004 店で喰えないならダンジョンで喰えばいいじゃない
テイムモンスターは、世間一般的には、凶悪なペットという認識で固定されている。
「すみません、モンスターの入店はご遠慮願います」
三人での生活がはじまり、一週間が経った。
引っ越しの荷解きも落ち着いたなーと思った所で、「我そろそろ我慢が有頂天!」と、何気に空気を読んでラーメンラーメンとうるさく言わなかったブッコロの為に、マシマシラーメン店にやって来たんだけど……。
立ち入り禁止でした。
まあな、そりゃそうだよな。
犬や猫といった普通のペットですら、基本的に飲食店には立ち入り禁止なのに、テイムされている――フリをしている――とはいえモンスターが入れるわけないわな。
ブッコロは普通のモンスターと違って会話出来るし、見た目なんかは、角と目にそれこそ目を瞑れば人間の幼女と変わらないので、ワンチャンいけるかな?と思ったんだけどなー。駄目だったかー。
「我が、立ち入り……禁止!?」
あまりのショックに、白目を剥いてよろめくブッコロは、地面に力なく膝をついた。
……分かってはいたけど、こいつを日本社会に適応させるのって難易度アルティメットハードくらい無い?
ブッコロの気持ち優先で、かつゆっくり手探りでやってくしか無いのがクソ程もどかしいけど。
「ふ、ふふふふ、フザケルナ! こちとらお客様は神様だゾ!? いいから黙ってラーメンを、ラーメンを食ワセロオオオオオオオオオオオオッ!」
膝をついたまま激しくヘドバンし、額と後頭部を交互に、地面にビッタンビッタンと打ちつけているのがまあまあ怖い。
「怒りに任せて人を襲おうとしないのは偉い。加点ね」
俺の後ろで、小さいメモ帳に査定用っぽい記録を残している竜崎崩子さんもちょっち怖い。
優しそうな丸い顔とグラマラスボディーで、差し引きプラマイプラスだけど。
……あ、ブッコロのリアクションを面白がってスマホで撮った馬鹿どもに話しかけに行った。やっぱり完全にプラスだわ。
「大変申し訳ございませんが、店先での奇行もお控え下さい……」
「す、すみません! ほらブッコロ立て! 帰るぞ!」
立ちやすいようにブッコロの手を持ちひっぱり上げてやるも、彼女の身体には力がまるで入っておらず、ただ俺の手からぶら下がってるだけな形となっている。
「我のような、温和で慈悲深いモンスターを立ち入り拒否とは、ニンゲンまじオロカ……」
「お馬鹿で欲深いの間違いだろうが」
マシマシラーメンも食えない事だし、他に特に用もないので――しくしく泣くブッコロを竜崎さんがだっこして――帰宅の途についた。
電車に揺られながらうとうしつつ思い出すは、ブッコロと竜崎さんがはじめてウチに来た日。
大学に徒歩三十分程度で通える距離にある我が家は、ちょっと手狭なワンルーム。
ブッコロは俺の部屋を見るなり「……ナルホド、うさぎ小屋」とか酷いこと言いやがったもんで引っ叩きそうになったけど、竜崎さんは更に道徳に反した酷い台詞を吐きやがった。
「お隣さんをどかして私が住める様にするわ。隣同士の方がなにかと楽でしょ? なあに、大丈夫よ? 上には既に話は通してあるし、お金も十分握らせるし、……ね?」
小首を傾げて可愛らしいウィンクをお見舞いされた。
いやまあ、政府公認なら別にかまいやしませんがね、ええ、俺に害が無ければ。
「民を守る政府側のニンゲンが、なんとも愚かな事ヨ……」
すーっと、ブッコロは玄関にある高さ1メートルくらいの靴箱の扉に手をかけた。
ぶおん。
靴箱全体が、紫色に怪しく光り輝いた。
「部屋が狭ければ広げれば良いのダ」
ブッコロが扉を開けると、中にあるのは下り階段。しかも、靴箱に似た床材の。
「え!? も、もしかして……ダンジョン!?」
「…………は!?」
全く予想してなかった竜崎さんの台詞に、俺は大いに驚いた。マジでその場でコケそうになった。
