003 ニンニクマシマシ取り調べ室(下)
一緒に取り調べられている筈のアホが極まったボケナスダンジョンボス、ブッコロ・スーがまるで役に立たない。
その為、俺はたったひとりで自衛おじの質問に答え続けるハメとなった。
「ええと、今日会おうと思ったのはですね……」
ブッコロがマシマシラーメンの画像をネットで見て、食いたいけど一人で行くのは嫌だからって俺を駆り出した事。
一人が嫌なら家族と行けば?と言ったが、なんか渋ってたので可哀想だと思い、事情は聞かず、一緒にラーメンを食いに行く約束をした事。
六年もの間、何故会わなかったかというと、お互いの居住地が近いのは分かっていたが、会う理由が無かっただけという事。
あと、男の方から会おうとか言い出すのは、なんか違う気がしたというか、必死な感じがして無理だっただけという事。
ブッコロがダンジョンボス、もといモンスターだと気が付かなかったのは、まさかモンスターがスマホを持ってて、言語交換アプリを使ってるなんて露ほども想像してなかったから、という事。
その他諸々エトセトラ、隣でカレーやら天ぷら蕎麦やらお菓子やらを食い散らかし、あげくに女性自衛官が持ってきたジェンガやオセロで遊び始めて負けまくって「ニンゲンのメスごときガ! 我を舐めるナ!」と威勢の良い事言ってそれでも大敗を喫した馬鹿を他所に、自衛おじの質問の全てに答えきった。
「オワアアアアアアアッ!? 貴様、端を根こそぎ掻っ攫うのは卑怯ダロ! 鬼畜! 悪魔! ニンゲンの恥!」
「お前はモンスターの恥だろ」
オセロで完封されたブッコロと、1ミリも手加減しない女性自衛官の姿に、貼り付いたような笑みを向ける自衛おじ。
「最後に、ブッコロちゃんにちょっとだけお願いしたい事があるんだけど、いいかな?」
「……我は気分が悪イ。話しかけるナ」
遊んでくれたのはともかくとして、何してくれてんだ女性自衛官。
「月々のラーメン代、いらないんだ?」
「よし話セ」
「お前さっきから現金過ぎない!?」
自衛おじは、机の下からひとつの首輪を取り出した。
確かそれって、【テイムの首輪】だったっけ?
ダンジョン攻略を生業とするダンジョンアタッカーが、モンスターをペットにする時に使うヤツ。
「今後、ダンジョン外で活動するなら、この首輪をつけてからにして欲しいんだ。狂四郎君が主でかまわないからさ?」
「フム、それならばヨカロウ」
「いいんだ!?」
すちゃっ。
ブッコロは手渡された首輪をさくっとかけた。
後は、首輪についている丸い宝石に俺が触れればテイム契約完了。
「……そのテイムの首輪、ブッコロちゃん自身で無理矢理ひっぺがせたりする? それが出来ちゃったら即テイム契約解除になるんだけど」
ブッコロは首輪を触りつつじろじろ見てから、わざとらしく歯を食いしばって叫び出した。
「イヤアアアアアアア! ムリカナアアアア! クッソトレネエエエエエエ! オノレニンゲンメエエエエエ!」
「バリバリ嘘じゃねえか!」
「やっぱりか……」
両手で顔を覆い、溜息を吐く自衛おじ。
やっぱりかで済ませて良い事ですかねこれ!?
「あと、君がどこで何をしているか、常に把握しておきたいからさ? 狂四郎君とひとまとめにして管理しておきたいんだよね」
「ならバ、キョーシロー家に我がホームステイすれば良いのデハ?」
「それだ! 狂四郎君は今年から一人暮らしだし、うん、良い案だ!」
ナイスアイデア!とばかりに手を叩く自衛おじ。
いやマジ勘弁してくれませんかね!?
「それだじゃないんですけど!? 俺の都合とかガン無視ですか!?」
「ふふふ………」
自衛おじが不敵に笑うと、女性自衛は電卓を叩き、演算結果を俺に見せてきた。
「月額、これくらいでどうだい? 生活に苦労はさせないよ?」
「…………ええと、この金って……」
突然の大金に目が眩みそうになったけど、ちょっと待て。
「……ブッコロの責任を俺が取るっていう、前払い報酬では?」
ぱちぱちぱちぱち。
自衛おじは満足そうな笑みで、頷きながら手を叩いた。
「うん、ほぼ正解。あのね? おじさん達は、一度地上に出てきてしまったブッコロちゃんをもう放ってはおけないし、そんな彼女を管理できる人間は気心の知れた君だけなんだ」
「実質テイムしてない判定ですもんねこれ!」
そんな訳グワー! 何でも言う事聞いチャウー! とかほざいてるブッコロマジ黙れ。
「でも残念な事に、ブッコロちゃんと生活するようになったら君はきっと――」
きっと、なんだっていうんだ?
