006 史上最強モンスターテイマー爆誕
大学のカフェテラスで、温かな木漏れ日に目を細めつつ、友人と共に昼食を摂る。
なんてこと無いこのひとときが、俺にとっての唯一の憩いの場となっていた。
「――そういやさ、お前これ見た!?」
ブッコロには、緊急時以外大学に来るなと言ってあるし、もしそんな事態に陥った場合は先に竜崎さんから連絡が来る手筈となっている。
そう、ここは、あのボケナスダンジョンボスといった七面倒なモノから一番遠い場所なのだ。
別にブッコロと一緒に居るのが嫌だとかいう訳じゃないけど、いかんせん流石に喧し過ぎるというかワンパク過ぎて、隣に居られるだけで精神的に疲れる。
コミュニケーションアプリにブッコロから新着メッセージが届いてるけど、スタンプだけみたいだしこんなん後回し後回し。
とにかく今は、余計な情報を頭に入れず、穏やかに過ごしたい。
「見たって、何が?」
「ほらコレだよコレ! 公開されて一週間足らずでもうすぐ1000万再生だぜ!?」
男友達がスマホを向けてきたので、「どれどれ?」と、なるたけわざとらしくならないように画面を見てやった。
《必殺――真・天空落トシ!》
スマホに映し出された動画は、ダンジョンの天井ギリギリまでジャンプしたブッコロが、麺の入った取っ手付きの深いザルを思い切り振り下ろし、湯切っている場面だった。
《あっちいいいいいい! ……何っ!? 俺のミスリル装備がイカれただと!?》
上から激しく迸るお湯と麺が、狼会長のボディーガード全員のミスリル装備を破壊してしまった。
これには司会進行役も狼会長も、カメラ外の俺も竜崎さんも撮影役も酷く驚いた。
麺でミスリル破壊というありえない事態に皆が息を呑んでいる隙に、ブッコロは「真・天空落トシ弐之太刀!」とイケボ風に叫び再び湯切った。
《今度は目にラーメンが巻きついてきやがった!? ……何っ、これはっ!? …………眼精疲労がみるみる癒されていくぅぅぅぅうううううううううっ!》
《ありがてええええええええええええっ!》
華麗に着地したブッコロは、新しい二つのザルを手に両腕をあげ、足をクロスさせつつ低めの声で凄んでみせた。
《フフフフフ、次は首か? 肩か? それとも腰か? 好きなところを選ぶがヨイ……》
これは先日ダンジョンで撮影した、ブッコロがはじめて本当のマシマシラーメンを食べた時の動画の試合風景だ。
「へえー、これ今人気なんだ?」
この動画がマシマシラーメンチャンネルでアップされるなり即バズり散らかし、SNSでも万バズしたのは、実に不幸中の不幸も大不幸だった。
何故なら――
「今ネットで大騒ぎなの知らねえの!? このダンジョンボスをテイムした凄腕マスターは誰だ?って皆が血眼になって探してるぜ!?」
――こんな状況になっているからだ。
俺は顔をネットに晒したくなかったから動画には出なかったし、これからも、顔を売る様な真似をする気は一切ない。
見ず知らずの大勢の他人が俺の顔を覚えてるなんて状態、怖過ぎる上に不愉快極まりないからな。
なのに、動画が流行ったせいで、ネット民やダンジョンアタッカーはブッコロのマスターの捜索にやっきになってやがる。
近隣住民に関しては、竜崎さんや自衛隊関連の人が金を積んだり頭を下げたりして口止めしてくれてる。
竜崎さんがぽつりと「焼け石に水?」とかほざいた時は、マジで引っぱたきたくなった。絶対やらないけど。
「ダンジョンボスをテイムしたなんて話、聞いたことねえよ! いやあー、ボスモンスターのテイマーって一体どんなヤツなんだろうな!?」
「さあなー」
「興味なさ過ぎじゃね!?」
興味ないじゃなくて耳にすらしたくねえんだよ、とは流石に言えず、仕方なく愛想笑い。
今思えば、ダンジョンボスが人間の企画動画に映るだけでバズる可能性をまったく考えなかった俺も悪いっちゃ悪いんだよな。
当時はとにかくブッコロにマシマシラーメン食わせてやりてえって一心だったけど、少しはその後の影響も考えるべきだったな。
「ア、キョーシロー!」
……………………空耳だ。
絶対空耳だ。
空耳以外にありえない。
ありえないったらありえない。
「……おい、あの子、……まさか!?」
スマホと俺の背中の向こう側にいる誰かさんを、交互にキョロキョロと見比べている友人。
「包くーん!? 君がマスターだって言ってるモンスターの子が訪ねてきてるわよー!?」
聞き覚えのある女友達の声がする。
正直振り向かないと失礼だけど、振り向きたくない。
現実逃避したくてしたくてたまらない。
思わず頭を抱えてしまう。
「…………アッ、そうかそういう事カ」
「なにが? どうしたの?」
俺に無視されているという事実を前に、ブッコロは何かに気が付いてくれたみたいだ。
よく分からないけど、そのままゴーホーム!
…………いやだからこっち来るなてめえ! 帰れ帰れ帰れ帰れ帰れえええええええええええええええっ!
「ハハーッ!」
「俺の隣に跪くなこの野郎! なんのつもりだてめえ!?」
「……? テイムされてるフリ、したほうがいいダロ?」
「お前の善意は迷惑なんだよ畜生が!」
きょとんとした顔で小首を傾げたブッコロは、数秒後、合点がいったかの様な表情をするなり、両手を広げて叫んだ。
「…………フーハハハハハ! 我をいつまでも従えていられると思うなヨ!? 機会があれば必ずや貴様の寝首をかいてヤル!」
「今度は何の真似だ!?」
「いや、善意が駄目なら悪意かなーッテ」
「もう頼むから黙っててくれるかなあ!?」
またしてもきょとん顔の馬鹿野郎は、俺の手をそっと握って来やがった。
そしてそのまま頭も預けて来やがった。
「……………………」
「黙って寄り添ってんじゃねえ!」
「エエーッ!? じゃあ我どないせいト!?」
「酷い! さっきから聞いてれば酷いじゃない包君!」
若干涙目のブッコロを後ろから抱きしめる女友達。
はいはいそのボケナス見た目だけは可愛いもんねー、今のは可哀そうだねー、ごめんねー。
「……お前、本当にダンジョンボスを従えてんのな……」
「従えてねえぞ!?」
「キョーシロー様には敵いませヌー! オテアゲー!」
「こんのクソ野郎おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺に向かって五体投地すんじゃねええええええええええええええ!
「ここまでの事させるなんて、こんな可愛い子をどんだけやっつけたのよ包君!?」
「うーわ! お前ガチですげえヤツだったんだな!? 流石に尊敬するわ! 友人として鼻がたけえよマジでさあ!」
「だからちげえっつってんだろうがよおおおおおおおおおおおおっ!」
周囲の学生も「あいつヤッバ……」「ウチの学生が史上最強テイマーとかマジかよ!?」「写真とらなきゃ! いや、それともサイン貰うべき!?」「ダンジョンアタック部にスカウトしねえと……」等と、友人並に騒いでいる!
とりあえず、大事になる前に一旦逃げておいた方が良さそうかなあ!?




