023 日常生活とリアルファンタジー忍術
大学から帰ると、リビングのカーペットに座っている竜崎さん、ブッコロ、ニーチャの姿があった。
三人の目の前には、大量のペットボトルが雑に置かれている。
そのうちのひとつを手に取ったブッコロが、ニーチャに語り掛けながらぐしゃりと潰した。
【不要になったペットボトルは、こうやって潰して、後でスーパーのリサイクルボックスに持っていく必要がアル】
こんな些細な雑事をドヤ顔で解説するな。
聞いてるこっちが恥ずかしい。
【ワッツ? ペットボトル? リサイクルボックス?】
【……ゴミを潰してゴミ箱に入れに行くとでも理解してオケ】
「今なんか雑な解説しなかった?」
助けを求めるかのように俺を見る竜崎さん。
そこまで間違ってないから大丈夫ですよ多分。
【力加減が甘い、甘すぎル! それだからペットボトルが量子分解するんダ!】
両手で押しつぶしただけで量子分解させんなや黒星ダンジョンボス。
個人的にはそれでもいいんだけど、社会全体を見たら資源的にマイナスだ。
【ソーリーレジェンド! ……こ、こうか!?】
普通の500ミリリットルのペットボトルが、文字通り紙みたいにぺったんこになってやがる。
アクリル板じゃねえんだぞ?
【……及第点ダナ。人間が潰したペットボトルの理想形はこれダ】
【ワオ。まるで竜崎レディーが潰したみたいだ】
竜崎さんのと同じみたいというか、同じへこみ方をしている様に見える。
まるで、潰れたペットボトルの双子みたいだ。
【もし今後も地上に居るつもりなら、お前もちゃんと力加減を覚えるんだゾ?】
【オーキードーキー、レジェンド・ブッコロ】
おお、ブッコロがまるで先輩みたいだ。
しかも大して頼りにならないタイプの。
「潰したら、こっちの袋に入れてね? はーい、ぐしゃぐしゃぽい!」
まるでちっちゃい子に教えるお母さんみたいな言葉遣いの竜崎さん。
彼女は、ぐしゃぐしゃと言いながらペットボトルを潰し、ぽいっと袋に投げ入れた。
「グシャグシャポイ!」
【グシャグシャポイ!】
二人仲良くぐしゃぽいしている様子を微笑ましそうに見つめている竜崎さん。
アメリアさんはどうしているのかと聞いた所、竜崎さんの部屋でモンスター語の復習をしているらしい。
俺がアメリアさんに直接モンスター語を教えられる期間は、ニーチャが国に帰ると言い出すまで。
実に、気まぐれなタイムリミットだ。
……うーん、本当は仮眠を取りたかったけど、仕方ない。
彼女に与えられた時間は限られているんだ、今から教えに行こう。
割と眠いけど。
【シロー! 萌えは一つだけではなかったのだな!?】
【萌え萌えキュンも萌えのひと欠片】
「余計な事教えてんじゃねえよお前……」
時間は経過し、晩飯時ちょい手前。
俺がアメリアさんに教鞭を振るっている間、ボス二人はパソコンと睨めっこしてたみたいだった。
しかもその流れで、ニーチャから聞かれたんだかなんだか知らんが、ブッコロが萌え文化について説明していたらしい。
「萌え萌えキュン♡」
【萌え萌えキュン♡】
ウィンクしながら片足を上げて、その体勢を保ったまま、両手で作ったハートを押し出してきやがった。
ブッコロはともかくニーチャがガチきめえ。
『こんなに可愛いのに、ニーチャのクソガキよりはるかに強いのよね』
本気のニーチャを、ブッコロはデコピン一発で粉々にしてたんだよな。
しかも、明らかにかなりの手加減して。
「そういえばブッコロお前、今はちゃんと攻撃力ゼロにしてんだよな?」
目の前のコイツは、動画の時と変わらず、まったくオーラを出している様には見えない。
だから、多分やってくれてはいるんだろうけど、気持ち恐ろしくなり、念のための確認をしてしまった。
「もちろんダガ? ……ア、そうだキョーシロー! 我とニーチャの試合動画見た見タ!? 我ってばめちゃすごダンジョンボスじゃネ!?」
まるで学校での出来事を報告してくる子供みたいなノリで、褒めて褒めてとばかりに両手をあげてぴょんぴょん小さく飛び跳ねているブッコロ。
「まあ、確かに凄かったよ。でも、凄すぎて、なんだかな――」
あの後、背筋を凍らせた友人が「こんなんと一緒に生活してて、マジで大丈夫なん?」と心配する程の衝撃だったよ。
ブッコロだから問題ないとは思いたいけどな。
「――ちょっとだけ、お前が怖くなったよ」
「……エ゛ッ!?」
顔を青ざめさせて後ずさり、驚いたのも束の間。
ブッコロは気を取り直したような素振りで満面の笑顔を浮かべ、胸の前で小さくガッツポーズした。
「キュルルンルンッ♡」
「前言撤回するわ」
【キュルルンルンッ♡】
『死ね』
萌え萌え小ボケもほどほどに、俺たちは夕食を摂りはじめた。
そして食事の後もアメリアさんにモンスター語を教え、午前0時。
俺は、ようやく自分の勉強をはじめた。
アホほど眠いけど、来週月曜から前期試験だ。
試験期間中、アメリアさんに教えてる余裕は絶対無いから、今週はこんな感じでいくしかねえ。
……あー、クソだっる。
やるしかねえんだけどよ。
「キョーシロー、……お夜食の豚骨ラーメン、イットク?」
お前にそんな心配そうな顔を向けられたのは、はじめてかもしれない。
変に気を遣わせちまって悪かったな。
「気持ちだけ貰っとくよ。……俺の事は気にせず食ってていいからな?」
「ハァ~イ……」
あともう二時になってんだから、食ったらとっとと寝とけ馬鹿野郎。
……いや、馬鹿は俺もか。
いくらなんでも、そろそろ寝といた方がいいな。
という訳で、ブッコロが食い終わるのを見守ってから――いやそんな急いで食わなくていいから!――歯を磨いて就寝。
「……ちゃんと寝ろヨ?」
「お前もな」
ばたん。
ブッコロが部屋に入った途端、アイツのクチからおもくそ深いため息の音が漏れて来た。
なんだ? そこまでため息を吐くような事なんてあったか? ……分からん。
まあいい、気にせずとっとと寝るとしよう。
「明後日の水曜から東京観光か。明日は少し早めに寝ねえとな……」
観光は、二日に分けて行う事になっている。
大学がある午前中は、ブッコロの漫画読み聞かせでニーチャには我慢してもらう。
その為に、ブッコロのスマホに大量の漫画をダウンロードさせた。
経費で落ちるらしいから、買えるだけ買わせてもらったわ。
ありがとうございます統島さん。
そんで、午後からは東京観光だ。
【多重影分身の術!】
【やめろ家でリアルでやるナ! ホーコはともかくキョーシローに怒られル!】
午前六時半。
スキルか魔法が連続発動したのか、ぼふんぼふんぼふんぼふんという連なった小さな爆発音で目を覚ました。
部屋を出てみると、玄関からリビングまで家じゅうが、ニーチャの分身で芋洗い状態になっていた。
寝不足の身体に堪える、嫌な朝の風景だった
「お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」
【グゲエエエエエエエエエエエエッ!?】