…………あれ? よく考えたら、こいつと暮らすのって、結構大変じゃね?
日本文化についての知識は少しは教えたけど、微妙に間違って覚えてるヤツばっかりだ。
おまけに、人間社会で暮らすのなんか今回がはじめて。
……うっわ! 一人にしたらどんな事やらかすか予想つかねえ!
物心つく前の子供レベルで行動が読めねえぞ!?
「――学校行ってても、バイトしてても何してても、ブッコロちゃんの事が不安で不安で仕方がなくなるだろうね?」
「なんなら恋愛も就職もかなりキツそうじゃないですか!?」
仮に恋人が出来たとしても、ブッコロを一人にさせておけない限り、何やらかすか分からないこの馬鹿の尻拭いを優先しなきゃいけないから、恋人への対応が後回しにならざるを得ない!
俺だったらそんな彼氏と付き合うの嫌だわ!
開幕から優先度ブッコロ以下とかふざけんなって話だろ!
それに、就職しても、仕事より家に置いてきたブッコロが気になるし結局対応は俺まかせ!
……あれ?
俺の人生、現時点だと――割と詰んでね?
「流石にそのキツイ状況が続くのも不憫だから、こちらで一つのゴールを考えたんだけど、聞いてくれるかな?」
人差し指を立てた自衛おじは、まるで哀れな子羊を見るような目を俺に向けてきやがる。
「そのゴールとは、ブッコロちゃんを日本社会に適応させる事。彼女が一人で外を出歩いても問題ないくらいに」
「それクソほど激ムズなの分かって言ってます!?」
地獄みたいな難易度的じゃねえか!
クリア率0%だったら発狂するからなマジで!
「それでも頼むよお、報酬上乗せするからさあ!」
更に電卓を叩く女性自衛官マジふざけんな!
「なにが上乗せだ! 最初に少なめの金額で出しただけでしょうが馬鹿にしやがって!」
「いやホントこの通りだから、ブッコロちゃん日本社会適応計画、実行役頼むよお!」
自衛おじは躊躇なく土下座したあああああああっ!?
「いやいやいやいや顔上げて下さい! 貴方にそこまでされるのはちょっと、その! ブッコロを地上に呼び出したのは俺の責任みたいな所もありますし!」
情けない顔で上目遣いをする自衛おじ。
「……ぢゃあ、やってくれるの?」
言い方がキモい上になんかハメられてる気はするけど、たしかに俺以外無理なんだよな、実質テイム不可なブッコロの相手出来るのって。
「…………はあ。分かりました、やりますよ。やるしかないんでしょう? ですけど、日本社会適応の道筋なんて全然見えないんで、ブッコロにある程度自由にやらせてサポートに徹する程度しかできませんよ? それでもいいですか?」
ため息交じりに首を傾げると、自衛おじは迅速に立ち上がり、俺の手を握った。
「勿論構わないとも! ありがとう狂四郎君! 政府を代表してお礼を言わせてもらうよ!」
お礼をするより金をくれ。もっと上乗せしろと言いたいけど我慢。
なんだかんだこの人も多分めちゃ大変なんだから。
こんな俺みたいな子供に土下座するとか嫌だろ普通に。
「では、君らと共に住んでもらう同居人兼、監視役の紹介をさせてもらおう!」
自衛おじは、女性自衛を手で指した。
彼女は、俺に向けて見事な敬礼をしてから、一気に破顔した。
「竜崎崩子よ? これからよろしくね?」
俺は失礼ながらも、思わず彼女を下から上へと舐めるように見てしまった。
黒のパンプスから伸びる細い脚。
膝から腰まで覆っている黒いスカート。
コルセットでも付けてんのか?ってくらいに細い腰。
豊かな乳房で大きく盛り上がった、真白の長袖シャツ。
目鼻立ちの整った、気持ち丸めのお顔。
ナチュラルな茶髪のボブがマジ眩しい。
赤フレームの眼鏡、めちゃお似合いですね!
隣のツルペタダンジョンボスとは大違いで大変素晴らしいと思います!
「嫌だ来んナ! 我コイツ嫌イ!」
そう言いながら俺の服の裾を掴んできた。
ゲームで容赦なくボコボコにしたのが仇になったなオイ。
「はいこれ、おクチがすっきりする飴よ?」
包み紙を開き、明らかにミントなキャンディをブッコロマウスにイン。
「………フワオウ。ホーコ、トモダチ」
「お前ホントにダンジョンボスなんだよな!?」




