020 ブッコロの日常
我が名はブッコロ・スー。
かつて、キョーシローにカタコト喋りが可愛いと言われた為、それ以降、日本語の上達をある程度放棄した者である。
「あらブッコロちゃん、おそよー」
「おは……おソ?」
我の朝は早い。
早朝十一時に起きて、行動を開始する。
今海外に居るキョーシローが、普段大学に行く時は、朝必ず起きて見送ってから二度寝をかます。
しかし昨日の夕方からキョーシローが居ないので、特に気にせず十一時に起床す…………アレ?
「ナシテ外がこんなに暗いノ!?」
なんか変な感じしたからカーテン開けてみると、お空がモニターオフ状態!
「だって夜の十一時だし? いくらなんでも寝すぎよブッコロちゃん?」
「ひのふのみのよの……二十四時間寝てたの我!?」
「泣き疲れかしらね? 見たことないくらい泣いてたもの」
「おやっさん、そいつは言わない約束でサァ」
「誰がおやっさんよ誰が。……とりあえずご飯食べる? 今用意したげるからね?」
「ベルベルー!」
ホーコがそこそこ疲れてそうなので、カップラーメンで我慢する。
これが、魚心あればボス心というモノよ。
「……そういえばブッコロちゃん、カップ麺ってカレーしかあんまり食べないわよね。こだわりあるの?」
「雑魚ラーメンはカレー。袋麺は塩か味噌。家で食べる生麺なら味噌。外で食べるなら豚骨一択」
「こだわり過ぎじゃない!?」
ソウカ?
「ならホーコ、化粧水とかをコンビニのだけ使うとかアリなのカ? どこのでもいいのカ?」
「…………こだわりは人間の証」
「ソウソウ」
雑魚ラーメンを十匹程駆逐してから、我は再び床についた。
「また寝るの!?」
「……アッ、風呂入って着替えて歯をみがいてから、ダヨナ?」
「そうだけどそうじゃなくて!」
これも二度寝の範疇、と説明しても何言ってんだコイツみたいな顔をするホーコをよそ目に、バスルームでシャワシャワー。
ついでに歯をシャコシャコシャー。
「オヤスミ!」
「……おやすみなさい」
寝る時間と起きる時間を固定しないと生活リズムが崩れる、これ常識。
我はいつもよりすこし遅い時間に寝て、翌日、早朝十一時に起きる事に大成功した。
「あーまーりーにーもウマシ! 袋麺の豚骨もオツでアル! これぞ日本の心!」
「ラーメンは中国発祥の食べ物だけどね?」
「マジデ!?」
飯を済ませたら、週二のダンスレッスンか、それか配信しにハゲシファーの会社に行くんだけど、配信は一ヶ月謹慎。
ダンスレッスンは半月に一度に変わったから、今日は特に用事なし。
「ブッコロちゃん。買い物いくけど、一緒に来てくれる?」
行かないといえば抱っこして無理矢理連れてかれるし、行くと言えば歩く事になる。
今回はどうしたものか。
「……イカナイ!」
「断る前から両手を差し出してるわよ?」
魔法で体重を限りなくゼロにしておく気遣いを忘れずに、ホーコと買い出し。
スーパーに到着すると、愚かなことにホーコは我をカートの椅子に座らせようとした。
キュルルンッ♡して全力拒否するも無駄に終わる。
抱っこしてくれないなら座る意味もないので、カートから降りてお菓子売り場へ。
「おやおやまあまあ、ブッコロちゃんじゃない? こんにちはー」
「ヲヲ、タナカサンではナイカ! コンニチハ!」
このババア……いや、ミョーレーのゴフジンは、お隣さんのタナカ・タエコ。
引っ越しした日に挨拶に来てくれて、暇だからと我とずっとゲームしてくれた雑魚プレイヤーだ。
煎餅の趣味は合うので、煎餅仲間としては認めてやっている。
流石、我は心が広い。
きっとトーキョードーム三個分はあるに違いない。
「竜崎さんから聞いたわよー? あの男の子がいないからギャン泣きしてたって」
「ホーコあんのヤロッホホホー!」
やな事ばっか言いふらして、まったくモウ!
判決! 帰りは体重30キロの刑に処ス!
…………お菓子を買ってくれたらシッコーユーヨも考慮ス!
