」
「そりゃよかったよ!」
おかしいな、ブッコロの台詞が嬉しかった訳じゃないけど、なんか不思議と泣けてきたんだが!




