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018 超々劣化スキル【ブッコロ・オーラ(弱)】でちょい無双

 一時間ほど昏倒した後、改めてブッコロから加護を授かる事となった。

 ぶっちゃけ、また倒れたりしたら怖えからもう要らねえって突っぱねたい所だけど、海外のダンジョンボスと会うんだから安全対策に何か貰っておいた方が良いっちゃ良いのは確かだ。

 ここはひとつ、我慢しておくに限るだろう。


「先に狂四郎君の能力保有可能容量とか調べてから加護を与えるって出来ないのかしら?」

「……ハッ!? その手があったカ! めっちゃ眼から鱗!」

「竜崎さんそれ先に言っておいてくれませんかねえ!?」


 ブッコロならともかく貴女の頭に今の発想がなかったなんて事はないでしょうに!


「千回以上も加護を与えた経験あるって言ってたから、ちゃんと心得てるって思い込んでたのよお!」


 それならまあ、仕方ないか。

 俺の隣で気持ち疲れた顔をしている統島さんが、軽く溜息を吐いた。


「ブッコロちゃんに何か聞くときは、念には念を入れておかないといけないね。……さて、もう時間ギリギリだし、お願いだから急ぎで頼むよ?」

「オッケオッケ。じゃあ、エート……」


 ブッコロは親指と中指で作った輪っかごしに俺を覗いた。


「……ウワッ。キョーシローの能力保有可能容量低スギ……?」

「戦闘経験どころかまともな訓練すら受けてないレベル1の素人だもんね、そりゃそうよ」


 ダンジョンに潜ればレベルがあがって容量増えるとかあるんだろうけどな。

 今更そんなんやる気はさらさら無いけど。


「ヲヲ! ホーコ、50キョーシローもアル! ヤルナ!」


 指の輪っかをそのまま竜崎さんに向けたブッコロ。

 俺を単位にするんじゃねえ。


「ハヤトは……80キョーシロー!? こーれはスゴイ! ヨッ! 大将!」

「…………早くしてね?」

「ハーイ」


 統島さんの圧を受けたブッコロは、俺に合わせた加護を急ぎ授けてくれた。

 スキル名は、【ブッコロ・オーラ(弱)】

 これは、極薄に伸ばしたブッコロの魔力を身に纏い、ダンジョンの中ボスまでのモンスターが全て即座にひれ伏すアクティブスキル、らしい。

 中ボス程度の攻撃なら、全力で楊枝を突き刺されたくらいのダメージに軽減してくれる、らしい。

 あと、一回こっきりだが、ダンジョンボスが繰り出す攻撃を完全無効化してくれる、らしい。

 スキル発動は一日一回限定で、しかも10分の制限時間がついている、らしい。

 余談だが、100キョーシローもあれば回数や時間制限なんてつける必要なかった、らしい。


「……我もついていっちゃ駄目ナノ? ドウシテモ?」

「もう。ナチュラルに寂しそうな顔しないの」


 慈愛に満ちた表情の竜崎さんが、まるで幼子を抱きかかえるかのようにブッコロをだっこした。


「キョーシロー…………バイバイ」

「はいはい、じゃあな」


 寸足らずなちっちぇえ手を、それこそ小さくぷるぷる振る涙目のブッコロに後ろ髪を引かれながらも、なんとかかんとか会議室を出た。

 そのまま自衛隊の飛行機、というか輸送機に乗り――海外ボスとの交渉の練習をしつつ――およそ十時間後。

 自由がスローガンの国の軍事基地に着陸した。

 現在時刻は、日本時間で午前四時。

 こちらの国では昼の十二時だ。

 輸送機から降りるとすぐ車に乗せられ、現地へと向かう事となった。

 運転席に見知らぬ外国人の男。助手席にこれまた知らない外国人の男。

 そして、後部座席に座る俺の左に統島さん。右に、……めっちゃグラマラスなモデル体型のパツキン外国人美女。


『元最上級アタッカーの軍人、アメリア・スタンレイよ。貴方の護衛任務に就く事になったわ。よろしくね』


 英語で挨拶して手を差し出してくれたはいいけど、彼女は言い終わるなり統島さんに視線を向けた。


「狂四郎君。彼女が今回君の護衛を務める、アメリア・スタンレイさんだ。宜しくお願いします、だってさ? 握手したらどうかな?」

「あー、……はい」


 なるほど。

 統島さんが英語の通訳をしてくれる手筈だったのか。


『はじめまして、包狂四郎です。こちらこそよろしくお願いします』


 アメリアさんの手をとりつつ、英語で軽く自己紹介してみた。

 多分これで通じる筈だよな?