ブッコロは腕を組み「ウム」と頷いてから、階段をひとり下っていった。
俺達も慌てて彼女の後を追った。
「地下一階だけ作っタ。こちらをホーコの縄張りにすると良いダロウ」
下った先は同じ見た目の靴箱で、辿り着いた場所も、俺の部屋と瓜二つと言っていいほど似通っている。
「この玄関の扉、開くの!?」
ワクワクとした表情で、ドアノブに手をかける竜崎さん。
「外に通ずる扉や窓は開かナイ。他はキョーシローのワンルーム?と同じ構造ダ」
「うわうわうわあ! 流石にダンジョンボスね! こんなこと簡単にやってのけるなんて! 信じられないくらい凄いわ!」
「ドヤァ……」
腰に両手を当てて仰け反るブッコロと、「これは何かお礼しなきゃね!」と満面の笑みの竜崎さん。
ガスも水道も電気もネットも通ってるー!ふっしぎー!とはしゃいでる彼女の背中を見つめながら、隣のブッコロにさっきから気になっていた事を聞いてみた。
答えによっては夕飯抜きだ。
「……靴箱に入ってた俺の靴は?」
「亜空間に消え失せたガ?」
「ふざけんなてめえ!」
否が応でもブッコロがダンジョンボスだと分からされるような出来事を思い返している間に最寄り駅までたどり着き、そこから徒歩五分で我が家に到着。
「貴様ばかりズルいではないかズルいではナイカ!」
「ブッコロちゃん私のタブレット食べないで!?」
電車に揺られている間、大きな画面で大食い芸人がラーメンをしこたま食べてる所を見たいと言い出したブッコロ。
竜崎さんは母性あふれる仕方なさそうな笑顔で軍用?のタブレットを貸したのだが、それを今、ブッコロに齧りつかれて大慌て。
「引っ越し作業! キョーシローの大学生活! 生活必需品の買い出シ! 家具の組み立てにセッティング! ゴミ出シ! 色々あるからボス我慢シタ! でももう無理! ラーメンむしゃくしゃ天元突破!」
「うーん、どうしたもんかしらねえ……」
頬に手を当て困ったお顔をしている竜崎さんにママ味を感じる、とか言ったら怒られそう。
だって絶対若いし。
「自衛隊?の所でまた食えんノカ?」
俺とブッコロが待ち合わせた当日、取調室みたいな所でラーメン食った時の話だろう。
「あー。あれはねえ、あの日だけ特別に、ブッコロちゃんの為に作っただけだから、流石に二回目は無理かしらね」
「ナント! ……なるほどこれが日本、融通がきかナイ」
「お前の都合だけに合わせてらんねえだろが」
「一度我の都合に合わせたなら二度三度合わせるのも同じなハズ!」
「……減点」
悪い子ねえと笑いながらも、容赦なくメモる竜崎さん――の、スマホから着信音が鳴り響いた。
「あら、ちょっとごめんなさいね? ……はい、竜崎です」
電話を取るなり、急に目付きが鋭くなった。
多分、自衛隊の人と話してるんだろうな。
「外から戻ったら手洗いうがいガヴォガヴォガア゛ア゛ア゛ア゛ー!」
「うがいで水まき散らすな馬鹿野郎!」
びっしょびしょになった洗面所をブッコロに拭かせ、サボらないように監督していると、電話を終えた竜崎さんが姿を見せた。
「朗報よ! マシマシラーメン店を経営してる会長さんが、ネットにあげる動画の撮影してもいいならラーメン食べさせてくれるって!」
「ヲオ! それはいつダ!? 何時何分何秒、地球が何回まわった時ダ!?」
拭く手を止めるなオイ。
「まだそこまでは決まってなくてね? その会長さんは、せっかくボスモンスターに自社のラーメンを食べてもらうのに、場所がオフィスとか店舗だと、風景がありきたりだからインパクトに欠けるなって、どうしようかなって、悩んでるみたい」
撮影でラーメン食うダンジョンボスなんて聞いたことないしな。
雰囲気作りからマジに行きたいのはなんとなく分からないでもない。
そこそこ再生数取れそうだし。
「フム、ならバ――」
ぽむんと、己の手のひらを叩いたブッコロ。
「――ダンジョンで撮影すればいいのデハ?」




