022 レジェンド・ブッコロ
何故か怒り狂っているブッコロに飛び掛かられたんで、流れのまま仕方なく抱っこしてやったら、恨みがましい瞳で睨まれた。
「我というものがアリナガラ! アリナガラ!」
しかも、両手でぽこぽこと俺の胸を軽く殴って来やがった。何度も。
「俺にお前があるからって何なんだよ一体……」
アメリアさんの強烈ヒップアタックがノーダメなニーチャと同格であろうダンジョンボス、ブッコロ。
そんなヤツに叩かれても、全然痛くない。
正直、幼児の癇癪程度って感じだ。
…………そうなんだよな。
コイツはいつも攻撃力ゼロにしてるし、体重だってオーラだって抑えてる。
言語交換アプリ上でだけど、長年の付き合いもあるし。
おまけに、ちゃんと人間の事を考えてくれている。
だから、実質テイム不可能でも全然気にならない。
いやむしろ、普段の行いからすると、ダンジョンボスだって事実の方が逆に不自然まである。
「……アレ? キョーシロー、疲れてル?」
それプラス、なんだかんだ俺や竜崎さんの事もよく見てる。
わがままし放題のボケナスだけど、安心して馬鹿なガキとして扱っていける。
――けど、ニーチャは違う。
「ブッコロちゃん。狂四郎君、さっきふらついてしまってね、それを彼女が受け止めてくれただけなんだ」
「……ソウナノ?」
統島さんの言葉を受け、一瞬で怒りが霧散したブッコロ。
お前が単純な奴で助かるよ。
「そうそう」
手と胸の万力責め食らったけどな。
詳しい説明は省かせてもらうが。
「あ、そこのパツキンネーチャン。うちのキョーシローがお世話になりましタ」
まるで俺の保護者かのように振舞い頭を下げるブッコロ。
言葉の使いどころを若干間違っているが、まあいいだろう。
『まさか、アタシにお礼言ってる? ……え? その女の子、というか幼女? もニーチャと同類なんだよね? めっちゃ良い子じゃない? 本当にダンジョンボスで合ってる?』
合ってる合ってる。
【レジェンド・ブッコロ、お初にお目にかかる!】
【…………アッ、ハイ】
場の空気もなんのその、ニーチャは一歩前に出て、俺の腕に抱かれたままのブッコロに対し、恭しくお辞儀をした。
歯切れの悪いリアクションをしたブッコロを下ろして、ブッコロと竜崎さんに事情説明&相談開始。
「ニーチャ君の気分次第で滞在期間がかわるなら、とりあえず一週間は二人にここに泊まってもらいましょ?」
「ウッソ、マジデ言ってル!?」
「思う所はあると思うが我慢してくれ」
「…………分かっタ。我ってばめちゃ良い子だからナ! 全力全開ボス我満――発動ッ!」
お前が変な行動をとるとアメリアさんがちょくちょく『ソーキュート』とか言うから、奇行はほどほどにな?
「それ以降も滞在するってなったら別部屋を用意するとして、当面は、アメリアさんは私の部屋で、ニーチャ君はブッコロちゃんの部屋で寝泊まり、で良いでしょ」
目をめっちゃパチクリさせて俺に訴えられても困るぞブッコロ。
【レジェンドと同室!? 実に光栄! ありがたき幸せ!】
相談結果を伝えると、無邪気に喜ぶニーチャ。
「…………早めに帰っていいのヨ?」
「日本語で本音は偉いわねえ」
そうか? 偉いか?
……まあ、ギリギリ偉いかもしれない。
「じゃあおじさんは、布団を調達してくるね? ……誰かついてきてくれる? ……無理そうだね。おじさん一人で寂しくいくね?」
「そうして下さい」
竜崎さんの無慈悲な言葉にとぼとぼ一人で家を出て行った統島さん。
彼は布団だけじゃなく、食事まで用意してきてくれた。
本当に頼りになる大人だ。
「箸の使い方はコウ!」
『なるほど……』
【ミーもレジェンドに教わりたいぞリア!】
【お前は大人しく俺から見て盗め】
「……素直にスプーンで食べてもらった方がいいんじゃないかな?」
「箸を使いたいってんだから、勝手にさせときましょうよ」
皆で食事をした後は、みんなを風呂に入れて――なんで俺がニーチャと裸の付き合いしなきゃなんねえんだ畜生――歯を磨かせて、布団に寝かせた。
で、もちろん俺も寝ないといけないんだけど。
……いや、やっぱりさ、ニーチャが居る事自体が不安でどうしようもないんだわ。
夜中にこっそり起きてどっか行かれたらたまったもんじゃないしな。
そう考えると、まるで気が抜けねえ。
監視を強化する為に官舎に引っ越したけど、それだってどこまで何をやってるかまでは分からない。
本当は竜崎さんから説明してもらった方が良いんだろうけど、そうしたら余計に監視が気になって、日常生活を送り辛くなるから厄介だ。
そこの所を分かっててか、彼女の方からも詳しい説明をしてこない。
「寝れねえー……」
これ、マジでどうしたらいいんだろうな?
流石によ、これからずっとほとんど寝れねえってのは勘弁だぞ?