「狂四郎君、英語喋れたの!?」


 えらく驚いている様子の統島さん。

 実は俺、日本語と英語とモンスター語のトリリンガルなんですよ。

 日本語以外はまともに読み書き出来ませんけどね。

 あと、あんまり難しくなければ英文もいけますけど。


「ええ、まあ別に、ブッコロとだけ言語交換してた訳じゃないんで、日常会話程度なら問題ありません」


 言語交換アプリで出会った外国人曰く、十歳児くらいの英語力はあるらしい。

 元々英語が本命だった筈なんだけど、今となっちゃモンスター語の方が得意なんだよな。不本意な事に。

 ちなみに、高校二年の夏以降からは英語で言語交換してなかったもんで、正直会話が通じるか不安だった。

 けど、アメリアさんの反応を見る以上、特に問題なさそうだ。

 良かった良かった。


『ねえ、これなら今からはじめておいた方がいいんじゃない? 彼の緊張をほぐす為にも、どうかしら?』


 アメリアさんは助手席の男の人に話しかけた。

 男の人が『勝手にしろ』と返すと、座り直したアメリアさんが俺の肩を――ガッツリ組んできたああああああああああああっ!?

 車内だから元から近いのにもっと近い近い近い近い!

 しかもなんか良い匂いがする!

 おまけに胸が肘に当たってる当たってる当たってるからああああああああ!

 気さくなのは結構ですけど、よければちょっと離れてくれませんかねえ!?


『アタシさ、モンスター語を覚えろって命令されてるのよね。本来なら後でトージマ越しにアンタから教えてもらうつもりだったんだけど、ええと、ツツミが英語を喋れるなら話は早いわ。時間がもったいないし、さっそく頼めないかしら?』


 落ち着け俺。 マジで落ち着け包狂四郎。とりあえず深呼吸だ。

 距離の近さはきっとお国柄のせいだ。

 変な勘違いをしないように気を付けながら、なるたけ相手に合わせた教え方をするんだ。


『あー……じゃあ、これは何?という単純な質問から覚えてみましょうか』

『実践的な所からはじめてくれるのね! 若いクセに、いいじゃない貴方! 素敵よツツミ!』


 眼を輝かせながら力強く抱き寄せるなああああああああ!

 だから近いんだってばああああああああああああ!


