019 海外ダンジョンボス超覚醒
【ワンダー。まさかモンスター語を扱える人間がいるとはな。それで、ユーの名はツツミキョーシローか。……長いな、シローと呼ばせてもらおう。いいな?】
【……かまわねえよ】
その略し方だともう別人になっちまうよと突っ込みかけたが、このボスの性格が分からない以上、ノリで話す訳にもいかない。
【宜しい。では名乗り返そう。ミーの名は、ニーチャ・ンーという。好きに呼べばよい】
自由がスローガンの国の、ショタ染みたダンジョンボス、ニーチャ・ンー。
彼は追加で【とりあえず、オススメの呼び方はニーニーだ】とほざいた。
……その呼び方は絶対しない。絶対だ。
【さて、と。交渉はミーも望む所だ。しかし、シローの知識にこれらがあるかどうか、それによっても色々変わってくる】
【俺の知識に? ……なんだ、言ってみろ】
アメリアさんも周りの軍人も、俺がさっき発動させた【ブッコロ・オーラ(弱)】の効果に驚いている。
そんな中、俺はとにかく舐められない事を前提に、互いの意見をすり合わせ、ある程度納得できる着地点を探す事だけに必死になっていた。
【ハラキリ、カミカゼ、サムライ、ニンジャ、ゲイシャ、ワビ、サビ、モエ】
【……は?】
唐突に、聞き覚えのある単語を並べてきたニーチャ。
いったい何のつもりだ?
困惑してたアメリアさんまでが萌えあたりで反応して、『サンダンオチ』とか口走ってた。
よく知ってますね。
【ミーの、人間の言葉もかすかに聞き取れる部下が耳にした、レジェンドのおわすマシマシラーメンいづる国に関連する単語達だ。実に、実に実に実に実に、実に心躍る言葉ではないか】
意味は全く分からないけど、単語の響きがしっくり来てて、妙に気になってるってとこか?
【シローはレジェンド・ブッコロに愛されし者。マシマシラーメンは知っているのだろう? ならば、今ミーがクチにした単語にひとつでも持ってこれたなら、交渉に応じようではないか】
あのボケナスに愛されているってのは違うとして、まあ、懐かれてるのは確かだろう。
しかし、持ってこいと来たか。
普通に話が通じるヤツみたいだから山盛りの緊張が溶けて良かったけど、……うーん。
ハラキリやカミカゼは実演出来ないし、サムライもニンジャも子孫が存在するだけで、基本的には居ないと言っても過言ではないし、芸者というか舞妓は日本に居るけど持ってくるまでに時間がかかり過ぎる。だからと言ってパチモンだして怒らせようもんなら大問題。
あとは、侘び寂びと、…………萌え?
『アメリアさん。今、ハラキリ、カミカゼ、サムライ、ニンジャ、ゲイシャ、ワビ、サビ、モエのどれかを持ってこいと言われました。そしたら交渉してくれるみたいです』
かなりの無茶難題だけど、向こうは本当にこれらを知りたい、というか欲しいんだろう。
それくらいは、目を見れば分かる。
ここで別のにしてくれと頼んでも、多分、相手の知識的にかなり妥協させる事になる。
代案を示しても納得させるのは至難の業だろう。
とりあえず【ちょっと待っててくれ】とだけ言ってから、アメリアさんに報告兼相談。
『へえ? でも、ギリギリ本物を用意できるのって、ゲイシャくらいじゃない? ジャパンから連れてくる事になるけど』
『いえ、一つだけなら、今ここでなんとかなります。ただ、それにはアメリアさんの協力が不可欠となります』
『アタシの?』
どうしようかな。
ニーチャの為にも、オーソドックスで分かりやすいのが良いだろう。
なら、多分これが適当だ。
『はい。アメリアさんには、ひとまず俺の腹の上に座って貰えればと』
『…………ごめんなさい、意味が分からないわ』
訝しげな目を向けられたが、仕方ない。