「キョーシローオッハー! ……アレェ? 目のクマめちゃ凄くネ? ちゃんと寝タ?」
眠れない夜を過ごし、翌日、月曜日。
大学に行く前の午前七時。
ちなみに、明後日は午後の講義が無いんで、その時に東京観光をする予定となっている。
ただ問題なのは、ダンジョンボスを連れていくので、店に立ち寄るなら政府の方から介入してもらう必要があるって事だ。
つまり、観光プランを練る必要があるんだけど、それはもう夜中に作成済みだ。
その熟考に熟考を重ねたプランは、さっき統島さんにメールで提出しておいた。
……ニーチャの意見? いや聞いても仕方ねえだろ。
最低限、要求された詫び寂びさえ踏んでおけば、あとはこっちで良い感じに案内してやるだけで十分。
「……寝たくても寝れねえっていうかな」
同時に、夜中に頭を使い過ぎて、変に消耗してるっていう馬鹿な状況にも陥っているがな。
「ナシテ? 何か困り事?」
腰に抱き着いてきて上目遣いすんのやめろや。
そういうのは竜崎さんにやってやれ。イチコロだから。
今ならアメリアさんでもいけそうか。
「あー…………」
正直、俺自身もどうすれば安心して寝られる様になるか、全然見当がつかない。
ブッコロ相手でも、結果がついてくるかどうかはともかく、相談してみれば気が晴れるかもしれない。
あるいはワンチャン、打開のヒントが掴めるかもしれない。
そんな淡い期待を胸にクチを開いてみた。
「ニーチャがさ、ダンジョンボスだからか、実質テイム不可能なんだよ」
「ホウホウ?」
まるで、何も分かってないみたいなツラをしているブッコロ。
え、何? そんな難しい話じゃないだろ?
「お前がテイム出来ねえのは別にいいんだけど、ニーチャがテイム出来てねえのはかなり不安でな。それが、寝れねえ原因だな」
「…………ナルホドナルホド?」
ブッコロは二回ほど頷いてから、しれっと解決策を出してきた。
「なら、我がニーチャをテイム。マスター権限をアメリアに貸し出し、でドウダ?」
「それアリなの!?」
「ブッコロちゃんがニーチャ君をテイムできるならアリアリよ?」
竜崎さん曰く、モンスターテイマー同士のモンスターの貸し借りはままあるらしい。
それプラス、モンスターが他の仲間に懐いてしまって、結果、それで権限を譲渡したり貸し出したりするケースも往々にしてあるとか。
ダンジョンアタッカー関連については無知だったから、これは初耳情報だ。
「でも、モンスターがモンスターをテイムって話は聞いた事無いわね」
「ダイジョウブ! 我が人間だと誤認させる魔法を嚙ませれば――おっけ出来タ!」
出来たじゃねえよ!
お前の魔法はなんでもありか!?
【ワンダフォー! レジェンドと愛しき妹の二人に繋がれている! フゥーハハハハハハハハハ! とてつもなき多幸感! ベリーベリーベリベリベリーファンタスティイイイイイイイイイック!】
両手と両足を広げて感極まっているニーチャがマジ頭おかしい。
「キモッ」
『キモッ』
【オウイエス。なんというご褒美……】
ブッコロとアメリアに一刀両断されたニーチャは、それでも嬉しそうだった。
【しかし……ミーをテイムできる程の力を持つレジェンド。その実力を、肌で感じておきたい所ではあるな】
ニコニコしつつも、テイムの首輪を指でいじりながら、俺でも気になる台詞を吐いた。
「オ? ヤルカ? ヤンノカオラ?」
「不良漫画でも読んだだろお前」
ダンジョンボス二人は、例のラーメン撮影したダンジョンの一階層で試合する事となった。
俺には大学があるので、竜崎さんに録画をまかせて家を出た。
「マジおつかれさん。昼飯奢ってやるから元気出せな?」
「ありがとう、本当ありがとうな。気持ちだけはしっかり頂くよ。その気遣い、一生忘れねえから」
「疲れすぎだろマジでお前……」
昼の大学内。
いつものカフェテラス。
飯を食いたい所だが、一人前でも食べたらきっと睡魔がヤバイ事になる。
午後の講義に支障が出そうなので、ここは素うどんで失礼。
学食の素うどん、安くて美味しくなくて丁度良いんだわ。
「……あ、さっき動画が送られてきたんだけど、お前も見る? ダンジョンボス同士のタイマン試合。もちろんリアクションせず、人に言いふらさないのが前提だけど」
「分かってる分かってる。見せてくれ見せてくれめっちゃ気になり過ぎる」
動画の時間は、……は? 三分? 短くね? カップラーメンか?
いやまあいいんけど、とりあえず再生。
場面は、前言通りブッコロのダンジョン一階層。
【これがミーのフルパワーダアアアアアアアアアアアアアッ!】
一瞬で、巨大なオーラを纏ったニーチャ。
オーラが出て来た速度の問題か、それともオーラの強さの問題か分からないが、纏った瞬間に突風が発生し、ニーチャの髪の毛を上方向に巻き上げた。
【ホウ? 420000キョーシローまでチカラが増したカ。さすがダンジョンボスといった所ダナ】
そんな彼に対し、冷ややかな表情を浮かべるブッコロ。
……いやこれ、ダンジョンボス同士だから同格だとばっかり思ってたけど、案外違かったりするのか?
【ワッツ? レジェンド・ブッコロも早くパワーを開放したらどうだ?】
確かに、ブッコロは全然オーラを出している感じがしない。
というか、普段のアイツと変わらない様に見える。
【必要ナイ。さっさとかかってコイ】
【オウケイ! ならいかせてもらお――】
ぱんっ。
拳に禍々しいオーラを集中させ、ブッコロに襲いかかったニーチャ。
しかし、ブッコロはデコピンを食らわせただけで、ニーチャの全身を一瞬で粉々にしてしまった。
【ヤッベ! 完全蘇生魔法! ……足りネエ! 完全回復蘇生魔法! ……フウ~! 危なかった危なかっター! セーフ! 超セーフ!】
【――ハッ!? ミーは今一体何を!?】
いやブッコロお前いくらなんでも強すぎだろ!




