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陶犬瓦鶏  作者: 猫田たい子
第四章
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第4章 脱同一視 2

2


 二人が陶房で作業を始めると、祐太がズカズカと入ってきた。もし志野と身体を重ねていたら……渉は少し焦った。

「祐太、おはよう。何か用?」

「別に……。どうしてるかと思って……」

 祐太は泰斗がいない一週間、陶房が志野と渉の愛の巣になるのではないかと心配していた。こっそり(いや、堂々と)覗きに来たものの、二人が真面目に作業しているのを見て安堵した。

「今夜、ここでみんなと一緒に夕食を取らないか?」

 祐太は菊練りをしている志野に声をかけた。

「ごめんね、祐太。今日は一日中作品作りに没頭したいから、また今度でもいい?」

 断ってくれたので渉はホッとしたが、志野は作陶に没頭し続けた。

 夕食を作るのを忘れた志野が慌てて台所に駆けつけた時、風呂上りの渉は居間でサフラとくつろいでいた。

 泰斗が志野を個展に同伴させなかったのは渉を気遣ってではなく、家事をせず作陶に集中してほしいからだろう。恋人と別れ、陶芸家としてここで生きていくと決めた彼女の邪魔をしてはいけない――渉はそう思った。

「ゴンさん、ご飯は食べた?」

 志野は申し訳なさそうに尋ねた。

「うん、食べたよ。――お風呂にも入った」

「そう……」

 渉は志野と関係を持ってから、ここへ来る前のことを振り返ることが増えていた。小百合がミシェルに嫉妬したことで渉との関係が複雑になり、最終的には別れることになったので、同じ過ちを繰り返さないように気をつけようと思った。

「お父さんがいない間、志野は作品作りをしたらいいよ」

「ありがとう。――今から一緒にお風呂に入る?」

 渉は挙手して「入りたい!」と答えたかったが、首を横に振った。

「もう入ったらから大丈夫」

「分かった……。じゃあ、後一時間……土を触ってくる」

 志野は陶房へ向かったが、戻ったのは三時間後だった。

 待ちくたびれた渉は電気を点けたまま布団に入り、ウトウトしていた。

 風呂上がりの志野が襖を開けて入ってきた。その物音で渉は目を覚ましたが、わざと眠ったふりをした。志野が布団に入ってくることを期待したものの、彼女は電気を豆球に落とし、襖を閉めて部屋を出て行った。


 居間で志野はサフラを左手で撫でながら、ノートに何やら書き記していた。

 またしても待ちくたびれた渉は、姿勢を低くして襖を開けた。

「あっ、起こした?」

 気づいた志野は、申し訳なさそうに言った。

「何しているの?」

「今日の作業を日記に書いているのよ。――私の夢は、お父さんみたいに、自分の作品が伊賀上野城に飾られることなの」

 渉はサフラの真似をして四つん這いで志野に近づき、後ろからそっと包み込んだ。

 びっしりと土や成形について書かれた日記を目にして、渉は彼女の邪魔をしてはいけないと感じた。

 だが、夜は別だった。

 風呂上がりのしっとりとした髪と、密着した身体に、渉の下半身が反応した。

「一緒にお風呂に入れなくてごめんね」

 志野はその反応に気づいて言った。

 渉は志野の首筋にキスをして、そのまま彼女の身体をまさぐり始めた。

「もうゴンさんったら……くすぐったい……」

 志野はクスクス笑ったが、次第に激しくなる渉を受け入れた。

 照らされた照明の真下で、志野は渉にパジャマを脱がされ、愛撫をされて喘ぎ声を上げた。

 今までは泰斗が隣の部屋で眠っていたので二人とも声を噛み殺していたが、初めて二人きりになれた夜は、忘れられない夜となった。


 翌朝、志野と渉は昨夜の激しい営みに、照れながら顔を合わせた。

「おはよう、ゴンさん……」

「おはよう、志野……」

 渉は彼女にキスをしようとしたが、おでこ同士がぶつかってしまった。

「――朝食を作ってくるね」

 志野は恥じらいながら出て行った。

 彼女を見て、渉は股間を押さえて布団に横たわった。

「やべー、また勃ってきた」

 突然、強烈な視線を感じた。視線を追うと、襖の隙間からサフラがじっと睨んでいた。

「あっ、サフラ。おはよう」

 声をかけたが、サフラはぷいっとそっぽを向いて立ち去った。

「何だよ……」

 渉はサフラの態度に不貞腐れ、天井を見上げた。いつかここを離れて東京へ戻ったら、志野との関係はどうなっているのか。ここに来て三か月の間に、志野という美しい人に惹かれたのは事実だった。ただ、恋なのか――愛なのか――分からなかった。彼女も同じ気持ちなのかもしれない。元婚約者を完全に忘れるために抱かれたのかもしれない。

 何度も身体を重ねたが、お互いに「好き」や「愛している」とは口にしなかった。それはミシェルと関係を持った時と同じだった。

 渉は志野と身体を重ねるたびに、活力が漲《みなぎ》り、頭が冴えた。と同時に、ゴンのままでここに長く留まることは許されない気がした。

 サフラの冷ややかな視線は、忠告しているようだった。

 渉は襖を開けてサフラを呼んだ。のそのそと現れたサフラに「ごめん……」と頭を下げたが、サフラはまたぷいっとして立ち去った。



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