「そうそう、ブッコロちゃんに相談があるんだけど、日本の曲とか歌える?」
「Jポップと演歌ならナントカ」
何かを効率的に覚えようとしたら、やっぱ歌よな。
我の日本語の二割は歌で出来ている。
「ならよかった! 今日の午後二時半から公民館でカラオケ大会やるのよ! よかったら来てくれない!?」
「ア! 我それ知ってル! カラオーケストラ!」
「たまには正解引き当てるのね……」
後ろに迫っていたホーコに酷い事言われた。
我は常に何を言おうと正解率八割は超えてる筈。
となると、そこまで言われるスジヤイは無いんじゃね?
「着付けもしたいから、出来れば二時に来てくれると嬉しいわねえ」
「着付ケ? まあ、よう分からんがボス了解!」
「決める前に、せめて私にも確認してね?」
という訳で、スーパーで買い物を済ませて、シッコーユーヨを得たホーコの手を引きながら帰り、家で少しゆっくりしてから公民館へ。
小さめの部屋で着物に着せ替えられてから、ジジババ……じゃなくて。
おじい様とおばあ様の居るカラオケ会場へと足を運んだ。
「よっ! まってましたー!」
「ほう、あの子はそんなに有名な子なんじゃな?」
「きゃー! ブッコロちゃーん!」
「謹慎中に頼んでいいのか? ……いいか別に。本人ヤル気ありそうだし問題ないだろ」
「うおおおおおおおおー! ブッコロちゃーん! 輝いてるよー!」
黄色い声援から黄ばんだ声援からショーノー臭い声援から、ありとあらゆる年代の応援の声が飛んでくるわ飛んでくるわ。
これはなかなかに気持ちが良い。
ここに居る我のファンらしき人間の年齢層から考えるに、……演歌がベストと見た。
しばらくすると、頼んだ曲が流れ出したので、最初の挨拶をしてみよう。
テレビの見様見真似で。
「心を込めて歌いまス。聴いてくだサイ――」
イントロが終わるなりすかさず歌い出してやった。
これは圧倒的完璧!
……ん?
黙りながら我の歌を聞く者どものひとりが、……なんだ?
千円札を挟んだ割りばしを手に、腕を上げだしたぞ?
その妙な行動を見た者も、同じことを次々とやり出した。
戸惑っていると、ホーコからのアドヴァイスがやってきた。
「ブッコロちゃん! それお捻りだから、歩きながら回収して! 受け取った時にお礼も忘れずに!」
……まったく意味が分からん。
だが、そういうものなんだろう。
歌ってる最中だから、受け取った時にバチコーン♡とウィンクする事でお礼に代え、千円札を回収していく。
歌が終わったら「ご清聴、ありがとうございマシタ」とお辞儀をしてみたら、またもや声援の嵐。
…………フワオウッ!
めっちゃキモティイイイイイイイイー!
「アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!」
「ナント! フフフ、これは、応えてやるのが世のサダメ!」
お金だけホーコに預けて、我は求められるがままに歌いまくった。
午後六時には、惜しまれつつもお開きとなった。
小部屋で元の服に着替えてから、オヒネリ?を数えてみた。
「…………ホゲエエエエエエエエエエエッ!? コンナニ!? コオンナニイイイイイイイイイイイイッ!?」
最初の歌の時だけに貰えたオヒネリ、総額なんと――三万イェエエエエエエエエン!
「これ返した方が良くナイ!?」
「返した方が失礼になる事もあるのよ?」
「ソウナノ!?」
ホーコにそう言われたら、貰うほか無い。
公民館から帰る者共全員に玄関で深々と挨拶してから、我らもお家へGO。
そして、お家の近くで我は異変を察知した。
「……アレェ? 家の明かり、ついてネ?」
「狂四郎君が帰ってきてるんじゃない?」
「ソレダ!」
我は全力ダッシュでキョーシローの家に向かった。
そして、鍵がガバガバに開いていた玄関の先には――
「いやあ、狂四郎君。ずいぶんとアメリアさんに気に入られたねえ?」
「そんな事言ってないで助け…………あ、ブッコロ!?」
――ハヤトと、ンー族らしき例のボスと、……キョーシローの顔をデカチチでサンドイッチしてる変な女。
……エ?
ちょっと待った。
ホーコにも我にも見せないくらい、キョーシローがデレデレしてるだと!?
な、なんだこの女! 一体何者ぞ!?
我のパピーの不倫相手と出くわした時と同じくらいの嫌さが凄すぎる!
「ちょうど良かった! この人引きはがし――」
天元突破した戸惑いと怒りで、キョーシローの言葉に感情を被せてしまった。
「ダレよその女ァ!?」