現状、これ以外に選択肢が無いと思うんだよな。
『もう少し詳しく説明しますね? まず、俺が仰向けに寝転がります。そして、俺の腹の上にアメリアさんが跨がってまっすぐ座ります。さらにアメリアさんは、俺の身体を揺らしながらこう言って下さい――「お兄ちゃん、起きて! もう朝だよ!」と。可能であれば、可愛い声で』
『わざわざ日本語でやれって? アンタ一体何がした…………いや、いいわ。了解』
『あ、レジャーシートみたいなのって借りれたりしますかね?』
『そこのヤツ、聞いた? 持って来てくれない?』
アメリアさんが雑にお願いした軍人に借りてきて貰ったブルーシートに寝転び、腹に尻を乗せて頂いた。
……重い。
【ニーチャ、今からやる事をよく見ていろ】
【イエス。良かろう】
頷く事で合図に代えると、アメリアさんは拙いながらも日本語で、しかもがっつり可愛い萌え声でぶちかましてくれた。
「お兄ちゃぁん、起きてぇ! もう朝だよぉ!」
圧倒的なまでの慣れてなさが、彼女の舌をもつれさせた。
あえて目を瞑って聞いていた俺は、舌っ足らずな可愛い妹に起こされたという錯覚に陥った。
【お、おお、……お兄ちゃん、だと!? な、何故だ!? その言葉を聞くだけで、……苦しい! 胸のトキメキが、止まらない!】
ニーチャは頬をほんのり紅潮させつつ両手を胸の上で重ね、気持ちへっぴり腰になって身体をぷるぷる震わせた。
【それが――萌えだ】
【ホワアアアアアアアアアアアッッッッツ!?】
目を見開き大げさに驚くニーチャは、地面に膝をついた。
【ミ、ミーもお兄ちゃんと言われてみたい! オニイチャンオキテモウアサダヨされたい!】
【ちなみに、この上位互換に、ジャンプしてからの全力ヒップアタックで腹に乗っかられるというバージョンがある。しかしそれは、真のお兄ちゃんでなければ耐えられない高難度萌えイベント】
【ミーに耐えられないモノは無い! ミーが、ミーこそが真のお兄ちゃんだ! 全力かかってくるが良い!】
俺を真似て仰向けに寝るニーチャ。
とりあえずアメリアさんに、通訳。
『……え? ガチでやっていいの!?』
彼女は天高く飛翔し――スキルか何かを使っているのか、ニーチャの腹めがけて超特急で落下してきた。
『死ねええええええええええええええええっ!』
ばごおおおおおおおおおおおおん。
アメリアさんが繰り出したヒップアタックによる衝撃で、大きな地震と大規模な地割れが生じた。
俺は軍人の人に庇われつつもその後を見守る。
「お兄ちゃぁあん、起きてぇえ! もう朝だよぉおおおお!」
アメリアさんはそう言いながら、ニーチャの肩を掴んでぐわんぐわん揺らしている。
【ヲヲヲヲヲ。可愛らしくも美しい顔。陽光に照らされた輝かしい碧き双眸。心に染み渡るいといけな声。トキメキ萌え言葉。そして、ミーのハラワタに染み渡る心地よい衝撃――ハッ!?】
あれほどの威力を誇るヒップアタックがほぼノーダメで済んでしまったニーチャは、合点がいったとばかりに叫んだ。
【こ、これが、ま、まままま、まさか――ゴホウビ!?】
独学で辿り着いてんじゃねえよアホか!
【ワンモア! ワンモアワンモア! ワンモアゴホウビ!】
駄目だこいつ。
ブッコロとは別方向でイカれてやがる。
『アメリアさん、おかわりですって』
『っしゃ! やったろうじゃないの!』
ずっどごおおおおおおおおおおおおん。
さっきより気持ち威力マシマシ気味に決まったアメリアヒップアタック。
『くそっ、なんなのこいつ、二回目でも全然堪えてないじゃない!』
堪えるどころか、恍惚とした瞳でアメリアを見つめるニーチャは、感情が高ぶるままに叫び散らかした。
【オウイエス! ジーザス! ホーリーシイイイイイイイイイイイイイット!】