『……天然ハニートラップってとこかな?』


 助けてくれとも離れてくれとも言えないまま、車でがたごと運ばれること二時間。

 俺たちはとうとう、件のダンジョンボスが居る場所の近くまでやってきた。

 厳戒態勢が敷かれているんだろう、そこかしこに軍人が居て、中には軍用のタープテントの中で会議してるっぽい所もある。

 数多くの軍用車両もずらーっと停車していて、なんとも剣呑な雰囲気だ。

 ブッコロのラーメンが食いたくなる呪いが、どれだけこの国に影響を及ぼしたのかが一目で十分理解できて、実に誠に本当にマジでメチャクソ申し訳ない。

 この国へのブッコロの謝罪動画でも撮ってくるべきだったかもしれない。


「それじゃあ、おじさんについてきてね? ……言う必要は無いだろうけど、念のため。勝手な行動はしないように」


 車を降りると、ひとつのタープテントに通された。

 そこには軍の偉い人の、……少佐?が居て、俺と統島さんは自己紹介する流れとなった。


『こんな子供に頼らなければならないのが情けないが、……そうも言ってられん、か』


 少佐はゆっくり立ち上がると、俺の両肩を強く掴み、うんうんと頷きながら頭を撫でてくれた。

 しかも、まるで我が子を見る様な瞳で。


『頼んだぞ、ツツミ君。我らの命運は君にかかっている』


 なんで今このタイミングでプレッシャーかけたんですか!?と突っ込みたくなったが、『はい』と返事をしておくだけにしておいた。

 どうせ何を言ってもやる事は変わらないんだから。


『ではダンジョン入口付近まで案内させよう。君の幸運を祈る』


 俺は、アメリアさんと共に案内役の後を追った。

 危険だから、統島さんはここでお留守番だ。


『ツツミ、酷く緊張してるわね』


 そりゃそうでしょ。

 レベル1の分際でダンジョンボスを相手にしなきゃいけないんだ。

 緊張で背汗が酷いし、手が震えるどころか膝まで笑いはじめたわ。


『アメリアさんは緊張してないんですか?』

『全然? 現役時代に二度三度出くわしてるし、手の内はある程度知ってるつもりだからね。……規格外過ぎて逃げるしかなかったけど』


 そんなに会ってて無事逃げ帰ってるのか。

 なるほど、俺の護衛を任される訳だ。


『……けど、もし相手が人間を滅ぼす気だとしたら、逃げた所であんまり意味ないのよね。最終的には倒さないといけなくなるから』


 そうだよな。

 俺がこれからやる仕事って、本当にこの国の命運がかかってるかもしれないんだよな。

 なら、いつまでも怖がってないで、ちゃんとやらないといけない。

 いい加減、覚悟を決めないといけない。

 …………相手は、ダンジョンボス。

 ブッコロと同じすっとぼけダンジョンボスの可能性は高くない。

 いつまでもビビってないで、毅然とした態度で交渉に臨む必要がある。

 両頬を張って、とにかく気合を注入――したら、にっこり笑顔のアメリアさんにも一発ほっぺに頂いた。

 ……めっちゃ痛い。ここまでは望んでなかった。


『ここから先は、完全危険域です。ご健闘を祈ります』


 銃を持った軍人達の厚い包囲網をアメリアさんがかき分け、俺がその後をついていく。

 そして、視界が開いた先には――


【ワッツ? ユー達は何者だ?】


 ――壊れた建物の、屋根の上。

 動画で見たショタっぽいダンジョンボスが、座ったまま俺を見下していた。

 髪色は、黄緑色のメッシュがかかった短い白髪。

 ブッコロと違って角は無いように見えるが、毛先だけがウネウネと不自然に動いて、そこそこ気味が悪い。

 彼の周りには巨大なモンスターが数多く存在しており、今にもこちらに飛び掛かってきそうだ。

 アメリアさんは敵からの殺意を感じたのか、背負った剣の柄に手を当てた。


【フール。戦いに来た愚か者だったか。ならば同胞よ、奴らの腸を食い荒らせ!】


 ボスが手を振る事で命令に代え、大量の巨大モンスターをこちらにけしかけてきた――瞬間。

 ボス以外のモンスターが、その場に膝をつき、首を垂れた。

 見える範囲のモンスターは全員が全員、キーキー騒ぎつつもびくびくと怯えながら、俺に向かって土下座をかましている。

 おお、教えてもらった通りの効果だ。

 凄いなブッコロ・オーラ(弱)。


【ユーのそのオーラ、まさか――レジェンド・ブッコロの?】


 がらり。

 ボスはゆっくりと立ち上がると、彼が座っていた箇所が崩れ落ちた。

 現役最上級アタッカーだった頃のアメリアさんですら敵わなかった、強大な敵。

 そんなトンデモ存在に意識を向けられた俺の身体に、おびただしい程の恐怖が駆け巡った。

 ……けど、この国の為、ひいてはブッコロの尻ぬぐいの為に、今にも崩れそうな膝をしっかり伸ばして、余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべつつ、言葉を返してやった。


【俺は包狂四郎という。さて、早速だが――お前との交渉は可能か?】


 この日、ボスモンスター以外全てのモンスターが俺にひれ伏す衝撃動画がSNS上で大拡散された。

 そういうのは本当に本当に本当に本当にやめて頂きたい。 

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