025 ボス千家誕生の兆し
東京観光二日目、木曜日。
大学の三限目が終わり、校門前へ。
昨日の車で迎えに来てくれた皆と一緒に、近くの自衛隊駐屯地へ向かう。
【シロー。今日は何をやるんだったか?】
【茶道だよ。お前が要求してた、侘び寂び体験って言った方が分かりやすいか】
俺のプランでは、銀座とか浅草あたりで茶道体験をさせるつもりだった。
けど統島さんが「自衛隊関係者に茶道を趣味でやってる人がいるから、その人に駐屯地の和室で教えてもらった方が楽じゃない? 諸々?」との事で、その案に乗っかったという形だ。
「キョーシロー! 我、ニーチャと正座の練習しといタ!」
「そんで私が二人を後ろから竹刀で叩く役をしてたわ~」
「なんか違いません?」
駐屯地に辿り着くと、畳張りの部屋に通された。
壁には、よく分からない言葉が書かれた掛け軸。
その近くの畳には、部屋の雰囲気を和に寄せる効果がある感じの、小さな生け花。
あと、なんか、良い匂いがする。
…………ん?
なんで茶道体験の部屋なのに、普通に椅子とテーブルがあるんだ?
「こちら、茶道体験の亭主を務めてくれる、佐竹さんです」
既に部屋の中に居た統島さんが、なんかそれっぽい模様が入った、綺麗な白い着物を着た年配の女性を紹介してくれた。
「本日はお越しいただきありがとうございます。ごゆっくりお過ごし下さい」
佐竹さんは流れるような動きで、それでいて優雅に正座をしつつ、頭を垂れた。
彼女のもんのすごいお上品オーラに圧された俺たちは、なんとなく、とっさに正座して頭を下げ返してしまった。
ブッコロ以外全員。
【ワッツ? なんだこの、サタケサンから迸る不思議な魅力は!?】
正座というか土下座をしているニーチャが、マジで圧倒されてるみたいだ。
一体なにもんだよ佐竹さん。
【ウワーオ。なにこれ美味すぎでは?】
茶道体験がはじまると、茶菓子としてパウンドケーキを出してくれた。
しかも、なんか良い感じの赤い漆塗の器で。
……この味は、恐らくコーヒーケーキ。
『これくらいなら、ギリギリアタシでも作れそうね』
マジですかアメリアさん。
見た目に反して、家庭的な面もあるんですね。
【…………マイゴッド。サタケサンの所作のなんとも美しい事よ。そしてこのマッチャの味…………スーパードゥーパーヤミー】
お菓子を頂いたあとは、実際に佐竹さんに茶を点てて貰った。
素人の俺でも一口飲んだだけで分かる。これは良い抹茶だ。
【……菓子も茶も、別にそんな美味くなくネ?】
濃い味以外は雑魚味とかほざくお前はそうだろうよ。
【パーフェクト。これが茶筅、そして棗、茶杓、……茶器。グレイトビューティフル】
【ぜんぶ特殊効果なしのクソカスコモンアイテムだけどナ】
【レジェンド、失望したぞ……】
【……ナシテ?】
次は道具の説明をしてもらって、そこから各々抹茶を点てる流れとなった。
「椅子をご使用したい方はいらっしゃいますか? 正座が苦手なお方はどうぞ遠慮なく」
茶道なのにそれいいんですか?という気持ちで佐竹さんを見たら、はんなりとした笑顔を向けられた。
ニーチャじゃないけど、問題ないっていうのが魂で理解できた。
『じゃあアタシは使わせてもらおうかしらね』
「我も我モー!」
【レジェンド!? 共に正座の練習をした仲ではなかったのか!?】
悲痛そうな表情で、四つん這いになりつつブッコロに手を伸ばす悲劇のニーチャ。
【俺と竜崎さんが付き合うから、そんなガチで裏切られたような顔すんな。な?】
「ニーチャ君、可哀想に…………ぶふっ」
声が漏れてますよ竜崎さん?
【シロー。これは、帰ってからもミー達だけでやる事は出来ないのか?】
自分で抹茶を点ててすぐ、ニーチャはそわそわした様子で上目遣いしてきた。
【あー、わからん。聞いてみるわ】
佐竹さんは、月イチになるが、自宅で茶会を開いているらしい。
なので、問題なく家でも出来るとの事。
佐竹さんはニーチャが茶道に興味を持った事が嬉しかったのか、追加で道具の清め方も教えてくれた。
しかもそれだけではなく――
【リアリィ!? この貴重な品々をミーにプレゼントしてくれるというのか!?】
――ニーチャにのみだが、茶道セットを譲ってくれた。
「はい。私のお古で申し訳ございませんが、貴方なら、きっと大切にして頂けると思いますので。遠慮せずにお納め下さい」
統島さん、このワンセットいくらくらいするんで……聞かないほうがいい?
あー、はい、分かりました。
【オーマイゴッデス。なんという、なんというお方なのだ。……嗚呼、マイロード、マイロード・サタケサン。ユーに心よりの感謝を】
ぽわん。
……なんか今一瞬だけど、佐竹さんの身体がほんのり紫色に光ったぞ?
まさかとは思うがニーチャ、余計な事してねえだろうな?
【ソーリー。ささやかながら、パッシブスキル『死ぬまで健康体』を授けさせて頂いた。よりよき人生を、マイロード・サタケサン】
「お前勝手になにやってんの!?」




